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第18話: 九尾の狐と天気の通り雨 隼人の憂鬱
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夕方の放課後、気象部の活動が終わり、隼人は一人で校舎を歩いていた。外は再び通り雨が降り始め、ぱらぱらと窓を叩く音が響いている。空は晴れているのに、まるで天気が気まぐれに泣いているかのように、雨が降ったり止んだりしていた。
「またか…」
隼人はつぶやき、外の景色を一瞥する。気象部で天気の研究をしているとはいえ、この通り雨には不思議な違和感があった。それはただの気象現象というには、あまりにもタイミングが良すぎる。そして、何より気になるのは――九尾の狐の存在だ。
先日、雪菜から聞かされた話が頭から離れない。
「妖怪なんているわけないだろ…ましてや、九尾の狐なんて…」
そう自分に言い聞かせるものの、心の奥底では疑念が渦巻いていた。九尾の狐がこの学校に紛れている? それが事実なら、この通り雨にも何か関係があるのかもしれない。隼人は理性的に考えようとするが、不安と好奇心が入り混じり、頭の中を支配していた。
気象部の部室に戻ると、サフウが窓の外をじっと見つめていた。彼女の目は何かを考え込んでいるようで、普段の元気な態度とは少し違う。
「また通り雨ね…まるで何かが隠れているみたいだわ」
彼女はつぶやくように言い、隼人の方に振り向いた。「隼人、考えてみてよ。もし本当に九尾の狐がいたら、この雨も何かの前兆かもしれないじゃない?」
隼人は軽く肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。「お前までそんなこと言うのかよ、サフウ。九尾の狐なんて、ただの伝説だろ?」
しかし、サフウは真剣な表情を崩さず、「でもね、伝説っていうのは、何かしらの真実に基づいていることもあるのよ。特にこういう不可思議な天気現象が続くと、どうしても考えちゃうのよね」と言う。
「気象部の部長として、そういうことを考えるのは良いけどさ、現実的に考えろよ。俺たちはただ天気の研究をしてるだけだ」
隼人は理性的な言葉を返すが、サフウの話がどこか心に引っかかっていた。通り雨と九尾の狐――不気味な一致が、彼の心に小さな疑念を植え付けていた。
その時、西風が軽く笑いながら部室に入ってきた。「おい、そんなに深刻な顔してどうしたんだ?また通り雨か?」
隼人は軽くうなずき、「そうだよ。さっきまで晴れてたのに、急に降り始めた。しかも、この雨…何かおかしい気がするんだよな」と言った。
西風は窓の外をちらりと見て、「狐の嫁入りか? ま、こういう奇妙な天気は異世界の設定にでも使えそうだな。妖怪が紛れ込んでるなんて話があれば、面白いことになりそうだしな」と冗談交じりに言う。
隼人は「またかよ…」とため息をつきながらも、どこかで西風の冗談が妙に現実味を帯びて感じてしまう自分がいることに気づいていた。
「いや、本当に九尾の狐がいるなんて信じられないけどさ、もし本当にいたらどうするよ?」と隼人はふと口に出してしまった。
西風は驚いたように目を見開き、「おいおい、隼人。冗談で言ったつもりだったんだが、そんなに気にしてるのか? まぁ、俺なら狐様に敬意を表して、さっさと逃げ出すぜ」と軽く言い放った。
隼人はそれを聞いて少し笑みを浮かべ、「お前らしいな」と返すが、やはり心の中にはモヤモヤとした不安が残っていた。
その時、光が元気いっぱいに部室に飛び込んできた。「お兄ちゃん!また通り雨だね!何かワクワクしない?」
