魂が百個あるお姫様

雨野千潤

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15 別れ アルフレッドside

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その夜、クリストは真剣な顔で「お話があります」と僕に迫った。

何か断ることを許さない圧を感じる。

「わ、わかった。聞くよ」

今日は一日、物凄く疲れた。
体力的にも疲れたが、特に精神的に。

でもきっと大事なことだ。
おそらく昼間のベリア公爵のことだろうと何となく察する。

「クリストの所為じゃない」

あまり気にするなと先に声をかけると、クリストは予想外に変な顔をした。

「同じ導入なの、やめてください」

「うん?」

「…いえ」

「クリスト、さっきユーリ嬢とも話してた」

言葉を濁したクリストの横でキサラが情報をくれる。

つまり、ユーリ嬢も僕と同じことを言ったというわけだ。

「それで嬉しそうなのもやめてください」

「いや、別に嬉しそうになんか」

口元にグッと力を込め、緩むのを抑える。

部屋には僕とクリスト以外に、キサラ、ジーク。
皆に聞いて欲しいと言ってクリストが集めたのだ。

「私は、公爵家に帰ろうと思います」

「クリスト、やっぱり気にして…」

「違います。脅しに屈したとかじゃなくて、そうしたいと思って」

「…そうか」

違うと言うのなら、頷くことしか出来ない。

この地まで追いかけてきてくれたのは本当に嬉しかった。だが、クリストが決めたというのなら反対の仕様がない。

それは僕にとって、とても寂しいことだけど。

「私は恥ずかしいくらいに子供でした。絶縁状を叩きつけて家出だなんて。私がやるべきことはそんなことじゃなかった」

頭を振りながらクリストは指を二本、目の前に掲げた。

「この地の未来には二つの選択肢がある。王家と和解するか、国から離反するか」

「…え?」

「すみません、ユーリ嬢の受け入りですが」

真似しましたと照れ笑いを浮かべる。

「すぐに選択する必要はないと思うんです。でも選択の余地は残しておきたい」

熱く語るクリストの瞳が、未来を見据えるように輝いていた。

「私は王家との和解の可能性を広げる為、公爵家へ戻って父を懐柔し、陛下との懸け橋になります」

「そんな…ことを考えて?」

この地の未来を。
目先の生活をすることで頭が一杯になっていた僕と違って。

こんなの、恥ずかしいのは僕の方だ。

「じゃあ俺も。此処を出る」

黙って話を聞いていたキサラも、便乗するかのように宣言する。

「そんな、キサラまで」

「俺がカラスで学んできたのは間諜や諜報活動。国から離反するなら、必要なのは他国を知ること」

既に心に決めていたかのようにしっかりとした口調だ。

「今朝、街を眺めながら考えた。他国には聖王石がないのにって。賢者の子に訊いたらゼノスには聖獣、ガノルには姫巫女がいるからだって」

噂には聞いたことがある。だが、見たことはない。
友好国であるゼノスでさえ、聖獣は国の宝だからと秘匿する。

「俺、見てこようと思う。聖王石のない国の生活を」

「そう…か」

そんな理由を述べられれば止めることなどできない。

だが、クリストもキサラもいなくなったら僕は本当に寂しくなる。

助けを求めるようにジークを見ると「いやいやいや」と笑って手を振った。

「俺は出て行かねぇよ!此処でやることがある。トーマと一緒にアベル騎士団を作るんだ」

「そうか。そうだよな!良かった」

ジークに否定され、ホッと安堵する。

「入団してくれそうなヤツ、全然いないけどな。まず人がいない」

「人が来てくれるように環境を整えよう。そこからだ」

皆、ちゃんと自分のやるべきことを見つけている。

それは嬉しいような悔しいような。
胸にほんの少しの痛みを伴うけれど。

いつかまた傍に帰ってきてくれることを信じ、僕は二人を送り出す決意を固めた。

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