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第17話: 通り雨、人は狐の嫁入りと呼ぶ
しおりを挟む気象部の部室は、いつものように穏やかな時間が流れていた。しかし、ふいに窓の外を見ると、日が差しているのにぽつぽつと雨が降り出した。通り雨だ。
「おい、通り雨か?」隼人が窓の外を見てぼそりと呟いた。雨の降り方が妙に気に入らないらしく、眉をひそめている。
「そうだよ、人はこれを『狐の嫁入り』って呼ぶんだ」と隼人が付け加えると、部室の他のメンバーも視線を窓に向けた。
サフウがその言葉に反応し、腕を組んで得意げに解説を始めた。「そうよ、通り雨。天気が晴れてるのに雨が降る現象のことを、昔の人たちは『狐の嫁入り』って呼んでいたわ。これは神秘的な現象なのよ。」
「なんで狐なんだ?」隼人が怪訝そうに尋ねた。
サフウは軽くため息をつき、まるでその疑問が信じられないとでも言いたげな表情を浮かべている。「昔、狐は神秘的で超自然的な存在として知られていたの。人間の目に見えないもの、たとえば狐が嫁入りをしている、というふうに例えられたのね。だから晴れているのに雨が降る、不思議な現象に『狐の嫁入り』って名前がついたのよ。」
隼人は肩をすくめて、「なるほどな。でも今の時代じゃ、そんなのただの天気の悪戯だろ?」と軽く言い返した。
サフウは窓の外に目をやり、にやりと笑った。「まあ、そうとも言えるけど、通り雨って、どこかロマンチックじゃない?晴れた空からふいに降る雨なんて、まるで自然が気まぐれに泣いているみたいだもの。」
隼人は少し驚いたようにサフウを見つめる。「お前がそんなことを言うとは思わなかったよ。意外と感傷的だな。」
「何よ、失礼ね」とサフウは照れ隠しのように頬を赤らめながら、窓の外に目を戻す。「でも、気象部としてこの現象をちゃんと理解しないとね。今の気象データ、しっかりと取っておくわよ!」
すると、光が後ろから隼人の袖を引っ張り、「お兄ちゃん、急いで!サフウ先輩についていかなきゃ、また遅れるよ!」と、メグミン風の勢いで隼人を急かす。
「そんなに慌てなくても大丈夫だって」と隼人が苦笑しながら応じるも、光は隼人の腕をしっかりと掴んで離さない。
そのやりとりを横目に見ていた西風が、軽く笑いながら呟いた。「お前ら、本当に変わらねぇな。まるで子供みたいだぜ。」
「何だよそれ?俺たちが子供だって?」隼人が憤慨したように言い返す。
西風はその言葉に構わず、まるで話を逸らすかのように狐崎に耳打ちする。「あんたも、そんな狐の嫁入りの話がバレそうになったら、うまく誤魔化せばいいさ。誰も核心には触れないからさ、ボロを出さなければ。」
狐崎は目を細め、西風に冷静な声で応じた。「ふむ、どうやらあんた、なかなか鋭いね。でも、私の正体を突き止められるほど賢いかどうかは別問題だ。」
西風は肩をすくめ、「俺の愛読書の主人公だって、狐に関わるような大変なことを避けて通ってきたんだ。だから、あんたもその路線でうまくやればいいさ。」とカズマを思わせる口調でさらりと応じた。
狐崎は首をかしげながら、「カズマって誰?」と怪訝そうな顔をする。
「気にするな、俺の愛読書の小説の主人公だ。まあ、アイツは良いやつだから問題ない」と、これまた軽く返す西風。
その時、光が再び隼人の袖を引っ張りながら、「お兄ちゃん!サフウ先輩、もう行っちゃうよ!早く!」と焦った声で急かし続けていた。
隼人は渋々動き出し、「はいはい、わかったよ。お前、ちょっと落ち着けよ…」と、ため息混じりに応じた。
サフウはその光景を見て、再び胸を張り、「さぁ、気象部 with 九尾の狐様で通り雨に関するデータ採集を始めましょう!」と大げさに宣言した。
部室は一気に活気づき、サフウの号令のもと、全員がそれぞれの役割を持って動き始める。
氷雨も無表情ながら淡々と機器を調整し、淡々とつぶやく。「通り雨は貴重な観察対象だから、しっかりと記録を残しておかないと。」
