259 / 290
『法具店アマミ』再出発編 第十章 店主が背負い込んだもの
『法具店アマミ』の休暇の日 大体の役割が決まったよ
しおりを挟む
その日の夕方。
保護者役の三チームが集合した。
引っ越す前の店ならば狭苦しかった店内も、引っ越した後の『法具店アマミ』ではゆったりできる広々としたスペース。
狭苦しさに顔をゆがめる客は、今では全く見られない。
それは客に限らず、店を訪れる者なら誰でも当てはまる。
種族によっては、店主のような人間のサイズよりも四倍くらいは体格の大きい者もいる。
通路も展示品も、誰もが満足できる内装に品揃えとなった。
「初級冒険者の依頼が多いって言ってたけどさ、そういう連中ともあまり会わなかったな」
「まぁそんな場所はほかにもあるからね。ミラージャーナにはあんまり多くないし町の境界線付近にあるから、散歩でも出くわすことはあまりないよ」
「気になったのは食料。でも食用の野草や果物はいっぱい実ってたし、草原にいる動物適当に捕らえて捌けば賄えると思う」
「浮浪児たちだって食うもんを得るための知恵くらいはあるだろ。逆にたくさん食わせすぎるようなことがなきゃいいがな」
「連れてく人数も決まってないんでしょ? ねぇテンシュ、そこんとこはどうなの?」
冒険者チーム同士での話し合いの途中で話を振られた店主は、そこで初めて彼らの話を耳を向けた。
「明日勉強会始める前に話す。参加しないやつがここにきても無駄足だからな」
「いや、それもそうでしょうが、人数の把握が大事でしょ」
話題の観点が違う店主への、ミュールの指摘ももっともだ。
だが店主はそれを受け流す。
「こっちが考えることは、来る奴は拒まないってことだけだ。参加する意思がある人数なら把握しなきゃならんだろうがな」
「お報せの広告も作ったし、後は……」
「妾には声もかけぬのか? まぁ話を聞いて大体は分かっておるがな」
店主とセレナも会話に混ざったところで、すっかり気配を消していたウルヴェスが店の入り口から声を挟む。
店に入ってきた冒険者たちの視界には入っていたはずが、そのことをすっかり忘れていた彼らは驚いて入り口の方を見る。
「げ、猊……」
「おっと、今の妾はただのウルヴェス。もっとも公務も次第に数は減っておるから、いずれ敬称も必要なくなるな」
公式にはまだこの国の法王のウルヴェスは、次の代に譲る準備を続けている。
しかし譲位したあとも天流教の教主であることには変わりはないから、猊下という敬称をつけるのは間違いではない。
自分の姿を変えたり、違う姿のように見せたりするウルヴェスだが、今は法王として公衆の面前に妖艶な女性の姿になっている便宜上彼女と呼ぶが、その彼女が店主の護衛役を始めてから大分経つ。それでも冒険者達は法王である彼女が目の前にいることに慣れないでいる。
その容姿は、美しさだけ見比べてもセレナ達女性陣の比にはならないくらいで、店主以外の男性陣の目を惹きつける。
しかし彼女が持つ力は巨大などという言葉では表し尽くせない。それ故に目を向けること自体畏れ多いくらいである。
「え、えーと、ウルヴェス……さ……ん? は、どうなさる……痛っ」
ブレイドが緊張のあまり舌を噛んだ。
「慣れねぇ言葉遣いするからだ。で、ウルヴェスはどうするかってこと聞きたかったらしいな。俺の警護を俺の生涯、最後までやり通すって話してたからついてくるんだろうが……」
「無論じゃ。どこから何者が襲い掛かってくるか分からんのだからな。妾がそばにいればすぐ分かる」
「……だが今回は俺じゃなくガキ共の警護に回ってくんねぇか。こいつらが何とかしてくれるだろうが、魔物の襲撃でガキ共が襲われるとなると、元凶の魔物討伐まで手が回らねえ」
浮浪児の中には、店主主催の勉強会に参加してからは地元の住民たちから養子に迎え入れる子供たちが増えつつある。
魔物の襲撃で子供達に被害があったりすると、例え養子に迎え入れられなかった子供達だったとしても、店主の評判は落ちてしまうだろう。
店主の安全は確保出来ても、遠出から帰ってきた後の店主の境遇が悪化するようでは、ウルヴェスが自ら課したその役目は必ずしも全うしたとは言い切れない。
ウルヴェスはしばらく考え込むが、重い口を開いてその件を承諾する。
「ま、年齢では俺が勝てないやつもいるが、人生経験はこっちが上だ。誰かが駆けつけてくれるまで、ピンチは何とか凌いで見せるさ」
軽口ではあるが、決して投げやりでも出まかせでもない意思をその口調の中で感じたウルヴェスは、無理やり自分を納得させる。
「でも一緒に洞窟に入ったら、店主にもやっぱり警護は必要だろ? 俺たちも魔術は相変わらず苦手だけど、体術は一応それなりに心得てる。店主はそうじゃねぇよな?」
「誰が一緒に洞窟に行くっつったよ?」
「え?」
「ガキ共連れて洞窟に入るお前らを遠くから眺めるだけだよ。暇つぶしも持っていくしな。魔物が出てきそうにないところでお前らを待つだけ。こっちはどんな素材が採れるかがわかりゃいいんだから」
一同言葉を一瞬失う。
「えーと、それじゃ現場へは……」
「お前らが立ち入って、危険なことがなさそうだったら俺の秘密の場所にしようかなってとこで。全員俺のためにキリキリ働け」
実力者ばかりではなく、一国の王まで捕まえてこの言い草である。
保護者役の三チームが集合した。
引っ越す前の店ならば狭苦しかった店内も、引っ越した後の『法具店アマミ』ではゆったりできる広々としたスペース。
狭苦しさに顔をゆがめる客は、今では全く見られない。
それは客に限らず、店を訪れる者なら誰でも当てはまる。
種族によっては、店主のような人間のサイズよりも四倍くらいは体格の大きい者もいる。
通路も展示品も、誰もが満足できる内装に品揃えとなった。
「初級冒険者の依頼が多いって言ってたけどさ、そういう連中ともあまり会わなかったな」
「まぁそんな場所はほかにもあるからね。ミラージャーナにはあんまり多くないし町の境界線付近にあるから、散歩でも出くわすことはあまりないよ」
「気になったのは食料。でも食用の野草や果物はいっぱい実ってたし、草原にいる動物適当に捕らえて捌けば賄えると思う」
「浮浪児たちだって食うもんを得るための知恵くらいはあるだろ。逆にたくさん食わせすぎるようなことがなきゃいいがな」
「連れてく人数も決まってないんでしょ? ねぇテンシュ、そこんとこはどうなの?」
冒険者チーム同士での話し合いの途中で話を振られた店主は、そこで初めて彼らの話を耳を向けた。
「明日勉強会始める前に話す。参加しないやつがここにきても無駄足だからな」
「いや、それもそうでしょうが、人数の把握が大事でしょ」
話題の観点が違う店主への、ミュールの指摘ももっともだ。
だが店主はそれを受け流す。
「こっちが考えることは、来る奴は拒まないってことだけだ。参加する意思がある人数なら把握しなきゃならんだろうがな」
「お報せの広告も作ったし、後は……」
「妾には声もかけぬのか? まぁ話を聞いて大体は分かっておるがな」
店主とセレナも会話に混ざったところで、すっかり気配を消していたウルヴェスが店の入り口から声を挟む。
店に入ってきた冒険者たちの視界には入っていたはずが、そのことをすっかり忘れていた彼らは驚いて入り口の方を見る。
「げ、猊……」
「おっと、今の妾はただのウルヴェス。もっとも公務も次第に数は減っておるから、いずれ敬称も必要なくなるな」
公式にはまだこの国の法王のウルヴェスは、次の代に譲る準備を続けている。
しかし譲位したあとも天流教の教主であることには変わりはないから、猊下という敬称をつけるのは間違いではない。
自分の姿を変えたり、違う姿のように見せたりするウルヴェスだが、今は法王として公衆の面前に妖艶な女性の姿になっている便宜上彼女と呼ぶが、その彼女が店主の護衛役を始めてから大分経つ。それでも冒険者達は法王である彼女が目の前にいることに慣れないでいる。
その容姿は、美しさだけ見比べてもセレナ達女性陣の比にはならないくらいで、店主以外の男性陣の目を惹きつける。
しかし彼女が持つ力は巨大などという言葉では表し尽くせない。それ故に目を向けること自体畏れ多いくらいである。
「え、えーと、ウルヴェス……さ……ん? は、どうなさる……痛っ」
ブレイドが緊張のあまり舌を噛んだ。
「慣れねぇ言葉遣いするからだ。で、ウルヴェスはどうするかってこと聞きたかったらしいな。俺の警護を俺の生涯、最後までやり通すって話してたからついてくるんだろうが……」
「無論じゃ。どこから何者が襲い掛かってくるか分からんのだからな。妾がそばにいればすぐ分かる」
「……だが今回は俺じゃなくガキ共の警護に回ってくんねぇか。こいつらが何とかしてくれるだろうが、魔物の襲撃でガキ共が襲われるとなると、元凶の魔物討伐まで手が回らねえ」
浮浪児の中には、店主主催の勉強会に参加してからは地元の住民たちから養子に迎え入れる子供たちが増えつつある。
魔物の襲撃で子供達に被害があったりすると、例え養子に迎え入れられなかった子供達だったとしても、店主の評判は落ちてしまうだろう。
店主の安全は確保出来ても、遠出から帰ってきた後の店主の境遇が悪化するようでは、ウルヴェスが自ら課したその役目は必ずしも全うしたとは言い切れない。
ウルヴェスはしばらく考え込むが、重い口を開いてその件を承諾する。
「ま、年齢では俺が勝てないやつもいるが、人生経験はこっちが上だ。誰かが駆けつけてくれるまで、ピンチは何とか凌いで見せるさ」
軽口ではあるが、決して投げやりでも出まかせでもない意思をその口調の中で感じたウルヴェスは、無理やり自分を納得させる。
「でも一緒に洞窟に入ったら、店主にもやっぱり警護は必要だろ? 俺たちも魔術は相変わらず苦手だけど、体術は一応それなりに心得てる。店主はそうじゃねぇよな?」
「誰が一緒に洞窟に行くっつったよ?」
「え?」
「ガキ共連れて洞窟に入るお前らを遠くから眺めるだけだよ。暇つぶしも持っていくしな。魔物が出てきそうにないところでお前らを待つだけ。こっちはどんな素材が採れるかがわかりゃいいんだから」
一同言葉を一瞬失う。
「えーと、それじゃ現場へは……」
「お前らが立ち入って、危険なことがなさそうだったら俺の秘密の場所にしようかなってとこで。全員俺のためにキリキリ働け」
実力者ばかりではなく、一国の王まで捕まえてこの言い草である。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる