美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
上 下
116 / 290
巨塊討伐編 第四章:遅れてきた者

隣町の来客より得たる 2

しおりを挟む
「チェリムよ、楽しい店教えてくれてありがとうなぁ。ワシらはそろそろ帰るでな」
「これ以上長居しとったら、家に着くころにゃ真夜中になるでよ」
「大げさじゃわ、流石によ。わははは」

 帽子屋チェリムが、おそらくは旧知の仲と思われる隣町のリンヤとオウラという老人二人を連れて来た。
 農業を営んでいるようだが、畑を耕す道具が欲しいという用件を持って。
 しかし老体ゆえに、軽い道具で効率の良い物を所望していたが、残念ながらこちらは法具店。彼らの要望に応えるにはかなり難しく、手に入れることは断念したものの四方山話で盛り上がり、楽しい時間を過ごすことが出来たようだった。

 チェリムは店の出入り口で二人を見送る。
 姿が見えなくなると、また店内に入って来た。

「久々の遠出でなぁ。隣町とは昔はしょっちゅう行ったり来たりしておったが、店を若いもんに任せてからは隣町に行く理由もなくてなぁ」
「のんびりと探索を楽しみながら行かれたらいいじゃないですか。それとも何かご趣味目当てで行かれたら?」
 チェリムはそう言う店主に、やや鋭い眼光を見せた。

「理由はな、はっと思い出しての。それで今朝早く行ってみたんじゃ」

 セレナはその理由について聞くと、チェリムは眉間の皺をさらに増やした。

「地震の話したじゃろ? テンシュ。ここ何か月か地震を感じんでな」
「毎日は来てますが四六時中いるわけではありませんし、私がここに来てからは地震は感じませんでしたね」

「地震の元はある。じゃが地震が消えた。どういうことかと思うてな」
「地震って、巨塊の活動に原因があると言われている地震のことですか?」

 セレナは、自分がいない間に店主とチェリムが知り合った時の会話については全く知らない。話の内容を確認すると、セレナの知っている情報はほぼチェリムとの話と一致していた。

「地震で苗や種からの発育が遅い。そういう話じゃった。じゃが隣町で久々にあの二人と会っての。話を聞いてみたら、土が硬いときたもんだ。ワシもちと手伝ってみたが確かに硬い。そりゃ石よりは軟らかいがの。じゃがなぁ。地震がありゃあれくらいの軟らかさなら簡単に崩れるじゃろ。崩れんっちゅうことは、崩すほどの地震は起きとらんっちゅうこっちゃ。ここ数か月、地震は少のうなっとる」

 考え込むまでもない。地震の質が変わったか、活動が停止したか。

「うむ、しかし確かに地震は感じた。ゆっくりになったの。しかもおそらくはさらに深いところで起こっとる。嫌な予感がしたでの。あの二人にはそこまでは考えは及ばんかったようじゃがな」

 嫌な発想からは、誰でも出来れば離れたい。あの二人もそんな思いだったのだろう。
 しかし店主の心の底には、何かどんよりとしたものが溜まっていくように感じ、それに重さを感じたのかその思いに関しては言葉を出せない。

「巨塊は粘液体です。隙間をがあれば移動できるでしょうし、特に意志がなければ重力に身を任せることになるのではないでしょうか」

「うむ。ワシもセレナ嬢ちゃんの言うことには同意できる。じゃが土に栄養がないというのがな」
「脆い岩石なら栄養は期待できないでしょうね。それに養分を吸って作物が育つ。その養分が作物に吸われる以上に増えていかないと不作になるのは目に見えますが……」

「森林も枯れた木が目立ち始めとる。ノーム族じゃからその原因くらいは分かるとは思うんじゃがなぁ」
「はっきり指摘すると、愛着のある土地なだけに悪口を言われた気分になり仲がこじれる、と?」
「ま、そんなとこじゃ」

「チェリムお爺さん、国から調査団が派遣されてることは聞いてます?」
「ん? 知っとるよ? あの二人も知っとる。早よ巨塊なんぞなくなってほしいと思っとるようじゃが、地震さえ何とかしてもらえりゃそれでええと思っちょるようじゃ」

「巨塊と宝石の関係については知ってるんでしょうか?」
「宝石についてはよう分からんようじゃ。じゃが聡い若もん達は、それで一稼ぎ出来ると喜ぶもんがおる。決して少なくないから、討伐を見越した調査には賛成はしたくはないようじゃな。ん? テンシュ、なんか青い顔しとらんか?」
「あ、ホントだ。なんか顔色悪いよ? 風邪?」

「体に異常はない。ただ……いや、杞憂だ。うん。チェリム爺さんも、隣町の人たちとは仲良くしたいんでしょ? 立たずに済ませられる波風は立てない方がいいんですよね?」

 店主の体調の話から急に自分のことについて変えられたチェリムは驚くが

「そ、そりゃもちろん。実(げ)に楽しきは人の不幸なんぞ言うが、あいつら、いや、隣町のもんにはこれ以上の問題はない方がええわ」

 不満があろうがなかろうが、巨塊が消えて不幸になる者は絶対にいない。
 余所者の立場の店主だが、いざこざが起きる前に巨塊が消えてくれれば、嫌な感じも消え去るだろうことを思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...