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31 歴史に残る戦い
しおりを挟むガノルが攻めてくるという西側の城壁に戦力を集中させ、然しながら東と南も警戒しないわけにはいかない。
北の山脈からは流石に攻めてこないだろうと思うが。
「西をアベル騎士団に、南をファーストに、東をトワイライトに任せても良いだろうか。義父上には全体を見て足りない場所をフォローして貰いたい」
「「「「了解!」」」」
ざっくりとしたアルフレッドの指示に文句を言う者は誰もなく、寧ろ目を輝かせている者すらいるのは一体何なのか。
アベル騎士団と冒険者のファーストが戦うのはわかるとして、盗賊団や設計士が領を護る為に戦うのはおかしい。
おかしいのだが、参加したいというのだから仕方ないだろう。
「はいはいはい、僕もぉー!僕も参加したいよぉー」
会議室に乗り込んできてアピールする魔導士がまた一人。
もう好きにしたらいいと思う。
「領民は邸に避難させて、此処は僕が護ろう。本当は僕も前線に立ちたかったが…」
「アルフレッドはラスボスなので此処で待機です。私も居残り組ですわ」
「大丈夫ですよ姫様。退屈させないよう私が実況致しますから」
右手に奇妙な黒い箱、左手に奇妙な形の棒を持ったヨツイがやる気満々の顔でフンフンと鼻息を立てている。
「ヨツイ、それは…?」
「父殿発明のカメラとマイクです。会議室のモニターに映るように設定されていますので皆様はそちらで観戦ください。私は領が一望できる邸の塔の展望台で実況致します」
ええと…、お祭りじゃないんだけど。
あまりのはしゃぎっぷりに心配になってしまう。
その雰囲気が伝わったのか、避難してきた領民も困惑している。
「ねぇ、これは戦争…ではないの?」
不思議そうにナリアが訊ねてくる。
私はきっぱりと「戦争です」と頷き返した。
「ええと、勝てる見込みがある戦争なの?」
「わかりませんわ。普通に考えたら復興し始めたばかりのウチが勝てるわけないんですけれど」
でも普通じゃない。誰も彼もが。
それだけは胸を張って宣言出来る。
「こればかりは、やってみないとわかりません」
皆様こんにちは。実況のヨツイと申します。
さて緊迫した空気の中、今のところ塔から見える景色に変化はございません。
各地点でも変わりないでしょうか。
北城壁のキキさーん?
はい、こちら北城壁のキキです。
まだ変化なしですね。地形が厳しい場所ですので、こちらから攻められるという可能性は少ないのではないでしょうか。
一応、父殿が秘密基地にて待機している状態であります。
西城壁のスズさーん?
はい、こちら西城壁のスズです。
アベル騎士団長の指示の下、団員の配置が終わったところです。
ジーク団長とトーマ副団長の実力は確かですが、まだまだ人数が少ないアベル騎士団。どのような戦いぶりを見せてくれるのか楽しみですね。
南城壁のネネさーん?
はい、こちら南城壁のネネです。
森が広がるこちらの城壁では視界が悪く、もしも攻められたら厳しい戦いを強いられるように思えます。
しかしこちらの担当は冒険者Sランクチーム『ファースト』です。
場数を踏んだ上級者の戦いというものを見せてくれるのではないでしょうか。
東城壁のヤヤさーん?
はい、こちら東城壁のヤヤです。
こちらも森が広がっており視界が悪いフィールドでございます。
しかし王都へ繋がるこの森は盗賊団『トワイライト』の庭同然。
地形を知り尽くした盗賊団に戦いを挑む者はいるのか、乞うご期待です。
「何だコレ…」
アルフレッドが呆然と呟く。
会議室の壁に掲げられた巨大なモニターに画像が映し出されているだけでも『何だコレ』なのだが、流れてくる実況映像がまた『何だコレ』だ。
「アルフレッド」
ポンと肩を叩き、顔を見合わせて頷く。
「私も同じ気持ちです」
何だこれぇっ!?私は知らないんですけれどぉっ!?
おおっと!西の空に何か見え始めました。
アレは一体何なのでしょうか!
西城壁のスズさーん?
はい、こちら西城壁のスズです。
アレは魔物の大群ですね。翼竜…でしょうか。
城壁のことを考慮してか、空を飛ぶ魔物ばかりです。
そしてひと際大きい竜の背に人影が見えます。
もしかして魔物を従わせるという姫巫女でしょうか。
もう少し近付いてもらえないとよく見えません!
何かを宣言している様子ですが遠すぎてよく聞こえません!
すみません、こちら北城壁のキキです。
西の空に魔物が現れたと聞き、父殿が出動です。
山の岩壁が左右に開き、中から滑走路が出てきました。
現れるのは真っ赤な戦闘機です。
凄いスピードです、いってらっしゃーい!!!
画面こちら戻してください、西城壁では戦闘が始まっています!
ジーク団長とトーマ副団長が空を舞っています。
アレは今朝仕上がったばかりの立体機動装置!
使いこなすには相当な筋力が必要とのことですが流石です。
バッサバッサと魔物を斬り落としています。
こちら邸のヨツイです。
邸から何かが西に向かって飛んでいきます。
ズームしてみます…あれはアレクサンダー!?
背中にジェットパックを背負い、華麗に飛んでいきますが武器は持っているのでしょうか。
彼は確か、人間を攻撃出来ないプログラムが組まれているはず。
魔物は人間じゃないから戦えるってことでしょうか。
西城壁スズです。
父殿の真っ赤な戦闘機が到着しました。
先端から光る何かが出て…、ああ情報が入りました。
どうやらレーザー銃という武器らしいです。
アレに打たれるとその部分が熱で焼かれるそうで、翼をやられた魔物がどんどん落ちていきます。
地上では騎士団員が頑張って後処理している様子です。
皆頑張れー!!!
南城壁のネネです。
邸の方角から空飛ぶ絨毯に乗ったロクが現れました。
今朝トニ婆に強請っていた絨毯ですね。魔道具がようやく完成したようです。
母殿が一緒に乗っているようですが、暇すぎて拗ねていたイチカとアーチェも拾って西へ向かいます。
ランとメイとシルドは引き続き南に残る様子です。
東城壁のヤヤです。
豪華な馬車が王都方面から現れたようですが、一体何者でしょうか。
おっと、何者かに絡まれている模様。
トワイライトではない盗賊団に襲われているようです。
これには黙っていられないイサム達、向かいます。
今回の襲撃には関係なさそうですが、シマを護る為には必要な戦いです!
西城壁にはアレクサンダーと空飛ぶ絨毯が到着しました。
空飛ぶ絨毯の上ではアーチェが弓で母殿がマシンガンという鉛玉を乱射する武器で戦います。
イチカは…おおっと!なんとアレクサンダーの背に乗って空中を飛び回る!
とんでもない荒業が出ました!!!
「アルフレッド、お義母様」
気付けばもう随分と長いこと立ちっぱなしだ。
座りましょうと椅子を勧めると「そうだな」とアルフレッドが頷く。
「皆、楽しそうだ」
「えええ?」
「母上、慣れましょう。此処ではああいうのが普通なんです」
アルフレッドも随分と毒されたものだ。
感心しているとトニ婆が緑茶を持って来てくれた。
「有難うトニ婆。事前に警告してくれたお陰で備えることが出来たわ」
「各地に散らばった古物商『フォーレスト』のネットワークがこんなところで役に立つとはのう」
私の隣の席に腰かけ、ズズと緑茶を啜る。
「同時に仕掛けられたベリア領の方も、何とかなったようじゃのう」
「…」
良かった良かったと笑いながら茶を啜るが、いやいやいやとツッコミが止まらない。
「トニ婆、その話は聞いてませんわ」
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