魂が百個あるお姫様

雨野千潤

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30 日常

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我が領主の邸では、朝食はセルフサービスだ。

食堂ではトレイを手に取り、自分の皿に食べたい料理を盛り、飲み物も自分で入れて席に持っていく。
食べ終わったら使用済みの食器を乗せたトレイを回収棚に置く。

領主も使用人も全員、同じ場所で同じ物を食べる。
他所の領主は違うのだろうが、ヨソはヨソでウチはウチ。
そしてたまに邸の者以外も食堂に入り込むことがある。

「アレクサはロボットなのに普通にメシ食うんだな」

「食イマスヨ。燃焼シテエネルギーニシマス。何デスカ、木炭デモ食ットケッテコトデスカ?ロボットハラスメント、ロボハラデスヨ!」

「違う違う、ちょっと疑問に思っただけ。怒んなよ」

「怒ッテマセンヨ、感情ハインストールサレテマセンカラ」

「ええ?嘘つけ、感情あんだろお前」

「アリマセン」

トーマはアレクサンダーに興味津々で、ウチに来る度に絡んでいる。
これはもう大好きと言っても過言ではない。

「おはようございます、お兄様。わざわざ朝食を食べに来たんですの?」

「お、ユーリおはよ。序でに正式に入団した騎士団員の名簿を持ってきた」

「朝食がメインでそちらが序でですのね」

「それはそう」

悪びれない、それがトーマ。


食堂を見渡せば、賢者とトニ婆もちゃっかり食べに来ていて、珍しくロクもそこに相席していた。

「珍しいですわねロク。ちゃんと食堂で食べるなんて」

「姫様おはよぉー。今日はちょっとトニ婆に相談があったからさぁー、此処で待ってたぁ」

「相談?」

「大したことではない。もう解決じゃ」

「…」

問題ないとトニ婆に言われ本に夢中の賢者も黙っているので、これ以上は訊かないことにする。
何かまたとんでもないことをやらかそうとしているような気配を感じないでもないのだが。


ヨツイを始めとするメイドチーム、キキスズネネヤヤは疾うに食事を済ませているようで既に働き始めている。
サトシとミサトは、たまに食べに来るが今日はいないようだ。

そしてアルフレッドが少しやつれた顔をして食堂に現れた。

「おはようございます、アルフレッド」

「おはよう、ユーリ嬢」

目の下に隈が出来ているが、それでもアルフレッドはイケメンだ。
ほんわかとした笑顔で挨拶され、今日も一日頑張ろうという気になれる。

「お疲れですわね」

「それはお互い様。最近は住民トラブルが多くて」

「私は寝なくても大丈夫な体質ですが、アルフレッドはちゃんと休んでください」

「大丈夫。自分の限界はわかってる」

心配しないでと頭を撫でられる。
何故心配しているのに子供扱いされるのか、ムゥと口をへの字に曲げるとそこに人差し指をツンと当てられた。

「それ、可愛いね」

「…っ!?」

最近のアルフレッドはいつも甘々な雰囲気で、そういうのに慣れていない私はちょっと勝てる気がしない。


朝食後、モーリス商会に注文していた薬品が入荷していたので仕事前に診療所に持って行こうと邸を出る。
すると玄関扉を出たところで「危ない!」とサトシの声が響いた。

「ミサト!ワイヤーがあるからって安心しちゃ駄目だ。ちゃんと受け身を取らないと」

「だってコレ無理よ、想像以上に筋力要るもの。バランス取れなくてひっくり返っちゃう」

「…父様母様、何をしていらっしゃいますの?」

邸の壁に楔のようなものを打ち込み、それに繋がったワイヤーで宙ぶらりんになっているミサト。
腰には何かの装置と剣の鞘ようなモノが両側に装着されている。
最早どうツッコんでいいものかわからない。
とにかく邸の壁がボコボコの穴だらけになっているのは怒っても良い案件だ。

「ユーリ、よく聞いてくれた。これは立体機動装置だ!」

「いや、聞いてません!すぐに壁を修繕してください!」

「ちが…違うんだユーリ!高所での作業をするのにもっと効率の良い方法はないかと思って」

「城壁に囲まれているって聞いたら作りたくなっちゃうものねー」

うんうん仕方ないと母様が頷いているが、そんなの知ったことじゃない。

「朝っぱらから邸の前庭で遊ばないでくださいまし!」


診療所ではナリアがテキパキと掃除をしているところだった。

「おはようございます、お義母様」

「あら、おはようございますユーリ。薬品を持ってきてくれたのね」

助かるわと受け取った箱の中身を確認し始める。

掃除を手伝っていたシーナが「お茶でも入れますね」と奥へ引っ込んでいった。

「どんな感じでしょうか、診療所は」

「うーん、そうね。とりあえず今は軽い怪我や体調不良の人が来るくらいで、処置の難しい患者さんは見ていないわね」

「平和なのは良いことです」

「そうかもね。でももしかしたら信頼がなくて重症の患者は王都へ送られているのかも」

開業したばかりの診療所には信頼がない。
それは仕方のないことだ。
設備や人手が足りていないのは本当のことだし、信頼は時間をかけて築くもの。

焦ることはない。

「それでも、此処に診療所があるというのは大事なことです」

「わかってるわ。大丈夫よ、わたくし頑張るから」

王妃だった頃のことはあまり知らないが、いつも無表情で陛下の後ろに控えていたように思う。
その姿は傀儡だったというアルフレッドよりもずっと人形のようだった。
それに比べて今のナリアは生き生きとしていて、まるで別人のようだ。


診療所を出るとその通りには教会が建っている。
その中からは子供達の元気な声が響いていた。

「せんせぇー、クミがおねしょしたぁー」

「なんだとっ!クミてめぇ寝る前におしっこ行かなかったのか、なめとんかワレ」

「うわぁーん、せんせぇーごめんなさーい」

「泣くなクソガキ、風邪ひく前に着替えやがれ。もたもたすんじゃねぇ、こっちだ着替えは」

うん、イサムも元気なようだ。
今日は良い天気だから布団もよく乾くだろう。


「お、ユーリ嬢じゃないか、おはようさん」

通りをのんびり歩いていると、ランニング中のジークに声をかけられた。
見ると既に汗だくで、首にかけたタオルで額の汗を拭っている。

「精が出ますね、ジークさん」

「アベル騎士団の団長に任命されたからな。人一倍鍛錬しないと。この後イチカに付き合ってもらう約束もしているんだ」

付き合ってもらう、は恋愛的なヤツではない。
打ち合い稽古のことだ。
ジークとイチカは強くなることにストイックで、本当に似た者同士だと思う。


ぼちぼち開店し始める商店街を抜け、領主の館へと帰還する。

そろそろ仕事を始める時刻だ。
自分の執務室に入り書類を整理し始めるとコンコンとドアがノックされた。

「ユーリ、トニ婆ガ緊急ノ話ガアルトノコトデス」

「どうぞ入って」

許可すると、食堂で見た時とは打って変わって厳しい表情をしたトニ婆が入室してきた。

「姫様。ガノル国でキサラ殿と行動を共にしておるスギ婆から連絡が入ったのじゃが」

「ええ、何かあったの?」

もしかしてキサラが怪我でもしたのかしらと不安になりつつ先を促す。
トニ婆は「それが」と重い口調で続ける。

「ガノルの姫巫女が大型の魔物を大量に引き連れてアベルへ向かったとのことじゃ」

「な…んですって?」

「数刻もすればこちらに到着するじゃろう。襲撃じゃ、姫様」



歴史に残る戦いが、今始まる。
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