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環境変化編 第八章:走狗煮らるる
店と村 竜車内議論 維持のための創意工夫
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「でもさ、あんなところに決めて良かったの? 川の水はそのまま飲めるくらいきれいだし、食べられる山菜や野草がたくさん生えてそうだし、日当たりは良さそうで空気もきれい。生活するには快適だけど、仕事できるのかな?」
エルフ種だけあって、セレナは自然の中や近い所に居を構えることは賛成。しかしそれだけで毎日を暮らしていくことは出来ない。冒険者職なら鎧や武器、道具が必須になる。それをすべて自前で用意するには、先ず膨大な時間が必要になる。
「仕事なんざ作ろうと思えばいくらでも作れるさ。誰であろうとな。ただ俺の場合は素材集めがより楽に出来る場所ってのも考えたからな」
馬鹿馬鹿しい質問に答える面倒さを顔に表す店主。
飲みかけたお茶をそのままに、ソファの上に横向きで横たわる。
「仕事はあるって……まぁ作業場も作ってもらうように頼んだこともあるし、仕事は出来るだろうけど……」
「それはあれだろ? 商売になるかどうかって話だろ? 宣伝すりゃいいだけのことだ。看板つけりゃそれでいい。簡単だろ?」
「看板一つじゃ客は来ませんっ。広く宣伝しなきゃ来ないわよ。まぁ冒険者業でしのぐって手もあるけど?」
商売と冒険者業の二足の草鞋の履いていたセレナはドヤ顔で余裕を見せる。
冒険者業と異世界生まれということで、体力と魔力は店主より圧倒的に優れている。『法具店アマミ』では店主に後れを取っている分、彼の前でいい所を見せられるとなるとそのアピールする時くらい。
「『法具店アマミ』は広告なんか出したことなかったろ? 口コミってやつが宣伝になったんだな。おかげで厄介な客が増える増える」
「子供じゃないんだからそう言うこと言わないのっ。……冒険者から武器屋や道具屋に転身する話は珍しくはないけど、自分で言うのもなんだけど、そのトップクラスの転身は珍しいからそれが広告代わりになったのかな」
店主はソファの上で仰向けになる。暇つぶしに本を何冊か持ってきた。その一冊を無造作に手にして適当にページを開き、目を通す。
セレナは店主の視力が落ちることを心配するが、店主は構わず読み続ける。
「だがそれよりも信頼を持ってもらうのが一番大事だと思う。隠れ家的な店にするのも魅力的だが、腕に選りをかけて作った道具が店内で寝かせたままと言うのも作り手としてはストレスが溜まる。使ってもらってこその道具だからな。そのためにも、この店はここにありますよという公表は必要だろう。そのために……」
「放映される番組に広告でも出す?」
体を起こした店主はセレナに向き合おうとする。
その店主に向けて目を輝かせて身を乗り出すセレナ。
店主は彼女の言葉に脱力して数秒無反応のまま。
「阿呆。来てほしくない客まで来ちまうだろ。さっき話した人口増加の話とおんなじだ。来てほしい客は冒険者。扱う品は客を喜ばせる装飾品や道具。ならば手っ取り早いのは斡旋所に売り込むこと。チラシ十数枚ほど無料で置かせてもらえりゃそれでいいさ」
罵られたセレナはふくれっ面。
おまけに二十枚足らずでどんな効果があるのというのか。
「少なすぎるわよ。何人冒険者がいると思ってるの? ましてや首都よ? そんな枚数で宣伝が広まるわけがないじゃない」
「大きく宣伝したらクソジジィ共にも知られるだろ? 枚数が多くなったら、それだけ店の名前を広めたがっていると誤解されちまう。そのチラシも写真無し。文字だけにする」
「地味すぎる……。そんなんで客が来るわけないじゃない」
「写真入れたらお前も写るんじゃねぇの? 嫌味っぽくなるだろ。冒険者なんか道具屋やりながらでも出来ますよってな。あぁ、だが手にしたらすぐゴミ箱行きになるような物にはしない」
文字だけのチラシなどはすぐ捨てられることが多い。セレナには、テンシュが何を言ってるのか意味が分からない。
セレナはテーブルに肘をつき、苦悩するように頭を抱える。
「紙の質の話だよ。簡単に折り曲げられないようなカードのタイプにする。しかもポケットに入ってしまいそうな大きさ。写真はつけないが略図は入れようか。客に来てほしい。けれど大っぴらにはしない。チラシすら大事にする者なら買った品物も大事に使うだろう、ってな客選びの意味もあるな」
「……いろいろ考えるのねぇ……。向こうの世界でもそんなこと考えてたりしてたの?」
「いろんな人からいろんな話は聞いたさ。こっちは宝石のことしか頭になかったから勉強になったこともいっぱいあった。職人だから仕事のことだけ覚えりゃいいってわけじゃないことも知った。お前だってその脳みそ、筋肉のままにしてたらあのジジィ共の餌食になっちまうぞ?」
「誰の脳みそが筋肉よ! 魔法なんてそれこそいろいろ知恵を身につけなきゃなんないんだからっ」