雷堂も一緒に作業を手伝いながら、「これ、陸上部のトレーニングに役立つかもね」とぼんやりと思案する。
サフウの宣言で始まったこの通り雨の観測が、狐の嫁入りにまつわる神秘的な話と結びつき、気象部員たちはそれぞれの思惑を胸にデータ採集を進めていく。
通り雨が一瞬のうちに止んで、再び窓から日差しが差し込んだ頃、部室にいた他の部員たちも反応し始めた。西風が興味深げに窓の外を覗き込みながら、にやりと笑う。
「ほう、狐の嫁入りか…。なんだか、これもファンタジー世界の設定に使えそうなネタだな。妖怪が人間界に紛れ込んでるなんて、ちょっとロマンがあるじゃねぇか?」西風は軽い調子で言ったが、その目は真剣だった。
光もその話に乗り気になり、目を輝かせながら「お兄ちゃん!狐の嫁入りなんて素敵な名前だね!なんだか夢が広がるよね!こういう現象が異世界でも起こるって考えたら、すごくワクワクする!」と、隼人の肩を揺さぶりながら興奮気味に言った。
「おいおい、揺らすなって。そんなに興奮することか?」隼人は苦笑しつつ、妹分の光に目を向けた。
「だって、現実でもこんなに不思議なことがあるのに、異世界だったらもっと不思議なことがいっぱいあるはずでしょ!例えば、空に浮かぶ島から水が降ってきたり、魔法で操られた風が村を守ってたり…!」光は止まらぬ妄想に浸りながら、次々とアイデアを口にする。
「お前、妄想がすごすぎるぞ」隼人は思わず頭を抱えたが、西風はその光のアイデアに共感し、口元に笑みを浮かべた。
「おいおい、光。お前、結構センスあるじゃねぇか?その設定、俺も使わせてもらうぜ。異世界創作部として、これは放っておけないな」と、西風は冗談めかしながらも、どこか本気で言っていた。
「やった!私も異世界創作に参加しちゃおうかな!」と光は満面の笑みを浮かべた。
「おい、西風、光までそっちの世界に引きずり込むなよ。こいつは気象部の一員だぞ?」隼人は呆れたようにツッコミを入れたが、西風は悪びれる様子もなく、「大丈夫だって。二つの部を兼任すりゃいいじゃねぇか。創作と気象、どっちも楽しむのが正解だろ?」と軽く流した。
「それに、これまでの異世界部とのコラボは大成功だったしな」西風が軽く笑うと、光も頷きながら「そうだよ!異世界でも現実でも、どっちも楽しいのが一番だよね!」と、嬉しそうに答えた。
サフウはそのやり取りを見ながら、腕を組んで少し考え込んだ。「まったく、みんな好き勝手なこと言って…でも、気象と異世界創作のコラボって、案外面白いかもしれないわね」と、つぶやいた。
隼人は苦笑しながら、「いやいや、サフウまでそっちに引きずられるなよ…」と返したが、サフウはどこか楽しげに目を輝かせている。
「ま、いいじゃない。異世界創作部と気象部、実は相性が良いかもしれないし、私たちのデータを使ってもっとリアルな異世界を作るのも悪くないわよ。さっきの通り雨だって、異世界で神秘的な現象として使えそうだし!」と、サフウは意気込んで言った。
「え、そんなにノリノリで話が進むのか…?」と隼人はやや呆れつつも、どこか楽しそうにそのやり取りを見守っていた。
光はそんな隼人に近寄り、ふわっとした笑顔を浮かべて「お兄ちゃんも、もう少し創作に参加してみたら?絶対楽しいよ!」と勧めてくる。
「いや、俺はいいよ。お前らみたいにノリが良くないしさ…」隼人はそう言いながらも、心のどこかで少しだけその提案が悪くないと思っている自分に気づいていた。
「ったく、限界だな」と隼人はついに深いため息をつき、立ち上がると、少し強めの声で皆に言い放った。
「お前ら、いい加減にしろ。俺たちは気象部だろ?今回は異世界創作部とのコラボでも何でもないんだぞ。特にサフウ、お前部長だろ?前回の異世界部とのコラボに引っ張られすぎだっての!」
部室にいたメンバーはその言葉に一瞬驚いて静まり返った。光も、西風も、ついさっきまでの盛り上がりが急に止まり、気まずそうに隼人を見つめる。
