「天気予報は気まぐれガールズ」

トンカツうどん

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第6話: サフウと放課後

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放課後の空は、鈍く重たい雲に覆われ、どこか薄暗い。校舎の外に出ればすぐにも雨が降り出しそうな気配があった。サバイバルゲーム部との合同活動が無事に終わり、隼人たちは片付けを終えた。部室はすでにひっそりとしており、今や静寂に包まれていた。だが、隼人はまだ部室に残り、机に突っ伏している。

原因は、彼の頭を襲う激しい偏頭痛だ。

隼人は昔から、気圧の変化に敏感だった。特に、今日のように天気が悪くなると、頭が締め付けられるような鋭い痛みがこめかみから襲ってくる。偏頭痛は慢性的なもので、彼にとっては付き合いの長い「敵」だった。普段なら冗談を言ってやり過ごせるものの、今日はその余裕がなかった。低気圧が急激に近づいているせいか、痛みが増しているのを感じていた。

隼人: 「…くそ、またかよ。どうしてこう低気圧が来るたびに、頭が割れそうになるんだ…。」

彼はぼそりと呟き、机に伏せたまま苦しそうにため息をついた。目を閉じると少しは楽になるが、それでも痛みが引くわけではない。こめかみからじんじんとした痛みが広がり、どうにもならない苦しさに顔をしかめた。

そんな彼のそばには、サフウが立っていた。いつものように強気な態度を崩さず、彼女は腕を組んで隼人を見下ろしていたが、内心では少し心配しているのがその瞳に見え隠れしている。彼女もまた、気圧の影響を感じているが、それは隼人ほど深刻ではない。むしろ、天候に合わせたかのように、彼女は自然に振る舞っていた。

サフウ: 「なに、また偏頭痛?本当に手がかかるわね、あんた。」

その言葉には冷たさを装っているような響きがあったが、実際には隼人を気遣っているのが感じられた。しかし、サフウは自分の心配を表に出すことが苦手で、いつもの強気な態度を崩せずにいた。

隼人は机に伏せたまま、彼女の言葉に少しだけ反応した。重い頭を動かすのも億劫だったが、サフウの声にだけは何とか返事をしなければと思ったのだ。

隼人: 「あぁ、低気圧が来るたびにこれだ…。お前にゃ関係ないだろうけど、俺には地獄みたいなもんだ。」

隼人の声は弱々しく、普段の冗談めいたトーンが消えていた。いつもなら軽口を叩いて場を和ませるのが彼のスタイルだが、今日はそんな余裕すらなかった。サフウはその姿をじっと見つめ、わずかに眉をひそめた。

サフウ: 「ふん、何をグズグズしてんのよ。そんなに辛いなら、さっさと帰ればいいのに。」

サフウは冷ややかな声で言ったが、その裏には隼人を助けたい気持ちが見え隠れしていた。しかし、彼女は自分の弱さや優しさを認めるのが苦手で、いつものように強がってしまうのだった。隼人はその様子に気づきながらも、返す言葉が見つからず、ただ苦笑するだけだった。

隼人: 「…帰りたいさ。でも、頭痛がひどくて動けねぇんだよ。」

隼人は再びため息をつき、机に顔を埋めた。サフウは彼のその言葉に少しだけ同情しながらも、強がることをやめなかった。彼女にとって、隼人を心配することはあっても、それを素直に表現することはプライドが許さなかったのだ。

サフウ: 「あんたって本当に手がかかるわね。でも、特別に私が一緒に帰ってあげるわよ。感謝しなさい!」

彼女は強気な口調で言い放ちながら、腕を組んで顔を背けた。隼人の目に見えるのは、サフウの横顔と、微かに紅潮した頬だった。彼女なりに心配してくれているのは隼人にもわかっていたが、サフウの態度がそれを素直に表現できないことも彼は知っていた。

隼人: 「お前が一緒に帰るって…?またどっかに連れ回されるんじゃないだろうな?」

隼人は冗談めかして言ったが、その声にはどこか本気で警戒している響きがあった。サフウに引きずられて、何度も予想外の場所に連れて行かれた経験があるからだ。

サフウはその言葉に対して軽くため息をついた。

サフウ: 「なによ、信用してないの?今日は本気で心配してあげてるってのに!」

彼女の言葉には少し苛立ちが混じっていたが、その苛立ちは隼人が彼女の気遣いを感じ取らないことに対するものだった。彼女にとって、素直に助けたいと思うこと自体が珍しいことだったのだ。

隼人: 「わかったよ…。お前の気遣いを受け取ることにするさ。今日はお前に逆らう気力もないしな。」

隼人は頭を重そうに持ち上げ、何とか立ち上がろうとしたが、まだ頭痛が収まらない。サフウはそんな彼の腕を軽く掴み、無理にでも立たせようとした。その動きには、どこか優しさが感じられた。

サフウ: 「ほら、さっさと立ちなさいよ。あんたを振り回すのは私の仕事なんだから!」

サフウは得意げに言いながら、隼人の手を引いて外へと導いた。隼人はその強引さに少し呆れつつも、彼女の言葉の裏にある優しさを感じ取っていた。

隼人: 「ほんとお前ってやつは…。まあ、今日は素直に付き合ってやるか。」

隼人は微かに笑みを浮かべながら、サフウの後を追った。彼女の手に引かれて歩くうちに、頭痛も少しだけ和らいでいく気がしていた。


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外に出ると、冷たい風が隼人の頬を撫でた。重たい雲が空を覆っているが、まだ雨は降っていなかった。サフウは立ち止まり、空を見上げる。

サフウ: 「ねぇ、せっかくだからどこか寄り道でもしない?どうせ帰るだけじゃつまらないでしょ?」

サフウの声は、いつもより柔らかかった。隼人はその提案に少しだけ考え込んだが、結局頷いた。

隼人: 「お前がそこまで言うなら、付き合ってやるさ。帰る途中で何か食べようぜ。」

サフウは満足げに頷き、隼人を再び引っ張って歩き出した。彼女の背中を見つめながら、隼人は微かに笑みを浮かべ、頭痛も徐々に薄れていくのを感じていた。


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ふたりはそのまま街へと向かい、夕方の冷たい風に当たりながら歩いた。サフウが「寄り道しよう」と提案した先は、隼人が好きなハンバーガーの店だった。ふだんは強気な彼女だが、どうやら隼人が少しでも楽になるように気を使っているらしい。

店に入ると、隼人は少し戸惑いながらも、座った席でサフウと向き合った。彼女が自分のためにこんなことをするなんて滅多にないことだと思いながら、ハンバーガーを頼んだ。

隼人: 「おいおい、お前が俺にハンバーガーを奢ってくれるなんて、どういう風の吹き回しだ?」

隼人は半分冗談めかして言ったが、サフウは眉をひそめ、頬をほんのり赤く染めながら顔をそらした。

サフウ: 「別に、今日はあんたが体調悪そうだから…それだけよ。変な勘違いしないで。」

彼女は照れ隠しをするように、少し強い口調で答えたが、その仕草がいつもより少しだけ可愛らしく見えた。隼人はそんなサフウの様子に気づき、少しからかうような言葉を口にした。

隼人: 「ふーん。俺のこと、そんなに心配してくれてたんだ?いやぁ、嬉しいな。もしかして俺のこと、ちょっと好きなんじゃないか?」

その言葉に、サフウの顔は一瞬で真っ赤になった。彼女は急いでハンバーガーの包装紙をガサガサと無意味にいじり始め、視線をどこにも定められない様子だった。

サフウ: 「ば、バカなこと言わないでよ!そ、そんなことあるわけないでしょ!ただ、あんたがこのまま倒れでもしたら面倒なことになるから、それだけよ!」

彼女の言葉には明らかに動揺が混じっていて、隼人はその反応を見て少し笑った。

隼人: 「ああ、そうか。俺の面倒を見るためか。それなら、今日はお前の優しさに甘えて、素直にありがとうって言っておくよ。ありがとな、サフウ。」

隼人が真剣に感謝の言葉を口にすると、サフウはさらに慌てた様子で顔を背けた。今まで強がってばかりいた彼女にとって、隼人からの真摯な感謝は予想外だったのかもしれない。

サフウ: 「…別に、私はただ…。うう、もう!何でもない!さっさと食べて、帰ったら薬買って寝なさいよ!」

そう言いながらも、彼女の顔は完全に赤くなっており、隼人はその様子にますます面白さを感じていた。しかし、これ以上からかうのも悪いと思い、隼人は笑顔のままハンバーガーにかぶりついた。


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食事を終えた後、サフウは隼人を近くの薬局へ連れて行った。彼の偏頭痛を少しでも和らげるために薬を買わせるためだ。

サフウ: 「ほら、ちゃんと薬買って、今日はさっさと寝なさいよ。」

彼女は少しぶっきらぼうに言ったが、その声には優しさが滲み出ていた。隼人はそんなサフウの気遣いに再び感謝の念を抱きつつも、彼女をまた少しからかうことにした。

隼人: 「ふむ、俺が寝てる間にお前が俺の看病でもしてくれるのか?そりゃありがたいなぁ。」

隼人のその言葉に、サフウは一瞬口を開けて驚いたような顔をしたが、すぐにまた慌てて顔を背けた。

サフウ: 「そ、そんなわけないでしょ!あんたの世話なんかしてられないわよ!自分で何とかしなさい!」

完全に顔を赤くしてそっぽを向いたサフウの姿に、隼人はまた微笑みながらその場を後にした。

隼人: 「わかったよ、わかった。お前には世話にならないよう、ちゃんと自分で薬飲んで寝るさ。ありがとな、サフウ。」

隼人の優しい言葉に、サフウは何も言い返さず、ただ頷いただけだった。

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