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巨塊討伐編 第三章:セレナの役目、店主の役目
客じゃない客の置き土産 3
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翌朝。つまりトカゲの獣人族の双子姉妹がバイトを始めて三日目の朝。
店主には珍しく、そのバイト先である『法具店アマミ』に入ると真っ先に二階に上がる。
「あら、おはよう、テンシュ。って、何その荷物」
「おはようございます、テンシュ。なんかいろいろ持ってきたね?」
「おはようございます。何ですそれ?」
ここで作業するための道具と材料を持ってくるのはいつもの事だが、さらに風呂敷包みを二つ持ってきた。肩に括り付けた一つと、片方の手に持っている一つ。
「本だよ。暇つぶしのためってこともあるし、俺んとことここと変わらない知識とか教養なんぞを身につけるにはいいんじゃねぇかと思ってな。セレナ、空いている本棚のところに適当にぶっこむぞ」
「それはいいんだけど、どういう風の吹き回し? 私達のため?」
「古本屋に持ってったって全部で百円になるかどうか分からん。ま、百円って言葉がお前らに通じるかどうかわからんが……。捨てるにも燃やすとなると自然環境が云々で得にならんことがなくてな。処分に困って持ち込んだってとこだ。それに双子よぉ」
「な、何?」
「私達?」
持ってきた荷物に自分達とは関係がないと思っていたのか、突然呼ばれた二人は驚き気味の声を上げる。
「教養一つ身につけただけで接客業も良くなるんじゃねえかってな」
「むしろテンシュに必要じゃない? それ」
店主はミールからの憎まれ口は聞き流し、本棚の空いたところに次々と本を入れていく。
本棚がすべて埋まり、入りきれなかった本を本棚の上に横積みにする。
「ここでの接客の仕事は、俺にはすごくどうでもいい。むしろお前らがバイト以外でも必要になるだろうよ。どうせここに買い物客が来るなんてこたぁほとんどねぇんだ。掃除とか終わって退屈になったらカウンターでどれか読んでみろよ。ためになるかどうかはお前ら次第。俺は知ったこっちゃねぇがな」
「また適当なこと言うし……」
「でも自分の財産になるんなら得するばかりじゃない。好意は有り難くいただきましょう」
ウィーナの方は若干物腰が柔らかくなったようだ。
「だがお前らもずいぶん早いな。余分な仕事はもうなかったはずだが」
「掃除は一応きちんと終わらせまし……」
「何ぃ?! 窓も割れてなかったし、壁もヒビ一つはいってなかったぞ?!」
ウィーナからの返事に、その途中で反応する店主。
「またそういうこと言うし。あたし達をどう見てるんですか、テンシュは!」
今日も朝から普段の店主。その返しもいつものやり取り。
「……そいつにはさん付けで呼ぶが俺には呼び捨てにする矛盾を抱えるひねくれ者」
「だってまともに会話しないときあるし……」
「でもそれだけ親しい思いを持たれてるってことなんじゃないの? テンシュさんっ」
皮肉も若干込めながら、励ますように後ろから肩を軽く叩くセレナ。
しかし彼女からのフォローは、店主にとって別段ありがたくも何ともない。
店主ははいはいとやり過ごすといつも通り、作業にかかるため、下に下りる。
「え? 朝ご飯は?」
「朝ご飯は朝に食べる物。知らないのか?」
「またそういうことを言う……。用意できてるわよ? 食べたら?」
階段に行きかけた店主は戻ってきて席に着く。
「何だお前ら。ジロジロ人の事見て。つーか、お前ら朝早くから何かやってたのか?」
「先に朝ご飯はいただきましたけどね」
「まぁいろいろセレナさんからお話し聞きまして」
実際彼女らが早く来た理由はバイトの仕事のやる気の現れ。朝食はセレナが食べるその相伴にあずかっただけ。
だがセレナはその時に調査団に加わった理由を双子に尋ねられ、憧れの存在であるウィリックが亡くなった時の一連の流れの話をした。
陰から支えてくれた店主のことも話の中に出てきたものだから、昨日の事もあり、改めて店主を見る双子の目が変わる。
「気味悪りぃな、お前ら。人の食ってる姿はあんまりジロジロ見るもんじゃねぇぞ。そういうのも教養の一つだっての」
店主がそう反応するのも当たり前である。
二人は店主にそのことを伝えるはずもない。つまり、二人は店主にニコニコ顔を向けるだけだったから。
店主には珍しく、そのバイト先である『法具店アマミ』に入ると真っ先に二階に上がる。
「あら、おはよう、テンシュ。って、何その荷物」
「おはようございます、テンシュ。なんかいろいろ持ってきたね?」
「おはようございます。何ですそれ?」
ここで作業するための道具と材料を持ってくるのはいつもの事だが、さらに風呂敷包みを二つ持ってきた。肩に括り付けた一つと、片方の手に持っている一つ。
「本だよ。暇つぶしのためってこともあるし、俺んとことここと変わらない知識とか教養なんぞを身につけるにはいいんじゃねぇかと思ってな。セレナ、空いている本棚のところに適当にぶっこむぞ」
「それはいいんだけど、どういう風の吹き回し? 私達のため?」
「古本屋に持ってったって全部で百円になるかどうか分からん。ま、百円って言葉がお前らに通じるかどうかわからんが……。捨てるにも燃やすとなると自然環境が云々で得にならんことがなくてな。処分に困って持ち込んだってとこだ。それに双子よぉ」
「な、何?」
「私達?」
持ってきた荷物に自分達とは関係がないと思っていたのか、突然呼ばれた二人は驚き気味の声を上げる。
「教養一つ身につけただけで接客業も良くなるんじゃねえかってな」
「むしろテンシュに必要じゃない? それ」
店主はミールからの憎まれ口は聞き流し、本棚の空いたところに次々と本を入れていく。
本棚がすべて埋まり、入りきれなかった本を本棚の上に横積みにする。
「ここでの接客の仕事は、俺にはすごくどうでもいい。むしろお前らがバイト以外でも必要になるだろうよ。どうせここに買い物客が来るなんてこたぁほとんどねぇんだ。掃除とか終わって退屈になったらカウンターでどれか読んでみろよ。ためになるかどうかはお前ら次第。俺は知ったこっちゃねぇがな」
「また適当なこと言うし……」
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「だがお前らもずいぶん早いな。余分な仕事はもうなかったはずだが」
「掃除は一応きちんと終わらせまし……」
「何ぃ?! 窓も割れてなかったし、壁もヒビ一つはいってなかったぞ?!」
ウィーナからの返事に、その途中で反応する店主。
「またそういうこと言うし。あたし達をどう見てるんですか、テンシュは!」
今日も朝から普段の店主。その返しもいつものやり取り。
「……そいつにはさん付けで呼ぶが俺には呼び捨てにする矛盾を抱えるひねくれ者」
「だってまともに会話しないときあるし……」
「でもそれだけ親しい思いを持たれてるってことなんじゃないの? テンシュさんっ」
皮肉も若干込めながら、励ますように後ろから肩を軽く叩くセレナ。
しかし彼女からのフォローは、店主にとって別段ありがたくも何ともない。
店主ははいはいとやり過ごすといつも通り、作業にかかるため、下に下りる。
「え? 朝ご飯は?」
「朝ご飯は朝に食べる物。知らないのか?」
「またそういうことを言う……。用意できてるわよ? 食べたら?」
階段に行きかけた店主は戻ってきて席に着く。
「何だお前ら。ジロジロ人の事見て。つーか、お前ら朝早くから何かやってたのか?」
「先に朝ご飯はいただきましたけどね」
「まぁいろいろセレナさんからお話し聞きまして」
実際彼女らが早く来た理由はバイトの仕事のやる気の現れ。朝食はセレナが食べるその相伴にあずかっただけ。
だがセレナはその時に調査団に加わった理由を双子に尋ねられ、憧れの存在であるウィリックが亡くなった時の一連の流れの話をした。
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「気味悪りぃな、お前ら。人の食ってる姿はあんまりジロジロ見るもんじゃねぇぞ。そういうのも教養の一つだっての」
店主がそう反応するのも当たり前である。
二人は店主にそのことを伝えるはずもない。つまり、二人は店主にニコニコ顔を向けるだけだったから。
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