魂が百個あるお姫様

雨野千潤

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05 合流

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「お食事の用意が出来ました」

ひと段落ついたところでヨツイが現れ、トニ婆が待ってましたとばかりにソファーから立ち上がる。

「こんな場所で立ち話もなんじゃ。一旦は腹ごしらえをしようではないかの」

「トニ婆はずっと座っていたではないか」
「賢者殿もな」

賢者のツッコミにあひゃひゃと笑い声をあげ、曲がった腰に手を当てながら先導する。

「ご老体、手を」

「アルフレッド、トニ婆は大丈夫よ」

手を貸そうとしたアルフレッドを止め、首を横に振る。

トニ婆のアレはフリであり、本当は身体の何処も悪くないのを私は知っている。
さっきだって蹴りの一撃で魔物を仕留めていた。

「…先ほど邸内で、冒険者の人達に出会った。その彼女達も君のことを『姫様』と呼んでいた」

「ああ、イチカ達のことですわね。此処に来ているのは知っていますわ」

訊きたいのはそういうことではないと知りつつも、わざと知らんぷりをする。
それを察したのか、アルフレッドも深くは追及してこなかった。

「クリスト達が僕を追ってきてくれたように、君にもそういう人達がいたということだな」

「ええ」

「ならばクリスト達も彼女達も同じ仲間だ。お互いに警戒を解いて協力し合おうじゃないか」

警戒。

トニ婆への手助けの拒絶をそう捉えたか、と私は目を細めた。

「私がそうしましょうと同意したところで、キサラさんは私への警戒を解かないでしょう?」

指摘されても理解出来なかったのか、アルフレッドがキサラを振り返る。
主から付かず離れずの距離を保っていたキサラは惚けるように視線を逸らし、私の言葉の信憑性を裏付けた。

「アンタは諸々が普通じゃない。警戒して当然だ」

「言葉が不自由なのかしら、カラス伯爵令息様。諸々とは少々端折り過ぎではなくて?」

そもそも『アンタ』呼ばわりは気に食わない。
貴族ならもっと言葉に気を配りなさいよと睨みつけると、地雷だったのか一触即発の空気になった。

「いやいやいや、キサラ。彼女の何処が怪しいって言うんだ?ユーリ嬢は僕が自ら選んだ僕の伴侶だぞ。警戒なんて必要ない」

「落ち着き過ぎ。普通の令嬢なら発狂してもおかしくない」

「プフー、言われてるぞユーリ。図太いって」

「…」

とりあえず茶々を入れてきたトーマの鳩尾に一発食らわす。
確かな手応えで「ぐはっ」と呻いていたが、こんなのは日常茶飯事だ。トーマの筋肉装甲なら心配ない。

「失礼ですわよ、か弱い乙女に向かって」

「どこがか弱い」
「待てキサラ。良くないぞ。それは思っていても言うべきでない」

アルフレッドが慌ててマスクの上からキサラの口を塞ぐ。
そう諫めている時点でアルフレッドも同様なことを思っていると自白しているようなものなのだが。

「私が発狂しない令嬢だったことにもっと感謝なさいまし」

発狂して状況が改善するなら疾うにしている。

私はただ必死になって見極めているだけだ。
彼らが敵か味方か、信頼に足るか否か、を。



ヨツイに連れてこられた場所は、中庭だった。

まるでガーデンパーティのようなテーブルと椅子があり、ビュッフェのように料理と皿が並べられている。

小降りになったとはいえ雨はまだ降っていたが、大きなテントの屋根が設置されており、その下で充分に寛げた。

「邸内では臭いや埃で不衛生な場所が多く、こちらの方が気持ちよく過ごせると判断致しました」

「有難う。…パンやパスタがありましたの?」
「貯蔵庫に小麦がありましたので」
「作りましたの!?」

まさかの製粉から?と私が目を瞠ると、ヨツイがにこりと微笑んで返す。

会場の準備から料理まで大変だっただろうと見渡すと、イチカ達冒険者チームが「姫様ー!」と駆け寄ってきた。

「私達も手伝ったんですよ。テーブルとか椅子も運んで」
「魔物の解体をしました」
「私は草むしり」
「野草集め」
「水汲み、大変だった」

ハイハイハイと各々が手を上げてアピールしてくる。

リーダーのイチカに弓使いのアーチェ。槍使いのランに戦槌のメイ、巨大盾のシルド。

信じられるだろうか。
この子供のような無邪気な集団が冒険者Sランクチーム『ファースト』だということを。

「有難う。イチカ達が先んじて現地入りしていてくれたお陰で、馬車も魔物に襲われることなく平和に邸へ到着できたわ。苦労かけたわね」

「とんでもないです。姫様の為ならば」

イチカが私の前に跪き、他のメンバー四人もそれに倣う。
私は慌てて「そんな、立って。さあ、一緒に食べましょ」とそれを止めた。

「ああ!思い出した!!!『ファースト』のイチカ!」

声を上げたのは王都騎士団第一部隊に所属していたジークだ。
同等の戦力として挙げられることが多いからか、知っているようだ。

「誰だ?」

先程までの無邪気さとは一転し、冷ややかな目でジークを見やる。

「俺は王都騎士団第一部隊に所属…していたジーク・カルメリアだ」

「ほう。していた、ということは辞めたのか?」

「ああ、俺の剣はアルフレッド殿下のものだからな」

かなりの塩対応なのだが赤髪の剣士ジークは全く気にしない。
爽やかな笑顔で握手を求められたイチカは、私のことを見つめ、そしてその隣にいるアルフレッドを見た。

「?」

アルフレッドは首を傾げて王子スマイルを浮かべる。
それを見たイチカはフッと自嘲気味に笑い、ジークの手を取った。

「いいだろう。主に剣を捧げる者同士、仲良くしてやってもいい」
「おう、よろしくな」

イチカが何を思ったのかはわからない。
だが戦闘担当同士が揉めないで仲良くしてくれるならそれに越したことは無いだろう、と二人の固い握手を見守った。
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