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**第9話 - 九尾の狐の涙**
しおりを挟む戦いの余韻がまだ空気に残る中、藤丸たちはその場を離れる準備をしていた。九尾の狐の脅威を無力化した達成感が一行を包んでいたが、その裏で藤丸の心には不安が影を落としていた。
「帰ろう。これ以上ここに留まるのは危険だ」
藤丸は仲間たちに向けて静かに言った。天音と燐音も、疲労感をにじませながら頷いた。彼らはやっと平穏を取り戻すことができたかのように感じていた。
だが、ふと藤丸は背後に何かを感じ、思わず振り返った。そこには、先ほどまでの凶暴な姿が嘘のような九尾の狐が佇んでいた。今は無防備な姿をさらし、何かを語りかけるように藤丸を見つめていた。
「…泣いてる?」
藤丸は自分の目を疑った。九尾の狐の瞳からは涙がこぼれ落ち、その表情には深い悲しみが漂っていた。彼は一瞬、何が起きているのか理解できず、混乱した。
「なんで、泣いているんだ…?」
藤丸は心の中でそう問いかけながらも、足を止めた。天音と燐音も、狐の意外な様子に気づき、困惑の色を隠せなかった。
「さっきまであんなに凶暴だったのに…どういうことだ?」
天音がぼそりと呟いた。藤丸はさらに狐に一歩近づいたが、狐は怯えることなく藤丸を見つめ返した。その瞳の奥には、まるで何かを訴えかけているかのような複雑な感情が見て取れた。
「君は、どうして…?」
藤丸は無意識にその問いを口にした。狐の涙の理由が理解できず、その答えを求めるかのように見つめ返した。しかし、狐は言葉を持たない。それでも、藤丸はその瞳の中に、悲しみと後悔、そして何かの決意を感じ取った。
「…行こう」
藤丸は仲間たちに向き直り、再び言った。けれども、その心には狐の涙の光景が深く焼き付いていた。狐が何を思い、何を感じていたのか、それは藤丸には分からないままだった。
「うん、戻ろう」
燐音が同意し、天音も無言で頷いた。彼らはその場を後にし、静かな夜の闇に包まれて歩き始めた。
しかし、藤丸の心には消えない違和感が残っていた。狐の涙が意味するものを、彼は考え続けた。
---
数日後、藤丸たちはようやく平穏を取り戻していた。妖怪や呪いの類も落ち着きを取り戻し、日常が再び訪れた。だが、藤丸の心には新たな疑問が生じていた。先天性SKILLホルダーとSPECホルダーの違い、そして彼に託された「強奪」のSKILL。その重みを感じつつ、藤丸はその夜もまた深い考えに沈んでいた。
「彼女は、いつも葛藤や悩みを背負っていたのか…」
藤丸はその少女のことを思い出しながら、彼女がどうして「強奪」を使っていたのかを想像してみた。その考えが、藤丸をさらに深い眠りへと誘った。
---
このシーンでは、藤丸が九尾の狐の涙に対する混乱と、戦いの後の心の揺れ動きを描写しました。彼の内面の葛藤や、新たな疑問が物語の展開に深みを与えています。
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