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邪なるモノか聖なるモノか

アラタ、法廷にて その2

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「我々糾明班は、ミナミ・アラタ氏を検分員として召喚を希望します。この度の件において、被告人の背景、意志などを明らかにすべきと考えます。その能力に長けているかの者がその役目に相応しいと考え、推挙します」

 なんか大げさになってきてねぇか?
 そこまで大それた人物じゃねぇよ? 俺。

「よろしい。ではミナミ・アラタ氏。台の前へ」

 アークスに手招きされ、レーカからは背中を押される。
 やれやれだ。

 台の前に到着したはいいが、何から話をしていいのか分からない。

「まずは自分の名前を裁判長に言って」
「お、おう……」

 促されるままに軽い自己紹介。
 すると裁判長が

「では、そこに置いてある紙に書かれた文章を読んでください。事態糾明に関する証言に対しての宣誓書です」
「はあ……」

 見台の上には、何やら文章が印刷された紙が一枚。
 声に出す前に、目で追って読んでみる。

『私(名前を言う)は、五感で得た情報を、あらゆる何らかの力にも何者にも配慮することなく、公表すべきことを正確に伝達することを誓います』

 会話によって得た情報はもとより……。
 まさに、俺の能力を存分に発揮し……正確公平に欠ける事さえなければ存分に毒吐いてもいいってことでもあるよな。
 で、まだあるな。

『尚、この伝達の情報により、伝達者に害を及ぼし、与える者に対しては厳罰が下されることとなる』

 宣誓文のはずなのに、俺が宣告してるような文面じゃねぇか。
 いいのか? これ。

「余計な問題が起きても、お前には被害を与えられることはないって内容だ。確認できたらちゃんと声を出して読め」

 アークスの囁きが耳に入って来た。
 アフターケアまでしてくれるってことでいいよな?

「……えぇっと……私、三波新は……」

 ちょっと緊張したが、無事に読み終えた。
 と思ったら。

「うおっ! まぶしっ!」

 文章の文字全てが突然発光 。
 思わず後ろにのけ反り手で顔を覆う。
 不格好極まりない、が、こんなこと起きるだなんて、誰も想像できねぇよ!
 だって、誰がどう見ても間違いなくただの紙だぜ?

「お……おい……。アークス……」
「すまん。説明してなかったな」

 説明してなかった、じゃねぇよ。
 考えてみりゃ、この檻の中の少年の名前すら教わってねぇぞ?
 つか、加害者の情報、一つも知らねぇ。
 それで俺に頼み事でこれって、一体どうよ?

「ではミナミ・アラタさん」
「ほえ?」

 隣にいるアークスからいきなり普通に話しかけられた。
 しかもさん付けで。
 そんな呼ばれ方されたことなかったよなぁ?
 間の抜けた声が出ちまった。

「この会場の中で、交流のあった人物はいますか?」

 どんな意味がある質問だよ?

「……お前と、そこの……俺とお前が最初にいたそこの場所に今も突っ立ってる女の……その二人だけだな」

 裁判官の一人はシアン……だと思うが、はっきり顔を見たわけじゃない。
 そして、アークスからの質問には、はっきりと「交流があった」と断定した表現があったから、曖昧な判断を下せる対象はその質問の答えの中に入れなくても問題ないはずだ。

「私と彼女以外の、ここにいる人物についての情報はない、と断定してよろしいですね?」
「もちろん」

 傍聴席がざわつき始めた。
 俺とアークスらとで面識がある時点で問題あり、とでも思ってるんだろうか。

「静粛に。糾明班、質問を続けてください」

 裁判長も、顔見知りのことに特に言及なし?
 いいのかな。

「その檻の中にいる被告人について、知っていることはありますか?」
「……呪われた装備をしてる、って話は聞いたな。解呪できなかった、とも聞いた。それ以外は……人物そのものについては……あぁ、冒険者の養成所の生徒とか何とかって聞いたが、それ以外は全く知らん。被告人だけじゃねぇ。傷害罪みたいな話は聞いたが、事件そのものの詳細も聞かされてねぇんだが?」

 一旦鎮まった傍聴席が、さっきよりもさらに大きく騒ぎ始める。

「……あのさ、そいつのこととか事件のこととかは知らねぇんだけど、それを第三者の誰が信用できるってんだ? 知らないことを立証せよって言われても……」
「問題ありません。先程お読みいただいたあの宣言文によって、我々の耳に入るあなたのすべての証言には、嘘偽りはないことを証明されます」

 なにそれ怖い。

「嘘偽りがある言葉は、我々の耳には入ることはありません。故に、この場においてのあなたの発言は、全て正確、的確なものなんです」

 ……なんとまあ。
 そんな仕掛けがあったとは。

 アークスの説明で、傍聴席の騒ぎは次第に小さくなっていく。
 思うところはあるが納得せざるを得ない、といったところか。

「では、そこの被告人についての、アラタさんが知り得る情報すべてを証言してください」

 気配を察知する能力を使え、ということだよな?
 つか、それ以外に何の力にもなれないしな。

「へいへい……つか……ちょっと待て」
「どうしました?」

 檻の中にいる人物は、正規のなさそうな少年一人だけなんだが……。
 もしかして……。

「……檻の中に、誰か隠れてないか?」
「え?」

 アークスは、俺の言うことをまるで理解してないような顔をしてこっちを見る。
 そんな目で見られても困るんだが?
 なんせ俺は、何も知らされてないんだから。

「あのさ。この檻の中には何人入ってるんだ?」
「何人って……一人だけ、だが?」

 一人、と断言しやがった。

「あのさ……気配が二つあるんだが?」
「何?」

 またも傍聴席がざわつく。
 それを裁判長が制する。

「その気配とは……人間のものですか? それ以外の種族の区別はつきますか?」
「どっちも人間。一つはそいつだがもう一つは……女性? いや……女の子……子供ってんじゃなく……未成年っつーか……そんなの。……檻の中に入れたのは、こいつ一人?」
「あ……あぁ……そう、だが……」

 何それ。
 とりあえず、檻の正面に立ってみる。
 そいつは椅子に座ったまま、微動だにせず。
 正気を保ってるのかどうかも分からん。
 が、このまま突っ立ってるのもなぁ。

「……えっと……取り調べとかは……」
「ま、まぁ別に構わないが、発声もあいまいで、会話もできるかどうか分からない」

 二つの気配の出どころは、ほぼ同じ位置。
 ということは……。
 呪いの装備……防具からってことか?

「……触っても平気、かな?」

 解呪の魔法使いなら、抵抗力はあるんじゃね?
 だが俺には何もねぇからな。
 触ったらどうなる、なんて予想とかは全くできん。

「問題ないと思う。アラタさんのような魔力がなく武力も体力もない者が触っても、特に影響はなかった」
「どんな奴だよ、そいつは……」
「養成所の同級とか同室の訓練生達だ。事件が起きてから結構経った。被害者の怪我はまだ関知してないが、養成所の活動は平常に戻っている」

 ということは、呪いとやらが広がる心配はしなくていいし、俺に何らかの被害を受けることもないんだな。

「直接触れてみるなら扉を開けよう。危害を加えない限り暴れることもない」

 お……おう……。
 なんか今回はこう……状況に流されてばかりじゃねぇか? 俺……。
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