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20 婚姻祝い
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アベル領に来てから早一年。
ある程度自給自足できるようになり、チラホラと新規住民が増えたことで商店街の店も増えた。
食料品店、雑貨店、飲食店、宿屋など立ち並ぶ中、ドンと中央を陣取るのはトニ婆の店『フォーレスト』だ。
それは古物商なのだが、つまるところ質屋であり金貸しである。
そして宝石や外貨を換金し、仕事や店舗の斡旋などもしているようだ。
今のところ店員はトニ婆一人だけなのだが、賢者が入り浸っていてたまに店番をしていたりする。
あの二人は本当に仲が良い。
魔物はもう出現しなくなったのだが、治安が良くないのでイチカ達『ファースト』のメンバーには残って貰い、警備をお願いしている。
アベル騎士団がもう少し立派になったら警備も任せられるようになるのだが、今はまだ少ない団員を育成中だ。
働き手が増えたので建物や道路を少しずつ整備していく。
領主としての仕事が増えたので、アルフレッドの担当していた畑は教会兼孤児院のイサム達に引き継いでもらった。
『どこでも異世界ドア』の中で子供達は安全に元気に伸び伸びと働いてくれているらしい。
そこで収穫した作物の何割かを給料として払っているのだが、それで作ったクッキーやパイなどを教会前通りで販売し、その金で日用品などを購入しているとのこと。
ニノはモーリス商会の活動拠点の一つとして此処に店を展開することにしたらしく、王都にあるような百貨店を建設中だ。
トニ婆とニノに続けと言わんばかりに私の魂の子達が続々とアベル領に出店する計画を立てているらしい。
そんな中、私を訊ねてきたのはシークエンド農園に嫁に行った子分身イリスだ。
寄り添うシークエンド伯爵の次男である彼女の夫ジェイクは、平民でありながらも大農園のオーナーであり貫禄がある。
久しぶりに会った彼女は健康的に日に焼けており、その腕に抱かれた息子は既に三歳になったのだという。
「姫様、遅くなりましたがご結婚おめでとうございます」
「そうね。めでたいのかどうかわからないけれど、有難う。落ち着いたら式を挙げようと思っているのだけれど」
この調子じゃいつになるかわからないわねと苦笑する。
イリスは「式には絶対に呼んでくださいね」と拳を握りしめた。
「イリスがとても大切にされている貴女に祝儀として何を贈ったら良いか、私達はとても悩んだのですが」
ジェイクがそう前置きをし、チラッとソファーの後ろに置いたソレに目をやる。
はい見えてました。
貴方達が到着した時からなんとなく察していました。
見覚えのあるそのドア。
「絶対に世に出すなと口を酸っぱくして言い聞かせたはずなんですけれど」
「姫様にサプライズのプレゼントを贈りたいのだとロクを説得しました。怒らないであげてください姫様」
イリスは三歳の息子に「ほら『お願い』は?」と耳打ちし、両手を合わせ上目遣いの「おねがぁい」攻撃を受ける。
ぐっ…可愛らしいですわ…!