サフウは、いつもの自信満々の態度とは違い、少しだけ眉をひそめた。しばらくの沈黙の後、腕を組み直し、軽くため息をつく。
「はいはい、わかってるわよ、隼人。でもさ、少しぐらいは楽しんでもいいじゃない。異世界部のこと、気にしてるわけじゃないけど…まあ、あの時はちょっとハマりすぎちゃったかもね」と、最後は少し照れくさそうに言い訳をする。
隼人は、サフウの言葉にツッコミを入れたくなったが、少し笑みを浮かべながら肩をすくめた。「まぁ、いつもならそれで済むけど、今は気象部の本来の仕事があるんだからな。しっかりしろよ、部長。」
サフウは軽く頷きながら、「そうね、今回は本気でやるから。だからそんなに怒らないでよ」と、少しツンとした態度で言ったが、その後にふっと柔らかな笑みを浮かべた。
西風がその様子を見て、冗談めかした口調で「おっと、これは本気モードのサフウ様が出てくるってわけか?」とからかうと、サフウは軽く彼を睨んで「当然でしょ。異世界ばかりじゃなくて、ちゃんと気象部としての責任も果たさなきゃならないわ」ときっぱり言い放った。
「わかったわかった、俺も真面目にやるさ」と西風が肩をすくめて答え、光も小さく手を挙げて「私も頑張るね!お兄ちゃん、ちゃんと気象部の仕事もするよ!」と元気よく宣言した。
隼人は一安心したように頷きながら、「よし、じゃあ早速仕事に戻るか」と言い、部室の雰囲気が少し落ち着きを取り戻した。
だが、その瞬間、サフウが少し顔を赤らめながら小声で付け加えた。「でもさ…気象部だって広報出せるくらいになったら、小説とかも書けるかもしれないじゃない…って、なんでもないわ!忘れて!」
隼人はその言葉を聞いて一瞬驚いたが、すぐに笑みを浮かべ、照れくさそうにしているサフウに向かって「おいおい、そういうこと言うなら、もっと早く言えよ。そんなの…お前らしくないぞ」と、軽く肩を叩いた。
サフウは真っ赤な顔で「うるさい!あんたが変に突っ込んでくるからよ!」と、いつものようにツンとした態度を見せたが、その顔には確かに少しばかりの照れが残っていた。
シーン: 通り雨と狐の嫁入り
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静かな午後、突然の通り雨が降り出した。太陽はまだ空にあり、薄い雲がかかっているだけなのに、ぽつぽつと小雨が降り注ぐ。雨音が静かに響き渡り、気象部のメンバーは窓の外を見つめていた。
隼人がつぶやく。「妖怪なんているわけないだろ?ましてや、殺生石の九尾の狐とかさ。マジでありえんって。」
その声に、サフウが振り向き、ニヤリと笑って「もしかしたら、クラスに九尾の狐が紛れているのかもね?」と冗談めかした調子で答える。
「はぁ?」隼人は眉をひそめた。「何言ってんだよ?そんなの、ただの伝説じゃん。クラスに九尾の狐がいるわけないだろ?」
サフウはいつものように自信たっぷりな顔で腕を組む。「隼人、あんたって本当に現実主義ね。だって、こういう不思議な現象って、いつだって何か背後に謎が隠れているものよ。それに、伝説だって何かの元ネタがあって生まれたんだから、可能性はゼロじゃないわ。」
西風が軽く肩をすくめて「さすがに夢見すぎだな、サフウ。でもまあ、不思議な現象ではあるよな。この雨、降ったり止んだりしてるし。何が原因なんだか…もしかしたら、通り雨だけで日本に解説書ができるんじゃないか?」と冗談を交えつつも、どこか真面目な顔で言った。
隼人は窓の外を見上げながら、首をかしげる。「確かに、こんな雨が急に降り出すなんて変だよな。でも、九尾の狐とか、そういう超常現象に結びつけるのはやりすぎだろ?」
「だから面白いのよ!」サフウが強調する。「こういう突飛な話題があるからこそ、気象現象にももっと注目が集まるのよ。現実に即した話ばかりじゃつまらないでしょ?」
