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国家安泰後の日常編

冒険者には向かない性格 職探しの向こうには

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 ホーリーからの依頼は、指先から伸びる一本の糸で何だかんだできる能力を持つスートという少年……少年と言えるかどうか分からん年齢だが、収入が割といい仕事を見つける事。
 ただ生活費を稼ぐだけでなく、その生活費が心に余裕を持たせるくらいの収入を得なければ意味がない。

 一つの案が浮かび、それをそのままホーリーに伝えた。
 もちろんそのままじゃ絵に描いた餅ってやつだ。
 実際に金を手にすることができるまでの手順などを考え、煮詰めて具体的なプランを立て、本人のやる気を確認する。
 行商時代はあちこちからいろんな噂が耳に入った。
 その噂話のいずれにも、ホーリーとスートに提案した職種の話はなかった。
 つまり、その仕事の先駆者となる、はずだ。
 ということは、定価、価格に相場はない、と言える。
 すべてスートに一任される。
 能力の質を高める努力は必要だが、物の価値についても勉強する必要もある。
 客に得をさせ、自分も得するためには、ぼったくりはまずいし、低価格も勤労意欲をなくすからよくない。
 鑑定についても勉強しなきゃならないし、やらなきゃいけないことはたくさんある。

 そんな話をしたら、一人前になるまでは寝食は面倒見るつもりでいる、とホーリー。
 これ以上深く首を突っ込むつもりはない。
 商売の競争相手がなければ、あとは本人の腕次第。
 仕事がコケりゃ、本人の仕事ぶりが悪い。
 上手くいったんなら、俺が気にかける必要はない。
 あとはホーリーの保護者ぶり次第。
 ということで、俺のお役はご免、というわけだ。

 ※※※※※ ※※※※※

 スートをホーリーの診療所に連れてってから約三カ月。
 最近、新人グループを見る頻度が多くなった。
 と言うか、何度も来るグループが減った。
 ウザ絡みしてくる奴らが減ったのはうれしいんだが、普通の光景じゃない。
 その普通じゃない光景が目に入るってのは、割と不安なんだな。
 いつものことじゃない。
 つまり、自分の知らないところで異変が起きてるんじゃねぇか、と。
 そんな予想から出てくるのは心配以外にない。
 ところが。

「どいつもこいつも、みんな収入が安定してきてるようでよ」

 と、おにぎりを買っていく中堅パーティの一人が話しかけてきた。

「安定?」
「おぉ。ここはほら、実力に応じた討伐だの活動はできるだろうが、元々は初級者のためってのが建前だろ? 集団戦は順番待ちが長いし料金がかかる。けどよ」

 確かに順番待ちは長くなってる。
 魔物の集団が訓練の相手をしてくれるってところはまずないからな。
 だが、料金は高く設定してるわけじゃない。
 それこそ、初級……まぁ初級者チームが集団戦を申し込むってこと自体少ないけどな。
 まぁどんな連中でも申し込みができるくらいの金額に設定してあるから、順番待ちの期間は自ずと長くなる。
 そこに文句を言われても、こればかりはどうしようもない。
 我慢して待つか、取りやめるかの二択だ。

「集団戦申し込まなくても実入りが増えるってんなら、申し込みをする必要もなくなるってなもんじゃねぇの? そうすりゃ順番待ちの期間も短くなる。本当に集団戦の訓練が必要な連中なら申し込み取り消しなんてこともねぇだろうし、無駄な待ち時間だって減る。いいことづくめじゃねぇか」

 いいことづくめってのは、誰にとっても得してることを意味する。
 けどそんなにいいこと沢山あるか?
 せいぜい三つくらいしか挙げてねぇじゃねぇか。
 それにだ。

「集団戦申し込むよりも、安定した収入を得る仕事に飛びつくのは分かる。だがその収入の仕事って、そんなに件数多いのか? 限られた件数の奪い合いになるんじゃねぇの?」
「農業林業、まぁ漁業の方は扱いに慣れてる奴は限られてるけど、結構件数あるもんだぜ? だが結構重要な問題が一つ出てきてな」

