128 / 290
巨塊討伐編 第四章:遅れてきた者
幕間 五:ギースがギースになったわけ
しおりを挟む
ギースの脳裏に過去の事がよみがえる。
まだ、ギース=ライナット=ウェイナーと名乗っていた頃。
ミドルネームのライナットとは、彼が家族と一緒に住んでいた村の名前。
彼は両親の七番目、五男として生まれた。
家族みんなから可愛がってもらった幼少期。それはどこにでも見られた家族の光景。
村というほど人口が少ないその地域。しかし近所の子供達と一緒に、年上の同種族のエルフ達から面倒を見てもらい楽しく過ごしていた日々。
年頃になると、年配の家族や近所のエルフ達と一緒に、まず狩猟を体験する。
少ない力で、自分達よりもはるかに力のある動物を狩ることが出来る弓の技術を身につける。
人並み以上に体力のある者は、弓のほかに剣術を身につける。
ギースは剣術も身につけようと頑張るが、なかなか上達しない。だからといって他の同年代のエルフに劣っているわけではない。剣術まで身につけようとする者すら少なかったのだ。
それだけ弓の技術は抜きん出ていた。
その素質は、学ぶ前に分かるものではない。狩猟の手伝いを始める前のギースは、ごく平凡な子供の一人だった。
エルフは他の種族と違う特徴がいくつかある。それは指先の器用さ。だからこそ狩猟で最初に覚え身につける武器が弓。そしてもう一つが魔力の高さ。狩猟で補助ばかりの経験を積んでいく中で、やがて単独の狩猟もしくは狩猟活動の中心を務めをさせられる。そこで獲物を逃がしたり、仲間に危険な目に合わせるようなことがあればまた狩猟の補助係に戻るが、ギースは初めての単独狩猟を成功させた。
成功した者達は魔術、魔法の習得に入る。
純粋なエルフ族であれば、狩猟に比べてはるかに容易い修行。戯れ同然だが、ギースの悪夢はここから始まった。
魔力を全く所有していなかったのが判明してしまったのである。
久々に魔術武術両方に長けた若者が現れたという期待を一身に背負い、何から何まで優遇されていたギースがここで一転、冷遇されてしまう。
「まさかこいつがなぁ……」
「ギース一人だけで家族みんなが肩身が狭い思いをするとは思わなかったわ……」
エルフの姿をした人間ではないのか?
そういう評判まで生まれる始末。
魔力がないエルフの存在はあり得ない。
どんなに魔力が低い者でも、どんなに魔術や魔法が下手な者でも、ギースよりはまだマシと慰めのタネにまでされてしまう。
やがて家族からも蔑まれるギース。見返すために弓と剣術の腕を高め、村一番どころか純粋なエルフ族の中で一番の腕と他種族から評されるほどにもなる。
しかし魔力がゼロであることには変わりはない。武力が高いエルフに何の存在意義があるのかと、ギースの存在そのものを否定する声も高まってくる。
一族の恥、村の恥。そして本人がいない場所で家族の癌とまで身内から言われたことを、物陰に隠れて聞いていたギースは、村から出ることを決意する。
それは、もう二度と家族の元に帰らない、家族と、一族と決別することを意味した。
が、家族はそれを歓迎する。村にもそれを引き留める者はいなかった。
村一番の優秀な弓使い、剣術使いはその村から去る。
村崩壊は、ギースの出立をきっかけにして始まった。
魔力がゼロのエルフはギースだけではなかった。
人数は多くはなかったが、出生数も多くはない村。長生きの種族ではあるが、あらゆる適齢期もその分長いとは限らない。
ギースにその後弟や妹が生まれたがその事実は彼は知らない。
それどころか、村が消滅したことも知らない。
村の名前でもあるミドルネーム、家族の名字でもあるラストネームは、彼が村の外に出た瞬間から彼自らが捨てた。
多種族が住む町の斡旋所で冒険者としての資格を得、同業者との出会いと別れを繰り返していくうちに、一緒にその資格を得るために修練所に共に通った者と再会。
「魔法が使えないエルフ? 細けぇことは気にすんな! 俺だって使えねぇしよ! 使える誰かを仲間にすりゃ問題ないだろ?」
こだわっていた悩みを笑い飛ばしたその男は、ギースにとって初めて心の底から仲間と呼べる人物であった。
さらに新たに仲間を迎え入れ、戦力も増えてきた。
しかし冒険者、冒険者チームとしてはまだまだ力不足。
武器屋、防具屋、道具屋、他の店から全く相手にされない冒険者チーム。
彼らは改めて思い知らされる。
ある意味、はみ出された者の集団であったことに。
それでも冷遇された頃よりはましだった。苦しい事態を笑い飛ばしてくれる仲間達がいたから。
しかし装備品もままならない生活は、冒険者としては厳しい環境である。
次第に笑う回数も減っていく。
足の向くまま、気力が続くままに流れ着いた村で、慌ただしく何かの作業をしていた道具屋の前を通りかかる。
武器屋、防具屋を何軒も尋ねるがその未熟さゆえに相手にされず、断られた軒数はもはや数える気にもなれない。
縋る思いと諦めの心境で飛び込んだその道具屋は、気まぐれでぶっきらぼうだったが、初めて相手にしてくれた店だった。
まだ、ギース=ライナット=ウェイナーと名乗っていた頃。
ミドルネームのライナットとは、彼が家族と一緒に住んでいた村の名前。
彼は両親の七番目、五男として生まれた。
家族みんなから可愛がってもらった幼少期。それはどこにでも見られた家族の光景。
村というほど人口が少ないその地域。しかし近所の子供達と一緒に、年上の同種族のエルフ達から面倒を見てもらい楽しく過ごしていた日々。
年頃になると、年配の家族や近所のエルフ達と一緒に、まず狩猟を体験する。
少ない力で、自分達よりもはるかに力のある動物を狩ることが出来る弓の技術を身につける。
人並み以上に体力のある者は、弓のほかに剣術を身につける。
ギースは剣術も身につけようと頑張るが、なかなか上達しない。だからといって他の同年代のエルフに劣っているわけではない。剣術まで身につけようとする者すら少なかったのだ。
それだけ弓の技術は抜きん出ていた。
その素質は、学ぶ前に分かるものではない。狩猟の手伝いを始める前のギースは、ごく平凡な子供の一人だった。
エルフは他の種族と違う特徴がいくつかある。それは指先の器用さ。だからこそ狩猟で最初に覚え身につける武器が弓。そしてもう一つが魔力の高さ。狩猟で補助ばかりの経験を積んでいく中で、やがて単独の狩猟もしくは狩猟活動の中心を務めをさせられる。そこで獲物を逃がしたり、仲間に危険な目に合わせるようなことがあればまた狩猟の補助係に戻るが、ギースは初めての単独狩猟を成功させた。
成功した者達は魔術、魔法の習得に入る。
純粋なエルフ族であれば、狩猟に比べてはるかに容易い修行。戯れ同然だが、ギースの悪夢はここから始まった。
魔力を全く所有していなかったのが判明してしまったのである。
久々に魔術武術両方に長けた若者が現れたという期待を一身に背負い、何から何まで優遇されていたギースがここで一転、冷遇されてしまう。
「まさかこいつがなぁ……」
「ギース一人だけで家族みんなが肩身が狭い思いをするとは思わなかったわ……」
エルフの姿をした人間ではないのか?
そういう評判まで生まれる始末。
魔力がないエルフの存在はあり得ない。
どんなに魔力が低い者でも、どんなに魔術や魔法が下手な者でも、ギースよりはまだマシと慰めのタネにまでされてしまう。
やがて家族からも蔑まれるギース。見返すために弓と剣術の腕を高め、村一番どころか純粋なエルフ族の中で一番の腕と他種族から評されるほどにもなる。
しかし魔力がゼロであることには変わりはない。武力が高いエルフに何の存在意義があるのかと、ギースの存在そのものを否定する声も高まってくる。
一族の恥、村の恥。そして本人がいない場所で家族の癌とまで身内から言われたことを、物陰に隠れて聞いていたギースは、村から出ることを決意する。
それは、もう二度と家族の元に帰らない、家族と、一族と決別することを意味した。
が、家族はそれを歓迎する。村にもそれを引き留める者はいなかった。
村一番の優秀な弓使い、剣術使いはその村から去る。
村崩壊は、ギースの出立をきっかけにして始まった。
魔力がゼロのエルフはギースだけではなかった。
人数は多くはなかったが、出生数も多くはない村。長生きの種族ではあるが、あらゆる適齢期もその分長いとは限らない。
ギースにその後弟や妹が生まれたがその事実は彼は知らない。
それどころか、村が消滅したことも知らない。
村の名前でもあるミドルネーム、家族の名字でもあるラストネームは、彼が村の外に出た瞬間から彼自らが捨てた。
多種族が住む町の斡旋所で冒険者としての資格を得、同業者との出会いと別れを繰り返していくうちに、一緒にその資格を得るために修練所に共に通った者と再会。
「魔法が使えないエルフ? 細けぇことは気にすんな! 俺だって使えねぇしよ! 使える誰かを仲間にすりゃ問題ないだろ?」
こだわっていた悩みを笑い飛ばしたその男は、ギースにとって初めて心の底から仲間と呼べる人物であった。
さらに新たに仲間を迎え入れ、戦力も増えてきた。
しかし冒険者、冒険者チームとしてはまだまだ力不足。
武器屋、防具屋、道具屋、他の店から全く相手にされない冒険者チーム。
彼らは改めて思い知らされる。
ある意味、はみ出された者の集団であったことに。
それでも冷遇された頃よりはましだった。苦しい事態を笑い飛ばしてくれる仲間達がいたから。
しかし装備品もままならない生活は、冒険者としては厳しい環境である。
次第に笑う回数も減っていく。
足の向くまま、気力が続くままに流れ着いた村で、慌ただしく何かの作業をしていた道具屋の前を通りかかる。
武器屋、防具屋を何軒も尋ねるがその未熟さゆえに相手にされず、断られた軒数はもはや数える気にもなれない。
縋る思いと諦めの心境で飛び込んだその道具屋は、気まぐれでぶっきらぼうだったが、初めて相手にしてくれた店だった。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる