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番外トーマ編
02 俺が王太子の側近になった件
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その日の内に俺はソフィーナにベリアへと連れ去られる。
あまりにも急な話だが、半日で着く距離ならばそんな大袈裟に別れを告げることもない。
俺は「カッコいいですわ…!」と借りてきた猫になったソフィーナと一緒にベリア領の邸へと向かった。
まだ国王の住まいである王宮というには質素だが、それなりにしようと諸々改築中のようだ。
「誰???」
久しぶりに会ったクリストの第一声がそれだ。
薄情だなと顔を歪めるが、別に忘れたわけではなかったらしい。
「本当にトーマなのか?」と詰め寄られる。
「ちょっと変わり過ぎじゃないか?その眼鏡はどうした」
「ユーリにも『馬子にも衣装』とか言われたよ。この眼鏡はニノから」
「ぐっ…私とキャラが被るじゃないか…!」
どうやら不満らしい。
クリストの前では控えようと眼鏡を外して胸ポケットへ仕舞う。
クリストに促され、俺は次にルーファスの執務室へと挨拶に連れて来られる。
「来たか。…誰だ?」
「父上、トーマ・カブラギです」
ここでも誰とか言われる。
そんなに別人か、俺。
「話は聞いている。どうしてもソフィーナと結婚したいと言うならば、行動で示してみたまえ」
「うぇ?…あ、はい」
その聞いている話は俺の聞いている話と同じだろうか。
思わず声が裏返り、コホンと咳払いした。
「まずはクリストの側近として働いてみろ。どうせ貴族の教育もまともに受けてこなかっただろうから家庭教師も用意した。一年間で成果を上げると息巻いているらしいが、そんなに甘くない世界だということを教えてやる」
誰が『一年間で成果を上げると息巻いている』んだ???
チラとソフィーナを横目で見るが、明後日の方向を見て惚けている。
これは確信犯か。
「おい、何処を見ている。イチャつくんじゃない、私はまだ許していないぞ」
退路を断たれている気がするようなしないような。
いや、やると自分で決めたんだ。
やるしかない。
俺は胸ポケットに仕舞ったニノの眼鏡を取り出し、装着した。
「ルーファス国王陛下」
思ったよりも低い声が出て空気がピリッと緊張する。
「それとも義父上と呼んだ方がいいのか」
「…っ、今はまだ陛下と呼べ」
「では陛下」
慣れない眼鏡がずり下がり、俺は指でクイと持ち上げる。
「目にモノを見せてやりましょう」
それがかなりの挑発的な態度だったと気付いたのは、クリストの執務室に戻った後のことだった。
無闇に大口を叩くなと説教され、おかしいなと首を捻る。
何故だ、期待に応えるよう努力すると返事したつもりだったのに。
「ではまず簡単な仕事から頼もうか」
こちらの資料をと手渡され、見ると公共工事の見積もり案だった。
「内容が問題ないかチェックしてくれ」
「過去の見積書や今年の予算案を見せて貰っても?」
「…」
クリストが驚いたように黙り込み、俺は首を傾げた。
「何だ?」
「いや、直でその言葉が返ってくるとは思わなかったから」
「必要だろ。俺は何もわかんねぇんだから」
「資料ならそちらの棚にあるから勝手に見てくれ」
そちらのと示された棚にはファイルがグチャグチャに詰め込まれた惨状があった。
「…」
「すまん、忙しくて整理出来てなくて」
「わかった」
まずはここからだな、と整理整頓から始めることにする。
ファイルを整理整頓し、見積もり案をチェックし、問題点を書き出してからクリストのデスクへと提出する。
「…早いな」
「簡単な仕事なんだろ?」
「それはそうだが」
「俺が馬鹿やってたからって普通のことで高評価するのやめてくれ」
そういうのは望んでないと苦笑する。
クリストは書類をチェックする手を止め、俺の顔をじっと見つめた。
「馬鹿を演じてたのか?」
「まぁな」
「何の為に?」
「俺は男爵令息だから」
その方がらしいだろと肩を竦めてみせる。
納得したのかしないのか、クリストは「そうか」と頷いた。
「もう少しデカい仕事を任せてみるか」
「早いな」
「優秀な者はこき使うだろ」
文句言うなと書類を突き出される。
受け取り目を通すと、それは橋の老朽化についての要望書だった。
「橋を架けなおすのか」
「もしくは別の場所に移すか」
「壊している間は通れなくなるから、別の場所に移した方が混乱は少ない」
「そうなるとメインストリートの交通量が変動する。そこの通りにある店からは苦情が殺到するだろう」
「…」
なるほどと顎に手をやる。
これは中々に難しい問題だ。
「判断は任せる。予算内にどうにか対処してくれ」
「ズルしてもいいのか?」
「ズルとは?」
「俺の人脈、使っていいのかってこと」
後で文句を言われないようにと思って訊いたのだが「それのどこがズルなんだ?」と訊き返されてしまった。
その言葉、忘れるなよ?