「し、仕方ありませんわね。今回だけは」
私が容易く陥落したところで、「遅れてすまない」とアルフレッドが応接室に入って来た。
「アベル伯爵、お初にお目にかかる」
「いや、こちらこそ。いつも妻がお世話になっているようで」
夫同士挨拶を済ませソファーに腰かける瞬間、アルフレッドも「アレは」とドアに気付いたようだ。
「こちら婚姻祝いの『どこでも異空間ドア(牧場)』でございます」
「牧場…」
「最近は農場だけでなく牧場も始めましてね。ウチで育てている牛、豚、鶏を数匹ずつ飼育場と共にプレゼントです」
「いや、ジェイク殿には農場の方でも品種改良された苗などをいただいて、それだけでも充分」
「受け取っていただけないと?」
イリスが素早く息子に耳打ちし、アルフレッドは三歳児の「おねがぁい」攻撃を受ける。
「うっ…勿論、有難く頂戴する。それでは今後、また別の形で恩返しさせていただくことにしよう」
「良かった。管理の方はどうなさいます?事情を分かってる人に任せないといけないでしょうし」
「今回もイサムに任せようと思いますわ。子供達にも魔物肉以外の美味しいお肉を食べてもらいたいし」
我が領の食糧担当ね、と扇子の下でオホホと笑う。
最近忙しすぎて本業の盗賊が出来ていないらしが、子供達と一緒に過ごすイサムはとても楽しそうだしこちらの方が絶対性に合ってるだろう。
「滞在中にイサムの子供達にも会っていきましょうアナタ」
「そうだね。ウチの子と似たような年頃の子もいるだろうし、きっと楽しいね」
そんなこんなでアベル領は平和そのものだった。
彼女が襲来するまでは。
豪奢な馬車、そしてドレス。金の巻き髪、エメラルドの瞳。
侍女と護衛を一人ずつ連れて。
公爵令嬢ソフィーナが、台風の如くアベル領にやってきた。
「アルフレッド殿下は何処ですの?」
彼に会いに来たんですけれどと応接室のソファーに座るのは、アルフレッドの元婚約者ソフィーナ・ベリアだ。
流石公爵令嬢らしく、圧がある。
「先触れはございませんでしたが、どのようなご用件で?」
「それを貴女に話す必要があって?そもそも貴女は誰なんですの?」
「アベル伯爵夫人…ですが」
最初に名乗らなかったかしらと自己紹介する。
わかっていなかったのか、ソフィーナはポロリと手に持った扇子を落とした。
「ど、どうして生きているんですの?お父様の話では死んだと」
「え、クリストさんは公爵家に帰ったんですわよね?聞いておりませんの?」
「それは、でも嘘だと思いましたの!だってお父様の方が正しいって決まってますもの」
そんな、と酷くショックを受けたような顔をしている。
私が生きているとなにか不都合なことでもあるのだろうか。
「アルフレッドは今、領地を囲む城壁の視察に行っていますが」
「アルフレッド?…呼び捨て?」
「…?夫ですから」
「わたくしの元婚約者ですわよっ?」
話が嚙み合わない。
どうやらソフィーナは、婚約が解消されてもアルフレッドとの関係は変わっていないと思っている様子。
ふぅん?と顎に手をやり思案する。
あまりにも攻撃的ならと追い返そうかとも思ったが、これならアルフレッドに会わせてみても面白そうだ。
「行ってみます?視察しているアルフレッドの処へ」
「わたくしが行くんですの?呼び戻すのではなく?」
「折角いらしたんですから、街の様子も是非見ていってくださいまし」
さあさあと手を引くと渋々立ち上がる。
彼女の侍女と護衛が慌てたように跡をついてきた。
「おそらく南側の城壁ですわ。歩きで行きます?それとも」
「馬車で行きますわ!貴女、一緒に乗って案内なさい」
「でも四人も乗ったら狭くありませんこと?」
私が指摘するとソフィーナは「そうね」と考え込み、侍女に「クララは残りなさい」と告げた。
「そんな、お嬢様」
「ヤナギを連れていくから大丈夫よ。クララは此処に残って、今日わたくしが泊る部屋を整えておくのよ」
何も聞いていないが今日はこの邸に泊まるつもりらしい。
私がヨツイに目配せしたので、そちらは上手くやるだろう。
馬車を走らせると南の城壁まではあっという間だ。
城壁の前では結成したばかりのアベル騎士団が訓練しているところだった。
「ユーリじゃねぇか。どうした?差し入れか?」
「違いますわ、アルフレッドにお客様です。兄様、こちらベリア公爵令嬢ソフィーナ様ですわ」
紹介すると、トーマが私の兄だと察したソフィーナ嬢が綺麗にカーテシーをする。
トーマは無遠慮に「そうか、俺はユーリの兄のトーマだ」と言ってその頭に手を乗せて撫でた。
「…!?」
やると思った。
相手が公爵令嬢だろうと何だろうと、トーマはこういう男だ。
髪をグシャグシャにされ、ソフィーナ嬢は頭を下げたまま呆然としている。
「申し訳ありません、悪気はないのです」
「そ、そ、そうなのですね」
「クリストの妹…、そうかユーリと同い年の妹がいるって言ってたな!仲良くしてやってくれ、ウチの妹は友達いないから!」
くっ…このノンデリの筋肉ダルマめ!
