34 / 43
34 ハッピーエンド
しおりを挟むベリア領が独立宣言をし、ベリア国を建国した。
オルタ国に所属していた多くの領がベリア国へと移り、残っているのは王都と教会の神殿と魔導士の塔くらいだろうか。
最強を誇っていた王都騎士団もベリアとの戦闘で多くを失い、残されたのは古い歴史だけ。
オルタ国王ギルバードの伴侶にする為に神殿と塔に大金を払って新たな愛し子召喚が行われたらしいが、それが上手くいったのかどうかはあまり知られていない。
ルーファスはベリア国の国王となり、アルフレッドは公爵位を叙爵された。
なので私は公爵夫人になった。
「結婚おめでとうですわ、ユーリ」
真っ赤なドレスに身を包んだソフィーナが、クリストのエスコートで披露宴会場に現れる。
私は礼儀正しく「ようこそいらっしゃいました、クリスト王太子殿下、ソフィーナ王女殿下」とカーテシーをした。
「疾うに結婚していたというのに、改めておめでとうだなんておかしいわね」
「そうですわね。もうあれから二年も経ってしまいましたわ」
落ち着いたら式を挙げようと言いつつ、色々あって落ち着かなかったのだ。
「おめでとうございます、殿下」
「殿下は君だよ、クリスト王太子殿下。僕のことはアルフレッドと呼び捨ててくれていい」
「無理です、殿下は殿下ですから。私はいつまでも殿下の側近です」
「お兄様、公爵様を困らせてはいけませんわ」
ソフィーナに窘められ、クリストは渋々「アルフレッド様」と譲歩する。
「ところで、王太子となったからにはクリスト…殿下も婚約者をそろそろ選ばないといけないのではないか。それとももう決まっているのか?」
「それは…まだ会ってはいないのですがモーリス伯爵の令嬢で」
婚約者の話になり、ソフィーナは気まずそうに「行きましょ」と私の手を引いた。
「お父様もお兄様もわたくしに婚約者を早く決めなさいって煩くて。わたくしはもう婚約なんてうんざりですのに」
ソフィーナはこの短期間に二回も婚約解消したのだ。
うんざりなのも無理はないと頷いてみせる。
「わたくし、政略なんて関係なしに恋がしてみたいですわ。ユーリみたいに」
「いえ、私はメチャクチャ王命でしたけどね。誰か気になる相手でもいますの?」
もしかしてと小声で訊ねるとソフィーナは焦った様子で「そ、そそ、そんなのいませんわっ」と否定した。
これは…いる!
私のレーダーが敏感に察知し「まぁまぁまぁまぁ!」と笑顔でソフィーナに詰め寄っていく。
「その幸運な殿方は一体どちら様?私の知っている方かしら?」
「ユーリ嬢。本日の主役がそんな隅っこで何してんの?」
壁際にソフィーナを追い詰めていると、呆れたような声が背後から掛けられる。
「キサラさん!」
ゼノス国ガノル国と続けて潜入していたキサラは見ない内にすっかり背が伸びて、逞しくなっていた。
口下手なのは相変わらずだが、何故か年寄りと子供にはやたら優しくなり、人当たりは良くなったと思う。
「ソフィもしかして?」
「違いますわ」
きっぱりと否定され、私はポンとキサラの肩を叩いた。
「残念、フラれました。元気出して」
「なに勝手にフラれたことになってんの」
いつもの黒マスクを外して正装しているキサラはそれなりにモテそうな容姿ではあるが、本人はあまり興味無さそうだ。
女性よりもアルフレッドの方が大好きな性格だから。
「キサラさんはまだアルフレッドの影を続けるんですの?」
「当然。カラスは一度決めた主は変えない」
カラス伯爵の離脱も、オルタ国には相当な痛手だったろうと思われる。
オルタ王家に愛想を尽かしたカラスは次の守護する主をベリア王家に決めたらしい。
となるとアルフレッドは対象から外れることになるのだが、そんなルールとは関係なくキサラは主を選ぶ。
「アベルも建国して王になればいいのに」
「やめてください、過労死しますわ」
ただでさえ激務なのに、私はともかくアルフレッドが死んじゃう。
また後でとキサラと別れソフィーナを見ると、どうやら会場の一角を見つめている様子。
その視線を追うと、そこに立っているのは衛兵服のジークとトーマだった。
「そうですわよね、騎士は女性の憧れですものねっ」
「え、ええっ?」
ソフィーナの手を取って意気揚々と突撃する。
「ジークさん、お仕事お疲れ様です」
「ユーリ嬢…あ、いや公爵夫人と呼ぶべきだな、これからは」
「そんな気にすんなよ、ジーク。俺の妹だぜ?」
「兄様はもう少し気を遣ってくださいまし」
公私きちんと分けるべきですわ、と説教するとフイと視線を逸らし「ソフィじゃん」とソフィーナに声をかける。
「言った傍から!ソフィーナ王女殿下ですわよ、兄様」
「熱はもう下がったのか?元気になって良かったな、ソフィ」
ひょいと腰を持ち上げて上に掲げる。やりやがった、簡易高い高いだ。
この会場にはベリア国へと移った貴族がそれぞれの身の振り方を考える為に沢山参加している。
そんな中で王女を抱き上げる騎士なんてものを見せたら…。
「兄様!降ろしてください、ソフィが困って…」
ソフィーナの顔を覗き「あれ?」と言葉を止める。
これは困って…ない?
