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法王依頼編 第七章 製作開始
碁盤と碁石 作る間に 6
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『法具店アマミ』の二階で昼休み。
食後のお茶を飲みながら、ちらりちらりと見るシエラ。
その視線を感じ取り、嫌そうな顔でこの世界の事典を適当に開いたページに目を走らせる店主。
「午後は碁石作りだっけ?」
「『碁石』? 今作ってたのは闘石ですよね?」
シエラが店主に質問すると、店主の眉間の皺が増える。
「テンシュの世界にも同じ物があって、そこでは『碁』て言われるんだって」
店主に代わってセレナが説明する。
「ところでテンシュ、ここに作った物持ち込むなんて珍しいよね」
「んぁ? 物作りはいろいろしてきたが、塗装は今回が初めてだろ。ただ線を引いただけだけどさ。一個目は下に置きっぱなしだったが今日は雨降りで乾きにくいと思ったからな」
突然質問してきたセレナを一瞬だけ見た後、再び事典に目を通す。
シエラはそんな店主を見、セレナの方も見る。
変な人と言うより単に周りに無関心なだけという気がしないでもない。
そんな人物にセレナは付きまとい続けている。
「シエラちゃん、今日の泊りも宿屋なの?」
「あ、はひっ?! あ、今日も閉店時間になったら晩ご飯も用意してもらってるので宿に戻ります」
そのセレナのことを不思議そうに見ていると、その本人から突然話しかけられたものだから返事する声がひっくり返る。
「お姉さんたちは一緒じゃないの?」
「私は一人で宿泊してます。テンシュさんは依頼の件で忙しそうなので、落ち着いたらどこか部屋借りようかなって。ずっと宿住まいもなんだかなーって」
「今日はうちで泊まったら? 雨も強くなってきたし、体も冷えちゃうよ? 宿には連絡しとくから」
急に親切にされて戸惑っているシエラ。
「え? ……えーっと……でも寝るとこなさそう……」
「テンシュには私のベッドの上で寝てもらうから平気。だよね? テンシュ」
突然の寝床の変更を言われても動じない店主。
事典を閉じ本棚に戻す。
「んじゃ外の道路の上に敷いといて、布団」
「はぁ……。そんなことするわけないでしょう。ベッドの上に柵つくったし寝返り打っても落ちないから。時々そこで横になったりするでしょ? ベッドの天井も丈夫だし問題ないよね?」
好きにしな。
一言言うと、中腰になっていた体をおもむろに伸ばし少し後ろに伸ばす。
適度に腰をねじり背伸び。
階段に移動する。
「これからの作業はくり抜きのみ」
「この碁盤はどうするの?」
ヴェーダーンという漆に似た塗料で引いた線を自然乾燥で乾かす。
乾きやすいと思われる二階に持ち込まれた碁盤は、階段の柵の傍に置かれている
「こいつは四日くらい放置かな。下のやつはあと二日くらいか。ただの碁盤としてもこれで使えるわけじゃないからな」
「星……ってのも入ってないから?」
星とは、碁盤の四隅と四辺の中央、そして真ん中にある小さい黒い丸のこと。
序盤の攻防の目安になる。
「もちろんそれも入れる予定だが、『闘石』にはないんだろ? だからこの世界では星はなくてもそれで十分。だがそれでもこのままでは使えない」
見た目では、盤の縁と線の外側の間が広すぎる。
それでも本来の使用目的の邪魔にはならない。使用には十分通用するようにセレナには見えた。
だが店主によれば、必要な工程があるらしい。
「私にはこれでも問題ないと思うけど。普通の茶色の盤だったら線は目立たなかったけど、線が見やすいのは薄い茶色だから黒っぽいヴェーダーンの塗料は見やすいし」
「分かってると思うが、線には触るなよ? 作業の遅れになるからな!」
店主はきつい口調で二人に注意する。
同じ店の者として、店主の仕事の邪魔するわけないじゃない。
そんなことをセレナは思うが、依頼主の区分が今までとは違う。神経質になるのも無理はないかとも思う。
「分かってるわよ。そこなら何の邪魔にもならないしね。じゃ後片付けするからシエラちゃんはテンシュの仕事見学しに行っていいよ」
「は、はいっ。テンシュさん! また見せてくださいっ!」
「うぜぇ。最初に会ったセレナよりうぜぇ」
シエラに構わずさっさと階段を下りる店主。その後ろをついていくシエラ。
その二人を見るセレナ。
「仲の良いおじさんと姪っ子……って感じかなぁ。テンシュもあの性格変わればいいのに」
セレナも立ち上がり昼食の片づけを始め、午後の仕事に意識を移した。
食後のお茶を飲みながら、ちらりちらりと見るシエラ。
その視線を感じ取り、嫌そうな顔でこの世界の事典を適当に開いたページに目を走らせる店主。
「午後は碁石作りだっけ?」
「『碁石』? 今作ってたのは闘石ですよね?」
シエラが店主に質問すると、店主の眉間の皺が増える。
「テンシュの世界にも同じ物があって、そこでは『碁』て言われるんだって」
店主に代わってセレナが説明する。
「ところでテンシュ、ここに作った物持ち込むなんて珍しいよね」
「んぁ? 物作りはいろいろしてきたが、塗装は今回が初めてだろ。ただ線を引いただけだけどさ。一個目は下に置きっぱなしだったが今日は雨降りで乾きにくいと思ったからな」
突然質問してきたセレナを一瞬だけ見た後、再び事典に目を通す。
シエラはそんな店主を見、セレナの方も見る。
変な人と言うより単に周りに無関心なだけという気がしないでもない。
そんな人物にセレナは付きまとい続けている。
「シエラちゃん、今日の泊りも宿屋なの?」
「あ、はひっ?! あ、今日も閉店時間になったら晩ご飯も用意してもらってるので宿に戻ります」
そのセレナのことを不思議そうに見ていると、その本人から突然話しかけられたものだから返事する声がひっくり返る。
「お姉さんたちは一緒じゃないの?」
「私は一人で宿泊してます。テンシュさんは依頼の件で忙しそうなので、落ち着いたらどこか部屋借りようかなって。ずっと宿住まいもなんだかなーって」
「今日はうちで泊まったら? 雨も強くなってきたし、体も冷えちゃうよ? 宿には連絡しとくから」
急に親切にされて戸惑っているシエラ。
「え? ……えーっと……でも寝るとこなさそう……」
「テンシュには私のベッドの上で寝てもらうから平気。だよね? テンシュ」
突然の寝床の変更を言われても動じない店主。
事典を閉じ本棚に戻す。
「んじゃ外の道路の上に敷いといて、布団」
「はぁ……。そんなことするわけないでしょう。ベッドの上に柵つくったし寝返り打っても落ちないから。時々そこで横になったりするでしょ? ベッドの天井も丈夫だし問題ないよね?」
好きにしな。
一言言うと、中腰になっていた体をおもむろに伸ばし少し後ろに伸ばす。
適度に腰をねじり背伸び。
階段に移動する。
「これからの作業はくり抜きのみ」
「この碁盤はどうするの?」
ヴェーダーンという漆に似た塗料で引いた線を自然乾燥で乾かす。
乾きやすいと思われる二階に持ち込まれた碁盤は、階段の柵の傍に置かれている
「こいつは四日くらい放置かな。下のやつはあと二日くらいか。ただの碁盤としてもこれで使えるわけじゃないからな」
「星……ってのも入ってないから?」
星とは、碁盤の四隅と四辺の中央、そして真ん中にある小さい黒い丸のこと。
序盤の攻防の目安になる。
「もちろんそれも入れる予定だが、『闘石』にはないんだろ? だからこの世界では星はなくてもそれで十分。だがそれでもこのままでは使えない」
見た目では、盤の縁と線の外側の間が広すぎる。
それでも本来の使用目的の邪魔にはならない。使用には十分通用するようにセレナには見えた。
だが店主によれば、必要な工程があるらしい。
「私にはこれでも問題ないと思うけど。普通の茶色の盤だったら線は目立たなかったけど、線が見やすいのは薄い茶色だから黒っぽいヴェーダーンの塗料は見やすいし」
「分かってると思うが、線には触るなよ? 作業の遅れになるからな!」
店主はきつい口調で二人に注意する。
同じ店の者として、店主の仕事の邪魔するわけないじゃない。
そんなことをセレナは思うが、依頼主の区分が今までとは違う。神経質になるのも無理はないかとも思う。
「分かってるわよ。そこなら何の邪魔にもならないしね。じゃ後片付けするからシエラちゃんはテンシュの仕事見学しに行っていいよ」
「は、はいっ。テンシュさん! また見せてくださいっ!」
「うぜぇ。最初に会ったセレナよりうぜぇ」
シエラに構わずさっさと階段を下りる店主。その後ろをついていくシエラ。
その二人を見るセレナ。
「仲の良いおじさんと姪っ子……って感じかなぁ。テンシュもあの性格変わればいいのに」
セレナも立ち上がり昼食の片づけを始め、午後の仕事に意識を移した。
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