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巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇
『天美法具店』の店主の後悔の始まり 11
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店主はセレナの住む世界から『天美法具店』に帰ってきた。
みんな帰った後の戸締りをするために、まずは事務室に向かった。
事務室の扉から、部屋の中の電気が漏れている。
「……向こうの世界でも気に食わん奴がいりゃ、こっちの世界でも気に食わないことをする奴もいる。戸締りくらいはやってもいいが、電気の消し忘れたぁ余分に電気料金かかるじゃねぇか。従業員全員揃ってミーティングして、そのまま帰るってどういうことだ?」
腹立たしい思いを押さえずに事務室の扉を開ける。すると。
「あれ? 社長? お帰りなさい。話の様子ではてっきり全員退社後に帰って来るものだと思ってましたが」
「あ、えーと。伝言通りにはならなかったようで、なんか失礼しました」
九条と注連野が店主の姿を見て戸惑っている。
「な……なんでみんなまだいるの? え? ちょっと待って、今何時?」
「七時過ぎたばかりですよ、社長。明日の予定を確認して終わりですが……来客との用事は?」
店主は言葉が出てこない。
セレナの世界に転移する前に、店主の目に入った時計の時刻は七時になったかならないか。向こうの世界ではいろいろ会話をして、剣の鑑定と説明にも時間はかかっていた。
店の入り口から事務室にたどり着くまでの時間を考えると、向こうの世界にいる間はこちらの世界の時間は止まっているも同然。
「向こうの世界にいる間はこっちの時間が進むことはない。ということは、向こうに仕事を持ち込めば好きな作業のし放題ってことか?」
「何のことですか? 社長」
「え? いや、何でもない。あ、あぁ。今からでもミーティングに参加していいか?」
「もちろんですよ、社長」
心の中で思ったことが口に出てしまった。幸いそれを聞いた従業員達は何のことかは分からないでいるようだった。
店主の職人としての技術は宝石の加工。この作業は手作業を中心に行われることが多いため、作業の完成までには時間がかかる。好きでしている仕事だが、多くの客の要望に応えられないのが悩みである店主にとって、どんなに仕事をしていてもこちらの世界での時間が無駄に消費されないのは非常に心強い味方になる。
おまけにこちらの世界に存在する石が持つ力。これをはるかに超える力を持つ石を望むだけ手に入れられるのも魅力。
しかし向こうの世界は未知な部分が多く、デメリットも計り知れない。
店主はセレナの要望に応えようかどうしようかと迷いに迷う。
「ちょ? しゃーーちょーーっ! きーいーてーまーーすーーーかーーー!」
「うぉう! あ……すまない、ちょっと最後の客からの話で考え事をしてしまった。申し訳ない」
「悪いところがあればすぐに謝って改めるのは社長のいいところなんですけどねぇ……大丈夫ですか? 明日の予定の事なんですが、お配りしたプリントに書かれてありますから。聞き逃しても大丈夫ですけど……風邪でもひきました?」
隣の席に座っている琴吹涼花が心配そうに声をかける。
「あ……いや……。あ、そうだ。東雲さん。発言していいですか?」
ミーティングの進行役は従業員の中で最年長の東雲。
「社長からそんな風に言われると恐れ多いですな。どうぞどうぞ」
東雲は少しおどけながら店主の発言を促す。
『天美法具店』の職場の中では一番上の肩書を持つ店主だが、従業員全員に発言する時には言葉に相当注意をしている。
ただ心の中で感じた事を言うだけでも、それを聞く者はみな部下にあたるので、その言葉を受け止めるときに今後の方針になったり予定や計画の一部になるような誤解をされかねないこともある。
みんな帰った後の戸締りをするために、まずは事務室に向かった。
事務室の扉から、部屋の中の電気が漏れている。
「……向こうの世界でも気に食わん奴がいりゃ、こっちの世界でも気に食わないことをする奴もいる。戸締りくらいはやってもいいが、電気の消し忘れたぁ余分に電気料金かかるじゃねぇか。従業員全員揃ってミーティングして、そのまま帰るってどういうことだ?」
腹立たしい思いを押さえずに事務室の扉を開ける。すると。
「あれ? 社長? お帰りなさい。話の様子ではてっきり全員退社後に帰って来るものだと思ってましたが」
「あ、えーと。伝言通りにはならなかったようで、なんか失礼しました」
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「な……なんでみんなまだいるの? え? ちょっと待って、今何時?」
「七時過ぎたばかりですよ、社長。明日の予定を確認して終わりですが……来客との用事は?」
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セレナの世界に転移する前に、店主の目に入った時計の時刻は七時になったかならないか。向こうの世界ではいろいろ会話をして、剣の鑑定と説明にも時間はかかっていた。
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「向こうの世界にいる間はこっちの時間が進むことはない。ということは、向こうに仕事を持ち込めば好きな作業のし放題ってことか?」
「何のことですか? 社長」
「え? いや、何でもない。あ、あぁ。今からでもミーティングに参加していいか?」
「もちろんですよ、社長」
心の中で思ったことが口に出てしまった。幸いそれを聞いた従業員達は何のことかは分からないでいるようだった。
店主の職人としての技術は宝石の加工。この作業は手作業を中心に行われることが多いため、作業の完成までには時間がかかる。好きでしている仕事だが、多くの客の要望に応えられないのが悩みである店主にとって、どんなに仕事をしていてもこちらの世界での時間が無駄に消費されないのは非常に心強い味方になる。
おまけにこちらの世界に存在する石が持つ力。これをはるかに超える力を持つ石を望むだけ手に入れられるのも魅力。
しかし向こうの世界は未知な部分が多く、デメリットも計り知れない。
店主はセレナの要望に応えようかどうしようかと迷いに迷う。
「ちょ? しゃーーちょーーっ! きーいーてーまーーすーーーかーーー!」
「うぉう! あ……すまない、ちょっと最後の客からの話で考え事をしてしまった。申し訳ない」
「悪いところがあればすぐに謝って改めるのは社長のいいところなんですけどねぇ……大丈夫ですか? 明日の予定の事なんですが、お配りしたプリントに書かれてありますから。聞き逃しても大丈夫ですけど……風邪でもひきました?」
隣の席に座っている琴吹涼花が心配そうに声をかける。
「あ……いや……。あ、そうだ。東雲さん。発言していいですか?」
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「社長からそんな風に言われると恐れ多いですな。どうぞどうぞ」
東雲は少しおどけながら店主の発言を促す。
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ただ心の中で感じた事を言うだけでも、それを聞く者はみな部下にあたるので、その言葉を受け止めるときに今後の方針になったり予定や計画の一部になるような誤解をされかねないこともある。
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