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25 立太子式&婚約式
しおりを挟むソフィーナに招待された立太子式と婚約式の日になり、私とアルフレッドは王宮の会場へと足を踏み入れた。
装備は勿論、最強だ。
馬車だってニ〇バス2000だし、アルフレッドとお揃いで揃えた衣装はヤエの力作だし、アクセサリーも小道具も、勿論隠し持った武器もバッチリだ。
アルフレッドが差し出してくれた手を取り、堂々と会場へと乗り込む。
私達の姿を認めた者達が騒めくが、優雅に笑顔で注目を浴びつつ進んだ。
「ようこそ、アベル伯爵様と伯爵夫人」
挨拶するのはこのパーティのホストであるソフィーナだ。
公の場ということを弁え、礼儀正しく出迎えてくれる。
「ご招待に預かり誠に有難うございます」
「ごゆるりとお楽しみくださいませ」
周囲に緊張が走るが問題など起こるはずもなく、和やかに挨拶を終えて奥へと進む。
「やぁ、アベル伯爵夫人」
からかうように声をかけてきた最初の者はモーリス伯爵だった。
彼はニノの属している商会のオーナーである。
「これはモーリス伯爵様。いつもお世話になっております」
「いやいや、面白いことを始めているなぁと便乗したくなっただけだよ」
「百貨店が開店した際には、是非ともアベル領にご招待致しまして最大限のおもてなしをさせていただきたいですわ」
「それは楽しみだ。それはそうと」
モーリス伯爵は笑いながらチラリと私の首元のネックレスに視線を移した。
今日つけているのはアルフレッドの瞳の色のラピスラズリのネックレスだ。
「ベリア公爵からピンクダイヤモンドをアベル伯爵夫人に譲ったのかと訊ねられたのだが」
「あっ…それはその」
「私と夫人の間には貸しもあれば借りもある。ピンクダイヤモンドが彼女の手に渡ることもあるかもしれないな、と答えておいた」
それはのらりくらりと躱して明確には答えないという百点満点の返答だ。
私は「有難うございます」と深々頭を下げた。
「イミテーションでほんの少し見栄を張りました」
「はっはっは、そんなことだろうと思ったよ。私と夫人の仲は満更嘘でもないしな」
「そうなのですね」
私達の会話を窺いながらアルフレッドが「お世話になっています」と入り込む。
「モーリス商会にはこの度、本当に何度も助けられて」
「アベル伯爵」
モーリス伯爵の人当たりの良い目が鋭くアルフレッドを射貫く。
「私は本当は少し傍観しようと思っていたんですがね。貴方のやらかしたことを考慮すれば。でもウチの幹部がどうしても願うものでね」
「はい、有難うございます」
「私にではなく夫人に感謝しなさい。そして私を失望させないように」
「勿論です」
厳しい言葉にも目を逸らさず、真っ直ぐに見つめ返し答える。
モーリス伯爵は満足したように「うむ」と頷き、その場を離れていった。
次に現れたのはルーファスだ。
公爵夫人と、クリストも一緒に伴っている。
「アベル伯爵にこんな場所で再会するとはな」
「ええ、久しぶりの王宮で懐かしいです」
予想以上に和やかな挨拶だったのか、公爵夫人とクリストは唖然とした顔をする。
そりゃ、辺境送りを提案した張本人なのにアルフレッドが堂々と王宮に現れるのを笑って見過ごすなんて思わないよね。
でも、招待したのはこの人の娘なんですよ。こっちが無理矢理来たわけじゃないんで。
「公爵夫人は初めましてですね。公爵令息様もお元気そうで」
声をかけ頭を下げる。
夫人は無言だったが、クリストは「貴女も」と返してくれた。
「先日は妹がお邪魔したようで」
「それは本当にもう、驚きましたわ」
「すまない。迷惑をかけた」
「いいえ、楽しい時間でした」
本音だ。
ソフィーナは想像以上に素直な女の子で、私達は本当に友達になれたと思っている。
でもクリストはそうは受け取らなかったようで「すまない」と謝罪を繰り返した。
「殿下も…お元気ですか?」
「勿論だ。クリスト…いや、公爵令息の活躍も噂には聞いている。頑張っているんだな」
「有難きお言葉です」
ギルバードの側近として数々の場面で名を残しており、今や『右腕』と呼ばれるほどの地位を獲得しているという。
アルフレッドとしては複雑な想いなのかもしれないが。
「シルヴァード国王陛下、ルミナリア王妃、ギルバード殿下のご入場です」
会話の途中で高らかに宣言され、会場が静まり登場の扉に注目が集まる。
厳かな音楽が流れ、開いた扉から三人がゆっくりと登場した。
ステージに三人が並び、中央のシルヴァード陛下が「皆の者」と声を発する。
「本日はよく集まってくれた。皆に伝えたいことが二つある。一つは…」
言葉を区切って左斜め後ろのギルバードを見る。
ギルバードは頷き、一歩前へと進み出た。
「我が息子ギルバードが王太子になるということだ。今此処で戴冠式を行いたいと思う」
陛下は王太子の冠を手に取り、跪いたギルバードの頭へと乗せる。
「若き太陽よ。この国を明るく照らし導いてくれ」
「畏まりました」
立ち上がったギルバードが会場を見渡し、ふとアルフレッドを見つける。
一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに見下すような嘲笑を浮かべた。
「この新しく誕生した王太子に相応しい婚約者を皆に紹介したい。ソフィーナ嬢、壇上へ」
名指しで呼ばれたソフィーナは硬い表情を浮かべ、ゆっくりとステージへと向かう。
一歩一歩段を上るその姿は、まるで断頭台へ向かう囚人のようだった。
「ギルバード王太子とソフィーナ・ベリア公爵令嬢。この二人の婚約を此処に発表する。皆、拍手でこの二人を祝って」
「お待ちください!」
陛下の言葉を遮ったのはソフィーナだった。
思い詰めたように顔を俯かせたまま、拳を握りしめて声を張り上げる。
「先日辞退の旨を申し上げた筈です。わたくしには相応しくないと!」
「なんだと?」
「こんなわたくしに国母は務まりません。ギルバード王太子殿下の婚約者の座を降りさせていただきます」
「…」
しーん…と会場が静まりかえる。
「お前は何様のつもりか」
そんな中、低く怒りの声を上げたのはギルバードだった。
「これは政略だ。そんなワガママが通ると思っているのか?」
「それは…」
「兄上に捨てられたお前を不憫に思って拾ってやったというのに。その恩も忘れたか」
「…」
言葉に詰まるソフィーナ嬢に手を伸ばし、その肩をグイと強く押す。
押しやられたソフィーナはステージの際で体勢を崩した。
「危ないっ」
「きゃああっ」
私よりも先にアルフレッドが前に出て転落するソフィーナを受け止めた。
怪我は無さそうだ。
ギルバードはもうソフィーナには興味がないと言わんばかりに顔を背け、ルーファスの方を見た。
「どうするつもりだ?ベリア公爵。また王太子を失脚させて辺境へ送るか?」
「私は…そんな」
詰められて動揺するルーファスに「ベリア公爵よ」と冷たく声をかけるのは陛下だった。
「お前は王にでもなったつもりか」
今まで何よりも誰よりもルーファスに執着し依存してきた当人とは思えないような声音で睨みつける。
とんでもない掌返しにルーファスだけでなく会場の全ての者が耳を疑った。
「余は先日アルフレッドを失った。アルフレッドは優秀な息子だったがそれでも余はお前を優先させた。それなのに再びコレか?余からもう一人の息子まで奪って、次はお前の息子を王太子にでもするつもりなのか?」
「そんな、とんでもございません」
「余に王たる才が不足していることは認めよう。しかしそれを支えるのはお前でなくともよいのだ。もっと信頼できる者が此処におる」
此処にと言って陛下はギルバードの肩に手を置いた。
ギルバードはニヤリと口元を歪め「勿論です」と大きく頷き返す。
ここまできて私はようやく、これはルーファスを失脚させるためのギルバードが描いたシナリオだと勘付く。
仕組まれていたのだ。
ギルバードがソフィーナを婚約者に据えてわざと冷たくあしらうところから。
いや、もしかしたら本当はもっと前から…?
ギルバードがアルフレッドに「羨ましい」と告げたあの時からかもしれない。
「此度のこと。国家転覆罪を疑うが公爵の今までの功績に免じ爵位降格くらいで許してやろうか。勿論、宰相の役は解任だ」
「良いお考えですね。侯爵…いえ、そこにいるアベル伯爵と同じ伯爵位が良いのではないでしょうか」
「王太子がそう考えるのならばそうしようか」
そこにいるアベル伯爵が先程自分で言った『優秀な息子』アルフレッドだと気付いているだろうか。
陛下はアルフレッドに対して一瞥もくれることなく、ギルバードに笑顔を向ける。
「お待ちください!」
話がまとまりかけた時、異論の声を上げたのはクリストだった。
ステージに駆け寄り「どうかお考え直しを」と懇願する。
「我がベリア家が政局から急に抜けてしまえば、ゼノス国との交流も滞ってしまう上、国内での流通も…っ」
「クリスト。今すぐどちらにつくかを選ぶんだな、僕かそれともベリアか。もしくは…」
アルフレッドか、と言わんばかりに視線を向ける。
アルフレッドは腕にソフィーナを抱えたまま、じっと状況を見守っていた。
「…」
「僕だと即答出来たならお前を当主に据えての宰相存続もあったろうが、残念だ」
微塵も残念だと思っていなさそうな顔で笑顔を浮かべる。
真っ青になった公爵夫人が失神し、その場にドサッと倒れた。
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