隼人は苦笑いを浮かべながら、「ワクワクするか? ただの雨だろ…」と言い返したが、光は満面の笑顔で「だって、こういう不思議なことが起こる時って、絶対何か面白いことが起こるんだもん!」と言い放った。
「お前も、サフウの話に感化されてるのかよ」と隼人はツッコミを入れたが、光の無邪気な笑顔に少しだけ心が軽くなった気がした。
だが、隼人はその後、ふと窓の外を再び見つめ、考え込んだ。
「本当に九尾の狐がいたら…俺はどうするんだ?」
それは、隼人にとって答えの出ない問いだった。
---
隼人の心の中で、九尾の狐の存在が現実と幻想の狭間で揺れ動く。その疑念は徐々に彼を支配し始め、日常の中に潜む非日常が彼の平穏を崩しつつあった。
放課後、通り雨が再び止み、気象部のメンバーたちはそれぞれの仕事に戻り始めた。隼人はまだ心に残るモヤモヤを抱えながら、教室へ向かう。今日もクラス委員として、雪菜や西風と一緒に日々の業務をこなす必要があった。
教室に入ると、すでに雪菜が黙々と書類の整理をしていた。彼女はクラス委員長として真面目に仕事をこなし、何事にも動じない冷静さがクラスメイトの信頼を得ていた。一方で、西風は、いつもの軽い調子で雑談しながらクラスメイトと和やかな雰囲気を作っていた。
「隼人、来たね」と、雪菜が手を止め、静かに隼人を見つめた。
「うん、まあね」と隼人は答えながら、ちらりと雪菜の方を見る。彼女は先日の「九尾の狐」の話をしたことなど忘れたかのように、いつも通りの冷静な態度を保っていた。しかし、その話が隼人の心にどれだけの重みをもたらしているか、彼女は知らないようだ。
「今日はクラスの提出物をまとめるだけだから、すぐに終わるわよ」と、雪菜が手際よく書類を整理しながら言った。
「そりゃ助かるよ。あんまり長引くと、また通り雨に巻き込まれそうだしな」と隼人が苦笑いを浮かべる。
そこに、西風が軽やかに近づいてきた。「おいおい、隼人。また雨の話か?このところ、あんまり通り雨が続くと、なんか狐様でも降臨したんじゃねぇかって思っちまうよな」と冗談を飛ばす。
「やめろって、そんな話」と隼人は呆れた顔をしながらも、西風の軽い冗談に少しだけ気が楽になった気がした。
「まあまあ、あんまり深刻に考えすぎると疲れちまうぞ」と西風はにやりと笑い、隼人の背中を軽く叩いた。「それよりも、さっさとクラス委員の仕事を片付けて、俺たちも自由時間に入ろうぜ。今週の提出物はほとんど揃ってるから、すぐ終わるだろ。」
「そうだな」と隼人は深呼吸をして、気持ちを切り替えることにした。
雪菜も西風も、いつもと変わらない日常を送っている。九尾の狐だとか通り雨だとか、そんな非現実的なことに囚われているのは、自分だけなのかもしれない。隼人はそう思いながら、クラスの書類整理を進めた。
しかし、どこかで雪菜が何かを隠しているような気がしてならなかった。彼女の冷静な態度の裏には、何か秘密が隠れているのではないか――それが気になって仕方がなかった。
「雪菜、何か…他に気になることでもあるのか?」と、隼人はふと問いかけてみた。
「え?」と、雪菜は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに普段の表情に戻った。「いいえ、何もないわ。ただ、少し気になることがあっただけ。」
「気になることって?」隼人はさらに問い詰める。
「それは…また今度話すわ。今はクラス委員の仕事を終わらせましょう」と、雪菜はあっさりと話題を切り替え、再び書類に集中した。
隼人はそれ以上追及することをためらい、仕事に戻った。しかし、彼女の言葉の裏には、何か重大な秘密が隠されている気がしてならなかった。
クラスの仕事を終え、隼人はようやく気象部の部室に戻ることができた。部室に入ると、いつもの見慣れたメンバーが揃っていたが、そこには何とも言えない和やかな雰囲気が漂っていた。
サフウが窓の外を見つめて、また通り雨を観察している。一方、西風はいつものように冗談を飛ばしながら、光と笑い合っている。だが、隼人の目は、部屋の隅でじっと座っている氷雨に向けられた。
氷雨は、何か考え込んでいるような表情で、持っていた本に目を落としていた。彼女の冷静さは、部の中でも際立っていて、何事にも動じないその姿は、気象部の落ち着きの象徴のようだった。
隼人が静かに氷雨に近づくと、彼女はすぐに気づき、微笑んで顔を上げた。「隼人君、また狐の嫁入り現象でも起こったの?」
「いや、そんなことないさ。ただ…ちょっと、考え事をしててな」と隼人は答えながら、視線をそらす。
氷雨は冷静な表情のまま、少し間を置いてから言った。「九尾の狐、か…あまり現実的ではないけど、こういう話って意外と楽しめるものよね。」
「そうか?俺はどうにも腑に落ちなくてさ。なんでこんなこと、急に気になり始めたのか、自分でもよくわからないんだ」と、隼人は正直な気持ちを口にする。
氷雨は軽く首を傾げ、「まあ、狐なんて見つけようとするよりも、もっと天気の勉強をしたほうがいいかもね。けど、もし本当に狐が現れたら…どうしようかしら?一緒に雨を操る特訓でもする?」と、淡々とした口調で言う。
「…それはちょっと無理があるんじゃないか?」隼人は驚いたように氷雨を見つめ、思わず笑みがこぼれた。
「冗談よ。隼人君、真面目だからね。でも、なんだかんだ言って、この気象部、狐だろうが雨だろうが、何か大きなことが起こりそうな気がするわ」と氷雨は静かに微笑む。
彼女のその冷静な中にも、どこか天然な一面が隼人を和ませる。氷雨は、普段の落ち着いた雰囲気の中に、時折予想外の発言を織り交ぜてくる。まるで雲一つない晴天の中に、突然ぽつんと雨粒が落ちてくるような感覚だ。
その会話の最中、光が急に立ち上がり、「氷雨先輩って、本当に冷静だけど、時々ボケるのが素敵だよね!そういうとこ、大好き!」と屈託のない笑顔を向ける。
「ありがとう、光ちゃん。でも、あんまり持ち上げないで。私はただ…そうね、雲みたいにただのんびり浮かんでいるだけよ」と氷雨は言って、再び本に目を落とした。
「雲か…氷雨がそういうと、何か深い意味があるように聞こえるな」と隼人が呟く。
氷雨はその言葉に気づき、またふっと微笑む。「そうかしら?でも、どんな雲だって、いつか晴れる時が来るのよ。だから隼人君も、あんまり憂鬱にならないで。」
「…ありがとう、氷雨」と、隼人は少し照れくさそうに返した。
その時、西風が大きな声で「おい、みんな!せっかくの通り雨なんだから、外に出て観察でもしようぜ!どうせ雨に濡れるんだったら、思いっきり濡れた方が楽しいだろ?」と提案する。
サフウがそれを聞いて、「それもいいかもね。どうせ雨が続いてるんだし、データ収集にもなるわ」と同意した。
「わーい!氷雨先輩も一緒に行こう!」光が嬉しそうに氷雨の手を引こうとするが、氷雨は軽く手を振って断る。
「私は少し本を読みたいから、先に行ってて。後で合流するわ」と、氷雨は穏やかな笑顔を見せた。
「じゃあ、また後でな」と隼人が言い、気象部のメンバーたちは外に向かって走り出した。
---
部室に残った氷雨は、静かに本を閉じ、窓の外を見つめた。雨はまた静かに降り続けている。その目には、何か深い思慮が宿っていたが、彼女はただ一言、静かにつぶやいた。
「…本当に、狐がいるのかもしれないわね。」
その声は、誰にも届かない、雨の音に消されるように部室に響いていた。
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