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いざ、真剣勝負の世界へ

ジーゴ、初陣の前

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 皇居の外壁の門をくぐると受付はすぐそこにあった。
 組み立て式のテントがいくつも並んでいる。

「界王杯一般参加受付」

 一番手前のテントから外に向けて、そのように書かれた大きな手作りの看板が掲げてあった。
 馬車から降りてすぐ戻ってきたのも頷ける。

「あ、あの、この札……」

 ジーゴにはその種族は分からないが、受付には二人の男性がいた。
 二人は顔を見合わせると、特に嫌そうな顔をするわけでもなく、かといって歓迎するような感じでもなく、ただ、淡々と手続きを済ませていく。

「人数が揃うまでお待ちいただきますが、それまでは控室にて準備を整えるなりしてください」

 テントの奥の方から、控室までの案内役らしい別のスタッフが現れる。

「こちらです」とジーゴを先導して中に入る。

 建物の中に入るとロビーがあり、少し奥に進むと左右の壁沿いに扉がいくつか並んである。
 手渡されたパンフレットを確認する。
 皇居内の案内図が印刷されており、それによるとそのすべてが参加者の控室になっているらしい。

 案内された扉の前。開けて中に入ると横に長い部屋となっていた。
 ジーゴが部屋に入ると右に長くなっていて、左手はすぐ壁。
 つまりジーコから見て右奥の方に、すでに七人待機していた。
 ジーゴが八人目。締め切りの時間までまだ余裕はあるが、このまま参加者がいなければ四人一組の二グループでリーグ戦が始まるということだ。

 種族もバラバラ、年齢もまちまち。
 それでもジーゴのような子供の姿はほかにいない。
 しかしだからといって、ジーコに好奇心や関心を持つ者もいない。
 何人かは談笑している。その様子を伺うと、以前から顔見知りらしい。
 その者達以外は特に親し気にするわけでもない。周りを気にせず気持ちを集中している者もいれば退屈そうにしている者もいる。

 ジーゴは右も左も分からない。
 だからといって、この中の誰かに何か声をかける気分にはなれない。
 参加を受け付けてはもらえたが、組み合わせの発表はまだ先のようだ。店主達に報告できることもない。

 今現在八人。人数がこのままだと、四人一組だから二人が予選を勝ち抜くことになる。
 しかし、店主はこう言っていた。
 全勝した者が勝ち抜ける、と。

 つまり、一敗でもしてしまえば組み合わせの中で優勝できたとしても予選突破はできない。
 組み合わせはランダム。
 つまりジーゴよりも圧倒的に強い者達が組み合わせのメンバーに入ってくるかもしれないのだ。
 過去を断ち切るために参加するどころではない。

 かと言って、納得できるまで何度も参加を申し込むのも、自身が参加する意義が薄まる気がしてその気になれない。

 ジーゴは周りに気付かれないほどの小さいため息をついた。

 …… …… ……

「……で、あの子供、有望なのか?」

 馬車の中では、ジーゴが去った後、元法王が店主に問いかける。

「さぁな。自分の心次第。そして相手次第だろ。予選の組み合わせなんて、受付が適当にくっつけてるだけなんだからよ」

「保護者の立場のくせに随分な突き放しようだな。対局は見たんじゃろ? 具合はどうなのだ?」

 この元法王もそれなりに力はある。
 気まぐれで店主が何度か相手をしたが戦績は五分五分。

「相手の戦法に合わせるって感じだな。相手が確実に陣地を囲うなら、少ない手数でそれよりも広く陣取る。相手が広く陣取ってくるなら、その陣地の内部から食い破る。戦法は様々心得てるっぽいがその分予想外の手を打たれると泡食う感じだ。研究不足っつーか、やられた経験が実になったって感じだな。せめて対局の経験が数多かったらいいとこまで行きそうな気はするんだがな」

「ふむ……。む? 来たようじゃぞ? ……いつの間にか締め切りの時間が過ぎておったようじゃ」

 馬車の客車のドアが開く。
 ジーゴが店主の言いつけを忘れずに報告に来た。

「これから試合だって」

「対局、な」

「あ、うん。対局。で、俺と後二人の三人一組になった」

「するとリーグ戦というわけじゃな。一敗したらそのリーグ戦では一位にはなれん。優勝しても予選突破できんという無念さは出てこない分、結果だけを考えれば連勝のみ求められるというわけじゃ」

「その通りだな。じゃ、俺らは戻る。後はお前の思う通りの道に進んでけ。健闘を祈る。勝ちは祈らん。相手だって勝ちたがってるだろうから、祈った通りの結果になることは難しいからな」

 ジーゴの報告を受け、店主はひねくれた激励の言葉を追加する。
 そして今度はジーゴの見送りを受けながら、店主と元法王を乗せた馬車は停車場から走り去っていった。

 …… …… ……

 馬車の中の店主と元法王の会話の少し前の、ジーゴも待機していた控室。
 ドアからノックの音が聞こえて、大会スタッフ二人と一人の少女が入室する。

「参加者一人が加わりまして、本日の受付時間が終了となりました。九名ですので、三人一組のグループになっていただき、リーグ戦形式で進めてまいりたいと思います。それぞれの対局場へ案内しますので、荷物をお持ちになってついてきてください」

 皇居の一般立ち入り範囲内の中の、さらに奥に案内するスタッフ。

「まずはこちらの部屋に、最初に控室に入られた三名の方、どうぞお入りください」

 ジーゴが控室に入室したときに、部屋の奥で懇談していた三人のうちの二人と暇そうにしていた一人が入る。
 その隣の部屋に他の三人が入って行き、残ったのはジーゴと、懇談していた一人の年老いていそうな馬の半獣、いわゆるセントール族。、そしてスタッフと一緒に入室してきた、ジーゴよりも幼そうな、一見人族の少女。

 対局会場の部屋への入室を促され、入る三人。

「少々お待ちください」
 と一言を残してスタッフは退室。

 会場となる部屋の広さは、控室の半分くらい。
 雑談の楽しい思いがまだ続いているのか、セントール族の年配者はニコニコしたまま。
 少女は控室に入ってきた時から不機嫌そうな顔を一つも変えないまま。
 気まずいという気持ちはないが、ジーゴには何となく居心地が悪い。
 そんな中、老が二人に声をかけてきた。

「随分若い二人が相手になるんじゃな。よろしくな、二人とも」

「よろしくするつもりなんかないね。勝ち続けなきゃ、あたしの生きていく場所なんて他にないんだから」

 年配らしく気を配って、この場を和やかにしようとしたのだろうが、少女はピシャリとその気配りを遮断する。

 店主から、気持ちを乱しやすい欠点を指摘されたジーゴ。なるべく無関心でいようと努める。

「まぁまぁ、そう言いなさんな。ワシはセントールのライオーっちゅうもんじゃ。よろしくな。二人の名前教えてくれんかの?」

「ジーゴ」

 即座にジーゴは名前だけを答える。

 交流を求めるつもりもなかったが、殺伐とした雰囲気にしたいとも思ってるわけでもない。
 呼び名くらいは伝えても気持ちがぶれることはないだろう。むしろとことん無愛想にすることで、逆にこちらの気持ちが揺らぐことも有り得ることも考えた。

「雑魚相手に名前名乗って、なんか意味あんのかよ!」

 その無愛想を貫くつもりの少女。
 部屋の中のその声の反響が静まった頃にスタッフ数人が入ってくる。

「確認します。セントール族のライオー=マイワー選手、エルフ族のジーゴ=トーリュ選手ん、ドワーフ族のミイワ=ナルファさんの三名でよろしいですか?」

「ライオーで合っとるよ。にしても、エルフの坊やはともかく、ドワーフ……」

「ドワーフで悪ぃかよ!」

 名前だけでは同姓同名の可能性もあり、より正確性を高くするため種族の確認もする規則もあるのだが、老セントールばかりではなくジーゴも少女の種族に驚く。

 この種族は年齢性別問わず、服装を問わず筋肉の凹凸と体の線の横幅が目立つ。
 しかしあまり体の筋肉の影は目立たないこの少女。ドワーフ族にはあまり当てはまることのない可愛らしさがある。もっともこの言い方で台無しになってはいるが。

「お静かに願います。まずはライオー選手とミイワ選手で対局していただきます」

「来て早々対局かよ。まぁ退屈しなくていいから別にいいけどよ」

「もう少し、言葉遣いは丁寧にした方がいいと思うぞ?」

「っせぇな。とっとと始めるぜ?」

 ドワーフ族の少女ミイワが周りを急かす。

 時間を一人持て余すジーゴは、店主からの言いつけを思い出し、スタッフに声をかけ、店主と元法王がいる馬車に向かっていった。

 …… …… ……

「あの爺さんはともかく、ドワーフらしくない女の子、か。魔力が全くない俺とどっちがましなんだろうな。ま、店主達には関係ないか。……俺には……俺にはどうなんだろうな……」

 馬車を見送った後、皇居の中に入り、対局場に向かうジーゴ。
 しばらく感傷に浸っていたが、両手で両頬を叩いて気合を入れる。
 店主の店での対局は、一回ミスしても許される三番勝負。
 しかしこれから出番を迎える勝負は、自分の望む対局相手と出会うまでは一回のミスも許せない。

 なるべく感情の動きを抑えることを心に決めて、対局の部屋の扉を開けた。
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