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環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす
事情説明 店主の言い訳 2
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「冒険者になりたての者が店に入る。先にいた客が店の人と名前で呼び合っている。どう思う?」
「どう思うって……でもお客さんが来たならいらっしゃいませって声かけるでしょ?」
「教習所とかに入って、冒険者の知識を身に付けて、その者には新しい世界に入っていく。けど右も左も分からないんじゃないか? 不安もあるだろう。飛び込んだ店には、店の者と客が仲良く話をしている。話の邪魔しちゃ悪いかもしれない、なんて思うだろうよ」
「そんなことないわよ。初心者ならレクチャーしたりアドバイスしたりするでしょ?」
「セレナ、お前もバカだな」
いきなり店主から暴言が飛び出した。
その冷めた視線にシエラは驚き、ウルヴェスは呆れる。
「テンシュ殿、いくら知ってる言葉が少ないからと言っても、流石にそれはない。先に礼儀正しい言葉遣いを覚えた方がいいと思うぞ」
「では言い直す。セレナ、お前もバカだ」
「それは断言に変わっただけで意味合いは全然変わってないじゃない」
シエラがため息をつく。言われたセレナは、その理由を求める。
「俺らの最初の常連を忘れたって言うなら、俺よりひどい対応だ。あの五人、どの店からも相手にされなかったと言ってただろう。店にとってはその五人よりも大事なことがあった。もしくは店にとって取るに足らない存在だった。違うか?」
やや強引な店主の理論だが、相手にする暇があったら、もっと大切なことに時間を使うということだろう。
たとえ時間を使う目的が、店の者の骨休みだったとしても。
「俺は職人だ。だが商売をほっとくわけにはいかない。だがどの店からも相手にされない客も放置するのも問題。俺だって名前と顔を覚えりゃ親近感は湧く。初めて来る者を拒む思いを持つこともある。初めて来る客は得体のしれない連中で、名前と顔を覚えりゃある程度は気心が知れるからな。だが俺だって『余所者』なんだよ。けど俺は、あの時のセレナの思惑は知らんが歓迎された。歓迎された『余所者』が、客の一部は受け入れ、客の一部は追い出す。そんなことがあったら駄目だろう。事実追い出された奴らだっただろう? あの五人は」
でもそれは何かが違ってる。
シエラはそう思うが、上手く言葉が出てこない。
「さっきの客だってジジィの事少し気にしてただろう。もしジジィと会話続けていたら、こっちに相談できていたかどうか。店員から話しかけられるのを嫌う客もいる。だが一声かけりゃどういう客かは分かるだろう? 放置してほしい客を放置するのはその後でも遅くない」
接客時には普通に座り直していた店主は再び後ろに重心をかける。
「助けを求める手を払うことは出来ない。けどその手を伸ばす意志はあっても、伸ばせない事情を持つ者もいる。おせっかいはするつもりはない。だが何かを求めて店に来る者に、常連と初見の差別はしたくない」
「その差別の元が、名前と顔を覚えること?」
「あぁ。だからセレナの名前を言い間違えたことはなかったはずだ。客じゃないからな。それと常連の対応にはなるべく突き放すようにしてる。初めて来る客の声は小さいからな。小さい声を聞こうとするには、常連にはそれくらいの事をしてちょうどいい」
「『すいません』くらいは普通に聞こえるよね?」
「そういう声じゃねぇよ」
店主の言いたいことはそういうことではないらしい。
店主はシエラに、やや疲れた顔を向ける。
「どう思うって……でもお客さんが来たならいらっしゃいませって声かけるでしょ?」
「教習所とかに入って、冒険者の知識を身に付けて、その者には新しい世界に入っていく。けど右も左も分からないんじゃないか? 不安もあるだろう。飛び込んだ店には、店の者と客が仲良く話をしている。話の邪魔しちゃ悪いかもしれない、なんて思うだろうよ」
「そんなことないわよ。初心者ならレクチャーしたりアドバイスしたりするでしょ?」
「セレナ、お前もバカだな」
いきなり店主から暴言が飛び出した。
その冷めた視線にシエラは驚き、ウルヴェスは呆れる。
「テンシュ殿、いくら知ってる言葉が少ないからと言っても、流石にそれはない。先に礼儀正しい言葉遣いを覚えた方がいいと思うぞ」
「では言い直す。セレナ、お前もバカだ」
「それは断言に変わっただけで意味合いは全然変わってないじゃない」
シエラがため息をつく。言われたセレナは、その理由を求める。
「俺らの最初の常連を忘れたって言うなら、俺よりひどい対応だ。あの五人、どの店からも相手にされなかったと言ってただろう。店にとってはその五人よりも大事なことがあった。もしくは店にとって取るに足らない存在だった。違うか?」
やや強引な店主の理論だが、相手にする暇があったら、もっと大切なことに時間を使うということだろう。
たとえ時間を使う目的が、店の者の骨休みだったとしても。
「俺は職人だ。だが商売をほっとくわけにはいかない。だがどの店からも相手にされない客も放置するのも問題。俺だって名前と顔を覚えりゃ親近感は湧く。初めて来る者を拒む思いを持つこともある。初めて来る客は得体のしれない連中で、名前と顔を覚えりゃある程度は気心が知れるからな。だが俺だって『余所者』なんだよ。けど俺は、あの時のセレナの思惑は知らんが歓迎された。歓迎された『余所者』が、客の一部は受け入れ、客の一部は追い出す。そんなことがあったら駄目だろう。事実追い出された奴らだっただろう? あの五人は」
でもそれは何かが違ってる。
シエラはそう思うが、上手く言葉が出てこない。
「さっきの客だってジジィの事少し気にしてただろう。もしジジィと会話続けていたら、こっちに相談できていたかどうか。店員から話しかけられるのを嫌う客もいる。だが一声かけりゃどういう客かは分かるだろう? 放置してほしい客を放置するのはその後でも遅くない」
接客時には普通に座り直していた店主は再び後ろに重心をかける。
「助けを求める手を払うことは出来ない。けどその手を伸ばす意志はあっても、伸ばせない事情を持つ者もいる。おせっかいはするつもりはない。だが何かを求めて店に来る者に、常連と初見の差別はしたくない」
「その差別の元が、名前と顔を覚えること?」
「あぁ。だからセレナの名前を言い間違えたことはなかったはずだ。客じゃないからな。それと常連の対応にはなるべく突き放すようにしてる。初めて来る客の声は小さいからな。小さい声を聞こうとするには、常連にはそれくらいの事をしてちょうどいい」
「『すいません』くらいは普通に聞こえるよね?」
「そういう声じゃねぇよ」
店主の言いたいことはそういうことではないらしい。
店主はシエラに、やや疲れた顔を向ける。
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