243 / 290
環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす
事情説明 店主の言い訳 2
しおりを挟む
「冒険者になりたての者が店に入る。先にいた客が店の人と名前で呼び合っている。どう思う?」
「どう思うって……でもお客さんが来たならいらっしゃいませって声かけるでしょ?」
「教習所とかに入って、冒険者の知識を身に付けて、その者には新しい世界に入っていく。けど右も左も分からないんじゃないか? 不安もあるだろう。飛び込んだ店には、店の者と客が仲良く話をしている。話の邪魔しちゃ悪いかもしれない、なんて思うだろうよ」
「そんなことないわよ。初心者ならレクチャーしたりアドバイスしたりするでしょ?」
「セレナ、お前もバカだな」
いきなり店主から暴言が飛び出した。
その冷めた視線にシエラは驚き、ウルヴェスは呆れる。
「テンシュ殿、いくら知ってる言葉が少ないからと言っても、流石にそれはない。先に礼儀正しい言葉遣いを覚えた方がいいと思うぞ」
「では言い直す。セレナ、お前もバカだ」
「それは断言に変わっただけで意味合いは全然変わってないじゃない」
シエラがため息をつく。言われたセレナは、その理由を求める。
「俺らの最初の常連を忘れたって言うなら、俺よりひどい対応だ。あの五人、どの店からも相手にされなかったと言ってただろう。店にとってはその五人よりも大事なことがあった。もしくは店にとって取るに足らない存在だった。違うか?」
やや強引な店主の理論だが、相手にする暇があったら、もっと大切なことに時間を使うということだろう。
たとえ時間を使う目的が、店の者の骨休みだったとしても。
「俺は職人だ。だが商売をほっとくわけにはいかない。だがどの店からも相手にされない客も放置するのも問題。俺だって名前と顔を覚えりゃ親近感は湧く。初めて来る者を拒む思いを持つこともある。初めて来る客は得体のしれない連中で、名前と顔を覚えりゃある程度は気心が知れるからな。だが俺だって『余所者』なんだよ。けど俺は、あの時のセレナの思惑は知らんが歓迎された。歓迎された『余所者』が、客の一部は受け入れ、客の一部は追い出す。そんなことがあったら駄目だろう。事実追い出された奴らだっただろう? あの五人は」
でもそれは何かが違ってる。
シエラはそう思うが、上手く言葉が出てこない。
「さっきの客だってジジィの事少し気にしてただろう。もしジジィと会話続けていたら、こっちに相談できていたかどうか。店員から話しかけられるのを嫌う客もいる。だが一声かけりゃどういう客かは分かるだろう? 放置してほしい客を放置するのはその後でも遅くない」
接客時には普通に座り直していた店主は再び後ろに重心をかける。
「助けを求める手を払うことは出来ない。けどその手を伸ばす意志はあっても、伸ばせない事情を持つ者もいる。おせっかいはするつもりはない。だが何かを求めて店に来る者に、常連と初見の差別はしたくない」
「その差別の元が、名前と顔を覚えること?」
「あぁ。だからセレナの名前を言い間違えたことはなかったはずだ。客じゃないからな。それと常連の対応にはなるべく突き放すようにしてる。初めて来る客の声は小さいからな。小さい声を聞こうとするには、常連にはそれくらいの事をしてちょうどいい」
「『すいません』くらいは普通に聞こえるよね?」
「そういう声じゃねぇよ」
店主の言いたいことはそういうことではないらしい。
店主はシエラに、やや疲れた顔を向ける。
「どう思うって……でもお客さんが来たならいらっしゃいませって声かけるでしょ?」
「教習所とかに入って、冒険者の知識を身に付けて、その者には新しい世界に入っていく。けど右も左も分からないんじゃないか? 不安もあるだろう。飛び込んだ店には、店の者と客が仲良く話をしている。話の邪魔しちゃ悪いかもしれない、なんて思うだろうよ」
「そんなことないわよ。初心者ならレクチャーしたりアドバイスしたりするでしょ?」
「セレナ、お前もバカだな」
いきなり店主から暴言が飛び出した。
その冷めた視線にシエラは驚き、ウルヴェスは呆れる。
「テンシュ殿、いくら知ってる言葉が少ないからと言っても、流石にそれはない。先に礼儀正しい言葉遣いを覚えた方がいいと思うぞ」
「では言い直す。セレナ、お前もバカだ」
「それは断言に変わっただけで意味合いは全然変わってないじゃない」
シエラがため息をつく。言われたセレナは、その理由を求める。
「俺らの最初の常連を忘れたって言うなら、俺よりひどい対応だ。あの五人、どの店からも相手にされなかったと言ってただろう。店にとってはその五人よりも大事なことがあった。もしくは店にとって取るに足らない存在だった。違うか?」
やや強引な店主の理論だが、相手にする暇があったら、もっと大切なことに時間を使うということだろう。
たとえ時間を使う目的が、店の者の骨休みだったとしても。
「俺は職人だ。だが商売をほっとくわけにはいかない。だがどの店からも相手にされない客も放置するのも問題。俺だって名前と顔を覚えりゃ親近感は湧く。初めて来る者を拒む思いを持つこともある。初めて来る客は得体のしれない連中で、名前と顔を覚えりゃある程度は気心が知れるからな。だが俺だって『余所者』なんだよ。けど俺は、あの時のセレナの思惑は知らんが歓迎された。歓迎された『余所者』が、客の一部は受け入れ、客の一部は追い出す。そんなことがあったら駄目だろう。事実追い出された奴らだっただろう? あの五人は」
でもそれは何かが違ってる。
シエラはそう思うが、上手く言葉が出てこない。
「さっきの客だってジジィの事少し気にしてただろう。もしジジィと会話続けていたら、こっちに相談できていたかどうか。店員から話しかけられるのを嫌う客もいる。だが一声かけりゃどういう客かは分かるだろう? 放置してほしい客を放置するのはその後でも遅くない」
接客時には普通に座り直していた店主は再び後ろに重心をかける。
「助けを求める手を払うことは出来ない。けどその手を伸ばす意志はあっても、伸ばせない事情を持つ者もいる。おせっかいはするつもりはない。だが何かを求めて店に来る者に、常連と初見の差別はしたくない」
「その差別の元が、名前と顔を覚えること?」
「あぁ。だからセレナの名前を言い間違えたことはなかったはずだ。客じゃないからな。それと常連の対応にはなるべく突き放すようにしてる。初めて来る客の声は小さいからな。小さい声を聞こうとするには、常連にはそれくらいの事をしてちょうどいい」
「『すいません』くらいは普通に聞こえるよね?」
「そういう声じゃねぇよ」
店主の言いたいことはそういうことではないらしい。
店主はシエラに、やや疲れた顔を向ける。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる