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巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇
常連客二組目 からの依頼にようやく取り組みます
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「前にもこんなことあったような気がするが?」
『ホットライン』を見送ったセレナに店主が問い詰める。
「えーと……いろいろとごめんなさい。あの子たちにはきつーく言っといたし、お詫びするとも言ってたから」
「お前の守護の力ってのはアテに出来るかどうか分からねぇからイマイチ信頼できねぇが、不本意だが仕事の途中で身の危険を感じたら逃げてもいいって言うし、気楽と言えば楽だが、作業を邪魔されるのは勘弁だな。依頼に期限を設けないなら別にどうということもないし俺の世界の時間は止まってくれるから、ストレスなく仕事に集中できるが、俺の寿命までは止まらないと思うしな」
さて、と店主は声を出す。
気持ちを切り替えて椅子に座り作業机に向かう。もう店外に出る必要もないので店主の世界の時間の経過を気にする必要もない。六人分の依頼を達成するための時間はかなりかかるが、寝食を忘れるほど好きな仕事である。
セレナは聞き取り調査の協力がまだ続くため先に休み、作業には店主一人、黙々と進めていった。
───────────────────
店主は作業中に背伸びをした。
普段は窮屈な姿勢を長くとって健康に支障をきたすことがないように時々ストレッチをして体を解すのだが、作業に集中していた時間が店主が体感した時間よりはるかに長かったようでなかなか背中を反らせない。
「「おはようございます」」
不意に横から声が聞こえてくる。
店主は何気なく声の方向を見ると、声の主がそこにいた。
「あ、ようやくこっち向いた」
「声かけづらかったから、仕事の区切りがつくまで待ってました」
「……うわあっ! ト……って、そうか、ここは異世界の方だったな。で、何で双子がそこにいる? それと……なんでお前らがここにいる」
一瞬自分がどこにいたのか分からなくなる店主。やって来たのが誰かも瞬間的に思い出せない。
「何でって……バイトしに来たに決まってるじゃないですか」
「って言うか、何で同じこと二回も聞くの? 朝の八時過ぎてるよ? 随分仕事に夢中だったねー、テンシュさん」
「……あぁ、バイトか……で、お前らは何なんだ? 昨日の夜に始めた仕事だぞ? 仕上がるにはまだ早すぎる。っていうか……お前ら……」
双子がそばにいることに気付いてから彼女らと交わす。この時点でようやくその後ろにもう二人いることに店主は気付く。
「テンシュさん……鈍すぎですよ……」
「セレナの言う通り、うん、ちょっと変わってるよね……。あなたたち、もっと普通のバイト先なかったの?」
そこにいたのは冒険者チーム『ホットライン』のメンバーの、黒い翼を持つエルフ種の女のキューリアと白い羽毛に覆われている鳥の獣妖種のヒューラー。
昨日キューリアが初めて『法具店アマミ』に来た時に、セレナの身を案じるあまりに店主と双子に見せた剣呑な振る舞い。
同じ冒険者として雇い主の店主を守るために立ち向かうか、それともその果てしない力量差から店主ともども避難するか。双子姉妹には修羅場であった。
それが、双子に雇い主の心配をしている。
「他に見つからねぇって言ってたし、こっちはそれなりに人材は必要だったし問題ねぇだろうが。それよりお前らは何しに来たんだよ」
「え、えっと、昨日はきちんと謝っていなかったから……」
「そうか、それはすごくどうでもいい」
セレナの立ち合いの下ででキューリアが謝罪した時同様、再び店主に謝罪した彼女はやはり同じようにあっさりと店主に流される。
だが他にも店主に聞いてもらいたい話があるようだが、そんな店主にどう切り出すか。開けかけては閉じる口の動きを繰り返すキューリアとヒューラー。
「この人達、用心棒してくれるって」
「オーナーさんのことだから、同じトラブルが今後もあるかもしれないからということで、お詫びも兼ねてだそうです」
そんなもじもじしている二人に代わり、彼女らがここにいる理由を双子が話す。
『ホットライン』のメンバーはセレナとは旧知の間柄だから名前で呼び合うのは当然だが、『風刃隊』はたまたま初めて入った道具屋で、初めてまともに相手をしてもらった店。セレナのことは名前ではなく、オーナーと呼ばれているようだ。
キューリア一人きりじゃバツが悪かろう。
そういうことで、同じ女性同士だと親睦も深まりやすかろうという『ホットライン』のリーダー、ブレイドが配慮してヒューラーが付き添ってきたとのこと。
「親睦はいいがよ、こいつらはバイトだからな? 働いてもらわにゃ困るんだよ。で、あいつは?」
「セレナの事かしら? 調査がどうのって用件で迎えに来た人達がいて、その人達ともう一緒に出掛けたわよ。テンシュさんの朝ご飯も用意してるって」
「俺の『も』? 俺の『も』ってことは……」
店主は四人の顔を見回す。
「セレナはもう自分の分は食べていったから、まだ開店前だし五人でゆっくりどうぞって」
親睦なら四人だけでしてほしいと望むものの、かといって食事を避けるわけにはいかない。趣味も混ざる仕事なら寝食を忘れても構わないだろうが、今手掛けているのは依頼人があっての仕事。いくら好きな作業でも依頼の仕事となると責任も伴うため、出来栄えが体調に左右されるわけにはいかない。
「バイトは収入が安定するまでか期限付きでやるんだろうが、用心棒の方はいつまでやるんだよ」
「セレナの調査のどうのこうのが終わるまで、よね」
「うん。それくらいはさせてもらわないと、私もテンシュさんにこう……気持ちが落ち着かないから」
店主はセレナからの聞き取り調査の期限は聞かされておらず、セレナ本人も知らされていないことをキューリアから聞く。四人から絡まれるのは当分終わりそうにない見通しに、店長は力なくうなだれた。
『ホットライン』を見送ったセレナに店主が問い詰める。
「えーと……いろいろとごめんなさい。あの子たちにはきつーく言っといたし、お詫びするとも言ってたから」
「お前の守護の力ってのはアテに出来るかどうか分からねぇからイマイチ信頼できねぇが、不本意だが仕事の途中で身の危険を感じたら逃げてもいいって言うし、気楽と言えば楽だが、作業を邪魔されるのは勘弁だな。依頼に期限を設けないなら別にどうということもないし俺の世界の時間は止まってくれるから、ストレスなく仕事に集中できるが、俺の寿命までは止まらないと思うしな」
さて、と店主は声を出す。
気持ちを切り替えて椅子に座り作業机に向かう。もう店外に出る必要もないので店主の世界の時間の経過を気にする必要もない。六人分の依頼を達成するための時間はかなりかかるが、寝食を忘れるほど好きな仕事である。
セレナは聞き取り調査の協力がまだ続くため先に休み、作業には店主一人、黙々と進めていった。
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店主は作業中に背伸びをした。
普段は窮屈な姿勢を長くとって健康に支障をきたすことがないように時々ストレッチをして体を解すのだが、作業に集中していた時間が店主が体感した時間よりはるかに長かったようでなかなか背中を反らせない。
「「おはようございます」」
不意に横から声が聞こえてくる。
店主は何気なく声の方向を見ると、声の主がそこにいた。
「あ、ようやくこっち向いた」
「声かけづらかったから、仕事の区切りがつくまで待ってました」
「……うわあっ! ト……って、そうか、ここは異世界の方だったな。で、何で双子がそこにいる? それと……なんでお前らがここにいる」
一瞬自分がどこにいたのか分からなくなる店主。やって来たのが誰かも瞬間的に思い出せない。
「何でって……バイトしに来たに決まってるじゃないですか」
「って言うか、何で同じこと二回も聞くの? 朝の八時過ぎてるよ? 随分仕事に夢中だったねー、テンシュさん」
「……あぁ、バイトか……で、お前らは何なんだ? 昨日の夜に始めた仕事だぞ? 仕上がるにはまだ早すぎる。っていうか……お前ら……」
双子がそばにいることに気付いてから彼女らと交わす。この時点でようやくその後ろにもう二人いることに店主は気付く。
「テンシュさん……鈍すぎですよ……」
「セレナの言う通り、うん、ちょっと変わってるよね……。あなたたち、もっと普通のバイト先なかったの?」
そこにいたのは冒険者チーム『ホットライン』のメンバーの、黒い翼を持つエルフ種の女のキューリアと白い羽毛に覆われている鳥の獣妖種のヒューラー。
昨日キューリアが初めて『法具店アマミ』に来た時に、セレナの身を案じるあまりに店主と双子に見せた剣呑な振る舞い。
同じ冒険者として雇い主の店主を守るために立ち向かうか、それともその果てしない力量差から店主ともども避難するか。双子姉妹には修羅場であった。
それが、双子に雇い主の心配をしている。
「他に見つからねぇって言ってたし、こっちはそれなりに人材は必要だったし問題ねぇだろうが。それよりお前らは何しに来たんだよ」
「え、えっと、昨日はきちんと謝っていなかったから……」
「そうか、それはすごくどうでもいい」
セレナの立ち合いの下ででキューリアが謝罪した時同様、再び店主に謝罪した彼女はやはり同じようにあっさりと店主に流される。
だが他にも店主に聞いてもらいたい話があるようだが、そんな店主にどう切り出すか。開けかけては閉じる口の動きを繰り返すキューリアとヒューラー。
「この人達、用心棒してくれるって」
「オーナーさんのことだから、同じトラブルが今後もあるかもしれないからということで、お詫びも兼ねてだそうです」
そんなもじもじしている二人に代わり、彼女らがここにいる理由を双子が話す。
『ホットライン』のメンバーはセレナとは旧知の間柄だから名前で呼び合うのは当然だが、『風刃隊』はたまたま初めて入った道具屋で、初めてまともに相手をしてもらった店。セレナのことは名前ではなく、オーナーと呼ばれているようだ。
キューリア一人きりじゃバツが悪かろう。
そういうことで、同じ女性同士だと親睦も深まりやすかろうという『ホットライン』のリーダー、ブレイドが配慮してヒューラーが付き添ってきたとのこと。
「親睦はいいがよ、こいつらはバイトだからな? 働いてもらわにゃ困るんだよ。で、あいつは?」
「セレナの事かしら? 調査がどうのって用件で迎えに来た人達がいて、その人達ともう一緒に出掛けたわよ。テンシュさんの朝ご飯も用意してるって」
「俺の『も』? 俺の『も』ってことは……」
店主は四人の顔を見回す。
「セレナはもう自分の分は食べていったから、まだ開店前だし五人でゆっくりどうぞって」
親睦なら四人だけでしてほしいと望むものの、かといって食事を避けるわけにはいかない。趣味も混ざる仕事なら寝食を忘れても構わないだろうが、今手掛けているのは依頼人があっての仕事。いくら好きな作業でも依頼の仕事となると責任も伴うため、出来栄えが体調に左右されるわけにはいかない。
「バイトは収入が安定するまでか期限付きでやるんだろうが、用心棒の方はいつまでやるんだよ」
「セレナの調査のどうのこうのが終わるまで、よね」
「うん。それくらいはさせてもらわないと、私もテンシュさんにこう……気持ちが落ち着かないから」
店主はセレナからの聞き取り調査の期限は聞かされておらず、セレナ本人も知らされていないことをキューリアから聞く。四人から絡まれるのは当分終わりそうにない見通しに、店長は力なくうなだれた。
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