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プロローグ: ゲートインパクト!! 〜運命の出会い〜
しおりを挟む夕暮れの公園。寂しげなオレンジ色の光が、薄暗く広がるフィールドをやさしく照らし出していた。公園の片隅には、誰も近づこうとしない小さなゲートボールのコートがぽつんと存在している。まるでその存在を誰かに忘れ去られたかのように、古びたスティックとボールが無造作に転がっているだけだった。
その場所に、一人の少年が歩み寄ってくる。松本一真、高校生。彼がここを通りかかったのは、ただの偶然に過ぎなかった。
学校帰り、夕日に照らされた道を歩く彼の足は重かった。クラスメイトたちは放課後の部活に精を出し、汗まみれで楽しそうにスポーツに打ち込んでいる。だが、一真には関係のない世界だ。彼はいつもそんな彼らを、どこか冷ややかな目で見ていた。『面倒なことはごめんだ』と口癖のように心の中で呟き、日々をただ無為に過ごしていた。
ふと、視線がコートに向かう。転がっている古びたスティックやボールに目が留まる。じいさんたちがやっている「ゲートボール」のコートだ。誰もいないその空間に、少しばかり興味を引かれたが、すぐに彼の口から軽蔑の言葉が漏れた。
「なんだよ、ゲートボールかよ…どうせじいちゃんばあちゃんの遊びだろ?」
一真は軽く肩をすくめると、苦笑した。年寄りがやる、のんびりとした遊びだというイメージしか持っていない。もちろん、自分には関係のない世界だと、そのまま通り過ぎようとした。その時、コートの奥から聞こえる穏やかな声に、彼の足は止まった。
「おい、君。興味があるのか?」
突然の声に一真は振り返ると、一人の老人が静かに歩み寄ってくるのが見えた。手にはスティックを持ち、にこやかな笑みを浮かべている。驚いたように一真は目を細めた。何か言おうと口を開いたが、次の老人の言葉が彼の言葉を遮る。
「ただの年寄りの遊びだと思っているだろう?でもな、君にはこのスポーツの本当の面白さが、もしかしたら分かるかもしれない。」
不思議なことに、その言葉は一真の心に引っかかった。『冗談だろう?』と思いつつも、心の中で何かが揺らぎ始める。だが、彼は苛立ちを隠すように声を張り上げた。
「面白い?じいさん、それマジで言ってんのか? ゲートボールなんて地味でゆっくりした遊びだろ? 俺がそんなもんにハマるわけないじゃん。」
しかし、老人は笑みを崩さずに続ける。
「そうかもしれないな。だが、スティック一つでフィールドを支配する感覚を知れば、他のスポーツでは味わえない深い戦略の世界が見えてくるんだよ。試してみるか?」
老人の落ち着いた声と穏やかな眼差しは、一真の冷たい態度にも動じることはなかった。彼は再び目を逸らそうとしたが、心の中に芽生えた好奇心が足を止めた。
『試してみるか…?』
いつもの自分なら即座に断るだろう。しかし、今日は何故か違っていた。冷やかし半分ではあったが、一真はスティックを手に取り、ボールに向けて一打を放った。
「カツン…」
フィールドに響いたのは、予想以上に硬質で力強い音だった。その瞬間、彼の心の中で何かが弾けた。
「なんだ…この感覚は…?」
一真はゆっくりと転がるボールをじっと見つめた。今までただの木の棒とボールだと思っていたが、その瞬間、手の中で感じた力と感覚が彼を捉えて離さなかった。単純な遊びだと思っていたが、どこかに緻密な計算や戦略が隠されているように思えた。
老人は満足げに頷いた。「ほら、感じたろう? これがゲートボールの始まりだ。」
一真は返事をしなかった。代わりに、もう一度ボールを打ちたいという衝動が心の中で湧き上がってきた。あんな地味なスポーツだと思っていたのに、今はその奥に潜む何かに触れたくてたまらなくなっていた。だが、この瞬間、彼はまだ知らない。ゲートボールが彼の人生をどれほど変えることになるかを――。
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じいさんとのシングルマッチ
それからしばらくして、一真と老人は向かい合った。夕暮れの光が、二人の長い影をフィールドに映し出している。老人が手にしたスティックは軽々と見えたが、その動きには確かな技術が感じられた。
「さぁ、どうだい?勝負してみるか?ゲートボールの奥の深さを知るのも良い経験だよ。」
老人の誘いに、一真は眉をひそめた。最初は『年寄り相手に本気を出す気はない』と思っていた。しかし、最初に感じたあの一打の感触が、今も心の中で鳴り響いている。老人の言う「奥の深さ」とやらが、妙に気になっていた。
「…まぁ、やってやるよ。でも、本気で勝負する気はねぇけどな。」
そう軽口を叩いたが、心の中では何かが違っていた。軽く考えていたはずなのに、どこか緊張感が漂っていた。それは、老人の笑みがただの「年寄り」ではないことを感じさせるものだった。
ゲーム開始
試合が始まる。老人が第一打を放った瞬間、その正確さに一真は驚いた。ボールはまっすぐ第一ゲートへ進み、軽やかに通過する。まるで無駄のない動きだった。
「ほら、こうやってゆっくり進めていくんだよ。でもな、本当の勝負はここからだ。」
老人の言葉に、一真はスティックを握り直す。いつもなら『どうせ年寄りのテクニックだろ』と馬鹿にしているはずだが、今は違う。老人の一打には、確かに何かがあった。冷静で正確な動き、そして次の手をすでに見据えているかのような余裕。
「…やってやるか。」
一真は気を引き締めてボールを打つ。だが、ゲートは僅かに外れてしまい、ボールは通過しなかった。舌打ちをし、イライラが募る。しかし、老人は静かに微笑みながら一真のボールにタッチする。そして、見事なスパーク打撃を決め、一真のボールはフィールドの外へと飛ばされていった。
「なんだよそれ!あんなのありかよ!?」
「これがスパーク打撃さ。相手のボールをどう動かすかも、このゲームの一つの戦略だよ。」
老人の落ち着いた言葉に、一真は次第に引き込まれていく。年寄りののんびりとしたスポーツだと思っていたのが、実際には「戦略と駆け引き」に満ちた緻密なゲームであることに気づき始めた。
「こいつ、ただのじいさんじゃねぇ…。ゲートボールって、意外と奥が深いんだな
「こいつ、ただのじいさんじゃねぇ…。ゲートボールって、意外と奥が深いんだな…」
一真はスティックを握り直し、次の一打に集中する。目の前の老人がただの年寄りではないことは明白だった。先ほどのスパーク打撃は、見た目の緩やかさに反して圧倒的な力と正確さが込められていた。一真は悔しさと驚きが入り混じった感情を抱きながら、再びボールに向かってスティックを構えた。
「次は、外さねぇ…」
一真の額に汗が浮かぶ。スティックをゆっくりと引き、慎重に力を込める。ボールがスムーズにゲートを通過し、今度こそ成功した。軽く息をつくが、老人の次の一手が彼を待っていることを感じ、気は緩められなかった。
老人は静かに微笑みながら次のボールに向かう。無駄な動き一つなく、スティックを振り下ろすと、ボールは鮮やかにゲートを通り抜けていく。その正確さと冷静な動きに、一真は内心驚きを隠せなかった。
「やるじゃねぇか、じいさん…」
試合はじりじりと進行し、互いに一打一打を打ち合う展開となる。だが、老人の動きには常に余裕があり、先を見据えたような冷静さが漂っていた。一真が焦りを感じ始める一方、老人はあくまで淡々とボールを操作し、冷静に次のステップへ進んでいく。
「焦るな…」と一真は自分に言い聞かせる。だが、その言葉とは裏腹に、じいさんの次の手が見えないことに苛立ちを感じ始めていた。自分も十分上手くやっているはずなのに、なぜか常に一歩遅れているような気がしてならない。
老人はふと立ち止まり、一真の目を真っ直ぐ見つめた。
「どうだい?焦りが君を飲み込んでいないかい?このゲームは、ただボールを打つだけじゃない。相手の心を読むことも重要なんだよ。」
一真はその言葉にハッとした。確かに、じいさんは自分の一手一手を先読みしているようだった。単にボールの行方を追うだけではなく、次にどんな動きがくるのかを見越している。そして、その余裕が一真を一層追い詰めていたのだ。
「そう簡単にはいかないってわけか…」一真は苦笑いを浮かべながらも、内心ではじいさんの技術に舌を巻いていた。
試合はクライマックスに差し掛かり、一真にとって最後のチャンスが訪れる。じいさんのボールがゲートを抜ける直前、一真は冷静にスティックを構え、じいさんのボールにタッチした。そして、強力なスパーク打撃を繰り出し、相手のボールを遠くへ飛ばした。
「よし、これで逆転だ…!」
一瞬の喜びが心を駆け巡る。自分でも思いがけず完璧な一打を放った。一真は内心ガッツポーズを決め、ついにじいさんに勝てるかもしれないという期待が膨らんだ。
だが、その一瞬の油断が命取りとなった。
「ふむ、なかなかいい打撃だったね。だが、まだ終わりじゃないよ。」
老人は一真の余裕を見抜いていたかのように、再びスティックを構え、冷静にボールを打ち出した。ボールは完璧なコースでゲートを通過し、ポールに静かに当たる。その瞬間、フィールドには金属音が響き渡り、試合の結末が告げられた。
一真はその音を聞いて、悔しそうに拳を握り締めた。勝てると思った瞬間に、再びじいさんの一打が彼のプライドを打ち砕いたのだ。
「くそ…完敗だ。」
しかし、その声にはどこか悔しさだけではなく、達成感も混じっていた。今まで馬鹿にしていたゲートボールが、これほどまでに自分を熱中させ、必死にさせたことに驚いていた。
老人は優しく微笑みながらスティックを肩に乗せ、静かに言った。
「君もなかなかやるじゃないか。だが、この競技の面白さは、ただの力任せじゃ勝てないところにある。頭を使い、相手の動きを読み、どこで仕掛けるかを考えることが重要なんだよ。」
一真はその言葉に黙って頷いた。ゲートボール――それは、単純なスポーツだと思っていたが、実際には戦略と知恵、そして相手との駆け引きが求められる、まさに「静かな戦場」だった。
「次は、絶対に勝つからな。」
老人はその言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。
「その気持ちが大切だよ。次はもっと面白い勝負ができるかもしれないな。」
一真はその言葉を胸に刻みながら、スティックを手に取った。その日、彼は確かに感じた――ゲートボールが彼の心を揺さぶり、これからの彼の人生を変える大きな出会いとなる予感を。
そして、この出会いが新たな物語の始まりであることを、彼はまだ知らない。
試合終了後の会話
試合が終わった。静寂がフィールドを包み、夕暮れの公園には、じいさんの放った一打の音がまだ耳に残っているかのように感じられた。ポールに当たったボールの金属音は、一真の心に深く突き刺さっていた。
「くそ…また負けた。」
一真は肩を落とし、握りしめたスティックを力なく地面に突き刺した。彼の心には、悔しさと、自分自身への苛立ちが渦巻いていた。勝てるはずだった。あの瞬間、スパーク打撃が決まった瞬間、完全に自分が勝利を手にしたと信じていた。
だが、じいさんは違った。最後の最後、静かに確実に勝負を決めたその姿に、一真は言葉を失っていた。思い返せば、じいさんは最初から最後まで、ただ一度も動揺を見せず、淡々とボールを打ち続けていた。彼の余裕と冷静さが、一真にはまるで別世界の人間に見えた。
「まいったな…俺、まだまだだ。」
心の中で呟きながらも、一真はじいさんのほうに目をやった。じいさんは相変わらずの穏やかな笑みを浮かべ、スティックを肩に軽くかけていた。疲れた素振りは一切なく、まるでただのウォーミングアップだったかのようだ。
「どうだい、悪くなかっただろう?」
じいさんが笑いながら声をかけてきた。その柔らかい声には、からかいの色はなく、純粋に楽しんでいる様子が感じ取れた。
「まあな…でも、結局負けたよ。勝ったと思ったのに、最後の最後で持っていかれた。」
一真は悔しさを隠しきれず、じいさんに向かって吐き出すように言った。スティックを地面に置き、額に手を当てる。まるで自分のミスを振り返るかのように、試合の一つ一つを頭の中で再生していた。
じいさんは一真の様子を見て、優しく笑みを浮かべた。
「負けたと思うか?私はそうは思わないよ。確かに、君は最後に勝利を掴むことはできなかった。だが、あの一打、スパーク打撃は見事だったよ。君の成長がしっかり見えた。」
「でも、勝てなかった。」
一真は即座にそう返した。成長だの見事だのと言われても、結局勝てなければ意味がない。自分の中に残るのは、負けたという現実だけだった。
「勝負というのは、勝ち負けだけが全てじゃないんだよ。」
じいさんはゆっくりと歩み寄り、一真の肩に手を置いた。その手の温かさが、一真の冷え切った心を少しだけ温める。
「君は勝利を目指して頑張った。それでいい。でも、勝つことが全てじゃない。試合の中で自分が何を学び、どう成長したか、それが一番重要なんだ。」
一真はその言葉を聞いて、少しの間黙り込んだ。じいさんの言葉には真実があるように感じたが、それでも納得がいかない。勝つために戦ったのに、結局勝てなかったことが悔しい。それが本音だった。
「成長とか、学びとか…そんなのじゃ満足できないんだよ、俺は。勝ちたかった。それだけだ。」
一真はじいさんを真っ直ぐ見つめ、そう言い放った。感情が高ぶっているのが自分でも分かったが、今はどうしてもこの悔しさを抑えきれなかった。
じいさんは少しの間、一真を見つめた後、微笑みを深めた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「君の気持ちも分かるよ。勝ちたい、その気持ちはとても大切だ。でもな、君はまだ若い。まだまだこれからだよ。この一回の負けで全てが終わるわけじゃない。むしろ、これからが本当の勝負なんだ。」
その言葉に、一真は少しだけ考え込んだ。じいさんの言葉には何か深い意味があるように思えたが、まだ自分にはそれを完全に理解することはできなかった。
「でもさ…俺、本当に勝てるようになるのかな?」
ふと、一真は心の中に浮かんだ不安を口にしていた。じいさんに挑戦する度に負け続けている現実が、彼の自信を少しずつ削っていた。
じいさんはその問いに、静かに首を横に振った。
「勝てるかどうかは、君自身が決めることだよ。勝利は与えられるものじゃない。自分で掴み取るものだ。そのために、何を学び、どう動くか。それが重要なんだ。」
「自分で…掴み取るか。」
一真はその言葉を反芻する。ゲートボールの一打一打が、まるで自分の人生の一歩一歩のように思えてきた。試合に勝つためには、ただ力任せに打つだけではダメだ。冷静に、先を読み、タイミングを見極める必要がある。それは、じいさんが試合を通じて何度も教えてくれたことだ。
「次は、どうすればいいんだ…?」
一真は思わず、じいさんに問いかけた。その声には少しの希望と、不安が混ざっていた。じいさんの指導を受けたい気持ちが強かったが、それ以上に、自分がどこまでやれるのか知りたかった。
じいさんは少しの間、考えるように目を閉じた後、静かに言った。
「まずは、自分自身と向き合うことだ。焦らず、しっかりと自分のプレイを見直しなさい。次の一打をどう打つか、それが全てを変えるんだ。」
その言葉は、一真の胸に深く響いた。ゲートボールの試合は、ただの遊びではなかった。自分と向き合い、次の一手を考える――それは、これからの自分の生き方にも通じる教えだった。
「次は、絶対に勝つからな。」
一真は決意を新たに、じいさんに向かって宣言した。その目には、負けた悔しさではなく、新たな挑戦への強い意志が宿っていた。
じいさんは満足げに微笑み、軽く頷いた。
「その気持ちがあれば、必ず強くなれるさ。」
そう言って、じいさんは静かに歩き出した。その背中は、一真にとってただの年寄りのそれではなかった。勝利を手にした者の自信と、未来を見据えた余裕が感じられる、強い背中だった。
一真はその姿を見送りながら、再びスティックを握りしめた。次の試合、そしてその先に待っている未来を見据えて――。
夕暮れの公園。オレンジ色に染まった空が、一真の周囲を包み込むように広がっていた。フィールドの上には、風に揺れる落ち葉の音が響くだけで、試合の熱気はすでに遠のいていた。しかし、彼の心にはまだその余韻が残っていた。
一真はスティックを手にしながら、自分の足元を見つめた。今の彼にとって、このスティックはただの木の棒ではなくなっていた。何度も振り下ろしたその感触が、手のひらにしっかりと刻まれている。
一真(心の中):「不思議だ…こんなに熱くなったこと、今まであっただろうか。何かに夢中になるなんて、俺には無縁だと思ってた。けど、今日、あのじいさんとの勝負で、俺の中に確かな“何か”が芽生えた気がする。」
彼は静かに息を吐き、試合を思い返す。スティックを振り下ろすたびに感じた感触――それは単なる打撃ではなく、何かもっと根本的な力が伝わってくるものだった。試合の中で何度も感じたその感覚が、今も指先に残っていた。
一真(心の中):「ただの年寄りの遊びだって思ってたけど…あれは違う。じいさんが言ってた通り、これは単純なゲームじゃない。戦略、駆け引き、そして集中力――あの一打一打には、俺が想像していた以上の重みがあった。」
彼は試合の最後の瞬間を思い出す。自分がスパーク打撃を決め、相手のボールをフィールド外へ弾き飛ばした瞬間、勝利を確信していた。しかし、その後に待っていたのは、じいさんの冷静な一打と、それによって静かに決められた試合の結末だった。
一真(心の中):「スティック一本でこんなに深い勝負ができるなんて、考えもしなかった。簡単だと思っていたのが、実はこれほどまでに戦略的で緻密な競技だったなんて…。俺、こんな風に思えること、これまでなかった。」
一真はスティックを肩にかけ、夕焼けをじっと見上げた。オレンジの光が広がる空は、どこか寂しげでありながら、彼の中で新たな決意を育んでいるようだった。これまでの自分は、日常の全てに無関心で、何をしても楽しさを感じなかった。しかし、今日の試合で彼は確かに「何か」に目覚めた。
一真(心の中):「次は勝つ。俺が、必ず勝つんだ。」
その思いが胸の中で静かに燃え上がる。一真はスティックを握り直し、もう一度フィールドを見渡した。ここが、彼の新しいスタート地点だ。これまでの無気力な日常とは違う、新しい挑戦が彼を待っている。
じいさんとの試合のことを思い返すたびに、あの一打一打が彼の心に深く刻み込まれていく。次はどう打てばいいのか、どうすればじいさんのように冷静で正確なプレイができるのか――そんな考えが、今の彼の中を駆け巡っていた。
一真(心の中):「このスティックで、もっと強くなれるかもしれない。じいさんみたいに、勝負の場で確実に決める力を持つことができるかもしれない。」
彼は心の中でそう決意しながら、一歩を踏み出した。まだまだ学ぶべきことは多いが、今の一真には、それを楽しむ気持ちが少しだけ芽生えていた。そして、その気持ちが彼の足を次の一歩へと導いていく。
夕焼けが一真の背中を照らす中、フィールドには彼の決意が静かに漂っていた。
【プロローグ 完】
---
エンドロールが流れるように、フィールドの片隅で一真は立ち尽くしていた。夕焼けが彼の背中を包み込み、その姿はどこか哀愁を帯びながらも、強い決意を秘めているように見えた。静かなフィールドで、一真の思いは風とともに消えていく。
次なる試合、次なる挑戦が、彼を待っている。
翌日の夜、一真は自分の部屋でベッドに横たわり、手にしたスマートフォンの画面を見つめていた。じいさんとの試合が頭から離れず、どうにかして自分もあのレベルに到達したいという思いが強くなっていた。敗北の悔しさが消え去るどころか、逆にその感覚が彼の中で高まりつつあった。彼の心の中には、負けを糧にして強くなりたいという新たな決意が芽生えていた。
一真(心の中):「あのじいさん、なんてスパーク打撃だよ…。あれができるようになれば、俺だって勝てるはずだ。でも、今の俺じゃ全然足りない。もっと練習しないと、勉強しないと…。」
彼はふと、ゲートボールについて詳しく知るために、スマホで動画を探し始めた。YouTubeを開き、検索バーに「ゲートボール打法」「スパーク打撃」「ゲートボール戦略」と打ち込んでみる。少し待つと、関連する動画が次々と表示され、彼はその中の一つをクリックして再生を始めた。
画面に映ったのは、プロフェッショナルなプレイヤーたちがスティックの持ち方や打ち方について丁寧に説明する映像だった。最初は、スティックの握り方や立ち位置といった基礎的な技術について解説されている。映像の中で解説者は、ボールを打つ際の力加減や角度の重要性を細かく説明し、ゆっくりとしたスロー再生でスパーク打撃のコツを教えてくれる。
一真(心の中):「なるほど…スティックの持ち方一つで、こんなに違いが出るのか。細かいけど、これを無視してたら上手くなるわけないよな。」
動画を見ながら、一真は自分がこれまでの試合でどれだけ感覚に頼ってプレイしていたかを思い知った。今見ているプレイヤーたちの動きには無駄がなく、緻密な計算があってこそ成り立っているプレイスタイルに感銘を受けた。
一真:「これなら俺にもできそうな気がする。けど、実際にやってみるとじいさんみたいに上手くいかないんだろうな…」
スパーク打撃の精度やタイミングをマスターするには、ただ力任せに打つだけではダメだということが分かってきた。ボールに触れて、もう一つのボールを打ち出す――その一連の動きが、試合の流れを変えるほどの重要な役割を果たすと解説者は強調している。
一真(心の中):「やっぱり、勝負はこのスパーク打撃で決まるんだ。力じゃなくて、精密さと集中力が必要なんだな。じいさんはそれを体で覚えてる…すげぇやつだ。」
動画を見ていると、じいさんの冷静なプレイが頭に浮かぶ。自分との一打一打を冷徹に計算して、正確なタイミングでスパーク打撃を決めた姿。その技術に一真はただ感心するばかりだった。
次に一真が再生したのは、全国大会のゲートボール試合の映像だった。プロの選手たちが繰り広げる戦いは、彼にとってまるで別次元の世界のようだった。画面に映る選手たちは、相手の動きやフィールド全体の状況を見ながら、正確にボールを打ち続けていた。
一真(心の中):「これがじいさんの言ってた“戦略”ってやつか…。ゲートボールって単純じゃないんだな。ただボールを転がすだけじゃなく、相手をどう崩すか、次の一手をどう打つか、常に考えながら動くんだ。」
選手たちは、まるでチェスのように次の一手を緻密に計算しながらプレイしている。彼らの動きには無駄がなく、全てが計画されたもののように感じられた。
一真:「俺もこんな風に冷静に試合を進められるようにならなきゃダメだな。感覚だけで動いてちゃ、じいさんには到底勝てない…頭も使わないと。」
動画を見続けるうちに、彼は時間を忘れていた。解説動画や試合映像に夢中になり、ゲートボールの奥深さをより一層感じていた。今まで「年寄りの遊び」と思っていたこの競技が、実はどれほどの戦略性と技巧を必要とするものかに気づき、ますます興味が湧いてきた。
最後に再生したのは、ゲートボールのルールについての動画だった。ルール解説者が、ゲートを通過するタイミングや他のボールへのタッチの仕方、そしてスパーク打撃の条件について詳細に説明している。
一真(心の中):「ルールもしっかり把握しておかないとな…。試合中に慌てるのは避けたい。次の試合では、もっと落ち着いて、じいさんのように戦略を立てながらプレイできるようにならなきゃ。」
一真は動画を閉じ、スマートフォンをベッドの横に置いた。頭の中で再びじいさんとの試合を思い返しながら、彼のプレイをなぞるように感じていた。あの一打一打が、彼にとってただのゲームではなく、もっと深い意味を持っていたことに気づき始めていた。
一真(心の中):「明日からはもっと練習だな。次にじいさんに挑むときは、俺もあの冷静さと正確さを手に入れてやる。負けてばかりじゃいられない…」
彼はそう心に決め、静かに目を閉じた。じいさんとの次の対戦への期待と、自分自身を超えるための新たな目標が、彼の中でじわじわと燃え上がり始めていた。ゲートボールという競技への情熱が、確かに彼の中に火を灯していた。
その夜、一真は深い眠りにつきながら、ゲートボールの戦略と技術を夢の中でも繰り返し考えていた。
夕暮れの町を歩きながら、一真はスマートフォンを片手にゲートボールについて調べ続けていた。じいさんとの試合から数日が経ち、その悔しさと興奮は今も彼の心を支配している。ネットで探したゲートボールの情報が次々と画面に表示され、彼はその中から自分に合ったスティックを探し出そうと必死だった。
一真(心の中):「スティック一つでこんなに種類があるなんてな…。素材や長さ、重量、全部違うのか。じいさんはあれを使いこなしてるんだから、俺も自分に合ったやつを見つけないと。」
彼は次々と商品ページをスクロールし、レビューや説明文を読んでいく。しかし、ネット上の情報だけではどれが自分に合っているか確信を持つことができず、悩んでいた。
一真(心の中):「どれもよさそうだけど、やっぱり実際に手に取ってみないと分からないな…。このままネットでポチるのはちょっと怖いし、今日は店に行って実物を見てみるか。」
彼はスマホの検索画面を閉じ、少し離れたところにあるスポーツ用品店へ足を運ぶことにした。ゲートボール専門店とまではいかないが、そこには一般的なスティックやボールが取り揃えられているという噂を聞いていた。
店に到着すると、入り口には様々なスポーツ用品が並んでいた。店内は広く、サッカーボールや野球のグローブが所狭しと並ぶ中、彼はゲートボールのコーナーを探して歩き回る。
一真(心の中):「ここに本当にあるのか…?他のスポーツに比べてゲートボールってマイナーだから、置いてないかもな。」
少し不安になりながらも、ようやく店の隅にひっそりと設置されたゲートボールのコーナーを見つけた。そこには数種類のスティックが壁にかけられており、どれも彼には見慣れない形だった。
彼は一つ手に取ってみた。握ってみると、思ったよりも軽く、しっくりと手になじむ感触があった。だが、軽さのせいか、どこか頼りない気もした。
一真(心の中):「うーん、これだとちょっと軽すぎるかな…。じいさんが使ってたスティックって、もっと重そうだったよな。あれくらいの重みがあれば、俺も力強く打てるようになるんじゃないか。」
彼は別のスティックを手に取る。今度のものはさっきのものよりも重く、しっかりとした重量感がある。試しにスティックを振り下ろしてみると、手の中にずっしりとした感触が伝わってきた。
一真(心の中):「お、これならちょうどいいかもな…。少し重いけど、その分コントロールが効きそうだし、じいさんみたいに正確に打てるようになれるかもしれない。」
彼はスティックを軽く振りながら、店の中を歩き回って感触を確かめる。自分の手に合ったものを見つけた瞬間、これで次の試合でじいさんに勝てるかもしれないという期待が胸に湧き上がってきた。
店内を歩きながら、ふと壁に掲げられたゲートボールのパンフレットが目に入る。それにはゲートボールの歴史やルール、そして技術に関する情報が書かれていた。彼はそのパンフレットを手に取り、じっくりと読み始めた。
一真(心の中):「やっぱり奥が深いんだな…。スパーク打撃だけじゃなくて、いろんな技術があるんだ。俺ももっと練習して、いろんな打ち方を身につけないとな。」
パンフレットには、初心者向けの基本的な打ち方から、上級者向けのテクニックまで詳細に説明されている。彼はその内容を目で追いながら、じいさんとの試合のことを思い出した。あのときのじいさんの動きには、ただの力任せではない緻密な計算があったことが今なら分かる。
一真(心の中):「次にじいさんと戦うときは、俺もあのレベルまで上がってやる。ルールも技術も、全部勉強して、自分のものにしなきゃ。」
彼は再びスティックを握りしめ、決意を新たにした。じいさんに勝つためには、ただ打つだけではなく、相手の動きを読んで戦略を立てる必要がある。次に挑むときは、冷静さと正確さ、そして戦略を持って試合に臨むつもりだった。
スティックを持ったまま、ふと店員が近づいてきた。年配の男性で、店内にいる一真を見て微笑んでいた。
「お探しのものは見つかりましたか?」
店員が優しく声をかけてきた。彼はゲートボールについて詳しそうな雰囲気を漂わせていた。
「ええ、なんとか。でも、これが本当に俺に合ってるかどうか…試合で使ってみないと分からないかも。」
一真は少し不安げに答える。店員は頷き、スティックを指差しながら言った。
「そのスティックは、初心者でも扱いやすいモデルです。バランスが良く、力を入れずにコントロールしやすい。ですが、もしもっと重いものをお求めなら、あちらのコーナーにプロ用のモデルもございますよ。」
一真はその言葉に興味を引かれ、店員が示した方向を見た。そこには、さらに高級感のあるスティックが並んでいた。彼は一瞬迷ったが、手にしているスティックがしっくりきたので、それを選ぶことにした。
「これでいいです。まずはこれで練習してみます。」
彼は店員にそう告げ、スティックを手にレジへ向かった。自分で選んだスティックを握りしめながら、次の試合でじいさんに挑む自分の姿を想像していた。
店を出たとき、空にはすでに星が瞬き始めていた。一真は夜空を見上げ、深呼吸をした。
一真(心の中):「これで、俺も本格的にゲートボールに挑戦できる。次こそは、じいさんに勝ってみせる。」
彼は手にしたスティックを見つめ、決意を胸に再び歩き出した。
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