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環境変化編 第八章:走狗煮らるる
店と村 叩くのは石橋ではなく土地
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「でもだからってテンシュが嫌う皇居のお膝元に引っ越すってどういう風の吹き回し?」
これまで『法具店アマミ』を構えていたベルナット村から移転することを決めた店主とセレナ。
その移転先を下見に選んだ先は、店主が嫌う皇居のある首都のミラージャーナだった。
「その土地に愛着を持ち責任を持つ者が、無責任な余所者を追い出す。そこに善悪はないし俺も文句は言わねぇよ。だが追い出される方は腰を落ち着けられない。もちろん俺はそこに不安は感じるぜ? だが定着してほしいって声がたくさんあって、出て行ってほしいって声が比率的に少なくなったら、居続け易くはなる」
「確かにミラージャーナはいろんな所から移り住む人達がたくさんいて、いろんな種族もたくさんいる。テンシュを余所者って言う人は少ないかもね」
セレナの言葉に、店主はやや眉をひそめる。
「俺が言われる余所者とはまた意味が違うんだが……。碁盤の時にも言われたろ? 余所者ってよ。俺が言いたいのは、おそらく種族の輪から追い出された連中のこと」
そこまで言った店主は、セレナはあの時のことを知らないままだったことに気が付いた。
セレナが巨塊への坑道の中で意識不明になり、その救出計画を練っていたときのことだ。
「あんときゃ、魔力がない奴らを救出メンバーに選出したんだ。『風刃隊』の男だらけだったけどな。あいつら、魔力がゼロだったのさ」
初めて聞いたセレナは目を丸くする。
冒険者として未熟な者達を危険な地域に行かせる神経を疑い、怒りの感情が顔に現れている。
「今の話題はそこじゃねぇよ。魔力持ってそうな種族なのにゼロだってことが焦点になるんだよ。……他にもそんな奴らが冒険者として活躍してたりするんじゃねぇか? その逆もある。魔力があるのは有り得ないとか何とかな。要するに、自分の故郷から無理矢理追い出されたんだ。あるいは自分の居場所が消えてしまったんだ」
セレナの怒りの表情は消えないが、やや陰りが見え、言葉に詰まる。
過去のことは彼女から話さない限り店主は聞く気は起きない。
そして店主は話を続ける。
「そんな連中が集まる場所っつったら、余所者って言われにくい所になるんじゃねぇか? そして仕事がの依頼がたくさんあってある程度減ることはない所」
「……店主が言われる余所者の意味合いも薄まる、と?」
「そういうこと。それにひょっとしたらあんのクソジジィ、俺を傍に置いておきたいからって俺にこの地を選ばせる周到な計画を実行してる最中かもしれんがな」
流石に穿ちすぎ。猊下をどこまで勘ぐってるのかと店主に呆れるセレナ。
「クソジジィの反対派が俺の動向を監視しやすいためにこっちに呼び寄せた作戦が実行されてるって可能性もある。いずれいつまでのその場で仕事をし続けられる環境は欲しいな。でないと作業に集中出来ん」
「だったら土地を売買しているところにいって、そこから選んだらどう?」
「却下。ここが空いてるよーってクソジジィ達が手招きしてるかと思うと胸糞悪い。思い通りになるかっての」
自分で選んだ土地を手に入れる。それが相手の思惑に乗ってしまったのなら諦めはつく。
不動産業に似た店を頼りにするより、竜車の御者からの情報の方が自分の意志を貫きやすい。
店主はそう判断した。
「で、その結果ここはどうなの? 宝石はありそうには思えないんだけど」
「深く掘らなきゃ見つからねぇだろ。依頼の報酬にでも入れときゃいいさ。それにあの崖の辺り一帯も所有地に出来たら掘り放題だ。衣食住ばかりじゃなく、作業も自給自足となりゃ誰からも借りは作らずに済む」
「テンシュ……」
「何だよ」
「つくづく疑り深いわねぇ」
「権力争いに巻き込まれるのだけはごめんだね。さて、この土地を管理してるのは誰か、誰からも怪しまれずに調べないとな。特にあのクソジジィどもからな」
伏魔殿の支配下にある都市ならどんだけ用心しても足りねぇよと、店主は鼻息を一つ強く飛ばした。
これまで『法具店アマミ』を構えていたベルナット村から移転することを決めた店主とセレナ。
その移転先を下見に選んだ先は、店主が嫌う皇居のある首都のミラージャーナだった。
「その土地に愛着を持ち責任を持つ者が、無責任な余所者を追い出す。そこに善悪はないし俺も文句は言わねぇよ。だが追い出される方は腰を落ち着けられない。もちろん俺はそこに不安は感じるぜ? だが定着してほしいって声がたくさんあって、出て行ってほしいって声が比率的に少なくなったら、居続け易くはなる」
「確かにミラージャーナはいろんな所から移り住む人達がたくさんいて、いろんな種族もたくさんいる。テンシュを余所者って言う人は少ないかもね」
セレナの言葉に、店主はやや眉をひそめる。
「俺が言われる余所者とはまた意味が違うんだが……。碁盤の時にも言われたろ? 余所者ってよ。俺が言いたいのは、おそらく種族の輪から追い出された連中のこと」
そこまで言った店主は、セレナはあの時のことを知らないままだったことに気が付いた。
セレナが巨塊への坑道の中で意識不明になり、その救出計画を練っていたときのことだ。
「あんときゃ、魔力がない奴らを救出メンバーに選出したんだ。『風刃隊』の男だらけだったけどな。あいつら、魔力がゼロだったのさ」
初めて聞いたセレナは目を丸くする。
冒険者として未熟な者達を危険な地域に行かせる神経を疑い、怒りの感情が顔に現れている。
「今の話題はそこじゃねぇよ。魔力持ってそうな種族なのにゼロだってことが焦点になるんだよ。……他にもそんな奴らが冒険者として活躍してたりするんじゃねぇか? その逆もある。魔力があるのは有り得ないとか何とかな。要するに、自分の故郷から無理矢理追い出されたんだ。あるいは自分の居場所が消えてしまったんだ」
セレナの怒りの表情は消えないが、やや陰りが見え、言葉に詰まる。
過去のことは彼女から話さない限り店主は聞く気は起きない。
そして店主は話を続ける。
「そんな連中が集まる場所っつったら、余所者って言われにくい所になるんじゃねぇか? そして仕事がの依頼がたくさんあってある程度減ることはない所」
「……店主が言われる余所者の意味合いも薄まる、と?」
「そういうこと。それにひょっとしたらあんのクソジジィ、俺を傍に置いておきたいからって俺にこの地を選ばせる周到な計画を実行してる最中かもしれんがな」
流石に穿ちすぎ。猊下をどこまで勘ぐってるのかと店主に呆れるセレナ。
「クソジジィの反対派が俺の動向を監視しやすいためにこっちに呼び寄せた作戦が実行されてるって可能性もある。いずれいつまでのその場で仕事をし続けられる環境は欲しいな。でないと作業に集中出来ん」
「だったら土地を売買しているところにいって、そこから選んだらどう?」
「却下。ここが空いてるよーってクソジジィ達が手招きしてるかと思うと胸糞悪い。思い通りになるかっての」
自分で選んだ土地を手に入れる。それが相手の思惑に乗ってしまったのなら諦めはつく。
不動産業に似た店を頼りにするより、竜車の御者からの情報の方が自分の意志を貫きやすい。
店主はそう判断した。
「で、その結果ここはどうなの? 宝石はありそうには思えないんだけど」
「深く掘らなきゃ見つからねぇだろ。依頼の報酬にでも入れときゃいいさ。それにあの崖の辺り一帯も所有地に出来たら掘り放題だ。衣食住ばかりじゃなく、作業も自給自足となりゃ誰からも借りは作らずに済む」
「テンシュ……」
「何だよ」
「つくづく疑り深いわねぇ」
「権力争いに巻き込まれるのだけはごめんだね。さて、この土地を管理してるのは誰か、誰からも怪しまれずに調べないとな。特にあのクソジジィどもからな」
伏魔殿の支配下にある都市ならどんだけ用心しても足りねぇよと、店主は鼻息を一つ強く飛ばした。
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