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第2話後半九条とカエデの関係

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黒澤は教室に戻る道すがら、何度も九条の姿を思い出していた。あの冷たい視線と皮肉めいた言葉が、頭の中でぐるぐると回る。九条は確かに面倒な存在だったが、それ以上に彼の言葉が引っかかって仕方がなかった。

「お前の動向を把握しておきたい、だと……何か企んでやがるな、あのオッサン。」

黒澤は小さく舌打ちをし、教室のドアを開けた。教室の中は、いつもと変わらない日常の風景だった。友達同士が笑い合い、先生が授業の準備をしている。しかし、黒澤にとってはその平和な風景すらどこか不穏な空気を孕んでいるように感じられた。

黒澤が席につくと、隣の席に座っていたクラスメイトの健吾が声をかけてきた。

「おい、黒澤、さっきカエデと話してたみたいだけど、あの九条って何者なんだ?」

健吾の問いは、まるで黒澤の心の中を見透かすかのようだった。黒澤は一瞬、どう答えるべきか迷ったが、結局簡潔に返すことにした。

「ただの知り合いだ。深く関わらない方がいい。」

健吾は少し眉をひそめたが、それ以上突っ込むことなく、肩をすくめて話題を変えた。黒澤は内心ホッとしつつも、やはり九条の存在がクラスメイトたちにも気づかれ始めていることを感じ、ますます警戒心を強めた。

---

授業が終わると、黒澤はすぐに教室を出て校舎の外に向かった。気晴らしが必要だった。いつものベンチに腰を下ろし、少し風に当たりながら思考を整理しようとしたが、心は静まらなかった。

「……カエデに関わるなって、どういう意味なんだ?」

九条のあの言葉が頭から離れない。あの冷たい眼差しには、何か計り知れないものが潜んでいるようだった。それに加え、カエデも知らないうちに何かに巻き込まれているのではないかという不安が募る。

その時、背後から足音が近づいてきた。振り返ると、そこにはカエデがいた。

「ここにいると思ったよ!」

カエデはいつものように明るい笑顔を浮かべて黒澤の隣に座り込んだ。だが、今日はどこか違和感があった。彼女の無邪気な笑顔が、今は何かを隠しているように見える。

「どうした、何かあったのか?」

黒澤が問いかけると、カエデは一瞬、言葉に詰まったようだった。しかしすぐに、いつもの調子で答えた。

「ううん、別に! ただ、ちょっと気になることがあってさ……九条さんのこと、どう思う?」

その質問は、黒澤の心にずっしりと響いた。自分でも気にしていた問いだったからだ。しかし、答えるべきかどうかを迷っていると、カエデは続けた。

「私、なんだか彼に会うたびに不安になるんだよね。優しそうに見えるけど、何かを隠してる気がして……。」

黒澤はカエデの言葉に驚いた。彼女がそんな風に九条を感じていたとは思わなかった。彼の疑念は確信へと変わりつつあった。

「……あいつには、何か裏がある。カエデ、お前もあいつには近づかない方がいい。」

カエデはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。

「うん、わかった。でも、もし何かあったら黒澤くんが守ってくれるよね?」

その言葉に黒澤は一瞬言葉を失ったが、次第に自分の役割を自覚していった。

「……ああ、もちろんだ。」

カエデはその返事を聞くと、再び笑顔を見せたが、黒澤の心の中では、不安がさらに広がっていった。

---

翌日、黒澤はいつものように学校に向かったが、その日は何かが違っていた。学校全体にどこか張り詰めた空気が漂い、生徒たちの会話の中にも「違法魔術キット」という言葉が頻繁に聞かれるようになっていた。

「こんなに早く広まるなんて、どうなってやがる……。」

黒澤は心の中で苛立ちを抑えつつ、慎重に動くべきだと自分に言い聞かせた。そして、校内の様子を探るために動き始めた。

その時、背後から冷たい声が響いた。

「やはり君も気づいていたか。」

振り返ると、そこには九条迅が立っていた。彼の鋭い視線は、まるで黒澤の内面を見透かすかのようだった。

「この学校で起きていること、君も無関係ではいられない。君の『力』、そろそろ使い時かもしれないな。」

九条の言葉には、挑発とも取れる意味が込められていた。黒澤はその場で言い返すことはせず、ただじっと九条を見据えた。

「お前が何を企んでいるのかは知らないが、俺は俺のやり方で動く。」

そう言って、黒澤は九条に背を向け、再び校内の調査を始めた。
黒澤は教室へ戻る足取りがどこか重く感じられた。九条とカエデの笑い声がまだ耳の奥に残っている。彼らの何気ないやりとりが、自分とは異質なものであるように思え、胸の中にわずかながらも重く沈む感情が渦巻いていた。

「何なんだ、あの九条は……。」

黒澤は自問自答するが、答えは出てこない。九条は謎めいていて、その行動には一貫した目的が見えない。冷静で物腰は柔らかいが、その言葉の裏には何か別の意図が感じられる。そして、それがカエデにも影響を及ぼしつつあるのではないかという漠然とした不安が黒澤の中で膨れ上がっていた。

教室に戻った黒澤は、窓際の自分の席に腰を下ろした。いつもと変わらぬ風景が広がっているはずだが、今日はその景色がどこか異様に見える。クラスメイトたちが和気あいあいと話している声も、彼には遠く感じられた。

「……俺が気にしすぎているだけか。」

そう自分に言い聞かせながらも、黒澤はどうしても心が落ち着かない。九条の存在が自分の世界にじわりと侵食してきているのを、強く感じていた。カエデとあんなに気軽に話す九条の姿――それが自分にとって何か脅威であるように思えてならなかった。

「カエデに近づくな、か……。」

彼の心の中で再び九条の言葉が反響する。その言葉には、一見、カエデを気遣うような響きがあったが、実際にはもっと別の意味が込められているはずだった。九条がどこまで知っているのか、そして何を目的としているのか――黒澤はそれを見極めなければならないと思いつつも、自分一人では限界があることを感じていた。

その時、ふと隣の席に視線を向けると、カエデの姿がないことに気づいた。昼休みが終わっても彼女はまだ戻っていない。

「どこに行ったんだ……。」

黒澤は落ち着かない気持ちのまま、教室の窓から外を見渡した。すると、校庭の端の方で、カエデの姿が目に入った。彼女は一人でベンチに座っているように見えたが、その表情は遠くからでは読み取れなかった。

「ちょっと見てくるか……。」

黒澤はため息をついて席を立ち、カエデの元へと向かう。何かが彼女を悩ませているのか、それとも単なる偶然か。九条との関係が影響を及ぼしているのかもしれないという不安が彼の背を押した。

校庭に出ると、カエデが座っていたベンチまでゆっくりと歩み寄る。彼女は気づかぬ様子で、ただ黙って空を見上げていた。

「おい、こんなところで何してるんだ?」

黒澤が声をかけると、カエデは驚いたように顔を上げたが、すぐに微笑んで答えた。

「あ、黒澤くん……ちょっと、考え事してただけ。」

「考え事?」

黒澤はその言葉に眉をひそめた。カエデが何かを深く考え込む姿は珍しかった。普段の彼女は、あまり悩みを顔に出さず、常に明るい笑顔を見せている。だが、今日の彼女にはどこか影があった。

「うん……なんかさ、最近、色々あってね。」

彼女の曖昧な言葉に、黒澤はさらに不安を感じた。九条のことが影響しているのだろうか。それとも、彼が知らない何かが起こっているのか。

「九条のことか?」

思わずそう尋ねてしまったが、カエデは少し驚いた表情を浮かべ、すぐに首を振った。

「いや、九条さんのことじゃないよ。彼はただ、私の親戚だからさ……でも、なんだろう、最近ちょっと不安なことが多くて……。」

カエデの言葉には本心が隠れているようだったが、彼女自身、それをうまく言葉にできないでいるようだった。黒澤は彼女の気持ちを察しつつも、どう声をかけていいのかわからなかった。

「……もし何か困ってるなら、俺に言えよ。」

黒澤は少し不器用な言い方になったが、彼なりの気遣いだった。カエデが困っていることがあるなら、彼は放っておけない。彼女が九条に巻き込まれている可能性がある以上、なおさらだ。

「ありがとう、黒澤くん。ほんとに、そういうところ優しいよね。」

カエデは微笑みながらも、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。その笑顔が作り物に見えるほど、彼女の内面には何か重いものがあるのだと黒澤は感じ取った。

彼女が何に悩んでいるのかはっきりとはわからないが、その背後に何かが迫っているのは確かだった。九条の存在がその影を一層濃くしている。

「……俺が守る。お前に何かあったら、俺がどうにかする。」

黒澤は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。カエデがそれを聞いたのかどうかはわからないが、彼女はただ黙って空を見上げ続けていた。

---

午後の授業が始まっても、黒澤の中の不安は消えることなく続いていた。カエデの笑顔が頭から離れず、彼女の背後にある問題が自分にとってどれだけの影響を及ぼすのか、見当もつかなかった。

その日の放課後、黒澤は一人で学校を後にしようとしていた。だが、ふと振り返ると、カエデがまたあのベンチに座っているのが見えた。彼女はじっと地面を見つめ、何かを考えているようだった。

「……やっぱり、放っておけないか。」

黒澤はそう思い、再びカエデの元へと足を運んだ。彼女が抱えている問題が何であれ、自分が関わるべきだと感じたのだ。

「カエデ、まだここにいたのか?」

彼が声をかけると、カエデは驚いたように顔を上げたが、すぐに微笑んで答えた。

「うん、ちょっとだけ考え事をしててね……でも、もう大丈夫。ありがとう、黒澤くん。」

彼女はそう言いながらも、その言葉にはどこか無理をしているような響きがあった。黒澤はそのことに気づいていたが、深く追及することはしなかった。

「そろそろ帰るぞ。」

黒澤がそう促すと、カエデは頷き、立ち上がった。その背中はいつもの明るいカエデではなく、何か重いものを背負っているように見えた。彼女が抱えている問題が何なのか、そして九条がどれだけ関わっているのか――それを確かめなければならないと黒澤は心に誓った。

黒澤は、教室に戻る足音が鈍く響くのを感じながら、再び窓際の席に腰を下ろした。窓の外にはいつものように穏やかな風景が広がっていたが、彼の心はそれを映すかのように穏やかではなかった。

「九条がこの学校に来るなんて……まさか、何か大きなことが動き出すのか?」

黒澤は、窓越しに空を見上げながら、九条の言葉が脳裏をよぎる。九条の冷たい視線が頭から離れず、彼の言動が何か大きな陰謀の一部であるように感じられた。そして、何よりもカエデのことが気にかかる。彼女の無邪気な笑顔の裏に隠された不安や悩みが、自分の手の届かないところにあるような気がしてならなかった。

「……俺が守る。どんなことがあっても、カエデを危険に巻き込ませるわけにはいかない。」

自分自身に言い聞かせるようにそう呟くと、黒澤は一瞬、拳を強く握りしめた。

---

午後の授業が進む中、黒澤はただ教科書を眺めるだけで、授業に集中することができなかった。周りのクラスメイトたちが楽しそうに話している声や、教師の説明が耳に入ってこない。頭の中で、九条の冷たい言葉と、カエデの笑顔が交互に浮かんでいた。

「カエデに近づくな……どういう意味だ?」

九条の言葉が、黒澤の心に重くのしかかっていた。彼が何を企んでいるのかはわからないが、九条がカエデに何らかの関心を持っていることは間違いなかった。それが彼女にとって危険なものなのか、それとも別の意図があるのか、黒澤にはまだ見当がつかない。

「……お前が何を企んでいようが、俺はカエデを守る。それだけだ。」

黒澤は無意識に、自分に言い聞かせるように呟いていた。

授業が終わると、黒澤は机の上の教科書を乱暴に閉じ、無言で教室を出ていった。何か行動を起こさなければならないと感じていた。九条の出現は、ただの偶然ではない――それは、黒澤にとって確信に変わりつつあった。

---

放課後、黒澤はいつものように校庭のベンチに座り、考えを巡らせていた。学校には夕方の穏やかな光が差し込み、周囲には静かな空気が漂っていたが、彼の心はそれに反して不穏な思考に支配されていた。

「九条の目的は何だ?なぜカエデに近づく必要がある?」

自分自身に問いかけながらも、答えはまだ見つからなかった。その時、ふと背後から足音が近づいてくるのを感じた。振り返ると、そこにはカエデが立っていた。彼女は微笑みながら、黒澤の隣に座った。

「ここにいると思ったよ、黒澤くん。」

彼女の声には、いつものように明るさがあったが、今日はその笑顔の奥に何か違和感があった。黒澤はそのことに気づいたが、すぐには言葉にできなかった。

「……どうした?今日は何か変だな。」

黒澤が問いかけると、カエデは少し戸惑ったような表情を浮かべたが、やがて笑顔を作り直して言った。

「ううん、何でもないよ。ただ、ちょっと考え事してただけ。」

「考え事?」

黒澤はその言葉に反応し、さらに問い詰めたくなった。カエデがこんなふうに曖昧な答え方をするのは珍しい。それだけ、彼女の心の中で何かが大きく揺れている証拠だ。

「……九条のことか?」

思わずそう尋ねてしまったが、カエデは驚いたように彼を見つめた。少し間を置いた後、彼女は首を振った。

「いや、九条さんのことじゃない。ただ、最近いろんなことがあってね……少し疲れちゃっただけ。」

彼女の言葉には真実が含まれているように思えたが、同時に何かを隠しているようにも感じられた。黒澤はそれ以上問い詰めることはせず、ただ彼女の隣に座り続けた。

「……もし何か困ってることがあるなら、俺に言えよ。」

彼の言葉は短く、不器用だったが、その中には確かな思いやりが込められていた。カエデはその言葉に驚き、そして少しの間沈黙した後、小さく笑った。

「ありがとう、黒澤くん。そういうところ、ほんとに優しいよね。」

彼女の笑顔は、どこか寂しさを含んでいた。それを見て、黒澤の心にはさらに不安が募った。カエデの背後に何か大きな問題が迫っている。それが何であるかはまだわからないが、九条が関わっていることは確かだった。

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夕方の空が赤く染まる中、二人はしばらくの間、言葉を交わさずに座っていた。黒澤の心の中では、何かが次第に確信に変わりつつあった。

「……カエデ、俺が守る。お前に何かあったら、俺がどうにかする。」

彼が小さな声で呟いたその言葉は、カエデに届いたのかどうかはわからなかった。しかし、黒澤は決意を固めた。九条の動向を見逃すわけにはいかない。そして、カエデを守るためには、自分が行動を起こさなければならないのだ。

やがて、カエデは静かに立ち上がり、微笑んで言った。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか。ありがとうね、黒澤くん。」

黒澤は彼女に続いて立ち上がり、二人で校門に向かって歩き出した。彼女の背中には、普段とは異なる重さが感じられたが、それを口にすることはできなかった。彼女が抱えている問題が何なのか、それを知るためには、もっと多くの時間が必要だと思った。

「……九条、絶対に何か仕掛けてくるはずだ。」

黒澤はその背後にある影を感じつつ、今後の展開に備えるために、心の中で決意を新たにした。

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