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環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす
再会 尽きない話題 そして 号泣
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ニィナと『風刃隊』のミュールの、二十年以上の久しぶりの姉とギクシャクした弟の対面。
ロビーで二人きりで長々と話し合いをし、再度四人と合流。
「じゃああたしはテンシュにお昼付き合うから……あんたたちはどうする?」
「外で飯食って、すぐ病室に戻りますよ。積もる話もいっぱいあるし」
そういうことで昼食後に再び『風刃隊』は店主の病室にやって来る。
何でこいつらがまた来たんだ、といううんざりした店主の顔色は、心なしか青みが薄れてきていた。
そして見舞いに来た者同士、店主の避けていた話題で盛り上がる。
ニィナとミュールのわだかまりはすっかり溶けているようだ。
ちなみに当然だが、その会話は店主は全くついていけない。
「……だったらテンシュってば、巨塊問題解決の立役者じゃないの。何でそんなこと言わなかったんだろ……って、活躍ぶりよりも自分の仕事ぶりを強調したいなら、そんな話出来ないわよね」
「なんで? いい宣伝になるってのに」
ギースの疑問ももっともである。
質問される前に自分の功績を口に出したら人によっては嫌味にも受け取られてしまうだろうが、聞かれても隠さなければならない理由はないだろう。
「色眼鏡で見られるからよ。あたしも職人だから分かるけど、自分があげた功績よりやっぱり自分の腕を見てもらいたいからね。でも、ミュールがまさか上位の冒険者チームにいるなんて夢にも思わなかったよ」
しかしニィナはテンシュのことよりも弟や『風刃隊』のこれまでの功績に関心があった。
「逆ですよ。みんなヘナチョコだったんですよ、俺達。それがここまで続いてこれたのはテンシュのおかげってことです」
「そ言えばセレナさんは? セレナさんにも会いたいよぉ。テンシュー、セレナさんはー?」
ミールが店主の方を見て話しかけるが、ニィナが買ってきてくれたテキストでの勉強に余念がない店主は、彼女の言うことが聞こえない。
「真剣になると周りが見えなくなるってのは変わらないわね。普段のふざけた言い方は間違いなくわざとよね、間違いなく」
ウィーナがベルナット村での仕事をする店主の姿を思い出す。
仕事中に話しかけると怒ることもあったが、仕事に区切りを迎えるまで全く反応しないことも多々あった。
その仕事の邪魔になったから怒ったのだろう。その仕事は気を抜くことが出来なかったから周りの事が気にならなかったのだろう。
どちらにしても質の高い仕事をしていた。
「この分なら、近いうちにまた普通に会話できるようになれるよね? 会話できるようになったら、またいろいろ作ってもらおうよ」
「そうだな。元々は腕のいい職人なんだし、毒舌の数も減ってくだろうしな」
ワイアットの最後の一言が全員を笑わせる。
時間が経つのを忘れるほど歓談が盛り上がる。気付いた時には入院患者たちの夕食前。
「もうこんな時間か。そろそろ戻らないとな。ミュール、お前は……」
「いつもと変わらないよ、ワイアット。これからもこれまで通り、さ」
ワイアットが、そうかと言おうとしたときに、外の廊下から駆けてくる足音が響いて室内にも聞こえてくる。
「テンシュッ!!」
ドアが勢いよく開き、勉強に夢中になっている店主に飛び込む。
店主はいきなり後ろに倒され、ベッドの上に仰向けになる。
「テンシュッ! ごめんっ! ごめんなさいっ!」
その店主の胸元で泣きじゃくりながら謝罪の言葉を繰り返すその人物は、『法具店アマミ』から仕事に向かった格好のままのセレナだった。
ロビーで二人きりで長々と話し合いをし、再度四人と合流。
「じゃああたしはテンシュにお昼付き合うから……あんたたちはどうする?」
「外で飯食って、すぐ病室に戻りますよ。積もる話もいっぱいあるし」
そういうことで昼食後に再び『風刃隊』は店主の病室にやって来る。
何でこいつらがまた来たんだ、といううんざりした店主の顔色は、心なしか青みが薄れてきていた。
そして見舞いに来た者同士、店主の避けていた話題で盛り上がる。
ニィナとミュールのわだかまりはすっかり溶けているようだ。
ちなみに当然だが、その会話は店主は全くついていけない。
「……だったらテンシュってば、巨塊問題解決の立役者じゃないの。何でそんなこと言わなかったんだろ……って、活躍ぶりよりも自分の仕事ぶりを強調したいなら、そんな話出来ないわよね」
「なんで? いい宣伝になるってのに」
ギースの疑問ももっともである。
質問される前に自分の功績を口に出したら人によっては嫌味にも受け取られてしまうだろうが、聞かれても隠さなければならない理由はないだろう。
「色眼鏡で見られるからよ。あたしも職人だから分かるけど、自分があげた功績よりやっぱり自分の腕を見てもらいたいからね。でも、ミュールがまさか上位の冒険者チームにいるなんて夢にも思わなかったよ」
しかしニィナはテンシュのことよりも弟や『風刃隊』のこれまでの功績に関心があった。
「逆ですよ。みんなヘナチョコだったんですよ、俺達。それがここまで続いてこれたのはテンシュのおかげってことです」
「そ言えばセレナさんは? セレナさんにも会いたいよぉ。テンシュー、セレナさんはー?」
ミールが店主の方を見て話しかけるが、ニィナが買ってきてくれたテキストでの勉強に余念がない店主は、彼女の言うことが聞こえない。
「真剣になると周りが見えなくなるってのは変わらないわね。普段のふざけた言い方は間違いなくわざとよね、間違いなく」
ウィーナがベルナット村での仕事をする店主の姿を思い出す。
仕事中に話しかけると怒ることもあったが、仕事に区切りを迎えるまで全く反応しないことも多々あった。
その仕事の邪魔になったから怒ったのだろう。その仕事は気を抜くことが出来なかったから周りの事が気にならなかったのだろう。
どちらにしても質の高い仕事をしていた。
「この分なら、近いうちにまた普通に会話できるようになれるよね? 会話できるようになったら、またいろいろ作ってもらおうよ」
「そうだな。元々は腕のいい職人なんだし、毒舌の数も減ってくだろうしな」
ワイアットの最後の一言が全員を笑わせる。
時間が経つのを忘れるほど歓談が盛り上がる。気付いた時には入院患者たちの夕食前。
「もうこんな時間か。そろそろ戻らないとな。ミュール、お前は……」
「いつもと変わらないよ、ワイアット。これからもこれまで通り、さ」
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「テンシュッ!!」
ドアが勢いよく開き、勉強に夢中になっている店主に飛び込む。
店主はいきなり後ろに倒され、ベッドの上に仰向けになる。
「テンシュッ! ごめんっ! ごめんなさいっ!」
その店主の胸元で泣きじゃくりながら謝罪の言葉を繰り返すその人物は、『法具店アマミ』から仕事に向かった格好のままのセレナだった。
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