 だろうな。
 いいことづくめなことって、なかなかないもんだ。
 何か裏があるとは思ったが……。

「処理してくれる奴が少ねぇのよ。そいつの奪い合いが激しくなったかな」
「処理?」
「おう、後処理のことな。それを仕事にしてる奴って、ほんとに少ねぇんだ。一般職のほとんどは後処理してくれる。けど現場に来てくれる奴は少なくてな」

 腕を組んで顔をしかめるそいつの表情を見ると、結構深刻な話題っぽい。

「有望っつーか、腕っききな奴が出てきたんだが、どいつもこいつもそいつに頼るもんだから、そいつに依頼が殺到してな」
「まるで集団戦の申し込みみてぇだな」
「それよお!」

 目の前で突然でかい声出すな!
 ビビるだろうが!
 ヨウミもびっくりしてこっち見てるじゃねぇか!

「まるでアラタみてぇな奴だって誰かが言い始めてからよぉ、結構人気出てなあ」

 なんでそうなる!

「アラタに似てるから人気出るって、何だかよく分からない理論ね」
「なんつーか、不遜……じゃねぇな。なんつんだろうな、あれ」

 知るかよ。

「無愛想、でいいんじゃねぇの? 相手が誰であろうとな」
「そうそう。国家権力を前にしても態度変えないらしいし」
「まだ十代なのに、アラタと似てるなんてちょっとかわいそうね」

 ……どういう意味だよお前ら!

「……何より贔屓しない、誰かを特別扱いしないってところが人気を呼んだっつーか」
「必ずついて回るのが、頑固とか融通が利かないとか言う評判。でもそんなの、本人は気にしてないらしいわね。仕事の腕もいいって話だし」
「へぇ。でそいつは、何の仕事してるんだ?」
「だから俺達の仕事の後処理」

 ……そんな職種や職名があってたまるか!

「どんな作業をしてるのかって聞きたいんだが?」
「んー……解体と鑑定と選別、かな?」
「買い取りまではしねぇらしいな。そういう依頼でなきゃ、引き取りたい業者との斡旋もしてくれるらしい」
「でもアラタにはあんまり接点はなさそうね」

 何で俺と接点を持たそうとするんだよ。

「廃棄物の処理までやってくれるから、仕事の余計な心配もかなり減ったって話で盛り上がってるよ、都会の酒場じゃな」

 そいつは何より。

「でもあいつほどの腕を持ってる奴ぁいねぇから、あいつの健康が心配になってくるよな」
「でもホーリーさんがしょっちゅう目にかけてくれてるらしいから問題ないらしいわよ?」
「何それ。初めて聞くぞそれ。ホーリーって、あの診療所のだろ?」
「あそこで下宿させてもらってるらしいぜ?」
「てことは、養成所中途退所者か冒険者業に就けなかったかの奴か」
「そんな人は結構いるみたいね。そのうちの何人かは下宿させてるって話」
「ホーリーさん本人もそうらしいからな。きっと他人事じゃないと思ってたりするんだろ」

 まぁいろんな話聞けるのはいいんだが。

「ここは酒場じゃねぇんだがな」
「そういうカタッ苦しいところも似てるよなー」

 話を受け流してんじゃねぇよ。

「んじゃそろそろ俺らも行くか」
「一仕事終えたら、そいつ……スートの所に行って解体してもらおっか」
「そこまで大物の魔物なんかいるわきゃねぇだろ」
「俺らを一口で丸呑みしちまうぐれぇの大物ならともかくな」
「どんなどでかいやつでもあっさりと解体できるらしいしなぁ」

 この冒険者グループが店から立ち去った。

 今のが昼休み終わった直後の来客の集団の最後らしい。
 まぁ一時間もしたら、また客がちらほらとやってくるだろう。
 それにしても。

「……評判呼ぶくらいの仕事ぶりで何よりよね、アラタ」
「……さぁ知らん」

 そいつの仕事ぶりがいいのは俺のおかげでもねぇし
 そいつの仕事ぶりが最悪になっても俺のせいじゃねぇ。
 まぁでも。

 俺が思いついた案がそのまま現実になって、あいつの仕事の評価が上がるってのは……。

 悪い気はしねぇよな。
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