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**第3話 後半:交差する運命**
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夜が深まり、街の雑踏が徐々に静寂へと変わり始める頃、MAVERICKウルフは街の片隅でひとり、重いブーツを響かせていた。彼の足取りはいつも通り正確で、迷いがなく、目的に向かってまっすぐに進んでいた。鋭い目つきと無愛想な口元は、その日も冷たいオーラを放ち続けていた。
「くだらねぇ……」
ウルフは一言だけ呟き、手に持っていた煙草を無造作に道端へと投げ捨てた。彼の中では、今日もまた退屈な一日だったという感覚が募っていた。力のある者同士がぶつかり合う、本能的な戦いを渇望するウルフにとって、今日の街はあまりにも平凡で、何の刺激もない日常が繰り広げられているに過ぎなかった。
一方、藤丸は同じ通りを歩いていた。彼の姿はどこか憔悴していて、肩を落とし、足元を見つめながらの足取りは重い。自分に課せられた重荷、そして自分の無力さに押し潰されそうになっていた。
「……俺は、何をしているんだ……」
藤丸は何度も自分に問いかけたが、明確な答えを見つけることはできなかった。自分に託された力、略奪のスキル。その使い方がわからず、彼はただその重みと向き合い、どうするべきかを悩み続けていた。
「ただ歩いているだけじゃ、何も変わらないのに……」
藤丸の心には、強さへの渇望と、自分自身の無力さへの嫌悪感が渦巻いていた。そんな時、彼の視界の隅に、ひとりの男の姿が映り込んだ。鋭い視線で前だけを見つめるその姿――MAVERICKウルフだった。
藤丸は思わず足を止めたが、ウルフは彼の存在を全く気に留めることなく、無言でそのまま通り過ぎた。その瞬間、藤丸はウルフから放たれる圧倒的なオーラを感じ取った。強者としての揺るぎない自信、それが一瞬で藤丸の心を射抜いた。
「……」
藤丸の胸には、恐れと同時に、何か漠然とした憧れが芽生えた。ウルフのように、何もかもを迷わずに突き進むことができたら――そんな想いが一瞬、心をよぎった。しかし、その感情はすぐに打ち消された。
「俺は……違う」
藤丸は自分に言い聞かせるように、目を伏せた。自分がウルフのような強者にはなれないという現実が、再び彼を押し潰そうとしていた。その重圧に耐えきれず、彼は再び下を向いて歩き始めた。
一方のウルフも、藤丸の存在に気づいていた。だが、彼はわざと気づかないふりをしてそのまま通り過ぎた。ウルフにとって、藤丸のような迷いを抱えた存在は興味を引くものではなかった。しかし、その内面に潜む何かを、彼は感じ取っていた。
「チッ……あんな奴、どうでもいい」
ウルフは内心で藤丸を軽んじようとしたが、どこかその姿に苛立ちを覚えた。迷いを抱え、自信を持てない者には何の価値もないと自分に言い聞かせたが、その無力感に苛立ちを覚える自分自身にも気づいていた。
二人はそれぞれ別の道を歩み続けることとなったが、その瞬間、何かが交差したことは確かだった。ウルフにとって、藤丸はただの通りすがりの弱者に過ぎなかったが、どこか自分とは違う何かを感じさせる存在だった。そして藤丸にとって、ウルフは強さと迷いのない生き方を象徴する存在として、心のどこかに残ることとなった。
だが、互いの道が再び交わることはないまま、それぞれの道を進み続けた。運命が再び二人を引き合わせるまで、それぞれが抱える想いを胸に秘めたまま、夜の街に溶け込んでいった。
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