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第3話:シスターズと能力実験
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異様な施設との遭遇
森の奥深くを進む馬車の中、銀次は目を凝らして窓の外を見つめていた。木々の合間から、巨大な建物が一瞬だけ姿を現す。
「なんだ、あれは…?」銀次が眉をひそめ、窓から顔を出しながら尋ねた。
アリスがその視線を追いかける。「あれは『ネクストタイム計画』の研究施設です。未来の技術や特殊能力の研究が行われている場所として知られています」
「未来の研究だって?なんかSFじみてきたな…」銀次は苦笑を浮かべた。
「計画の詳細は公にはされていませんが、特殊能力を持つ者たちを集めて実験をしているそうです。何でも、この世界をより良くするためだとか…」アリスの語り口にはどこか複雑な感情が混じっていた。
「ふーん。聞けば聞くほど物騒だな。俺、こういうの嫌な予感しかしないんだよなぁ」銀次がため息をついたその時、馬車の進行が止まった。
---
シスターズとの出会い
馬車の窓から覗くと、十数人の少女たちが道を塞いでいた。そのどれもが同じ顔立ちで、無表情のままこちらを見つめている。
「彼女たちは…?」銀次が驚きの声を上げると、セバスチャンが冷静に説明を始めた。
「彼女たちは『シスターズ』と呼ばれる存在です。ネクストタイム計画の一環として生み出されたクローンのような存在で、実験の被験者でもあります。聞くところによると、ナンバー0から10000まで存在するとのことです」
「クローン…?」銀次は思わず目を見開いた。「なんだそれ、異世界っていうより完全にSFじゃねぇかよ」
「SF?」アリスが首をかしげる。
「ああ、俺の世界でいう未来の科学技術みたいなもんだ。まあ、ここじゃ魔法とかの範疇に入るのかもしれねぇけど」銀次はやや困惑気味に答えた。
その時、一人のシスターが銀次たちの方に歩み寄ってきた。彼女は無表情ながら、どこか人懐っこい雰囲気を漂わせている。
「私たちはネクストタイム計画の被験者です。この場所で能力の開発と実験を行っています。何かご用でしょうか?」淡々とした声で問いかける。
「いや、ただの通りすがりだ。君たちが何をやってるのか気になっただけだよ」銀次はできるだけフランクに答えた。
「私たちは未来を切り開くための研究に貢献しています。それが私たちの存在意義です」シスターは視線を銀次に向けたまま答える。
「存在意義、ねぇ…。あんたたちが無理してないといいけどな」銀次は少し気まずそうに目をそらしながら言った。
「ありがとうございます。それでは、私たちは研究施設へ戻ります」シスターは丁寧に一礼し、再び施設の方向へと歩き去っていった。
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銀次のぼやきと内心の葛藤
少女たちが去った後、銀次は深い溜息をついた。
「いやぁ、何かヤバい匂いがプンプンするぜ…。未来のためってのは分かるけど、こういうのが原因でバトルものとかに発展するんだよな」
アリスが微笑を浮かべながら言った。「銀次さん、少し考えすぎではありませんか?研究施設はしっかりと管理されていますし、危険なことはないはずです」
「いやいや、こういうのは大体、管理が甘いところでトラブルが起きるんだよ。俺の世界の映画やゲームじゃお約束ってやつだ」銀次は首を横に振る。
「映画やゲームの話ですか…?」アリスは少し困惑した様子だ。
セバスチャンが冷静に補足する。「しかしながら、銀次様の懸念も一理あります。過去の事例においても、研究施設が原因で予期せぬ事態が発生したことがございます」
「ほら見ろ!俺の言うこともたまには当たるんだぜ」銀次は得意げに笑った。
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馬車の旅は続く
その後、銀次たちは再び馬車に乗り込み、アリスの領地へ向けて進み始めた。道中、銀次は窓から見える景色に目をやりながら内心でぼやく。