「それにしたって、狐の嫁入りなんて話が出てくるのが笑えるだろ」と、西風が少し笑いながら付け加える。
通り雨が小降りになり、外の景色が柔らかな光に包まれ始めた。隼人は、いつもの調子でため息をつきながら「ったく、そんなこと言ってたら、本当に狐が現れるぞ」と冗談交じりに言い、窓の外をじっと見つめ続けた。
ふと、木々の間に一瞬だけ金色の影が見えたような気がして、隼人は目を細めた。「ん?今…?」
サフウがその様子を見逃さず、「何か見えた?」とからかうように問いかける。
「いや、別に…ただの気のせいだろ」と、隼人は肩をすくめながら答えたが、心のどこかで妙な違和感が残っていた。
通り雨が完全に止み、空は再び晴れ渡った。静かに風が吹き、狐の嫁入りの話はそのまま気象部の話題に溶け込んでいった。しかし、隼人の心の中には、先ほどの金色の影がちらつき続けていた。
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シーン: 九尾の狐の影と部員たちの動揺
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隼人が狐の影を感じながら部室に戻ると、サフウが他のメンバーを集めていた。彼女は腕を組み、窓の外を見つめていたが、隼人が近づくと振り返り、にやりと笑みを浮かべた。
「もしかして、クラスに本当に九尾の狐が紛れているかもね?」と冗談めかしながら言った。
「おいおい、またその話か?」隼人がツッコミを入れると、西風も加わった。「まぁ、俺もあの通り雨はちょっと怪しいと思ったけどな。あれ、狐の仕業じゃなきゃ説明つかねぇだろ。」
光が興奮した様子で、「じゃあ、本当に狐がいるかもしれないってこと?」と目を輝かせた。
「光、お前まで巻き込まれるなよ。」隼人はため息をつきながら言ったが、サフウが続けた。「九尾の狐が気象に関わるなんて、面白いわよね。もしかしたら、この雨も狐の力かもしれないわ。」
「そりゃあり得ないだろ」と隼人は笑ったが、その笑みにはどこか不安の色が見えた。
こうして、気象部のメンバーたちは冗談混じりに「九尾の狐」の話題を探りながら、不思議な通り雨とその背後に潜む謎を追い始めることになった。
シーン: 九尾の狐の存在を知った瞬間
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夕方、部活が終わり、隼人が校舎の廊下を歩いていた。その日は通り雨の後、晴れ間が広がっており、何も特別なことは起こらないはずだった。しかし、何か妙な違和感を感じ続けていた。
突然、後ろから声がかかった。
「隼人君、ちょっといい?」
振り返ると、そこにはクラスメイトの女性で、生徒会の一員でもある雪菜が立っていた。彼女の黒髪が夕日に照らされ、静かに揺れている。いつもとは違う、どこか真剣な雰囲気が漂っていた。
「雪菜か。どうした?何か用か?」隼人は肩の力を抜いて軽く手を振ったが、雪菜の表情を見て、その軽口を後悔した。彼女の目は、何かを告げようとしている。
雪菜は辺りを見回し、誰もいないことを確認してから、静かに口を開いた。「あの…隼人君、ちょっと信じられないかもしれないけど、学校には本当に妖怪がいるの。九尾の狐、知ってる?」
「は?」隼人は驚いて聞き返した。「冗談だろ?妖怪なんて…九尾の狐だって…そんなの聞いたことないぞ?」
雪菜の瞳は隼人をまっすぐ見つめ、冗談ではないことを伝えていた。「本当なの。私、見たのよ。狐の耳を持つ人物を…この学校で。」
その言葉に、隼人は思わず息を飲んだ。「え、本気で言ってるのか?九尾の狐が…ここに?」
「今日の通り雨も、それに関係してるんじゃないかと思うの。古い言い伝えでは、狐が人間の世界に関与すると、天気が急に変わることがあるって話を聞いたことがあるわ。」
隼人はしばらく黙っていたが、今日の通り雨を思い返す。その時、なぜか感じた違和感。まさか、あれが…?
「いやいや、そんなバカな話があるわけないだろ。九尾の狐なんて、伝説上のものだし、現実にそんなこと…」
「でもね、隼人君。」雪菜は一歩前に出て、さらに真剣な表情を見せた。「校庭の端で見たんだ…狐耳を持つ誰かを。それが何者なのかまではわからないけど、注意しておいたほうがいいと思う。」
隼人は一瞬、雪菜の言葉を信じかけたが、頭を振って現実に戻った。「お前がそんなことを本気で言うとはな…。でも、九尾の狐だなんて、そんなものが実在するはずがないよ。」
「信じるか信じないかは任せるわ。でも、今夜何かが起こるかもしれない。その時は気をつけて。」そう言って、雪菜は静かに去っていった。
隼人はその場に立ち尽くし、心の中で葛藤が渦巻いていた。狐の耳…狐の尾…まさか、そんなことが本当に起こるわけがない。だが、今日の奇妙な通り雨、そして雪菜の真剣な目が、彼の中に小さな疑念を残した。
部室に戻ると、サフウが窓の外を眺めながら軽く言った。「ねぇ、隼人。もしかしたら、クラスに本当に九尾の狐が紛れ込んでるんじゃない?」
隼人は肩をすくめ、苦笑しながら答えた。「まさか、そんなわけないだろ。でも、ちょっと変な話を聞いたんだ。誰かが…狐の耳を持っているのを見たって。」
サフウは振り向き、興味深そうに目を輝かせた。「え?本気?隼人、それってかなり面白いじゃない。まさか本当に妖怪がいるってこと?狐の嫁入りの話、ただの迷信じゃなかったりして!」
「おいおい、冗談じゃねぇって…。いや、何もかもが変だ。九尾の狐なんているわけないんだよ…たぶん。」隼人は言いながらも、心の奥底で何か不安が広がっていくのを感じていた。
その時、西風が部室に入ってきて、ニヤリと笑いながら近寄ってきた。「おっと、面白い話をしてるみたいじゃねぇか。妖怪の話ってのは、やっぱりロマンがあるな。九尾の狐か…そいつ、どこにいるんだ?」
隼人は半ば呆れたように答えた。「お前まで乗るなよ。そんなの信じるわけないだろ。狐がこの学校にいるとか…」
「まぁ、見つかりゃ面白いけどな。」西風は肩をすくめて、からかうように隼人を見た。
光がその話に興奮した様子で飛び込んできた。「お兄ちゃん!妖怪の話?狐の耳だって?すっごく楽しそう!」
隼人はため息をつき、「光、お前まで…。こんな話、ただの噂だって。」
だが、彼自身の心の中では、もはや単なる噂では片付けられない何かが渦巻いていた。
狐の耳…本当に、この学校に九尾の狐が紛れ込んでいるのか?
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この瞬間、隼人はただの噂話だと思っていた妖怪の存在が現実味を帯び始めた。部室に戻り、九尾の狐の謎を追いかける気象部のメンバーたちと共に、次第に隠された真実に迫ることになる。
隼人の独白
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"本当に九尾の狐がいるってのか…?"
そんなこと、普通なら笑い飛ばして終わりだ。誰だって「妖怪が学校に紛れ込んでる」なんて話を聞けば、冗談にしか思わない。俺だって、最初はそうだった。狐の耳?尾?そんなのが現実にいるわけがない。だけど、雪菜の真剣な表情、そしてあの不自然な通り雨…何かが引っかかっている。
俺の頭の中では、今日の出来事がぐるぐると渦巻いていた。どうしてこんなに落ち着かないんだろう。おかしいじゃないか。気象部での日常、サフウや西風、光と一緒に過ごす時間が、こんなに変わり始めるなんて思わなかった。通り雨が降って、それだけで終わるはずだったのに…。
雪菜が見たという「狐耳の人物」――それは本当に現実のものなのか?いや、たとえ雪菜が真剣だとしても、そんなことが現実に起こるはずがない。冷静に考えれば、ありえない話だ。
でも、それでも――
「今日の通り雨も、それに関係しているかもしれないわ」
雪菜の言葉が頭から離れない。九尾の狐が現れる時、天候が急に変わるという話。昔の伝承の話だろう? そう思うのに、どうしてこんなに気になるんだ?
サフウがふざけて「九尾の狐がクラスに紛れ込んでるかもね」と言った時、いつものように適当に笑って流そうと思った。俺はそういう非現実的なことに興味があるタイプじゃないし、気象部としてやるべきことは、ただの気象現象を研究して、データを取るだけだ。通り雨も、気象学的には特に珍しいものじゃない。ただ、それだけだ。
それなのに…。
俺は本当にそう思っているのか?心の奥底では、どこかで期待している自分がいるのかもしれない。もし本当に九尾の狐がいたら――もしそれが現実のものだったら?そんな非現実が、この退屈な日常に突然飛び込んできたら、一体どうなるんだろう。
俺は――いや、俺たちは、それをどう受け入れればいいんだ?
気象部での活動は、決して退屈じゃない。サフウが毎回のように新しいアイデアを持ち込んで、西風は冗談を交えながらも的確なアドバイスをくれる。光はいつも明るく、何にでも興味津々だ。俺にとって、この部活は大切な居場所だし、部員たちとの時間も悪くない。
だが、もし本当に九尾の狐がいたら――それはこの平穏な日常を一瞬で壊すかもしれない。それでも、俺はその現実を受け入れる覚悟ができているのか?
――いや、まだそんなことを考える必要はない。現実的に考えれば、そんなことが起こるはずがない。俺は理性的に、冷静にこの状況を見ていればいい。変なことを考えるのはやめよう。
だが、胸の中で湧き上がるこの不安と好奇心は、消えるどころか、ますます強まっている。
「お兄ちゃん、大丈夫?考え込んでるみたいだけど…」
光の声が背後から聞こえて、俺はハッとした。振り返ると、彼女が心配そうに俺を見上げていた。俺が何を考えていたかなんて、もちろん彼女には分からないだろうけど、その無邪気な笑顔に少しだけ救われた気がした。
「いや、大したことじゃないよ。ただ、ちょっと考え事してただけだ」
そう答えると、光はニコッと笑って「お兄ちゃん、いつも真面目だよね。でも、私たちがいるんだから、大丈夫だよ!」と励ましてくれた。
この無邪気さが俺には救いだ。たとえ九尾の狐がいようがいまいが、こうして光やサフウ、西風と一緒にいる限り、何があっても大丈夫な気がする。いや、そう思うようにしよう。
だが、心のどこかでは、まだ九尾の狐の存在を否定しきれない自分がいる。そして、そんな自分に戸惑い、どうしてもその正体を突き止めたいという欲望が渦巻いていた。
「…狐の耳、か。」
思わず呟いたその言葉が、自分でも信じられないほど現実味を帯びて聞こえた瞬間、俺は自分の心の中で、すでにその謎に足を踏み入れてしまったことを感じた。
もし本当に妖怪がいるなら、俺はそれを見つけ出す。たとえ、それが日常を大きく揺るがすものだとしても――。
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隼人の独白は、彼の内面の葛藤と期待、そして日常への愛着が交差する瞬間を描いている。彼の疑念と好奇心は、これから待ち受ける非日常への序章となる。
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