あまりにも急な話だが、半日で着く距離ならばそんな大袈裟に別れを告げることもない。
俺は「カッコいいですわ…!」と借りてきた猫になったソフィーナと一緒にベリア領の邸へと向かった。
まだ国王の住まいである王宮というには質素だが、それなりにしようと諸々改築中のようだ。
「誰???」
久しぶりに会ったクリストの第一声がそれだ。
薄情だなと顔を歪めるが、別に忘れたわけではなかったらしい。
「本当にトーマなのか?」と詰め寄られる。
「ちょっと変わり過ぎじゃないか?その眼鏡はどうした」
「ユーリにも『馬子にも衣装』とか言われたよ。この眼鏡はニノから」
「ぐっ…私とキャラが被るじゃないか…!」
どうやら不満らしい。
クリストの前では控えようと眼鏡を外して胸ポケットへ仕舞う。
クリストに促され、俺は次にルーファスの執務室へと挨拶に連れて来られる。
「来たか。…誰だ?」
「父上、トーマ・カブラギです」
ここでも誰とか言われる。
そんなに別人か、俺。
「話は聞いている。どうしてもソフィーナと結婚したいと言うならば、行動で示してみたまえ」
「うぇ?…あ、はい」
その聞いている話は俺の聞いている話と同じだろうか。
思わず声が裏返り、コホンと咳払いした。
「まずはクリストの側近として働いてみろ。どうせ貴族の教育もまともに受けてこなかっただろうから家庭教師も用意した。一年間で成果を上げると息巻いているらしいが、そんなに甘くない世界だということを教えてやる」
誰が『一年間で成果を上げると息巻いている』んだ???
チラとソフィーナを横目で見るが、明後日の方向を見て惚けている。
これは確信犯か。
「おい、何処を見ている。イチャつくんじゃない、私はまだ許していないぞ」
退路を断たれている気がするようなしないような。
いや、やると自分で決めたんだ。
やるしかない。
俺は胸ポケットに仕舞ったニノの眼鏡を取り出し、装着した。
「ルーファス国王陛下」
思ったよりも低い声が出て空気がピリッと緊張する。
「それとも義父上と呼んだ方がいいのか」
「…っ、今はまだ陛下と呼べ」
「では陛下」
慣れない眼鏡がずり下がり、俺は指でクイと持ち上げる。
「目にモノを見せてやりましょう」
それがかなりの挑発的な態度だったと気付いたのは、クリストの執務室に戻った後のことだった。
無闇に大口を叩くなと説教され、おかしいなと首を捻る。
何故だ、期待に応えるよう努力すると返事したつもりだったのに。
「ではまず簡単な仕事から頼もうか」
こちらの資料をと手渡され、見ると公共工事の見積もり案だった。
「内容が問題ないかチェックしてくれ」
「過去の見積書や今年の予算案を見せて貰っても?」
「…」
クリストが驚いたように黙り込み、俺は首を傾げた。
「何だ?」
「いや、直でその言葉が返ってくるとは思わなかったから」
「必要だろ。俺は何もわかんねぇんだから」
「資料ならそちらの棚にあるから勝手に見てくれ」
そちらのと示された棚にはファイルがグチャグチャに詰め込まれた惨状があった。
「…」
「すまん、忙しくて整理出来てなくて」
「わかった」
まずはここからだな、と整理整頓から始めることにする。
ファイルを整理整頓し、見積もり案をチェックし、問題点を書き出してからクリストのデスクへと提出する。
「…早いな」
「簡単な仕事なんだろ?」
「それはそうだが」
「俺が馬鹿やってたからって普通のことで高評価するのやめてくれ」
そういうのは望んでないと苦笑する。
クリストは書類をチェックする手を止め、俺の顔をじっと見つめた。
「馬鹿を演じてたのか?」
「まぁな」
「何の為に?」
「俺は男爵令息だから」
その方がらしいだろと肩を竦めてみせる。
納得したのかしないのか、クリストは「そうか」と頷いた。
「もう少しデカい仕事を任せてみるか」
「早いな」
「優秀な者はこき使うだろ」
文句言うなと書類を突き出される。
受け取り目を通すと、それは橋の老朽化についての要望書だった。
「橋を架けなおすのか」
「もしくは別の場所に移すか」
「壊している間は通れなくなるから、別の場所に移した方が混乱は少ない」
「そうなるとメインストリートの交通量が変動する。そこの通りにある店からは苦情が殺到するだろう」
「…」
なるほどと顎に手をやる。
これは中々に難しい問題だ。
「判断は任せる。予算内にどうにか対処してくれ」
「ズルしてもいいのか?」
「ズルとは?」
「俺の人脈、使っていいのかってこと」
後で文句を言われないようにと思って訊いたのだが「それのどこがズルなんだ?」と訊き返されてしまった。
その言葉、忘れるなよ?
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