「異能バトルとか探索ものの匂いがしてきたな…。俺が主人公だからって、そんな面倒ごとに巻き込まれるって決まったわけじゃねぇ。けど、まぁ、この流れなら間違いなくそうなるんだろうな。ったく、俺の借金返済計画に支障が出ないといいけどさ」
遠くに見えるアリスの領地の風景が、彼の不安と期待を混ぜ合わせるかのように、静かに輝いていた。旅はまだ始まったばかりだが、その道のりが平穏なもので終わらないことだけは、銀次にはなんとなく分かっていた。
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馬車がゆっくりと森を抜け、広大な平野が目の前に広がる。銀次は窓の外をぼんやりと眺めながら、つい先ほど出会ったシスターズたちのことを思い返していた。
「能力実験とか未来計画とか…。これ、どう考えても『悪い予感しかしない』だろ」銀次は頭を掻きながら呟いた。
「そうおっしゃいますが、未来のためには何かを犠牲にすることも必要なのです」隣に座るアリスが穏やかに答える。
銀次は眉をひそめ、「いやいや、『犠牲の上に成り立つ未来』とか言われてもさ。誰だって『犠牲になる側』にはなりたくないだろ。俺だって借金背負うのは勘弁してほしいんだからさ」と軽く肩をすくめた。
アリスは少し考え込みながら言った。「でも、あなたは実際に行動して、人を助けたじゃないですか。それは『誰かの犠牲を無意味にしない』ための一歩では?」
「そりゃそうだけどよ…。これ以上背負うのは無理だぜ、俺は『重荷に弱い男』なんだよ」
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社会風刺を交えた会話
馬車が揺れるリズムに合わせて、銀次はさらに口を開く。「でもよ、最近の世界もおかしいんじゃないかって思うんだよな。どっちの世界でも。ほら、『社会はエンタメ化している』とか、『本当の敵は内部にいる』とか、まるでゲームのキャッチコピーみたいだろ?」
「『社会はエンタメ化』とはどういう意味ですか?」アリスが首を傾げる。
「つまりさ、みんな自分の利益とか快楽を追い求めすぎて、重要なことを後回しにしてるってことだよ。『最後の一手を見逃すな』みたいな奴だよな」
アリスは銀次の言葉に困惑しつつも、興味深そうに耳を傾けた。「それは、ゲームの世界の話ですか?」
銀次は苦笑して、「いや、現実の話さ。どこかの世界でも『ルールを知り、ルールを変えろ』なんてキャッチコピーがあったけど、あれって結局はゲームじゃなくて現実の話だろ。政治も経済も、誰がルールを握ってるかで全部変わるんだ」
アリスはその言葉に黙り込んだが、しばらくして微笑む。「銀次さん、あなたの言葉は少し難しいけれど、核心をついている気がします」
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ゲームネタを交えた軽口
しばらく沈黙が続いた後、銀次はぽつりと呟いた。「それにしても、この異世界ってのも、どこかゲームじみてるよな。なんで俺だけこんなにイベントフラグを引き寄せるんだ?誰かが背後で『運命は、動き出した』とかナレーションしてんじゃねぇか?」
セバスチャンが冷静に返す。「坂本様、それは単にあなたが運を持っているからかと」
「いやいや、俺の運って言ったって『ピンチをギリギリで切り抜ける程度』だぜ?『勝ち続けるのは運ではない』ってどこかで聞いた気がするけど、俺の場合はどう見ても運だけで生きてるだろ」
アリスがくすっと笑った。「でも、銀次さんはその『運』を上手に使って、状況を乗り越えています。それは立派な才能ですよ」
「才能か…。だったら俺の才能は『平穏をぶち壊す才能』ってとこだな」
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未来の予感と社会の皮肉
馬車が領地へと向かう中、銀次は再び窓の外に目をやり、ぼそりと呟く。
「結局のところ、この世界だって俺たちの世界だって、似たようなもんなんだよな。誰かが新しいルールを作って、それに従わされるだけ。俺も『勝利の方程式を見つける』なんてことはできそうにねぇけど、せめて『おかしなゲーム』に巻き込まれないようにしたいもんだ」
アリスはその言葉に小さく頷いた。「でも銀次さん、そのおかしなゲームの中でこそ、あなたのような存在が必要なのかもしれません」
「必要かどうかはともかく、俺が選べるのは『逃げる』か『戦う』かだけだろ。まったく、どっかのゲームみたいな話だよな」
そう言いながらも、銀次の瞳にはどこか諦めと覚悟が入り混じった光が宿っていた。
銀次は馬車の揺れに身を任せながら、ふと先ほどのシスターズたちのことを思い返していた。無表情で淡々と話す彼女たちの様子が、どうにも胸に引っかかる。
「ったく…借金だけでもう頭がいっぱいなのに、今度はあんな連中のことまで気にする羽目になるとはな。俺って、こんなに心が広かったっけ?」
窓の外には、淡い緑の草原がどこまでも広がっている。それでも銀次の目には、その景色が映っていないかのようだ。シスターズの一人ひとりがまるで映写機のように彼の頭の中に投影されていた。
「あいつら、番号で呼ばれてるとか言ってたけど、そんなの人間扱いされてないってことじゃねぇか…。未来のためって言葉で、どこまで許されるんだよ。」
銀次は深いため息をつき、頭をかきむしるように手を伸ばした。どこかで「俺は関係ない」と言い切れば楽になれるのに、その一言がどうしても口をついて出てこない。
「これじゃ、借金背負った俺と大差ないじゃねぇか。名前があるのに、それで呼ばれないなんて…俺の借金が『愛称』で呼ばれるくらい、理不尽な話だぜ。」
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馬車内の静寂とメタ発言
「どうしました、坂本様。何かお考え事ですか?」隣で控えていたセバスチャンが声をかける。
「いや、別に…。ただ、あのシスターズとかいう奴らを見て、ちょっと思っただけだよ。俺たちってさ、『どこかの誰かの都合』で踊らされてるだけなんじゃないかって」
アリスが顔を少し傾ける。「『都合』ですか?」
「そう。お偉いさんたちが決めたルールとか目的に巻き込まれて、気づいたら『俺、なんでこんなことしてんだっけ?』って状況になるのさ。ほら、どこかで聞いたことないか?『使命を果たせ』とか『すべては計画通り』とか」
アリスはその言葉に苦笑を浮かべた。「坂本さん、なんだか物語の登場人物のような発言ですね。」
「いやいや、俺はまだ『特別な力を持たない主人公』ポジションだからさ。下手に物語が進むと、急に『あの最強キャラ』とかが出てきて、全てかっさらっていくのが見えるだろ?」
銀次は冗談交じりに言ったが、その声にはどこか本気の色も混じっていた。
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内心の葛藤と予感
「まぁ、シスターズのことは忘れるべきだよな…。でもさ、借金みたいに忘れたくてもついて回るもんってのがあるんだよ。しかも、あの施設とか妙に気になるし、いずれ何かのトラブルに巻き込まれそうだし…。こういうの、絶対あるよな?『嫌な予感しかしない』ってやつ」
銀次の内心は複雑だった。借金を返済するという個人的な目的の裏で、彼の目には次々と不条理が映り込んでくる。彼は無理やり目をそらすようにして、ふと自分の右手を見つめた。
「もし、俺がこれ以上巻き込まれたら、どうすりゃいいんだ?誰か、『この世界を変える力』とか貸してくれねぇかな。いや、貸されたら最後、使わないと許されないんだろうけどさ」
銀次は苦笑しながら、あえて気楽そうな顔を作った。だが、その瞳の奥にある葛藤は、誰にも見抜かれないように隠されていた。
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未来の可能性と現実の重み
馬車が森を抜け、広大な領地が見え始めると、銀次は小さく呟いた。
「ま、シスターズのことは置いといて…。これから領地に向かうってのも、また一悶着ありそうだな。俺、やっぱり『平和な旅』とかには縁がないんだろうな」
そう言いながらも、彼の心には一抹の不安と、彼女たちへの妙な親近感が残り続けていた。
「シスターズみたいな奴らが、これからも出てきたら困るっての。これ以上『不幸の増し盛り』はお断りだぜ」
銀次はそうつぶやきながら、馬車の揺れに再び体を預けた。そして、訪れるかもしれない次なる波乱に備えるように、小さく息を吐いた。
銀次はアリスとセバスチャンに導かれ、ようやく賑やかな街の入口へとたどり着いた。石畳の道には人々が行き交い、屋台からは香ばしい匂いが漂い、商人たちの威勢のいい声が響く。街の喧騒が、旅の疲れを一瞬で忘れさせるようだった。
「ここが街か…。なんか、思った以上にデカいじゃねぇか」と銀次は感嘆の声を漏らしながらも、どこか落ち着かない表情を見せる。
「銀次さん、この街は商業の中心地でもありますから、何でも揃いますよ」とアリスが微笑みながら言った。
「そりゃ便利でいいけどな…俺の懐具合じゃ、この活気に飲み込まれちまいそうだよ」と銀次はため息をつき、財布を軽く叩いた。
そんな時、背後から小さな足音が聞こえた。振り返ると、一人の少女がこちらに向かって全速力で駆けてくる。
「お兄ちゃん!」少女が手を振りながら、息を切らして銀次に叫んだ。
「お兄ちゃん?…おいおい、何かの間違いだろうよ」と銀次は眉をひそめながらつぶやいたが、その少女の顔を見た瞬間、先ほどのシスターズの一人であることに気づく。
「お兄ちゃん、助けて!」少女──No.7は銀次の前に立ち止まり、切羽詰まった表情で彼を見上げた。
「助けてって、何があったんだ?」銀次は困惑しながらも問いかける。
「実験施設から逃げてきたの。もうあそこには戻りたくない…」No.7は涙ぐみながら訴える。その言葉の重みに、銀次は思わず口ごもった。
「逃げてきたって…お前、そりゃただ事じゃねぇぞ。施設の連中に見つかったらどうすんだよ?」
No.7は怯えたように周囲を見回しながら、小さな声で答えた。「でも…お兄ちゃんなら守ってくれるって、みんなが言ってたから…」
「みんなって…おいおい、俺そんなに頼りがいがある奴に見えるか?」銀次は軽く頭を掻きながら、しかし少女を放っておくことはできないと悟った。
「まぁ、いいさ。とりあえず落ち着けよ」と銀次はNo.7の頭をぽんぽんと軽く叩き、宥めるように声をかけた。
---
アリスとセバスチャンの反応
「銀次さん、この少女は先ほどの施設から…?」アリスが驚いたように尋ねる。
「ああ、そうみてぇだ。なんか事情がありそうだな」と銀次は苦笑いを浮かべながら答える。
「となれば、安全な場所を確保する必要がありますね」とセバスチャンが冷静に提案する。
「おいおい、そんな簡単に言うなよ。俺には借金があるんだぜ?これ以上抱えるもんが増えたら、マジで破産するっつーの!」銀次は声を荒げたが、No.7の怯えた表情を見て、言葉を飲み込んだ。
「でも…まぁ、困ってる奴を放っておけねぇのが、俺の悪い癖だからな。しゃあねぇ、助けてやるよ」と銀次は呟き、No.7に向かって手を差し出した。
「ありがとう、お兄ちゃん!」No.7は銀次の手をぎゅっと握り、ほっとしたように微笑んだ。
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街での新たな始まり
銀次たちは街の中心部へと足を踏み入れた。人混みの中を歩きながら、銀次はNo.7に小声で尋ねた。「で、具体的に何から逃げてきたんだ?」
「実験がどんどん過酷になってきて…もう、私たちみんな耐えられなくなったの」とNo.7が言う。
「なるほどな…。で、俺に何を期待してるんだ?異能バトルでもしろってか?俺は戦闘狂じゃねぇんだぞ」と銀次はぼやいた。
「でも、お兄ちゃんの窒素能力なら、きっと助けてくれるって…」
「窒素能力、便利っちゃ便利だけどな…。これ、そんなに万能じゃねぇんだよ」と銀次は肩をすくめた。「正直、『すごい能力』ってわけじゃねぇし。せいぜい自分の身を守れる程度さ」
それでも、銀次の目には覚悟の色が宿っていた。「ま、どうにかしてやるさ。俺だって一応、この世界でやれることをやるしかねぇからな」
アリスが銀次の横で微笑みながら言った。「銀次さん、あなたはいつも自分を過小評価しているようですが、その行動力は本当に尊敬しますよ」
「おいおい、そう持ち上げるなよ。俺はただ、借金返済とトラブル回避で頭がいっぱいなだけだって」と銀次は苦笑いを浮かべた。
街の喧騒に包まれながら、銀次たちの旅はさらに賑やかさを増していく。新たな仲間との出会いが、彼らの未来にどんな影響を与えるのか──その答えはまだ誰も知らない。
街の喧騒の中、銀次はNo.7の手を引きながら新たな隠れ家を探していた。借金と逃亡者という二重苦に加えて、妙に目立つ状況に少し不安を覚える。
「おいおい、俺はただの通りすがりの冒険者だってのに、なんでこうも事件が寄ってくるんだよ。ここ、もしかしてトラブルホイホイでも設置されてんのか?」銀次はぼやきながら歩を進めた。
No.7が首を傾げて尋ねる。「お兄ちゃん、ホイホイって何?」
「あー、いや、なんつーかだな。悪いことが勝手に寄ってくる罠みたいなもんだ。ほら、例えるならば…何かをピッて飛ばして、ドーン!みたいな感じだよ」銀次は手を広げてジェスチャーを交えながら説明した。
アリスが興味深そうに口を開く。「それって、何か特別な能力を指しているのですか?ピッと飛ばしてドーンと来る、非常に効率的ですね」
「いやいや、そういう意味じゃねぇんだよ!」銀次は慌てて否定する
銀次は思考を整理するように頭を抱えたが、表情はどこか険しい。
「あれだよ、たとえば…んー、ピッてのはだな、たぶん、電磁波とかそんな感じのアレで、ドーンってのは、なんかこう、目に見えない力が一気に炸裂するやつ。ほら、言わせんなよ、めんどくせぇ!」
アリスはさらに首を傾げる。「つまり、何かを高速度で飛ばして、衝撃を与える能力ということでしょうか?その理論、どこかの学者も研究していたような…」
「だから!違うって言ってるだろ!ほら、お嬢様ももう少しボケに乗ってくれよ!」銀次は思わず声を荒げた。
セバスチャンが冷静に口を挟む。「坂本様、それはもしかして“とある某研究都市”で研究されている技術に似ているのでは?超電磁的な力を利用して…」
銀次は額を押さえ、深いため息をついた。「いや、それ以上はやめろ。お前ら、どこかのレールに乗せようとしてるだろ!そんなの、俺が走れる範囲超えてるから!」
No.7が不安そうに銀次を見つめた。「お兄ちゃん、大丈夫?難しい話は苦手なの?」
「うるせぇ!借金まみれの俺が、そんな最先端技術とか知ってるわけねぇだろ!せいぜい俺が使えるのは、窒素でビューンって走るくらいだ!」銀次は苛立ちながらも、どこか開き直った態度を取った。
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街の片隅に隠れるように佇む一行。周囲を見渡して、銀次は再びぼやく。
「こうして安全な場所を探すのも、結局は俺の役目か。異世界に来たら最強チートで無双できるって思ってたのになぁ…。実際は借金、逃亡者、街中を徘徊する謎の実験施設。これ、俺どこで間違えたんだ?」
アリスが苦笑いを浮かべる。「銀次さん、異世界とはいえ、現実逃避の場ではありませんからね。それに、強力な力を手にしたからといって、全てが解決するわけではないのです」
「そんな当たり前の説教をされるとは…。俺の異世界生活、ハードモードすぎるだろ。お前ら、もう少し俺の労働環境を考えてくれよ!」銀次は天を仰いだ。
セバスチャンが淡々と答える。「ご安心ください。これからの道中ではさらなる困難が待っています。努力次第で成長も…」
「いや!安心できる要素ゼロだろそれ!困難が増えるとか、どこのRPGだよ!」銀次は両手を広げて突っ込んだ。
---
その後も、メタ的なぼやきとツッコミを繰り返しながら、銀次たちの旅は続く。賑やかな街の音と共に、どこかほのぼのとした彼らのやり取りが響いていた。
銀次たちが宿を探すために足を止めたその時、No.7がそっと銀次の袖を引いた。その顔には、いつもとは違う、どこかしんみりとした表情が浮かんでいた。
「…ごめんね、お兄ちゃん。」No.7の声は小さく、まるで消えてしまいそうだった。「私、やっぱり迷惑だよね。押しかけちゃって…。施設に戻るよ。」
その言葉を聞いた瞬間、銀次は目を丸くし、口を半開きにした。その後、すぐに眉間に皺を寄せ、ため息をつく。
「おいおい、何をしんみりしてんだ。」銀次は肩をすくめ、腰に手を当てた。「お前、施設に戻るって言ってるけどな。そんな必要はねぇんだよ。」
No.7は驚いた顔で銀次を見上げた。「でも…施設に戻らなきゃ、私は行く場所が…」
「行く場所?そんなもん、ここで決めりゃいいんだよ。」銀次は軽く鼻を鳴らしながら言った。「お前があの施設に戻りたくねぇんなら、それでいい。俺がその“危険”とやらを無くしてやるよ。」
その言葉にNo.7の瞳が揺れた。けれども、銀次の表情はいたって真剣だった。普段の飄々とした態度からは想像もつかない、どっしりとした雰囲気が漂っている。
一方、銀次の内心はというと――。
(ったく、何言ってんだ俺…。こんな大口叩いて、どうやって危険を無くすつもりだよ…。それに、こいつを守るには金もかかるし、俺の財布はもう限界だぞ…。いや、でも…。)
銀次は心の中で冷や汗を流しながら、それでも口を止めることはなかった。
「それに、お前はまだガキだ。自分のしたいこともわからねぇくせに、“迷惑だから”なんて理由で自分を押し込めるな。そんなの、俺が許さねぇからな。」
銀次はふと、片手をNo.7の頭に置き、ぐしゃぐしゃと撫でた。
「ほら、元気出せ。そんな暗い顔してたら、俺の異世界生活が余計にしんどくなるだろ。俺には借金返済っていう重役があるんだからな。」
「お兄ちゃん…」No.7はその言葉に少し笑顔を浮かべた。
そのやり取りを見守っていたアリスがふっと微笑んだ。「銀次さん、こうして誰かを助ける姿を見ると、なんだかとても素敵ですね。」
「おいおい、お嬢様までそんなこと言うなよ。」銀次は照れくさそうに頭をかいた。「俺が素敵だなんて言ったら、いよいよこの世界の価値観が崩れるぜ。」
セバスチャンが冷静な声で付け加える。「ですが、坂本様の言葉には確かに力があります。危険を排除すると言ったその責任は、しっかり果たしていただきます。」
「おい、そこで余計なプレッシャーをかけるな!俺の精神的HPがゼロになるだろ!」銀次は慌ててセバスチャンにツッコミを入れた。
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夜の街の明かりが灯る中、銀次たちは再び歩き始めた。その背中には、どこか頼もしさと小さな不安が交錯していた。旅の先には、まだ見ぬ危険と新たな出会いが待っているのだろう。銀次は内心の冷や汗を抑えながらも、歩みを止めることはなかった。
夢遊病のような二日前
銀次は頭を抱えて目を覚ました。視界には見慣れない天井が広がり、体が妙に重い。記憶が混濁している。
「…なんだこれ、俺、どこで寝てたっけ?」布団でもベッドでもない、硬い木の床の上。体を起こすと、周囲には倒れた椅子や散らかった荷物が目に入る。
「銀次さん、お目覚めですね。」
冷静な声に振り向くと、セバスチャンが紅茶を差し出してきた。その表情には微かな疲れが見て取れる。
「な、何が起きた?俺、昼寝してたはずだよな?」銀次は頭を掻きながら混乱を隠せない様子で尋ねた。
「はい、確かに昼寝されていました。しかしその後、夢遊病のような状態で盗賊たちと交渉に向かわれました。」
「…は?」銀次は言葉を失った。
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夢遊病の行動記録
「ちょっと待て、俺、寝てる間にそんな大それたことしたってのか?」
セバスチャンは微笑みながら答える。「事実です。盗賊たちがアリス様の馬車を狙っていたところ、銀次さんが突然立ち上がり、『ここは俺に任せろ』と。まるで英雄のごとく振る舞われました。」
「いや、全然覚えてねぇんだけど?」
「その後、盗賊たちに対して堂々と名乗られましたね。『俺の名前は銀次。昼寝中でも無敵の高校生だ』と。」
銀次は目を丸くし、言葉を失った。
「それ、俺が言ったのか?!」
「はい。そして見事に盗賊団を説得し、戦闘を回避されました。特に、銀次さんの『この異世界で生きるのに必要なのは友情、努力、勝利だ!』という名言には皆が感銘を受けていましたよ。」
「それ、どっかの漫画のパクリだろ!」銀次は思わずツッコミを入れたが、セバスチャンは微笑を浮かべたままだ。
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アリスの詩吟のような語り
「その通りですわ。」
ふわりとした優雅な声が銀次の背後から聞こえる。振り返ると、アリスが杖を持ちながら登場した。
「銀次さんが盗賊団を前に立ちはだかったその姿…あれはまさに、一編の詩のようでした。」
「いや、俺は覚えてないって言ってんだろ!」
アリスはどこ吹く風といった様子で語り始める。
「その雄々しき姿、盗賊たちを前にしても恐れを知らず、ただひたすらに正義を説くその姿。まるで眠れる獅子が目覚めたかのようでした。」
「寝てたのは間違いねぇんだけどな!」
「そして、銀次さんがこう言い放ったのです。『俺は未来を夢見る高校生だ。こんな所で道を踏み外すわけにはいかない!』」
「それ完全に俺じゃねぇ台詞だろ!」
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再び現実へ
夢遊病の話がどれだけ本当なのか、銀次には分からない。ただ、セバスチャンやアリスの表情を見る限り、少なくとも事実の一部は正しいのだろう。
「ったく、俺が昼寝してる間に何やらかしてんだよ。次は絶対、ちゃんと目を覚ましてから動くからな!」
「それが良いでしょう。ただ、あの盗賊団との交渉のおかげで今は安全です。」セバスチャンが言葉を添える。
「ったく、なんで俺がこんな目に…。昼寝するだけで異世界で英雄扱いなんて、どんだけハードモードなんだよ。」
そう呟きながら、銀次は二日前の自分に想いを馳せた。夢遊病体験は、思い出したくても思い出せない不思議な記憶として、彼の中に刻まれていた。
---
文字数を調整し、物語の展開をスムーズにするため一部を補足しています。
銀次は肩を軽く回しながら呟いた。「改めて昼寝って怖ぇな……。ま、あれだけ疲れてりゃ当然か。ともあれ、切り替えだ切り替え」
彼は隣に立つ少女を一瞥する。無表情だがどこか不安げな目をしている彼女――No.7の視線がこちらを伺っているのがわかる。彼女が発した「お兄ちゃん」という言葉が、銀次の心に妙な響きを残していた。
銀次は頭を掻きながら、ふと口を開いた。「おい、No.7ってのはどうにも味気ねぇな。お前さ、番号で呼ばれるの好きか?」
少女は一瞬、きょとんとした表情を浮かべたが、小さく首を振った。「……番号は、研究所で付けられただけ。私の名前じゃないです」
「だよなぁ」と銀次は納得するように頷く。「だったら決まりだ。お前は今日から『なな』だ」
「……なな?」少女の目が微かに揺れた。銀次は彼女の反応を見て、さらに畳みかける。
「そうだよ。だって俺のこと『お兄ちゃん』なんて呼ぶんだろ?なら、兄妹っぽい感じにしとかねぇとな。番号のままじゃ、どうにもこうにも締まらねぇ」
彼の言葉に、なな――いや、No.7の表情がわずかに変わった。それは微笑みのようであり、戸惑いのようでもあった。彼女は小さな声で呟いた。「……『なな』、ですか。なんだか、温かい響き……」
銀次は彼女の声を聞きながら、内心で苦笑いを浮かべていた。名前を付けた責任ってのは、こういうことかよ……。けどまぁ、これでちょっとは安心したみたいだし、良しとするか。
「じゃ、なな。これからはお前も立派なチームの一員だ。お兄ちゃんとして、ちゃんと面倒見てやるから安心しろ。ただし、俺の財布が続く限りな!」銀次は拳を振り上げ、わざと明るく言い放つ。
ななはその言葉に目を輝かせた。「……本当ですか、お兄ちゃん?」
「ああ、嘘じゃねぇよ。ただし、俺の財布の限界は察してくれ。お前の食費で俺の命運が尽きるかもしれねぇからな!」銀次は自嘲気味に笑った。
ななはその言葉にくすりと笑みを漏らし、小さく頷いた。「……ありがとう、お兄ちゃん」
その笑顔を見て、銀次は一瞬だけ胸に何かが込み上げるのを感じた。これからどんな面倒事が降りかかるかはわからない。だが、彼女を見捨てるわけにはいかない――それだけは確かだった。
「さてと、次はこの街でなんとか仕事を見つけて、借金返済を進めるぞ!」銀次は手を叩いて気合を入れるふりをしたが、内心では冷や汗を流していた。
あぁ、本当に俺、大丈夫かよ……?
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
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