「それにしても見てらんなかったがな。初めてお前の店の品物見た時の、涙なくしては見れない道具の数々……」
「失礼なこと言うなってのっ!」
客室からあふれ出る喧噪と共に、竜車はベルナット村へ順調に向かって行った。
エルフ種だけあって、セレナは自然の中や近い所に居を構えることは賛成。しかしそれだけで毎日を暮らしていくことは出来ない。冒険者職なら鎧や武器、道具が必須になる。それをすべて自前で用意するには、先ず膨大な時間が必要になる。
「仕事なんざ作ろうと思えばいくらでも作れるさ。誰であろうとな。ただ俺の場合は素材集めがより楽に出来る場所ってのも考えたからな」
馬鹿馬鹿しい質問に答える面倒さを顔に表す店主。
飲みかけたお茶をそのままに、ソファの上に横向きで横たわる。
「仕事はあるって……まぁ作業場も作ってもらうように頼んだこともあるし、仕事は出来るだろうけど……」
「それはあれだろ? 商売になるかどうかって話だろ? 宣伝すりゃいいだけのことだ。看板つけりゃそれでいい。簡単だろ?」
「看板一つじゃ客は来ませんっ。広く宣伝しなきゃ来ないわよ。まぁ冒険者業でしのぐって手もあるけど?」
商売と冒険者業の二足の草鞋の履いていたセレナはドヤ顔で余裕を見せる。
冒険者業と異世界生まれということで、体力と魔力は店主より圧倒的に優れている。『法具店アマミ』では店主に後れを取っている分、彼の前でいい所を見せられるとなるとそのアピールする時くらい。
「『法具店アマミ』は広告なんか出したことなかったろ? 口コミってやつが宣伝になったんだな。おかげで厄介な客が増える増える」
「子供じゃないんだからそう言うこと言わないのっ。……冒険者から武器屋や道具屋に転身する話は珍しくはないけど、自分で言うのもなんだけど、そのトップクラスの転身は珍しいからそれが広告代わりになったのかな」
店主はソファの上で仰向けになる。暇つぶしに本を何冊か持ってきた。その一冊を無造作に手にして適当にページを開き、目を通す。
セレナは店主の視力が落ちることを心配するが、店主は構わず読み続ける。
「だがそれよりも信頼を持ってもらうのが一番大事だと思う。隠れ家的な店にするのも魅力的だが、腕に選りをかけて作った道具が店内で寝かせたままと言うのも作り手としてはストレスが溜まる。使ってもらってこその道具だからな。そのためにも、この店はここにありますよという公表は必要だろう。そのために……」
「放映される番組に広告でも出す?」
体を起こした店主はセレナに向き合おうとする。
その店主に向けて目を輝かせて身を乗り出すセレナ。
店主は彼女の言葉に脱力して数秒無反応のまま。
「阿呆。来てほしくない客まで来ちまうだろ。さっき話した人口増加の話とおんなじだ。来てほしい客は冒険者。扱う品は客を喜ばせる装飾品や道具。ならば手っ取り早いのは斡旋所に売り込むこと。チラシ十数枚ほど無料で置かせてもらえりゃそれでいいさ」
罵られたセレナはふくれっ面。
おまけに二十枚足らずでどんな効果があるのというのか。
「少なすぎるわよ。何人冒険者がいると思ってるの? ましてや首都よ? そんな枚数で宣伝が広まるわけがないじゃない」
「大きく宣伝したらクソジジィ共にも知られるだろ? 枚数が多くなったら、それだけ店の名前を広めたがっていると誤解されちまう。そのチラシも写真無し。文字だけにする」
「地味すぎる……。そんなんで客が来るわけないじゃない」
「写真入れたらお前も写るんじゃねぇの? 嫌味っぽくなるだろ。冒険者なんか道具屋やりながらでも出来ますよってな。あぁ、だが手にしたらすぐゴミ箱行きになるような物にはしない」
文字だけのチラシなどはすぐ捨てられることが多い。セレナには、テンシュが何を言ってるのか意味が分からない。
セレナはテーブルに肘をつき、苦悩するように頭を抱える。
「紙の質の話だよ。簡単に折り曲げられないようなカードのタイプにする。しかもポケットに入ってしまいそうな大きさ。写真はつけないが略図は入れようか。客に来てほしい。けれど大っぴらにはしない。チラシすら大事にする者なら買った品物も大事に使うだろう、ってな客選びの意味もあるな」
「……いろいろ考えるのねぇ……。向こうの世界でもそんなこと考えてたりしてたの?」
「いろんな人からいろんな話は聞いたさ。こっちは宝石のことしか頭になかったから勉強になったこともいっぱいあった。職人だから仕事のことだけ覚えりゃいいってわけじゃないことも知った。お前だってその脳みそ、筋肉のままにしてたらあのジジィ共の餌食になっちまうぞ?」
「誰の脳みそが筋肉よ! 魔法なんてそれこそいろいろ知恵を身につけなきゃなんないんだからっ」
「それにしても見てらんなかったがな。初めてお前の店の品物見た時の、涙なくしては見れない道具の数々……」
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