気が付けば渾身の拳が鳩尾にめり込んでトーマが白目を剝いている。
「ぐ…はっ…!油断したぜ、猫かぶりモードの時にこんな攻撃をされるとは」
「まぁ、おほほほほ!嫌ですわ兄様ったら、そんな大袈裟に痛がって」
行きましょとソフィーナ嬢を先に促す。
城壁の中へと入り、私はソフィーナ嬢の乱れた髪を手早く直してあげた。
「…貴女、友達いないんですの?」
「うぐっ…、そこ、気になります?」
貴族の世界で一番身分が低いとされる男爵の令嬢。
貴族らしく振舞えば馬鹿にされないだろうと思って努力したが、それが余計に壁を作っていたらしい。
気付いた時にはもう手遅れで。
平民のようだと蔑まれることも立派な貴族令嬢だと褒められることもない中途半端な立場で、私は学園の三年間を過ごした。
「人付き合いは難しいですわ。私だけ努力すれば叶うものでもなくて」
「それは…わかりますわ」
共感することがあったのか、ソフィーナ嬢がしんみりと同意する。
「では、わたくしがお友達になってさしあげてもよろしくてよ」
「…はい?」
いかにも同情している風に聞こえるが、私にはわかる。
この子も友達が出来なかった同類なのだと。
「今日からわたくしが貴女のお友達ですわ!わたくしのことはソフィとお呼びなさい」
「あ、はい。では私のことはユーリと」
「わかりましたわ、ユーリ」
呼んで呼んでと期待の目を向けられ、私は戸惑いながら「ソフィ」と名を呼ぶ。
お友達と言って笑うソフィーナ嬢は、公爵令嬢の圧も何もないただの十八歳の女の子に見えた。
ある程度自給自足できるようになり、チラホラと新規住民が増えたことで商店街の店も増えた。
食料品店、雑貨店、飲食店、宿屋など立ち並ぶ中、ドンと中央を陣取るのはトニ婆の店『フォーレスト』だ。
それは古物商なのだが、つまるところ質屋であり金貸しである。
そして宝石や外貨を換金し、仕事や店舗の斡旋などもしているようだ。
今のところ店員はトニ婆一人だけなのだが、賢者が入り浸っていてたまに店番をしていたりする。
あの二人は本当に仲が良い。
魔物はもう出現しなくなったのだが、治安が良くないのでイチカ達『ファースト』のメンバーには残って貰い、警備をお願いしている。
アベル騎士団がもう少し立派になったら警備も任せられるようになるのだが、今はまだ少ない団員を育成中だ。
働き手が増えたので建物や道路を少しずつ整備していく。
領主としての仕事が増えたので、アルフレッドの担当していた畑は教会兼孤児院のイサム達に引き継いでもらった。
『どこでも異世界ドア』の中で子供達は安全に元気に伸び伸びと働いてくれているらしい。
そこで収穫した作物の何割かを給料として払っているのだが、それで作ったクッキーやパイなどを教会前通りで販売し、その金で日用品などを購入しているとのこと。
ニノはモーリス商会の活動拠点の一つとして此処に店を展開することにしたらしく、王都にあるような百貨店を建設中だ。
トニ婆とニノに続けと言わんばかりに私の魂の子達が続々とアベル領に出店する計画を立てているらしい。
そんな中、私を訊ねてきたのはシークエンド農園に嫁に行った子分身イリスだ。
寄り添うシークエンド伯爵の次男である彼女の夫ジェイクは、平民でありながらも大農園のオーナーであり貫禄がある。
久しぶりに会った彼女は健康的に日に焼けており、その腕に抱かれた息子は既に三歳になったのだという。
「姫様、遅くなりましたがご結婚おめでとうございます」
「そうね。めでたいのかどうかわからないけれど、有難う。落ち着いたら式を挙げようと思っているのだけれど」
この調子じゃいつになるかわからないわねと苦笑する。
イリスは「式には絶対に呼んでくださいね」と拳を握りしめた。
「イリスがとても大切にされている貴女に祝儀として何を贈ったら良いか、私達はとても悩んだのですが」
ジェイクがそう前置きをし、チラッとソファーの後ろに置いたソレに目をやる。
はい見えてました。
貴方達が到着した時からなんとなく察していました。
見覚えのあるそのドア。
「絶対に世に出すなと口を酸っぱくして言い聞かせたはずなんですけれど」
「姫様にサプライズのプレゼントを贈りたいのだとロクを説得しました。怒らないであげてください姫様」
イリスは三歳の息子に「ほら『お願い』は?」と耳打ちし、両手を合わせ上目遣いの「おねがぁい」攻撃を受ける。
ぐっ…可愛らしいですわ…!
「し、仕方ありませんわね。今回だけは」
私が容易く陥落したところで、「遅れてすまない」とアルフレッドが応接室に入って来た。
「アベル伯爵、お初にお目にかかる」
「いや、こちらこそ。いつも妻がお世話になっているようで」
夫同士挨拶を済ませソファーに腰かける瞬間、アルフレッドも「アレは」とドアに気付いたようだ。
「こちら婚姻祝いの『どこでも異空間ドア(牧場)』でございます」
「牧場…」
「最近は農場だけでなく牧場も始めましてね。ウチで育てている牛、豚、鶏を数匹ずつ飼育場と共にプレゼントです」
「いや、ジェイク殿には農場の方でも品種改良された苗などをいただいて、それだけでも充分」
「受け取っていただけないと?」
イリスが素早く息子に耳打ちし、アルフレッドは三歳児の「おねがぁい」攻撃を受ける。
「うっ…勿論、有難く頂戴する。それでは今後、また別の形で恩返しさせていただくことにしよう」
「良かった。管理の方はどうなさいます?事情を分かってる人に任せないといけないでしょうし」
「今回もイサムに任せようと思いますわ。子供達にも魔物肉以外の美味しいお肉を食べてもらいたいし」
我が領の食糧担当ね、と扇子の下でオホホと笑う。
最近忙しすぎて本業の盗賊が出来ていないらしが、子供達と一緒に過ごすイサムはとても楽しそうだしこちらの方が絶対性に合ってるだろう。
「滞在中にイサムの子供達にも会っていきましょうアナタ」
「そうだね。ウチの子と似たような年頃の子もいるだろうし、きっと楽しいね」
そんなこんなでアベル領は平和そのものだった。
彼女が襲来するまでは。
豪奢な馬車、そしてドレス。金の巻き髪、エメラルドの瞳。
侍女と護衛を一人ずつ連れて。
公爵令嬢ソフィーナが、台風の如くアベル領にやってきた。
「アルフレッド殿下は何処ですの?」
彼に会いに来たんですけれどと応接室のソファーに座るのは、アルフレッドの元婚約者ソフィーナ・ベリアだ。
流石公爵令嬢らしく、圧がある。
「先触れはございませんでしたが、どのようなご用件で?」
「それを貴女に話す必要があって?そもそも貴女は誰なんですの?」
「アベル伯爵夫人…ですが」
最初に名乗らなかったかしらと自己紹介する。
わかっていなかったのか、ソフィーナはポロリと手に持った扇子を落とした。
「ど、どうして生きているんですの?お父様の話では死んだと」
「え、クリストさんは公爵家に帰ったんですわよね?聞いておりませんの?」
「それは、でも嘘だと思いましたの!だってお父様の方が正しいって決まってますもの」
そんな、と酷くショックを受けたような顔をしている。
私が生きているとなにか不都合なことでもあるのだろうか。
「アルフレッドは今、領地を囲む城壁の視察に行っていますが」
「アルフレッド?…呼び捨て?」
「…?夫ですから」
「わたくしの元婚約者ですわよっ?」
話が嚙み合わない。
どうやらソフィーナは、婚約が解消されてもアルフレッドとの関係は変わっていないと思っている様子。
ふぅん?と顎に手をやり思案する。
あまりにも攻撃的ならと追い返そうかとも思ったが、これならアルフレッドに会わせてみても面白そうだ。
「行ってみます?視察しているアルフレッドの処へ」
「わたくしが行くんですの?呼び戻すのではなく?」