「わたくし、こう見えて案外丈夫なのですわよトーマ」
「丈夫?いや、まだまだ。丈夫ってのは俺みたいなヤツのことを言うんだ」
「そこまでっ?流石にそこまでは鍛えられませんわ!」
和やかに会話が進められ、逆にこちらが困ってしまう。
ジークの隣に引っ込んだ私は小声で「そういうこと?」と訊ねる。
「トーマに脈があるかどうかは俺にもわからん。だが王女殿下はそうなのかもな」
「兄様は鈍いからきっと苦労しますわ、ソフィ…」
「それはどうかな、結構強かだぞ。外堀を埋められて落とされる未来が俺には見える」
ジークの指摘に「なるほど」とこちらに注目する人々を一望する。
それはそれで幸せな未来なんじゃないか、と私はぼんやり思った。
10
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

群青の軌跡
花影
ファンタジー
ルークとオリガを主人公とした「群青の空の下で」の外伝。2人の過去や本編のその後……基本ほのぼのとした日常プラスちょっとした事件を描いていきます。
『第1章ルークの物語』後にタランテラの悪夢と呼ばれる内乱が終結し、ルークは恋人のオリガを伴い故郷のアジュガで10日間の休暇を過ごすことになった。家族や幼馴染に歓迎されるも、町長のクラインにはあからさまな敵意を向けられる。軋轢の発端となったルークの過去の物語。
『第2章オリガの物語』即位式を半月後に控え、忙しくも充実した毎日を送っていたオリガは2カ月ぶりに恋人のルークと再会する。小さな恋を育みだしたコリンシアとティムに複雑な思いを抱いていたが、ルークの一言で見守っていこうと決意する。
『第3章2人の物語』内乱終結から2年。平和を謳歌する中、カルネイロ商会の残党による陰謀が発覚する。狙われたゲオルグの身代わりで敵地に乗り込んだルークはそこで思わぬ再会をする。
『第4章夫婦の物語』ルークとオリガが結婚して1年。忙しいながらも公私共に充実した生活を送っていた2人がアジュガに帰郷すると驚きの事実が判明する。一方、ルークの領主就任で発展していくアジュガとミステル。それを羨む者により、喜びに沸くビレア家に思いがけない不幸が降りかかる。
『第5章家族の物語』皇子誕生の祝賀に沸く皇都で開催された夏至祭でティムが華々しく活躍した一方で、そんな彼に嫉妬したレオナルトが事件を起こしてミムラス家から勘当さる。そんな彼を雷光隊で預かることになったが、激化したミムラス家でのお家騒動にルーク達も否応なしに巻き込まれていく。「小さな恋の行方」のネタバレを含みますので、未読の方はご注意下さい。
『第6章親子の物語』エルニアの内乱鎮圧に助力して無事に帰国したルークは、穏やかな生活を取り戻していた。しかし、ミムラス家からあらぬ疑いで訴えられてしまう。
小説家になろう、カクヨムでも掲載
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

ダークナイトはやめました
天宮暁
ファンタジー
七剣の都セブンスソード。魔剣士たちの集うその街で、最強にして最凶と恐れられるダークナイトがいた。
その名を、ナイン。畏怖とともにその名を呼ばれる青年は、しかし、ダークナイトをやめようとしていた。
「本当に……いいんですね?」
そう慰留するダークナイト拝剣殿の代表リィンに、ナインは固い決意とともにうなずきを返す。
「守るものができたからな」
闇の魔剣は守るには不向きだ。
自らが討った聖竜ハルディヤ。彼女から託された彼女の「仔」。竜の仔として育てられた少女ルディアを守るため、ナインは闇の魔剣を手放した。
新たに握るのは、誰かを守るのに適した光の魔剣。
ナインは、ホーリーナイトに転職しようとしていた。
「でも、ナインさんはダークナイトの適正がSSSです。その分ホーリーナイトの適正は低いんじゃ?」
そう尋ねるリィンに、ナインは平然と答えた。
「Cだな」
「し、C!? そんな、もったいなさすぎます!」
「だよな。適正SSSを捨ててCなんてどうかしてる」
だが、ナインの決意は変わらない。
――最強と謳われたダークナイトは、いかにして「守る強さ」を手に入れるのか?
強さのみを求めてきた青年と、竜の仔として育てられた娘の、奇妙な共同生活が始まった。
(※ この作品はスマホでの表示に最適化しています。文中で改行が生じるかたは、ピンチインで表示を若干小さくしていただくと型崩れしないと思います。)
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる