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第3話: 「外道との対峙」
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放課後の裏校舎。夕焼けが徐々に影を伸ばし、空気はひんやりと冷たさを増していた。薄暗い校舎の隅に、数人の不良たちが集まっていた。彼らは楽しげに笑い声を上げていたが、その笑いにはどこか不穏な響きがあった。手にはスマートフォンが握られ、何かを見ながら楽しんでいる様子だった。
「これさ、最近流行ってるアプリでさ、なんかスゴイことできるんだぜ。試してみたら結構ウケるんだよな。」
一人の不良が、スマホの画面を他の連中に見せている。仲間たちはその話に興味津々で、笑いながら彼の言葉を聞いていた。彼らは、そのアプリや行為が誰かを傷つけたり不快にさせる可能性について、考えもしないようだった。
「面白ぇな、それ。もっとやってみようぜ!」
彼らの無邪気とも言える笑い声は、無意識のうちに他者への影響を無視した結果だった。その光景を少し離れた場所から見つめていた黒澤凱斗の眉間には深い皺が刻まれていた。彼は不良であり、ケンカに明け暮れることもあるが、今目の前で繰り広げられている行為には違和感を覚えた。
「……くだらねぇな。」
黒澤はその場を離れることを決めた。正義感を語るつもりはないし、他人の行動を咎めるつもりもない。しかし、彼には越えてはいけない一線があると感じていた。それを踏み越えた者を見過ごすことはできなかった。
「外道と同じにはなりたくねぇ。」
心の中でそう呟き、黒澤は一匹狼としての誇りを胸に秘めて歩き続けた。彼は他人に依存することなく、ただ自分の信念を貫くことだけを大切にしてきた。正義を掲げることよりも、自分自身に嘘をつかないこと。それが彼の信念だった。
---
校舎の角を曲がると、カエデが待っていた。彼女はいつものように明るい笑顔を浮かべていたが、黒澤の険しい表情を見ると、その笑顔が少し曇った。
「黒澤くん、どうしたの?何かあった?」
カエデの問いかけに、黒澤は一瞬言葉を飲み込んだが、すぐに自分の感じていた不快感を吐き出した。
「……あいつらが、くだらねぇことやってた。アプリだかなんだかで、ふざけたことをして遊んでやがる。」
その言葉を聞いた瞬間、カエデの表情が引き締まった。普段は無邪気で明るい彼女でも、他人を傷つけるような行為には決して寛容ではなかった。それが正しくないことだと、彼女も理解していたからだ。
「許せない……そういうの、絶対に許せないよ!」
カエデの拳が震えている。彼女が「爆裂魔法」を使いたいという衝動に駆られているのは、黒澤にも感じ取れた。だが、彼はそれを止めなければならないと感じた。
「やめろ、カエデ。」
黒澤は冷静に、しかし強く言い放った。彼女が力を使えば、状況はさらに複雑になる。カエデ自身が巻き込まれることにもなりかねない。
「でも……!」
「俺がやる。あいつらは確かに外道だが、俺が自分のやり方でケリをつける。」
黒澤はカエデを見つめながら、穏やかな笑みを浮かべた。その笑顔には、揺るぎない覚悟と決意が込められていた。
「お前がやる必要はねぇ。俺に任せろ。」
そう言い残し、黒澤は再び不良たちがいる場所へと足を向けた。カエデはその背中を見送りながら、不安を感じつつも、黒澤の言葉を信じることにした。
---
裏校舎に戻ると、不良たちはまだスマホをいじりながら笑い合っていた。彼らの軽薄な笑い声が耳に刺さる。
「おい。」
黒澤が一言声をかけると、不良たちは振り返った。彼らは黒澤の姿を見て、最初は驚いたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「なんだよ、黒澤。お前も興味あんのか?一緒に見るかよ?」
その言葉に、黒澤は冷たい目で彼らを見据えた。
「くだらねぇ。お前らが何をしてるのかは知らねぇが、人を軽んじて楽しむってのは、俺には理解できねぇな。」
その言葉に不良たちは一瞬ひるんだが、すぐに嘲笑を浮かべた。
「なんだよ、黒澤。お前も同じ不良だろ?何カッコつけてんだよ。」
不良の一人がそう言って近づこうとした瞬間、黒澤は彼の手を掴み、力強くねじ伏せた。
「俺は、不良だからこそ、自分の信念を曲げたくねぇんだ。お前らみたいな外道には、なりたくねぇ。」
その言葉には、冷静ながらも強い決意が込められていた。不良たちはその勢いに圧倒され、次々と退散していった。
---
夕暮れ時の校舎裏。薄暗くなりかけた空の下、黒澤凱斗は一人で佇んでいた。学校の一角、人気のない場所で不良たちが集まっているのを目撃した彼は、自然と足がそちらへ向かっていた。
「よぉ、黒澤。どうしたんだよ?今日はお前も参加するか?」
不良の一人が、ニヤニヤとしながら声をかけてきた。周りの仲間たちも同じように薄笑いを浮かべ、黒澤を囲むようにして立っていた。彼らの手にはスマホが握られており、そこには目を背けたくなるような映像が流れていた。
「俺が参加する?そんなくだらねぇ遊びにか?冗談じゃねぇよ。」
黒澤は冷たい目で彼らを見つめながら、ポケットに手を突っ込んだ。彼にとって、彼らがやっていることは許せない行為だった。だが、彼自身もまた不良だ。正義を振りかざすつもりはないが、見逃すわけにもいかない。
「おい、黒澤。そんなに堅苦しいこと言うなよ。これも遊びだ、気楽に行こうぜ。」
不良たちはなおも軽口を叩いているが、黒澤の表情は変わらない。彼らの言動に、心の中で徐々に怒りが沸き上がっていた。
「……くだらねぇ。」
黒澤は静かに呟くと、突然、不良のリーダー格の男に向かって一歩踏み出した。彼の目には決意と怒りが宿っており、それを感じ取った不良たちは一瞬、緊張した空気を感じ取った。
「おい、黒澤、何するつもりだ?」
「タイマンだ。お前らのような外道に手を貸す気はねぇ。男同士、殴り合うだけなら文句はないだろ。」
黒澤の挑発に、リーダー格の男は苦笑いを浮かべた。
「いいだろう。ここでケリをつけるか。」
周りの不良たちは期待と不安が入り混じった表情で見守っていた。黒澤とリーダー格の男は、互いに拳を構え、距離を詰めていく。
---
九条迅の言葉が、黒澤の頭の片隅に浮かんだ。
「エンドブレイカーを使うな。単なる喧嘩なら問題ないが、力を使えば話が変わる。」
九条の冷静な声を思い出しながらも、黒澤は自分の拳に頼ることを決めた。特殊な力ではなく、純粋な力と意志で相手と対峙することを選んだのだ。
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二人は静かににらみ合い、次の瞬間、黒澤は先に動いた。鋭いパンチがリーダー格の男に向かって放たれる。男はそれをギリギリでかわし、反撃の拳を繰り出したが、黒澤は冷静にその攻撃を読み、軽く身をかわしていく。
「やるじゃねぇか……!」
男は驚きの声を上げたが、黒澤は無言のままさらに攻め込んだ。彼の動きは無駄がなく、一つ一つのパンチが確実に相手にプレッシャーを与えていた。
次の瞬間、黒澤の拳がリーダー格の男の腹にクリーンヒットする。男は一瞬苦しそうに顔をしかめたが、すぐに反撃に転じた。しかし、黒澤はそれを冷静に受け流し、再びカウンターの一撃を繰り出した。
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殴り合いは激しさを増していくが、どちらも特殊な力を使うことはない。男同士の純粋な意志と力のぶつかり合いが、周囲の空気をさらに緊迫させていた。
「これが……お前の力かよ……!」
リーダー格の男は苦しそうに呟いたが、黒澤は静かに言い放った。
「俺は獣にはなりたくねぇ。ただ、外道を黙って見逃すつもりもないだけだ。」
男はその言葉に一瞬怯んだが、すぐに再び拳を握りしめた。彼もまた、負けるつもりはない。だが、黒澤の鋭い拳が再び彼に迫り、ついにリーダー格の男は膝をついた。
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不良たちは驚きの表情でその様子を見つめていた。誰もがリーダー格の男が倒れるとは思っていなかったのだ。黒澤はゆっくりと息を整えながら、拳を解き、静かに背を向けた。
「俺の勝ちだ。これ以上、くだらねぇことはやめろ。」
そう言い残して、黒澤はその場を立ち去った。不良たちは呆然としたまま、彼の背中を見送るしかなかった
夜の静けさの中、黒澤凱斗はスマホを片手に、ため息をつきながら電話をかけた。画面には「九条迅」の名前が表示されている。電話が繋がると、すぐに九条の冷静な声が聞こえた。
「魔術超常現象対策班、九条だ。どうした、黒澤?」
黒澤は少し不機嫌そうに返事をした。
「おい、九条のオッサンか?スマホで連絡したってわかるだろ。いや、ちょっときなくせぇ噂と、奇妙なアプリを使った奴らとタイマンしたんだ。」
電話の向こうで一瞬の静寂があったが、九条はすぐに落ち着いた口調で続けた。
「それで、お前に怪我は?」
黒澤は少しだけ苦笑いを浮かべ、右手の拳を見ながら肩をすくめた。
「いてて……まぁ、こんなの怪我にもならねぇさ。たいしたことねぇよ。」
九条はその返事に少し安心したようだが、さらに詳しく尋ねた。
「それで、奇妙な噂ってなんだ?違法魔術キットの催眠か?」
黒澤は真剣な顔で続きを話し始めた。
「そうだ。奴らが違法な催眠アプリを使って、卑怯な真似をしてやがったんだ。それでどうにも許せなくて、タイマンしたってわけさ。力で操られるとか、そんなの漢じゃねぇだろ?ま、俺が奴らに手を出すのも正当な理由があったってことだ。」
九条は一瞬黙り込んだが、すぐに興味深げに話を聞いた。
「なるほどな。違法魔術キットを使ったか……それは確かに放置できない事態だ。お前が動いてくれたのは助かる。だが、タイマンなんて普通の喧嘩で終わる話か?」
黒澤は少し不満そうに応じた。
「普通の喧嘩だよ。ただ、卑怯な奴らに対しては、俺も力でねじ伏せるしかねぇだろ。外道をそのままにしとくなんて性に合わねぇからな。」
九条はその言葉を聞いて、また冷静に返答した。
「わかった。お前が動いた理由は理解した。ただ、違法魔術の件は俺たちがきちんと対処する。お前の力は貴重だが、エンドブレイカーを使うような事態にはまだしない方がいい。喧嘩で済んでいるうちはいいが、力を見誤るなよ。」
黒澤はその言葉に少しだけ納得したようで、短く頷いた。
「了解だ。まぁ、これ以上は手を出さねぇよ。とりあえず報告しといた方がいいと思ってな。」
九条は深く息をついて言った。
「ありがとう、黒澤。また何かあったら、すぐに連絡してくれ。俺たちもその奇妙なアプリについてさらに調べる。お前は体を休めておけ。」
電話が切れると、黒澤はふぅっとため息をついた。九条とのやり取りで少しだけ気が楽になったが、まだ完全に終わったわけではない。違法な催眠アプリや魔術キットの件が残っている限り、何かしらの不安が胸に残っていた。
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