魂が百個あるお姫様

雨野千潤

文字の大きさ
上 下
31 / 43

31 歴史に残る戦い

しおりを挟む

ガノルが攻めてくるという西側の城壁に戦力を集中させ、然しながら東と南も警戒しないわけにはいかない。
北の山脈からは流石に攻めてこないだろうと思うが。

「西をアベル騎士団に、南をファーストに、東をトワイライトに任せても良いだろうか。義父上には全体を見て足りない場所をフォローして貰いたい」

「「「「了解!」」」」

ざっくりとしたアルフレッドの指示に文句を言う者は誰もなく、寧ろ目を輝かせている者すらいるのは一体何なのか。

アベル騎士団と冒険者のファーストが戦うのはわかるとして、盗賊団や設計士が領を護る為に戦うのはおかしい。
おかしいのだが、参加したいというのだから仕方ないだろう。

「はいはいはい、僕もぉー!僕も参加したいよぉー」

会議室に乗り込んできてアピールする魔導士がまた一人。
もう好きにしたらいいと思う。

「領民は邸に避難させて、此処は僕が護ろう。本当は僕も前線に立ちたかったが…」

「アルフレッドはラスボスなので此処で待機です。私も居残り組ですわ」

「大丈夫ですよ姫様。退屈させないよう私が実況致しますから」

右手に奇妙な黒い箱、左手に奇妙な形の棒を持ったヨツイがやる気満々の顔でフンフンと鼻息を立てている。

「ヨツイ、それは…?」

「父殿発明のカメラとマイクです。会議室のモニターに映るように設定されていますので皆様はそちらで観戦ください。私は領が一望できる邸の塔の展望台で実況致します」

ええと…、お祭りじゃないんだけど。

あまりのはしゃぎっぷりに心配になってしまう。
その雰囲気が伝わったのか、避難してきた領民も困惑している。

「ねぇ、これは戦争…ではないの?」

不思議そうにナリアが訊ねてくる。
私はきっぱりと「戦争です」と頷き返した。

「ええと、勝てる見込みがある戦争なの?」

「わかりませんわ。普通に考えたら復興し始めたばかりのウチが勝てるわけないんですけれど」

でも普通じゃない。誰も彼もが。
それだけは胸を張って宣言出来る。

「こればかりは、やってみないとわかりません」


皆様こんにちは。実況のヨツイと申します。

さて緊迫した空気の中、今のところ塔から見える景色に変化はございません。
各地点でも変わりないでしょうか。

北城壁のキキさーん?

はい、こちら北城壁のキキです。
まだ変化なしですね。地形が厳しい場所ですので、こちらから攻められるという可能性は少ないのではないでしょうか。
一応、父殿が秘密基地にて待機している状態であります。

西城壁のスズさーん?

はい、こちら西城壁のスズです。
アベル騎士団長の指示の下、団員の配置が終わったところです。
ジーク団長とトーマ副団長の実力は確かですが、まだまだ人数が少ないアベル騎士団。どのような戦いぶりを見せてくれるのか楽しみですね。

南城壁のネネさーん?

はい、こちら南城壁のネネです。
森が広がるこちらの城壁では視界が悪く、もしも攻められたら厳しい戦いを強いられるように思えます。
しかしこちらの担当は冒険者Sランクチーム『ファースト』です。
場数を踏んだ上級者の戦いというものを見せてくれるのではないでしょうか。

東城壁のヤヤさーん?

はい、こちら東城壁のヤヤです。
こちらも森が広がっており視界が悪いフィールドでございます。
しかし王都へ繋がるこの森は盗賊団『トワイライト』の庭同然。
地形を知り尽くした盗賊団に戦いを挑む者はいるのか、乞うご期待です。


「何だコレ…」

アルフレッドが呆然と呟く。
会議室の壁に掲げられた巨大なモニターに画像が映し出されているだけでも『何だコレ』なのだが、流れてくる実況映像がまた『何だコレ』だ。

「アルフレッド」

ポンと肩を叩き、顔を見合わせて頷く。

「私も同じ気持ちです」

何だこれぇっ!?私は知らないんですけれどぉっ!?



おおっと!西の空に何か見え始めました。
アレは一体何なのでしょうか!

西城壁のスズさーん?

はい、こちら西城壁のスズです。
アレは魔物の大群ですね。翼竜…でしょうか。
城壁のことを考慮してか、空を飛ぶ魔物ばかりです。
そしてひと際大きい竜の背に人影が見えます。
もしかして魔物を従わせるという姫巫女でしょうか。
もう少し近付いてもらえないとよく見えません!
何かを宣言している様子ですが遠すぎてよく聞こえません!

すみません、こちら北城壁のキキです。
西の空に魔物が現れたと聞き、父殿が出動です。
山の岩壁が左右に開き、中から滑走路が出てきました。
現れるのは真っ赤な戦闘機です。
凄いスピードです、いってらっしゃーい!!!

画面こちら戻してください、西城壁では戦闘が始まっています!
ジーク団長とトーマ副団長が空を舞っています。
アレは今朝仕上がったばかりの立体機動装置!
使いこなすには相当な筋力が必要とのことですが流石です。
バッサバッサと魔物を斬り落としています。

こちら邸のヨツイです。
邸から何かが西に向かって飛んでいきます。
ズームしてみます…あれはアレクサンダー!?
背中にジェットパックを背負い、華麗に飛んでいきますが武器は持っているのでしょうか。
彼は確か、人間を攻撃出来ないプログラムが組まれているはず。
魔物は人間じゃないから戦えるってことでしょうか。

西城壁スズです。
父殿の真っ赤な戦闘機が到着しました。
先端から光る何かが出て…、ああ情報が入りました。
どうやらレーザー銃という武器らしいです。
アレに打たれるとその部分が熱で焼かれるそうで、翼をやられた魔物がどんどん落ちていきます。
地上では騎士団員が頑張って後処理している様子です。
皆頑張れー!!!

南城壁のネネです。
邸の方角から空飛ぶ絨毯に乗ったロクが現れました。
今朝トニ婆に強請っていた絨毯ですね。魔道具がようやく完成したようです。
母殿が一緒に乗っているようですが、暇すぎて拗ねていたイチカとアーチェも拾って西へ向かいます。
ランとメイとシルドは引き続き南に残る様子です。

東城壁のヤヤです。
豪華な馬車が王都方面から現れたようですが、一体何者でしょうか。
おっと、何者かに絡まれている模様。
トワイライトではない盗賊団に襲われているようです。
これには黙っていられないイサム達、向かいます。
今回の襲撃には関係なさそうですが、シマを護る為には必要な戦いです!

西城壁にはアレクサンダーと空飛ぶ絨毯が到着しました。
空飛ぶ絨毯の上ではアーチェが弓で母殿がマシンガンという鉛玉を乱射する武器で戦います。
イチカは…おおっと!なんとアレクサンダーの背に乗って空中を飛び回る!
とんでもない荒業が出ました!!!


「アルフレッド、お義母様」

気付けばもう随分と長いこと立ちっぱなしだ。
座りましょうと椅子を勧めると「そうだな」とアルフレッドが頷く。

「皆、楽しそうだ」

「えええ?」

「母上、慣れましょう。此処ではああいうのが普通なんです」

アルフレッドも随分と毒されたものだ。
感心しているとトニ婆が緑茶を持って来てくれた。

「有難うトニ婆。事前に警告してくれたお陰で備えることが出来たわ」

「各地に散らばった古物商『フォーレスト』のネットワークがこんなところで役に立つとはのう」

私の隣の席に腰かけ、ズズと緑茶を啜る。

「同時に仕掛けられたベリア領の方も、何とかなったようじゃのう」

「…」

良かった良かったと笑いながら茶を啜るが、いやいやいやとツッコミが止まらない。


「トニ婆、その話は聞いてませんわ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

群青の軌跡

花影
ファンタジー
ルークとオリガを主人公とした「群青の空の下で」の外伝。2人の過去や本編のその後……基本ほのぼのとした日常プラスちょっとした事件を描いていきます。 『第1章ルークの物語』後にタランテラの悪夢と呼ばれる内乱が終結し、ルークは恋人のオリガを伴い故郷のアジュガで10日間の休暇を過ごすことになった。家族や幼馴染に歓迎されるも、町長のクラインにはあからさまな敵意を向けられる。軋轢の発端となったルークの過去の物語。 『第2章オリガの物語』即位式を半月後に控え、忙しくも充実した毎日を送っていたオリガは2カ月ぶりに恋人のルークと再会する。小さな恋を育みだしたコリンシアとティムに複雑な思いを抱いていたが、ルークの一言で見守っていこうと決意する。 『第3章2人の物語』内乱終結から2年。平和を謳歌する中、カルネイロ商会の残党による陰謀が発覚する。狙われたゲオルグの身代わりで敵地に乗り込んだルークはそこで思わぬ再会をする。 『第4章夫婦の物語』ルークとオリガが結婚して1年。忙しいながらも公私共に充実した生活を送っていた2人がアジュガに帰郷すると驚きの事実が判明する。一方、ルークの領主就任で発展していくアジュガとミステル。それを羨む者により、喜びに沸くビレア家に思いがけない不幸が降りかかる。 『第5章家族の物語』皇子誕生の祝賀に沸く皇都で開催された夏至祭でティムが華々しく活躍した一方で、そんな彼に嫉妬したレオナルトが事件を起こしてミムラス家から勘当さる。そんな彼を雷光隊で預かることになったが、激化したミムラス家でのお家騒動にルーク達も否応なしに巻き込まれていく。「小さな恋の行方」のネタバレを含みますので、未読の方はご注意下さい。 『第6章親子の物語』エルニアの内乱鎮圧に助力して無事に帰国したルークは、穏やかな生活を取り戻していた。しかし、ミムラス家からあらぬ疑いで訴えられてしまう。 小説家になろう、カクヨムでも掲載

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

魔拳のデイドリーマー

osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。 主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...