222 / 290
環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす
異世界再認識 異世界であることを忘れたか
しおりを挟む
───────────
皇居内某所。
「いつも俺の前ではふんぞり返っているお前が、まさかこうも早く動くとは思わなかったぞ。確実に動くというようなことをこの間言っていたではないか、アムベス」
「貴様と俺は対等な立場であるべき。だが貴様にばかり働かせては、さすがの俺も心が痛む。まぁ部下もよくやってくれたがな」
「光栄の極みでございます、閣下」
「それにしても、命を奪うこと以外手段は思い浮かばなかったんだが、まさかそうくるとは。アムベス、お前は俺の事を頭脳労働などと言っておったが、お前こそなかなか頭がキレるではないか」
「まぁいろいろと経験を積んだからな。発想の転換というやつだ。そういえばあの男もそれを売りにしていたようだったが、俺の方が一枚上手ということだ。ふん」
─────────────
「あたしだって分かんないんだよ! テンシュがいきなりあたしに体当たりして、んで何が起きたのか分かんなくて、そしたらテンシュが気絶してて。そしたらあたしもフラァって」
「じゃあ誰かが来て、店の中には三人いたってことッスよね? 姐御」
「あぁ。多分あたしの身を守ってくれたんだと思うんだけど……。先生、どうなんだい、テンシュの様子はぁ」
ニィナのかかりつけの病院に、ニィナ=バナー建具店に時々手伝いに来る若い衆によって運ばれたニィナと店主。
間もなくニィナは目覚める。体の調子は至って良好。運ばれてから二時間。いまだに店主は目覚めない。
「貧血めいたものだと思うよ? 種族が混ざると診断も難しくなるが、純粋な人族で良かった。体の異常はほかに見つからない。ついでに一通り検診もしてみたが、いたって健康。薬も術も不要だ。一晩ここに泊まらせて、お大事にという言葉をかけるしか私の役目はないね」
「お身内の方はいらっしゃらないんですか?」
看護師が尋ねるが、ニィナとて詳しくはない。
「セレナってエルフの女性と一緒に暮らしてるが、夫婦ってわけでもないらしい。冒険者も兼業でやってて、どこかに出かけたばかりなんだよ。あたしとすれ違いにテンシュに見送られて出てったからね……。あぁ、デルフィ、付き合わせて悪かったね。ここはもう大丈夫。心配しなくていいよ」
「じゃあ俺、あの店のカウンターにでも書置きしときますよ。この人ここに入院してるって。セレナさんでしたっけ? いつ帰って来るか分かんないっしょ? 店の入り口に貼ったら泥棒が入るかもしんねぇし」
「あぁ、そうしてくれ。頼りになるね、デルフィ」
デルフィと呼ばれた若い衆は、三人に軽くお辞儀をして病室を出る。
そして医者も勤務時間が終わり、看護師の夜勤の時間帯に入った。
日付が変わる寸前、唸りながら目を覚ます店主。
「……っ! 起きたかい、テンシュっ! 具合はどうだい?! あ、ここは近所の病院さ。看護師さん呼んでくるよ。待ってな!」
意識はあるが、起き上がろうとはしない。起き上がった時に体の異常で苦痛を感じるのを恐れたためか。
けたたましい足音が三人分。
休んでる最中に叩き起こされた医者が慌てて駆け付けてくれたようだ。
「分かるかい? この指、見えるかい? ……うん、意識はしっかりしている。してるけど……」
「けど、なんだい? 先生」
「言語障害が出てるのかな……一言も言葉を出してないね」
ニィナの顔が青くなる。
「……テンシュ? 大丈夫? 聞こえてるよね?」
「テンシュさん、言葉、分かりますか?」
ニィナの言葉には反応しなかった店主は、ゆっくりと話す看護師には頷いた。
「……テンシュ、だ・い・じょ・う・ぶ?」
看護師のマネをして、ニィナもゆっくりと声をかける。店主は何度か頷くが、時折首をかしげる。
「……ふむ。脈も正常だし眼球も問題なさそうだし……。明日普通に診察してそれで問題なければ退院でいいんじゃないかな?」
店主はゆっくり体を起こす。
そして頭を押さえ、横に振る。
「え? 退院したらまずいの? 具合悪いなら遠慮なく言いなよ」
「……やはりしばらく様子見だね。言葉は理解できるようだが、声が出ていない。精密検査が必要かな」
しばらく店主の入院が決定した。
容態が急変するようなことはなさそうという判断。あとは夜勤の看護師に任せ、医者はまた自宅に戻る。
「じゃあ今はあたしは一旦家に戻るよ。セレナが帰って来てたら伝えるし、来てなかったら代わりに来てやるよ。気にすんな。困ったときは互い様さ。ゆっくり休んどきな」
ニィナも自分の家に戻る。
病室は個室。一人になった店主は、途方に暮れた顔をして片手で額を抑える。
─────────
皇居内某所。
「それにしてもアムベス。今回はお前の頭のキレには脱帽だ。まさかそういうことになろうとはな」
「余所者がなぜこの世界に住むことが出来るのか不思議でな。通訳がおらんなら、何かしらの力が働いていることは間違いない。その力を奪えば済むことだ。幸いその道具は手元にある。その力を吸い取れば……。だが流石に今回は我々の運が良かったとも言える。でなければ警戒されてしまう恐れもあったからな。そこからこの計略がばれてしまうかもしれなかったからな」
「謙遜だろう? そこまで頭が回る奴が、もし失敗しそうなら計画を中断することだって考えるだろうに。次の機会を待つことは、猊下に知られない限りいつまでもできるのであろうが」
「ふ。まぁ余計な手間が省けて何よりと言ったところだ。あとはこちら側から奴らに接触しないこと。これで我々の立場は安泰、ということだ」
「……それにしてもアムベス。よく気が付いたものだ。賞賛ものだぞ? まさか大陸語を理解出来る能力を奪うとはな。下手に傷つけたり命を奪ったりしていたら、猊下から間違いなくとことんまで追及されていた」
──────────
ウルヴェスから授かった言語を理解する力。
この国の母国語であり公用語でもある大陸語の文字は、店主には日本語や日本で使われた文字に変化して視認され、耳に入る言葉はそれらに変化して聞こえてくる。
店主の発する言葉は、聞こうとするこの世界の住人には大陸語に変化し、逆に住人たちの言葉は店主の理解できる言語に変化して耳に入る。
店主はその力を失ってしまっていた。
皇居内某所。
「いつも俺の前ではふんぞり返っているお前が、まさかこうも早く動くとは思わなかったぞ。確実に動くというようなことをこの間言っていたではないか、アムベス」
「貴様と俺は対等な立場であるべき。だが貴様にばかり働かせては、さすがの俺も心が痛む。まぁ部下もよくやってくれたがな」
「光栄の極みでございます、閣下」
「それにしても、命を奪うこと以外手段は思い浮かばなかったんだが、まさかそうくるとは。アムベス、お前は俺の事を頭脳労働などと言っておったが、お前こそなかなか頭がキレるではないか」
「まぁいろいろと経験を積んだからな。発想の転換というやつだ。そういえばあの男もそれを売りにしていたようだったが、俺の方が一枚上手ということだ。ふん」
─────────────
「あたしだって分かんないんだよ! テンシュがいきなりあたしに体当たりして、んで何が起きたのか分かんなくて、そしたらテンシュが気絶してて。そしたらあたしもフラァって」
「じゃあ誰かが来て、店の中には三人いたってことッスよね? 姐御」
「あぁ。多分あたしの身を守ってくれたんだと思うんだけど……。先生、どうなんだい、テンシュの様子はぁ」
ニィナのかかりつけの病院に、ニィナ=バナー建具店に時々手伝いに来る若い衆によって運ばれたニィナと店主。
間もなくニィナは目覚める。体の調子は至って良好。運ばれてから二時間。いまだに店主は目覚めない。
「貧血めいたものだと思うよ? 種族が混ざると診断も難しくなるが、純粋な人族で良かった。体の異常はほかに見つからない。ついでに一通り検診もしてみたが、いたって健康。薬も術も不要だ。一晩ここに泊まらせて、お大事にという言葉をかけるしか私の役目はないね」
「お身内の方はいらっしゃらないんですか?」
看護師が尋ねるが、ニィナとて詳しくはない。
「セレナってエルフの女性と一緒に暮らしてるが、夫婦ってわけでもないらしい。冒険者も兼業でやってて、どこかに出かけたばかりなんだよ。あたしとすれ違いにテンシュに見送られて出てったからね……。あぁ、デルフィ、付き合わせて悪かったね。ここはもう大丈夫。心配しなくていいよ」
