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番外トーマ編
06 俺が王女に怒られた件
しおりを挟むアベルに戻るともう夕方で「今日はもう泊まっていきなさい」とユーリが言うので、一泊してから早朝の内に発つ。
散々皆に甘えてホームシックを解消した俺は、スッキリした気持ちでベリアの邸に戻ったのだが。
「お帰りなさいませ」
邸のエントランスには仁王立ちしたソフィーナが待っていた。
「た、ただいま、ソフィ」
気配が何だか黒い。
ただならぬ気迫のソフィーナに俺は身を強張らせる。
ツカツカツカと俺に歩み寄って来たソフィーナはパァン!と豪快な音を立てて俺の頬を打った。
「…っ」
殴られた。
ユーリのパンチに比べたら全然痛くないけど。
「連絡もなしで外泊なんて、心配するでしょうっ?」
「え、でも俺、アベルに行くって伝えたけど?帰らなかったらアベルにいるってわかるよな」
馬を借りる時に言ったと反論すると、物凄い形相で睨みつけられる。
「わたくしは聞いていませんもの!」
え、理不尽。
これ、俺が悪いことになるんだろうか。
「仕事や約束を無責任に放り出す人じゃないって知ってますけれど!途中で盗賊とかに襲われても問題ない人だって知ってますけれど!それでもわたくしは勝手に心配するし勝手に不安になるんですわ!」
「…」
「…ふっ、うぇえええー…ん」
黙っているとソフィーナの目からボロボロと大粒の涙が溢れてくる。
え、殴った方が泣くの?
なんという理不尽のオンパレード。
「わたくしだけが好きだなんてズルイですわ!わたくしばっかりがしんどいんですの!」
泣きながらソフィーナが逃げ出す。
呆然と見送ると、階段を駆け上り自室へと駆けこんでいった。
「…で?なんでそこで見てんの?」
「いや、取り込み中だったから」
声をかけると、柱の影からクリストが現れる。
気を遣ったつもりだったんだがと申し訳なさそうな顔だ。
「ソフィは寝ないで一晩中待ってたからな。限界だったか」
「そっか、寝てないのか」
「アベルは楽しかったか?」
「…そのタイミングで訊くなよ」
楽しかったと言えないじゃないかと目を泳がせる。
「街では突然新しい橋が架かったと大騒ぎになっていたんだが」
「あー…それ俺だわ」
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「それも俺だったり」
「アベルに行ったんじゃなかったのかっ!?」
「常識が通用しない世界なんだ、あそこは!」
三往復もしたんだぞ俺は!とクリストに訴えかけるが、そういえばクリストは節操をかなぐり捨てたアベルを知らないんだった。
わかってもらえないか、と俺はがっくり脱力する。
「…クリストはさぁ、確か婚約者いたよな?」
「どうした、急に。私は王太子だから完全に政略の相手がいるけど?」
「上手くいってんの?」
「まぁ、可もなく不可もなく。お互いが問題なく歩み寄れば、大抵は上手くいくだろ」
「だよな!政略だと幸せになれないなんて、そんなわけないよな?」
俺がソフィーナのことを言っていると気付いたのか、クリストは少し焦ったような顔をした。
「いや待て。お前、早まるな」
「俺、ソフィーナと話してくるわ」
「ちょっと落ち着いた方がいい!いや、俺が口を挿むことじゃないんだが」
「落ち着いてるよ」
今までになく思考がクリアだ。
俺は引き留めるクリストの手を振り払い、階段を上ってソフィーナの自室のドアをノックする。
すると中から侍女クララの悲鳴のような声が聞こえた。
「いけませんお嬢様!危ない!」
「っ!?」
緊急事態かと勝手にドアを開くと、部屋の窓が全開で風が吹き込んでいた。
「ソフィ!」
慌てて窓に駆け寄ると、シーツを結んで作った紐を辿って地面に降りているソフィーナが見える。
無事を確認して安堵の息をついた俺は、ひょいと窓枠を蹴って飛び降りた。
受け身で二回転ほど転がれば衝撃は逃せる。
ちょっと草まみれになったが問題ない。俺は立ち上がり、走って逃げるソフィーナを追いかけた。
「逃がすかよ!」
「きゃああっ!卑怯ですわよ、トーマ!」
「どの口が言うか、このお転婆め」
「殴ってごめんなさいぃ!」
観念したのか、両手で頭を抱えたソフィーナがしゃがみ込んで謝る。
「嫌いにならないで!ごめんなさいぃ!」
「…」
俺は亀のように縮こまるソフィーナの脇を持ち上げ、高く掲げた。
「嫌いにならないよ」
「うっ…ほんどに?」
涙と鼻水でグチャグチャだ。
「ぶはっ、おま、ひでぇ顔」
「う、むぅーっ」
暴言に怒ったソフィーナがジタバタと暴れるが、攻撃が俺には届かない。
あははと笑いながら俺はソフィーナを抱きしめた。
「不安にさせてごめん」
「トーマは悪くないんですの。わたくしが勝手に」
「それでも、ごめん」
ヨシヨシと頭を撫でて宥める。
「俺はさ、ソフィが政略じゃ幸せになれないから嫌がってるんだと思ってたんだ」
勘違いしてた。
政略じゃなかったら?とか俺以外にも好きなヤツが出来たら?とかずっと考えてた。
「本当は、俺じゃなきゃ嫌だったんだよな?」
求めていたのは『俺』だけだったのに。
俺はいつまでも存在しない敵と戦っていて、俺の方が相応しいとか相応しくないとか。
「ごめんな。俺も好きだよ、ソフィ」
「…」
「ソフィ?」
反応がなく、アレ愛想尽かされた?と焦って顔を覗き込む。
俺の腕の中でソフィーナはすやすやと寝入っていた。
「聞いてないんかい」
俺、この告白をもう一度言わなきゃいけないの?
え、ツライ…。
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