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24 女神の愛し子 サトシside
しおりを挟む朝起きると、リビングのテーブルに書類が置かれていた。
ファイル名は『土木建築課』とある。
中を開くと『今にも倒れそうな廃屋があって危ない』だの『川に橋を架けて欲しい』だの『道路を整備して欲しい』だの、領民からの要望書が入っていた。
「…なんで?」
「人手不足ダカラデス」
邸で執事服姿のアレクサンダーに冷たくあしらわれる。
まったく悪びれないな。ウチに書類置いたの、絶対コイツなのに。
「俺、設計士なんだけど」
「一番役ニ立テソウジャナイデスカ。ソレトモ生活課トカノ方ガ良カッタデスカ?」
治安トカ就業トカノ要望デスガ?と訊ねられ、全力で首を横振りして拒絶する。
「アルフレッドモユーリモ手一杯ナンデス。主ハ暇デショ?」
「ぐぅっ…そ、そそ、そんなことはないようなあるような」
「アルンデスヨ」
濁したのにバッサリ斬られ、渋々引き受ける。
どうやらこの『土木建築課』の案件は優先度が低いこともあってか、ずっと手を付けられないまま放置されているのだという。
俺の働きに期待して仕事を回したわけでもないらしい。
となると逆にやる気を出してくるのが俺なわけで。
帰宅してすぐに作業場へ籠り、設計図を描き始めた。
「今度は何を作るつもり?」
今頃起きてきたミサトが欠伸しながら訊ねてくる。
「ショベルカーとかクレーン車とか、そういう工事車両」
「節操が無くなってきたわね」
呆れたと苦笑される。
そう、俺もミサトも二十年ほど前に異世界から召喚された『女神の愛し子』なのだ。
元々メカニックで機械に詳しいとはいえ、思い描いた物を自動で設計出来るこの能力は女神に授かったチートである。
そしてミサトもまた、設計図さえあれば無からだって作り上げることが出来るチートを持つ。
ただし制限があって、食物や生物は作り出せないらしい。
そのことは一応秘密にしているのだが、トーマとユーリは流石に何かおかしいということを気付いていそうである。
それでも何も聞いてこないのは、魂が百個あるというユーリがもう普通ではないから感覚が麻痺しているのだろう。
「燃料は軽油でしょ?この世界に無いのにいいの?」
「此処でしか使わなければ良くない?どうせ誰も運転出来ないだろうし」
「そっか。此処で使う分には私が燃料出せるし、それでいいよね。というか、そのうち普通に車とか作りそうね」
「2トントラックはもう作ろうと思っているよ」
「それじゃ駐車場が必要ね。場所を見繕ってくるわ」
チュッとこめかみにキスを落とし、ミサトは家の外へと出ていく。
前の世界で俺達は同じ職場の同僚だった。
おそらくミサトがメインだったのだろうが、俺も同じ場所にいたことで巻き込まれて召喚されてしまった。
一人のハズが二人召喚された。そのイレギュラーの所為だろうか。
俺達は王都からも外れた東部のモールという畜産が盛んな街に突然放り出されたのだ。
そこで俺達を保護してくれた親切な老夫婦から、この世界のことやこの国のこと、そして俺達が愛し子であるだろうということを教えてもらった。
老夫婦は俺達のことを神殿へ通報したりせず、匿ってくれた。
遠い親戚なのだと周囲には誤魔化し色々と世話を焼いてもらい、俺達はそのお礼にと荷車を作った。
家畜を運ぶのに便利だろうという軽い気持ちだったのだがそれが大好評で、量産している内に今度は馬車を作って欲しいという依頼が来た。
少々調子に乗ったのは認める。
あれは実は馬がいなくてもソーラーパネルの発電で多少は動く仕組みだ。言わばハイブリッドカー。
まるで魔法のようだと言われてハ〇ーポッターを思い出し『ニ〇バス2000』なんて名付けてしまった。
その馬車は王家へ献上されることとなり多額の報奨金と男爵位を貰う。
それをきっかけに俺達は結婚し、モールの老夫婦に別れを告げて王都へ移住することになった。
愛し子同士の結婚だったからだろうか。
ユーリに魂が百個も与えられているだなんて、女神から与えられたチートと同じだと思った。
トーマからはまだ何も聞かないが、あいつにも何か与えられている能力があるのかもしれない。
だがそれは、ユーリが望んだ能力ではなかった。
ユーリは死なない自分に恐怖し、自殺を図るまで追い詰められた。
俺達がユーリに出来ること。
このチートを発揮しても図面は白紙のままだった。
何も、何も、何も出来ない。
俺達には何もしてやれない。
絶望して、泣いて、喚いて、ある日ふと思った。
俺達が出来ないなら、誰か出来る者を。
ユーリに何かしてやることが出来る者を作ればいいんだって。
ベイ〇ックスのタダシだって、自分が死んだ後に自分の開発したロボットで弟のヒロの心と体を護ったじゃないかって。
なぁ、我が娘ユーリよ。
アレクサンダーが完成する前にお前はもう立ち直っていて、分身を作るなんて裏技を開発していたけどよ。
魔物が発生するような辺境の地に飛ばされても大丈夫だろと傍観出来るくらいお前は強くなったけどよ。
もっと一緒に楽しもうぜ、この世界をよ!
「ねーサトシ、ユーリに頼んで駐車場の土地確保して貰ったー」
「え、そんな簡単に土地貰っちまっていいのか?」
「土地が有り余っている今のウチよね。でも人目につかない場所の方がいいと思って北の山の方なんだけど」
「いいじゃん」
ぶっちゃけ、王都では出来なかったことが出来るようになりワクワクしてしまっている。
いっそのこと山の中に秘密基地みたいに隠して作って、岩壁が開いて出動!みたいなこともやってみたい。
うん、絶対やりたい。やろうやろう。
節操が無くなった?
んなもん要らねぇ、魔物にでも食わせちまいな!
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