「じゃあ俺、あの店のカウンターにでも書置きしときますよ。この人ここに入院してるって。セレナさんでしたっけ? いつ帰って来るか分かんないっしょ? 店の入り口に貼ったら泥棒が入るかもしんねぇし」
「あぁ、そうしてくれ。頼りになるね、デルフィ」
デルフィと呼ばれた若い衆は、三人に軽くお辞儀をして病室を出る。
そして医者も勤務時間が終わり、看護師の夜勤の時間帯に入った。
日付が変わる寸前、唸りながら目を覚ます店主。
「……っ! 起きたかい、テンシュっ! 具合はどうだい?! あ、ここは近所の病院さ。看護師さん呼んでくるよ。待ってな!」
意識はあるが、起き上がろうとはしない。起き上がった時に体の異常で苦痛を感じるのを恐れたためか。
けたたましい足音が三人分。
休んでる最中に叩き起こされた医者が慌てて駆け付けてくれたようだ。
「分かるかい? この指、見えるかい? ……うん、意識はしっかりしている。してるけど……」
「けど、なんだい? 先生」
「言語障害が出てるのかな……一言も言葉を出してないね」
ニィナの顔が青くなる。
「……テンシュ? 大丈夫? 聞こえてるよね?」
「テンシュさん、言葉、分かりますか?」
ニィナの言葉には反応しなかった店主は、ゆっくりと話す看護師には頷いた。
「……テンシュ、だ・い・じょ・う・ぶ?」
看護師のマネをして、ニィナもゆっくりと声をかける。店主は何度か頷くが、時折首をかしげる。
「……ふむ。脈も正常だし眼球も問題なさそうだし……。明日普通に診察してそれで問題なければ退院でいいんじゃないかな?」
店主はゆっくり体を起こす。
そして頭を押さえ、横に振る。
「え? 退院したらまずいの? 具合悪いなら遠慮なく言いなよ」
「……やはりしばらく様子見だね。言葉は理解できるようだが、声が出ていない。精密検査が必要かな」
しばらく店主の入院が決定した。
容態が急変するようなことはなさそうという判断。あとは夜勤の看護師に任せ、医者はまた自宅に戻る。
「じゃあ今はあたしは一旦家に戻るよ。セレナが帰って来てたら伝えるし、来てなかったら代わりに来てやるよ。気にすんな。困ったときは互い様さ。ゆっくり休んどきな」
ニィナも自分の家に戻る。
病室は個室。一人になった店主は、途方に暮れた顔をして片手で額を抑える。
─────────
皇居内某所。
「それにしてもアムベス。今回はお前の頭のキレには脱帽だ。まさかそういうことになろうとはな」
「余所者がなぜこの世界に住むことが出来るのか不思議でな。通訳がおらんなら、何かしらの力が働いていることは間違いない。その力を奪えば済むことだ。幸いその道具は手元にある。その力を吸い取れば……。だが流石に今回は我々の運が良かったとも言える。でなければ警戒されてしまう恐れもあったからな。そこからこの計略がばれてしまうかもしれなかったからな」
「謙遜だろう? そこまで頭が回る奴が、もし失敗しそうなら計画を中断することだって考えるだろうに。次の機会を待つことは、猊下に知られない限りいつまでもできるのであろうが」
「ふ。まぁ余計な手間が省けて何よりと言ったところだ。あとはこちら側から奴らに接触しないこと。これで我々の立場は安泰、ということだ」
「……それにしてもアムベス。よく気が付いたものだ。賞賛ものだぞ? まさか大陸語を理解出来る能力を奪うとはな。下手に傷つけたり命を奪ったりしていたら、猊下から間違いなくとことんまで追及されていた」
──────────
ウルヴェスから授かった言語を理解する力。
この国の母国語であり公用語でもある大陸語の文字は、店主には日本語や日本で使われた文字に変化して視認され、耳に入る言葉はそれらに変化して聞こえてくる。
店主の発する言葉は、聞こうとするこの世界の住人には大陸語に変化し、逆に住人たちの言葉は店主の理解できる言語に変化して耳に入る。
店主はその力を失ってしまっていた。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる