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国家安泰後の日常編

冒険者に向かない性格 その8

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 人の形になったライムと一緒に、ドーセンの店に行った翌朝。
 いつもの時間にいつもの場所で、いつも通りの朝ご飯。

「それにしてもお」

 とモーナーが口を開く。
 モーナーは、冗談には混ざったりするが、自分から軽口を言うタイプじゃない。
 つまり、こんな風に自分から何かを言い出すってことは、物事の要点をいきなりついてくることが多い。
 耳が痛い話になることもある。
 朝っぱらからそんな話は遠慮願いたいものだが……。

「あの女性とお、あの少年の件はあ、アラタらしくないなあって思うんだよねえ」

 俺らしくないってどういうことだよ。
 俺のことを勝手に決め付けるなって言わなかったっけか?
 喧嘩売ってんのか?

「アラタさあ、行動起こすときい、いつもこうと決断してからあ、動くこと多いよねえ?」
「あぁ? まぁ、確かにな」

 動く前はあーだこーだと考え込むことが多い。
 だが、こうと決めたら即行動、みたいな傾向は、確かにある。
 つか、自覚してる。
 そういう意味では、俺らしいという表現は正確だな。

「なのにい、あの子をお、冒険者として仕事を探すのかあ、一般人として仕事を探すのかあ、はっきりしてないよねえ」

 ……痛いとこを付いてくる。
 というか、厳しいこと言ってくれるな。

「そりゃ本人が、自分の進路はこうだ、とか、これからはこう生きる、っつー意欲っていうか、その方針を決めてねぇからな」

 と答えてはみたが、それだって俺の答えとしてはらしくねぇ。
 自覚できるほどに。

「あれもこれもとてを伸ばしてたら、見つけられるものも見つけられないんじゃない?」

 ヨウミからもツッコまれた。
 だが二人を含めたみんなからの口ぶりは、どことなく穏やか。
 いつ起きるか分からない現象がなくなったせいか。
 特に意識はしてなかったが、そんな危険な事がいつ起きるか分からない、と神経を尖らせてたのかもな。

「昨日の酒場での話は聞かせたろ? 昔の俺の行商みたいにスートにもさせたら、それなりに収入が得られるんじゃねえかってな。現場に応じた仕事をする。そこから信頼を得られりゃ、その収入額も増えてくんじゃね?」

「それはそうかもしれないけど……」
「何をするのか、何ができるのかが分からないと……依頼もしにくいのではないでしょうか……」

 そこだよな。
 何ができるかは分かってる。
 切断とか穴を空けるとか。
 だがそれを何に活かせるかが問題だ。
 戦闘に不向きな能力なら、何か別の用途に応用できるはずだが……。

「でもさ、魔物を仕留めたら、すぐにその場で調理できるってんなら、並みの冒険者でもできなくない? 一仕事終わったら休息も必要でしょ? 睡眠や食事だって必要なんじゃないの?」
「……そう言えばそうだな」

 マッキーに言われるまで、それには気付かなかった。
 頭の回転、結構キレる方と思ってたんだがな。

「それは、その場で食事を摂る必要があるから、でしょ? 調理師がどうのって話は、素材として持ち帰るって話から出てきたんじゃない? それだと用途が違うから、別の話になるんじゃないかな?」

 テンちゃんも賢くなってきたな。
 成長が見られたのは、ちょっと安心できる。
 うれしいかどうかは別だが。

「生きてるモン相手と死んでるモン相手でも、対応違うしのお。で、アラタよお。結局あいつを、冒険者として雇ってもらいてぇのか、それとも調理師としてなんか、どっちよ? そこんとこはっきりしねぇから、モーナーもそゆこと言い出したんじゃねぇの?」
「え?」
「え?」

 何で調理師としてスートを雇わせるんだ?
 そもそもそんな素質があるなんて聞いてねぇし、調理師になりたいなんて話も聞いてねぇ。
 ってか、何でミアーノが、俺が聞き返したことに驚いてんだよ。

「調理師と同じぐれぇに、保存が効く下ごしらえをしてほしいんじゃねぇの? 普通に肉を切ったり素材を裁断したりなんざ、並みの冒険者にだってできるんだから。そんな連中だらスートを雇うなんざ考えねぇべや」
「う……」

 言われてみれば。
 て言うか、ちょっと待て。
 ミアーノ、さっきなんつった?
 ちと引っかかることを言ってたが、そのまま話が続いたからスルーしちまったが……。

「あー……その前に……」
「あ?」

 そうだ。
 生きてる者を相手にするのと、死んでる者を相手にする、だった。
 生きてる魔物相手にあの能力は有効だ。
 だが能力を発動させるにはかなり危険で、それは本人にも分かってる。
 だから役立たずとされてきたんだろう。
 だが死んだ魔物が相手なら……保存……いや、違う。

 そうだ!
 酒場で言ってた!
 その場で処分。
 毒か薬か。
 それからえっと……。
 そうだ! 解体作業!
 死んだ者相手なら存分に力を発揮できる!
 しかも、爪と指の間にあの能力の糸の先端を入れても痛くなかった!
 しかもしかも、能力を発揮したら、仲間の中でははるかに高い強度を持つ体のサミーですら悲鳴を上げた!

 パワーが必要な作業も、繊細な技術が必要な作業も、どっちも可能じゃねぇか!

「お前ら、すまん! 朝飯は俺抜きで食ってくれ! それとテンちゃん! ちと連れてってくれるか?!」
「え? あたし? どこに? それに……」
「集団戦の時間には間に合うだろ! つか、間に合うためにも一刻も早く出発!」
「マァタシカニ、ハヤクウゴイテヨウヲスマセバ、ソレダケハヤクカエッテコレルナ」

 うん。問題ない。

「んじゃちょっくら頼むわ! まずはドーセンとこだ!」
「え、と、まぁ、うん。分かった」
「エ? ちょっと、アラタ! その後どこに行くのヨ!」
「……ライム、いつもと違う喋り方するね」
「……キノウノヨルノコト、クセニナッチャッタ」

 あいつらの雑談に耳を傾けてる場合じゃねぇ!

 ※※※※※ ※※※※※

 ドーセンの宿でスートを拾って、テンちゃんの背に一緒に乗ってミルダに一っ飛び。
 行き先は、スートの保護者をしているホーリーがいると思われる、魔法診療所。
 到着してすぐにテンちゃんを村に戻す。
 お迎えは通話機で頼む予定。
 防具はシアンに返したが、通話機は日常でも頻繁に使えるからそのままキープしといた。

 住居とくっつけている診療所。
 突然やってきた俺とスートを見てホーリーは、驚きながらも中に招き入れた。
 それにしても彼女の格好は、朝、しかも突然の来訪者の応対とは言え、それなりに身なりが整っている。
 職務上、普段から清潔にしておく心構えがしっかりしてるんだろうなぁ。

 診療所の待合室は、まるで喫茶店を連想させる。
 丸いテーブルに椅子が四脚。
 それが三つほど。
 見慣れた病院の待合室のような、長椅子だらけじゃなかった。
 リラックスできるが……まぁ他所には他所のやり方があるんだろう。
 俺がそれに文句をつける立場でもないし役割でもない。
 にしても……。
 突然の、しかも仕事にしてもまだ早すぎる時間外の来訪。
 にも拘らず、心配そうな顔ではあるが穏やかな顔つきで、お茶まで出してくれた。

「それで、その……この子の仕事は……」
「うん。こいつ一人で仕事をするのは無理だ」
「え?」

 当たり前だろう。
 得意分野以外の作業は、誰かに頼る必要がある。
 だから……。

「長話になるから、今から始めたら本業に差し障りが出る。長い時間が取れそうな時に話を詰めたいんだが……」

 こんなのはどうですか?
 なんて勧誘で即決できる話じゃない。
 腰据えてゆっくり話ができる時間を、まず用意してもらおう。
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