「折角いらしたんですから、街の様子も是非見ていってくださいまし」
さあさあと手を引くと渋々立ち上がる。
彼女の侍女と護衛が慌てたように跡をついてきた。
「おそらく南側の城壁ですわ。歩きで行きます?それとも」
「馬車で行きますわ!貴女、一緒に乗って案内なさい」
「でも四人も乗ったら狭くありませんこと?」
私が指摘するとソフィーナは「そうね」と考え込み、侍女に「クララは残りなさい」と告げた。
「そんな、お嬢様」
「ヤナギを連れていくから大丈夫よ。クララは此処に残って、今日わたくしが泊る部屋を整えておくのよ」
何も聞いていないが今日はこの邸に泊まるつもりらしい。
私がヨツイに目配せしたので、そちらは上手くやるだろう。
馬車を走らせると南の城壁まではあっという間だ。
城壁の前では結成したばかりのアベル騎士団が訓練しているところだった。
「ユーリじゃねぇか。どうした?差し入れか?」
「違いますわ、アルフレッドにお客様です。兄様、こちらベリア公爵令嬢ソフィーナ様ですわ」
紹介すると、トーマが私の兄だと察したソフィーナ嬢が綺麗にカーテシーをする。
トーマは無遠慮に「そうか、俺はユーリの兄のトーマだ」と言ってその頭に手を乗せて撫でた。
「…!?」
やると思った。
相手が公爵令嬢だろうと何だろうと、トーマはこういう男だ。
髪をグシャグシャにされ、ソフィーナ嬢は頭を下げたまま呆然としている。
「申し訳ありません、悪気はないのです」
「そ、そ、そうなのですね」
「クリストの妹…、そうかユーリと同い年の妹がいるって言ってたな!仲良くしてやってくれ、ウチの妹は友達いないから!」
くっ…このノンデリの筋肉ダルマめ!
気が付けば渾身の拳が鳩尾にめり込んでトーマが白目を剝いている。
「ぐ…はっ…!油断したぜ、猫かぶりモードの時にこんな攻撃をされるとは」
「まぁ、おほほほほ!嫌ですわ兄様ったら、そんな大袈裟に痛がって」
行きましょとソフィーナ嬢を先に促す。
城壁の中へと入り、私はソフィーナ嬢の乱れた髪を手早く直してあげた。
「…貴女、友達いないんですの?」
「うぐっ…、そこ、気になります?」
貴族の世界で一番身分が低いとされる男爵の令嬢。
貴族らしく振舞えば馬鹿にされないだろうと思って努力したが、それが余計に壁を作っていたらしい。
気付いた時にはもう手遅れで。
平民のようだと蔑まれることも立派な貴族令嬢だと褒められることもない中途半端な立場で、私は学園の三年間を過ごした。
「人付き合いは難しいですわ。私だけ努力すれば叶うものでもなくて」
「それは…わかりますわ」
共感することがあったのか、ソフィーナ嬢がしんみりと同意する。
「では、わたくしがお友達になってさしあげてもよろしくてよ」
「…はい?」
いかにも同情している風に聞こえるが、私にはわかる。
この子も友達が出来なかった同類なのだと。
「今日からわたくしが貴女のお友達ですわ!わたくしのことはソフィとお呼びなさい」
「あ、はい。では私のことはユーリと」
「わかりましたわ、ユーリ」
呼んで呼んでと期待の目を向けられ、私は戸惑いながら「ソフィ」と名を呼ぶ。
お友達と言って笑うソフィーナ嬢は、公爵令嬢の圧も何もないただの十八歳の女の子に見えた。
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