美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
上 下
24 / 290
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

『法具店アマミ』初めての常連客と、トラブル体験 6

しおりを挟む
 早朝のトラブルを回避した後にやってきた昨日の依頼主五名。
 出来上がった品について、店主が中心に五人にわかりやすく説明する。

「……まぁこんなものが出来上がったわけだが、昨日の話だとお前らが弱っちいからどの店も相手にしてくれなかったと」

「言ってることは間違っちゃいないんですが、弱っちいって……」

「まぁこの道具に頼り切りにならなくなったら成長の証しってことでな。そしたらば他の店も相手にしてくれるだろうよ。そういうことでもう来んな」

 店主が一人一人に手渡すと、つっけんどんな物言いで突き放す。

「来るなって……あ、支払いも用意してるんですが、お金と代用品でもいいって言いましたよね? 宝石持ってきたんですが」

「足りるかどうか分かんないけどね」
「リーダー、甲斐性ないもんね」

「二人揃って俺をけなすな。で、テンシュさん、これなんですがお眼鏡に叶うといいんですが……」

 トカゲの女二人を諫めて店主に差し出すお金と宝石。

 駆け出しの冒険者なら引き受けられる依頼も少ない。彼らの懐具合も推して知るべし。
 ない袖は振れない彼らであることもセレナは承知している。セレナは少し眉をひそめるが、それで妥協する。
 一方店主は満足げな顔をしている

「セレナ、そっちは随分不満そうだな。だがお前には貧乏くじ引いてもらうぜ。こっちは釣りを出したくなるほどの価値がある。この世界でのこの宝石の価値はどうだかは知らんが、倉庫の中にある宝石に引けを取らねぇ。十分だ」

 店長は、セレナは苦虫を潰したような顔が続くものと思っていた。
 ところが店長の言葉を聞いて一転。手放しで喜んでいる。
 依頼人の五人も、説明を聞いていた時は驚いていたが取引が成立し、それぞれが希望した品物を手にし装備して喜んでいる。

「俺が言うこっちゃねぇけど、くれぐれも道具に頼り過ぎんなよ? 万能の道具じゃない。まずお前らが斡旋所で依頼を選べられるようになること。それから他の道具屋でも相手をしてもらえるようになるまでの成長を目的とした道具と割り切れ。それで中級者レベルに近づけられるんじゃないか? 知らんけど」

「はい! ありがとうございます! これで今日の斡旋所も朝一番に飛び込める。だがテンチョーさんの言う通り、浮かれるなよ? 確実に、やれる仕事があるってことを斡旋所の人達にも分からせること。いいな」
 リーダーがそれらしいことを言う。

 気を引き締めて注意を促したつもりだったようだが、四人は拳を振り上げて威勢を上げる。
 浮かれるなと言った矢先に浮かれているように見えたリーダーは不安げそうだが、それでも店長たちに礼を言い、全員にくどく注意を繰り返しながら全員を引き連れて退店した。

「さて……散々な目に遭ったがまずは仕事一つ完了だな。後は俺の品物をショーケースに並べるだけだが……」
 店内が静かになる。
 店主は一息ついてセレナの方を向く。

「……毎日来てくれるとうれしいんですけど……」

「毎日あんな目にあうのはご免だがな。ま、さっきも言った通り好きにさせてもらうさ。だがいくら無事でも気持ちの上で落ち着けられなきゃおんなじこった。こんなことが続くようじゃ身が持たねぇし、心身ともに健全で向こうに戻れなきゃ意味がねぇ。もちろん俺もそうならねぇように努力はするが、無理矢理ここに引っ張って来たお前にも責任はあるし、魔法だ何だの事は全く分からねぇ。俺を引き留めようとするお前の努力が俺にどう受け止められるか次第だろ。とりあえず明日は来てみるさ。俺の品物を並べる必要もあるしな」

 店主はそう言うと、自分への報酬になる宝石を鷲掴みにして『天美法具店』に向かう。
 そんな店主をセレナは、今までのように止めたりすることをせずに見送る。

 こうして『天美法具店』に戻ってきた店主。
 不本意にも無理矢理取らされた休日をセレナの店のドタバタで潰されて、損をした上に損を重ねた気分で少々気分は晴れない。
 時計を見ると、向こうの世界に移動した時とほぼ同時刻。あと一時間もしたら従業員が来る。
 一日しか経っていないのに、ずいぶん日にちが経ったような疲れも感じるが、愚痴を言っても弱音を吐いても何も始まらない。

 まずは二階に上がる。向こうの世界から持ってきた一掴みの宝石を作業場の部屋の机の上に置いてから洗面所に向かい、それなりに身だしなみを整える。
 店主の前職は趣味が高じたもの。プライベートの時間も作業できるような環境を整えたので、作業場は店舗ばかりではなく事務棟と住まいにも設けてある。

 食事の準備の時間はない。備蓄していた期限切れが迫る保存食を口にして出勤に備える。
 今日の予定の仕事は、まだ従業員達から知らされていない。一足先に事務室に入る。
 しかし今日の予定が、セレナの店に転移する前日のミーティングと変わりがない。

「……何にも仕事してなかったのか? それは有り得ん。予定表に仕事を書き入れるのを面倒くさがったか。……それはあるかもしれん。しょーがねぇな。人に無理矢理休み取らせておいて何てザマだよ」

 店舗に再び足を運ぶ。
 するといつものように毎朝一番で出勤する東雲と九条がいた。
 店主が文句を言う前に東雲から出た言葉。続けて九条が眉に皺を寄せる。

「あれ? 今日休みを取ったんですよね? あ、これからお出かけですか?」
「休日を楽しむのはいいと思いますが、それを出社した者達に見せびらかすのもどうかと……」

「え? 休日は昨日だったろ?」
「「え?」」

「え?」

 向こうの世界で日を跨いで滞在しても、この世界では時間は全く進んでいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...