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32 善人か悪人か シルヴァードside
しおりを挟むルミナリアが王宮から去った。
離縁状と短い手紙を残して。
――わたくしはもう必要ないようですので去ります。
最初遺書かと思ったが、宝石などが無くなっていたということは換金して移動する費用に充てたということだろう。
ルミナリアが身を寄せる宛てなんてベリアくらいだろうと思ったが、王都のベリア邸にもベリア領の方にもルミナリアの痕跡は見つからなかった。
「ソフィーナを浚え」
護衛に大金を渡して命令する。
どうせ匿っているのはあの小娘だろうと当たりをつけた。
違ったとしてもルミナリアが心を寄せているあの小娘を手中に収めておけば上手く使えるだろうと踏んだ。
「父上、落ち着いてください」
何をやろうとしているのかと呆れたような顔をされ、ギルバードに怒りが湧いてくる。
「ルーファスは必ず従うと言ったではないか!」
声を荒げて「この嘘つきめ!」と罵倒する。
「聖王石を取り上げると言って脅せば何でも言うことを聞くと!だから機嫌を取る必要などないのだと言ったではないか!」
「当然です。まさか自領を犠牲にしてまでプライドを優先するなんて夢にも思わないでしょう」
「だがあいつは聖王石など要らんと切り捨てた!どうしてくれる!ルーファスがいなければこの国はもう駄目だ!」
「僕がいます父上。あんな愚か者よりも賢い僕が」
ガン!と拳でその横面をぶん殴る。
勢いでギルバードが床に吹っ飛んだ。
「お前など要らん!お前のことなどもう信用できん!ルミナリアが去ったのも、どうせお前が余計なことをしたのだろうっ?」
「…。母上が去ったから何だと言うのです?」
「なんだと?」
「あんな平民、どうせ何の役にも立たないでしょう!何故そんなに執着するのですか!」
ギルバードの反論に耳を疑う。
余の妻だぞ?自分の母親だぞ?
何故そんなことを言える。こいつに人の血は通っているのか?
「ルミナリアは傍にいるだけで価値があるのだ!」
「王妃として尊重もしないのに?王宮内で母上がどれだけ肩身の狭い思いをしてきたか、父上は知らないのですか?」
ハッと馬鹿にするように鼻で笑われ、カーッと頭に血が上る。
怒りのままに転がったままのギルバードの身体を何度も蹴りつけ、側近に「おやめください!」と止められた。
「これ以上は命に関ります!」
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
荒い息を整えながら、殺すのはまずいと冷静になる。
「まだ貴様に国王の座は渡しておらん。言葉に気を付けるんだな」
反省しろと吐き捨てて執務室へと向かう。
デスクに座ってみても、仕事など全く手につかなかった。
どれくらい時間が経っただろうか。
護衛が傍に戻ってきて「浚いました」と耳に小さく告げる。
「よくやった」
最悪だった気分がほんの少しだけ良くなった。
さてルミナリアは何処へ行ったのだろうかと改めて思案する。
「ベリア領でないとするならば…アルフレッドの処か?」
教育には全く関わらせなかった為、ルミナリアは息子二人とそれほど親しくもない。
だが、お人好しのアルフレッドならばそんな母親でも匿うかもしれん。
可能性はある。
「よし、アベル領へ向かうぞ」
公務を放り出し、早速出掛ける支度をする。
馬車は快適なニ〇バス2000を使いたかったが、王家だとバレるのは都合が悪いかもしれないと苦渋の判断をして別の馬車を使うことにした。
ソフィーナは両手だけ縄で拘束した状態で馬車に乗せていたが、喉が渇いただのトイレに行きたいだと煩かったので猿轡をかませてやった。
暫くは抗議の声を上げていたが、疲れたのかやがて黙り込んだ。
結局漏らさなかったので、トイレは逃げる為の嘘だったのだろう。
順調にアベル領へと道を進んでいったが、もう少しという森の中で突然の攻撃を受けて馬車は停止した。
「陛下は此処でお待ちください」
護衛が慎重に外の様子を窺いながら馬車を降りる。
暫くの間、悲鳴や戦闘の音が騒がしく鳴っていたが、そのうち静かになりコンコンと馬車のドアがノックされた。
「誰か乗っているのか?」
護衛の声ではなかった。
サーッと血の気が引き身体がブルブルと震え始める。
「心配するな、俺達は義賊だ。護衛や御者は間に合わずにやられちまったが、あんたらを襲った盗賊団は殲滅した」
「義賊…?」
「そうだ、俺達は悪いヤツしか襲わない。もし御者や護衛がいなくて困っているなら手を貸すぜ」
「…」
嘘か本当かはわからないが、もし本当ならば助かったということだ。
その言葉を信じたい気持ちで施錠を開け、ドアを開く。
そこにいた男は鬼の仮面を被った怪しいヤツだったが、言葉の通り襲ってくる様子はなかった。
周囲を見渡すと護衛や御者の他に襲ってきたらしい盗賊団の死体が転がっており、残っている者は全員この男と同じ鬼の仮面を被っていた。
全部で四人。メンバーには女性もいるらしい。
ボスらしき男が馬車の中を確認し「なるほど」と頷いた。
「どうやらアンタは『悪いヤツ』だな」
指摘され、ハッと拘束されているソフィーナを見る。
違うと言い訳する暇もなく、男の短剣が胸に突き刺さった。
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