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番外トーマ編
04 俺が右往左往する件1
しおりを挟む翌日、早朝の内に馬を借り、アベル領までひとっ走りする。
領に着いても邸はまだ静かで、俺は久しぶりに食堂でアレクサンダーに絡んだ。
「アレクサ、やっぱり一緒に来てくれね?」
「マダ言ッテルンデスカ。ベリアハ辛インデスカ?」
「辛いっていうか…」
テーブルにうつ伏せて額をつけ「うん」と一つ頷く。
「淋し。俺じゃなくなりそ」
「…」
アレクサンダーが黙ってヨシヨシと頭を撫でてくれる。
「何ソレ」
「トーマガヨクヤルジャナイデスカ、コウイウノ」
「そか」
撫でられるのはこんな感じかとそのまま目を閉じる。
「アレクサ、好きって何なんだ?どうやったらわかるんだ?」
「ワカリマセン、私ロボットナノデ」
「くそズル。俺もロボットになりたい」
「経験者ニ訊イタラドウデスカ?」
経験者…。
該当する人物を思い浮かべていると「兄様?」と声をかけられた。
「ちょ、送り出した三日目には逃げ帰ってるとか」
「ち、違うもん」
「もんとか言わないでください。可愛くないから」
「いろいろと悩んでんだよ、俺は」
助けてくれよと縋ると、ユーリは流石に心配になったのか親身に聞く体勢に座り直す。
「どうしたんですの?」
「ユーリさぁ、アルフレッドを好きだと自覚したのはいつ?」
「…。それ、真面目な相談ですの?」
ジト目で見つめられ「大真面目」と頷くと、ユーリはうーんと人差し指を顎に乗せた。
「落ちたのはアベルに来た初日だったなぁと思いますけど」
「結構早いな」
「でもずっと抵抗していて、受け入れるか突き放すか悩んでいたような」
「…」
「自覚した時にはもう、どうしようもないくらい大切だった気がします」
「…」
「参考になりまして?」
「なった。心当たりがあり過ぎて心臓が痛い」
ソフィーナのことだと思い当たったのか、ユーリは「ふぅん?」と笑った。
「俺、もう落ちてんの?」
「さあ、私と兄様は違うかもしれませんし。でも兄様が右往左往している姿を見るのは面白いですわ」
「ヒドイ」
兄がこんなに苦しんでいるというのにと噓泣きしていると、後頭部をスパーンと何かで殴られる。
振り返ると履いていたサンダルを手にしたサトシが「おい」と柄の悪そうな顔で睨んでいた。
「黙って消えていったヤツが、どの面下げて顔を出しやがった」
「いえ、顔を出したのは父様です。此処は私の邸ですわ」
「ユーリは黙ってな。おいトーマ貴様、王女様にプロポーズされてベリアに拉致られたらしいじゃねぇか。んな面白そうなこと、親には一言も無しかぁっ!?」
「面白がってるだけじゃん!」
「あはは、ユーリと一緒。流石兄妹」
後から現れたミサトに笑い飛ばされ、確かにと気付く。
いや、拒否権があっただけ俺の方がまだマシか。
「そんなことよりも俺、父さんと母さんに訊きたいことがあって来たんだ」
「訊きたいこと?俺とミサトの恋愛話か?」
「違う。え、どっから話聞いてたんだ?」
まさかと疑うとウシシと悪戯げに笑われ、ユーリとの会話を聞かれていたと確信する。
くっ…油断も隙も無い。
「そうじゃなくて仕事の話。アベル領の川に架ってる橋って鉄製じゃん。アレの設計図とかって見せて貰えたりする?」
「設計図?…そりゃかまわんが、川の幅によっても大分変わるから別の場所に架けるなら使えんぞ」
「えー」
「何処の川だ?ベリアか?」
行くぞと襟首を掴まれ外に連れ出される。
何処に連れていかれるのかと思っていたら、邸の前庭でポンと謎の乗り物を出された。
「…コレは?」
「ヘリコプター。空を飛ぶ乗り物」
「え、前に見たのと違う」
「戦闘機は滑走路が無いと離着陸が難しいからな。こっちの方が小回りが利く」
乗れよと促され父さんの運転する機体に母さんと乗り込む。
バリバリバリと爆音を立て、その乗り物は空へと浮き上がった。
「すげぇ!飛んでる!!!」
そうそう、こういうのだよ!と歓声を上げる。
こういう感動をくれるから俺は両親が大好きなんだ。
早朝より馬を飛ばして三時間ほどで辿り着いた道のりは、たったの一時間ほどの空の旅で元のベリアへと巻き戻される。
何処?と父さんにジェスチャーで訊ねられ、俺は川の場所を指さして伝えた。
河川敷に着陸し、父さんはヘリコプターを収納袋へと仕舞った。
この収納袋、今や誰でも持っていて貴重でも何でもないよなとあの緑髪の魔導士を思い浮かべる。
「此処か。ちょっと待ってろ」
収納袋からテーブルと図面を出し、早速設計図を描いていく。
そういや朝食を食いはぐれたなと思い出し、その間に俺は商店街でパンなどを購入してきた。
俺が河川敷に戻る頃にはもう設計図は完成していて、母さんがソレを見ながらポンと橋を出したところだった。
「えええ」
この人達、もう節操なんて欠片も残ってない。
俺が困惑の声を上げていると、母さんが「駄目だった?」と首を傾げる。
「この橋って、鉄で出来てるじゃん。この鉄の柱とかって『この世界』の今の技術で作れないよな?」
「お前『この世界』って言った?」
知ってたのかと訊ねられ、コクリと頷き返す。
「父さんと母さんが異世界から来た愛し子なのは、薄々勘付いてはいたよ」
「まぁ、最近は隠してないからな」
「この橋がいつか壊れるまでに、技術が追い付くかな。直せないと困ると思うから」
「んー、そうだなぁ」
父さんはバケハを持ち上げて鉄の橋をマジマジと見つめる。
「俺は別に、この技術を目指さなくてもいいと思うけどなぁ」
「というと?」
「この世界には魔道具があるじゃん」
こんな感じにと懐から収納袋を出して見せる。
「俺達の世界にはそんなものがないわけよ。だからこういう技術が発展したんだと思うんだが。こっちにはこっちの世界の在り方っていうのがあるんだからさ」
父さんは俺の肩をポンと叩いて腕の中のパンが入った袋を取り上げた。
「心配しなくともいつか、コレよりすげぇ橋が作れるようになるさ」
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