魂が百個あるお姫様

雨野千潤

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番外トーマ編

05 俺が右往左往する件2

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馬が置いてあるからと一緒にヘリコプターでアベルまで連れてきて貰い、俺は次にロクを訪ねた。
ロクは相変わらず地下に籠ってよくわからない魔道具を弄っている。

「兄様じゃーん。どしたのー?」

「ちょっと話したくてさ」

俺がベリアで王太子の側近などをやり始めたなんて欠片も知らないだろうこの魔導士は「珍しい恰好してるー」と興味津々に眺めてくる。

「この眼鏡は魔道具ー?」

「ただの伊達眼鏡。ニノがくれた」

「ニノ好きだよねぇ、こういう無駄なモノ」

俺の顔から引き抜いた眼鏡を弄りながら、ロクは「ふふ」と楽しそうに笑った。

「香水とかアクセサリーとか観葉植物とかさ。無くても困らないモノを大事にするんだよねぇ」

「嫌い?」

「いや、好き。似合ってるよぉ、兄様」

丁寧に折りたたんで「はい」と返してくれる。

「でも僕の前ではかけなくていいよぉ」

「そう?」

「だって無理してるもん。らしくないかもぉ」

「…」

指摘された俺は眼鏡を胸ポケットにしまい、「だよなぁ!」と両手でセットされた髪をグシャグシャのボサボサにした。

「良いこと言うな、ロク!」

「あは、いつもの兄様だぁ」

久しぶりに大口開けてガハハと大笑いする。
ひとしきり笑った後、「実はさ」と本題に入った。

「ベリアで老朽化した橋の再建設を任されてさ、父さんのみたいな鉄のスゲェ橋を架けてやろうかと思ったんだけどさ。今の技術じゃ無理っぽい」

「うん」

「今は無理でも勉強して真似して、少しずつ近付いていこうとか思ったんだけど、父さんがそれは違うって」

「へぇ」

「この世界にはこの世界のやり方があるだろって。魔道具とかは父さんの世界には無いらしいから」

「ちょっと待って。重要事項を僕も知ってる体で話すのやめて」

いつもは相槌しか打たないロクが顔を引きつらせる。
ロクだって気付いていただろうに、知らない立場でいたかったのか。

「聞かなかったことにしてもいいよ。それでさぁ、魔道具で橋作るってなんだ???って思ったわけよ」

「なるほどね」

「で、ロクの意見を聞きたかったわけ」

「その場所、見に行ってもいい?」

「…うん?」


俺はロクの空飛ぶ絨毯でもう一度ベリアに連行された。


「ここかぁー」

古い木製の橋と新しい鉄橋との間に降り立ったロクは二つの橋を見比べ「ふむふむ」と頷く。

「あっちの鉄のヤツは馬車とかも通りやすそうだねぇ。丈夫そうだしカッコいい」

「だよな」

「でもこっちの古い橋も味があるねぇ。僕はこっちの方が好きかもぉ」

えへへーとはしゃぎながら木製の橋へと駆け寄っていく。

「川を渡るだけが目的なら、こっちの岸と向こうの岸に転移装置を付けてワープで渡ればいいんだよぉ。でもそんなんじゃないんだよねぇ」

欄干に手を付き、クルリと橋の内側を向いて通行人を眺める。

「コレはさぁ、親子連れが肩車したり、杖をついたお年寄りが途中で腰を下ろしたり、恋人同士が手を繋いで渡る橋なんだよ。川の水面を眺めて、過去のことや未来のことに想いを馳せる場所であるべきなんだ」

「確かに」

頭に浮かぶのは夕日に照らされてキラキラしていたソフィーナだ。
俺の中でも既に思い出の大切な場所になっている。

「効率厨だった頃はさぁ、僕それがわかんなかったんだよね。でも無駄なことが愛おしいってニノに気付かされたんだ。空飛ぶ絨毯はねぇ、ただ飛ぶ分にはべニア板でも構わないんだ。だけど僕は古くて手織りで繊細な模様の高級な絨毯じゃなきゃ嫌だったんだよ」

ロクがトニ婆に強請って強請って散々ごねた末に手に入れた絨毯だという噂は聞いている。
そうだよなと俺もロクの隣に並んで欄干に手を付いた。

「コレはコレで最高の橋なんだな。同じ橋を作り直してもらうように手配するよ」

「ふふ、じゃあ完成したら教えてよ。壊れても直せるように修繕の魔道具を作っておくからさぁ」

「修繕の魔道具?」

「新品の状態を記録しておけば壊れたり老朽化しても元に戻せる。あっちの橋も壊れたら困るだろうから、二つねぇ」

「…」

そんな風に魔道具をホイホイ作っても良いのだろうか。
魔道具というのはとても貴重で高価なものだという常識が俺の中で崩れていく。

「ユーリの頼みしか聞かないポリシーだと聞いたんだが」

「頼みは姫様のしか聞かないけどぉ、僕がやりたいことは別にやってもいいじゃん?」

「そか。有難うな」

俺の為に多少信念を曲げてでもやってくれようとしているのを感じ、礼を言う。
何かきちんとしたお礼がしたいと思い「此処で待ってて」とロクに告げ、俺は商店街へと走った。

「お待たせ」

数分後、息を切らせた俺はロクの元へと戻ってプレゼントの箱を突きつけた。

「なに?」

「お礼」

「開けていいのぉ?」

「勿論」

包みを開けると手のひらサイズの植木鉢のサボテンが出てくる。

「うん?ナニコレ」

「サボテン。観葉植物とか無駄なモノ好きなんだろ?」

「えー、世話できるかなぁ」

「水なんて殆どやらなくてもいいって。あ、でも話しかけたらいいって言ってた」

「…僕がサボテンと話してたら怪しくない?」

「おはようとかの挨拶でいいよ」

帰ろうと促すと、ロクはサボテンの棘を突きながら歩き始めた。

「サボテンの花言葉、知ってる?」

「え、知らなぁい」

「『偉大』だよ。偉大な魔導士様へ敬意を込めて」

驚いたように目を丸くしたロクは目を瞬かせ、ニィと歯を見せて笑った。


「そうなれるように頑張るよ」


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