美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

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巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

『天美法具店』の店主が異世界で職人として 3

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 セレナの事を心配した来訪者を不愛想な対応で店から追い出した店主は、セレナと共に店の再開を目指してまずは一階の間取りの変更に取り掛かる。

 机に向かう椅子が二階への階段に背を向けるように机を設置。そこを店主の作業場とした。カウンターとの境目を明確にはせず位置もそのまま。
 『天美法具店』と同じ位置関係にあるが、その作業場は店主専用の部屋として、壁とドアで仕切られている。部屋作りにまで構うほど執着はしていない店主は、ここでの作業場はむき出しとした。
 そうして始まる店内の大掃除。

 セレナが作った商品すべてを店舗の片隅に追いやって、天井、壁、そして床を二人で綺麗にしてから、集めた品物を再度移動させてその場も掃除。この作業だけで昼まで時間がかかった。
 セレナに昼食を招かれて、彼女の住まいである二階に上がる。
 二階の間取りも単純だった。
 階段から上がってすぐにベッド。その奥には化粧台らしきもの。その向かいがトイレと風呂で、壁がある唯一の仕切り。
 キッチンが一番奥でその手前にテーブルと椅子。
 個室などなく、時折耳に入る『天美法具店』の女性従業員同士の会話からできる想像と比べて殺風景としか言いようがない。

 だが今の店主にはそんなことには興味もなく、次にどんな作業をすることで再開店まで時間をかけずに済むかという課題で頭がいっぱい。

 セレナと昼食が終わって、掃除の続きを始める。
 店主にとってのここ、異世界での『法具店アマミ』と店主の店である『天美法具店』の一階の間取りは隣接する建物が倉庫であることも含めほぼ同じ。違いは二点。カウンターの奥の作業場と、『法具店アマミ』には地下一階があり、一階とほぼ同じ面積でそこも倉庫になっていること。
 地下倉庫については隣の倉庫との区別は特になく、その分『天美法具店』よりもストックしている素材と品物の数は多い。
 店主は掃除よりも素材とセレナが作った品物の仕分けが先と判断する。
 この作業は比較的時間をかけずに終了した。後で、品物全てをチェックした後に改良できる物から手をかけて売り場に陳列する。
 そんな計画を頭に描き、一階に戻り掃除の続き。
 その掃除も夕方になる前に大体終わる。
 そこへまた来訪者がやって来た。

「注文の品、お届けに来ましたー」

 四、五人の男達が店のドアに刻まれた文字『法具店アマミ』の文字を確認して入って運び込んできたのは、明日到着予定だったショーケース六基。

「明日まで何も出来ねぇと思ってた。まさか今日中に来るとは思わなかったぜ。こりゃリニューアルオープンまでそんなに時間かけずに済むぞ」

 ここに来てから初めて店主は明るい表情になる。
 運搬してくれた男達にショーケースの位置を指示する。

 またのご注文をお待ちしてますという挨拶と共に立ち去る彼ら。ショーケースのあるエリアでは、その中に品物を並べばすぐにでも店が再開できる体勢になっている。
 その容量も『天美法具店』よりも広い。ここでは必要と思われる装備品も並べられそうな大きさ。

「で、テンシュさん。こっちはどうしましょっか。かなりの数が倉庫に戻すことになるけど」

「好きにしな。こっちはこっちで……」

「でもテンシュさんは、私の作った物を判定してくれました。私にとってはどれもベストの製品です。それに違いがあると言うなら、その力の優位順に並べたいんです。私にはそれが分かりません」

 何から何まで教えてくれって、お前は子供か? いい加減にしやがれ! と罵りの声を浴びせながらも、まずは道具の種類分けから始める。
 セレナを叱りながらも店の再開を手伝ってくれる店主。
 冒険者をするだけあって、背丈ばかりではなく筋力も店主より優れている上魔法も使えるセレナだが、非力な上に一般人である店主には頭が上がらない。
 叱られてしょげるセレナだが、心強い味方が現れたことに安堵した。

「武器と防具、道具に分けた。その中の上位となると……すげぇな。こんなにたくさんあるのに数えるほどしかねぇぞ。笑えるな」

 店主の笑いは嘲笑である。セレナが感じたことを店長も感じていた。
 自分より力があって、おとぎ話の世界にしかない魔法が使える人物が作った道具がこの程度か。
 そんな見下す思いが込められた笑いだが、数が少ないからこそ展示もしやすい。
 今まで展示されていた品物の八割が倉庫行きである。

「俺がそれなりに飾っておくから、そいつらはしまっとけ。改良の余地からある物がありゃ時間見ながら展示品に出世させてやるから、そんな情けねぇ顔すんじゃねぇ」

 隣接している倉庫には店の中を通ればたどり着くことは出来るが、持っていくものが多すぎる。
 店主の指示通り、セレナは外の出入り口からそれらを倉庫に仕舞い込む。
 腕一杯に抱えて四往復しても片付けられるかどうか。

 そんなセレナに、五人の若者が近寄って来た。
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