上 下
455 / 493
シアンの婚約者編

フレイミーの一面 その4

しおりを挟む
「共存、ねぇ……」

 お嬢様は、頭に描いている理想郷が現実と思ってるのかね。
 あるいは、自分が好き好んでいる者は、大衆全員も好き好んでいる、とか思ってんじゃないだろうな?
 もしくは、自分が好いている者はみな、自分を好きでいてくれるとか?

「言わなかったっけか? 共存したくても居場所をもらえなかった連中がほとんどだぞ?」
「え? 何を言ってるの?」

 やっぱり分かってなかったか。
 話をしていたとしても、都合の悪い話や自分の都合から外れた話は頭に残っちゃいないタイプだ。
 市井の人の話を積極的に仕入れるべきだと思うな。
 それだけで良君になると思うんだが。

「まず、灰色の天馬とかダークエルフは、演技が悪いとして一般人から遠ざけられてるらしい。巨人族の血をひいてるモーナーは、個性かもしれんが動きが緩慢に見えるから馬鹿にされてたらしい。サミーはギョリュウ族の習性で、わざと捕食されやすい卵を産むんだそうだ。その卵からかえったギョリュウ。クリマーは、そこの宿で働いてるゴーアと一緒のドッペルゲンガー。詳しくは分からんが、ここに来るまでは敬遠されてたらしい。コーティは妖精で人の目に触れづらくして生活してるらしいが、桁違いの魔力のせいでいつも姿を現している。そこに金の匂いを嗅ぎつけた奴がいて、そいつから解放してやったら懐かれた。ンーゴとミアーノは元から地中に住みついてたから人の目には触れることはなかったし、ライムにいたっては人から恐れられてた。こっちから仲良くしようったって、向こうが石を投げつけてくるようじゃ、共存なんて難しい話だ。ま、そんなに固執するなら人の手を借りず、自分で国内を漫遊でもして探してみるこった」

 俺は、勇者の立場である旗手だったかもしれないが、現象の魔物と直接戦って退治できる力はない。
 だからシアンからもらった防具で何とか立ち回れるかもしれんが、なければ何の力もない民間人も同然。
 そんな俺も含めて守ってくれるってんなら、それはそれでありがたいし頼りにさせてもらおう。
 けど、人の命さえ守れりゃいいってもんでもない。
 この国の食を支える農業畜産業などが盛んなこの村で、その環境が破壊されちゃたまったものではないだろうに。
 余計なことをして、魔物を呼び込むことになったりしたら、目も当てられまい。
 国民の活力が云々、とはなかなかご立派なことを言う。
 けど、娯楽がすべての楽しみを請け負ってるわけじゃない。
 誰が見ても辛そうな仕事でも、それを生きがいにしてる人もいる。
 それはどうやって守るつもりか。

 ……などと偉そうなことを思っちゃいるが、かく言う俺にもそんな名案なんかないんだけどな。
 ただ、温泉に誘導して、魔物全員が入った直後に、防具の魔力を使って氷漬け。
 少しずつ溶かして一体ずつぶっ倒すって手はありかな。

 ま、それはともかく。

「どんな社会でありたいかってご高説は、今は邪魔なだけだ。農地に辿り着く前に、どうやって魔物どもを全滅させるか考える方が」
「だから、それは私達が」

 ったくよぉ。

「ここに来るようになってから何日経ってんだよ。俺だってこの村のことはよく分からねぇのに、俺よりも知らねぇお前を、どうやって村の安全を図れるんだっての」

 公的意識がかけた俺が随分偉そうに言えるもんだ、と我ながら思ったりもするが。
 でも、ドーセンの宿屋に飯の注文を市に行くたびに思う。
 そこで飯を食う連中の五割は冒険者。
 だがここで働く村人達も利用する。
 俺には分からない地元の話題で盛り上がる彼らを毎回見る。
 作業着が泥と汗で汚れている。
 なのに、不満な顔、不愉快そうな顔はどこにもない。
 むしろ冒険者の方がそんな顔をしていることが多い。

 そんな村人達が喜んで仕事をしている。
 しかも、この国の食を支えてる仕事だ。

 村人達とは親しい交流なんかしたことはない。
 だが、だからと言って俺の仕事を邪魔しに来るような奴は……まぁ一部そんな奴はいたけども、ここに住み始めてから毎日休まずに嫌がらせをしてきたわけじゃない。

 それどころか、歓迎の意を見せてくれた人までいた。

 ……嫌がらせしかしてこない奴らしかいない村なら、破滅したって心は痛みはしない。
 昔在籍していた職場にいた連中のようにな。
 だから、いくら接点がなかろうが、そんな村人が生き生きと生活しているこの村が荒らされるのを見過ごせない。

 守るべきは彼らの命、とだけ主張するこいつには、ここは預けられない。

「幸い、現象の魔物退治のプロがいる。そのプロに任せりゃ問題なかろうが。大体お前、この村のことどころか、全国各地のこと、そこの住民ほど知らねぇだろうが。何も……」
「知るわけないじゃない」

 ……。
 知らない、ということがすべて無関心というわけじゃない。
 が、より強い関心を持つ方が、そのことをより大切にしようとする気持ちが強いのは間違いない。
 大切にしようという気持ちをこの村に持っているのかどうか。

「こないだまで学生だったのよ?」
「……何?」
「初等、中等、高等、そして貴族院学校を去年卒業したの」

 ……だから何だ?

「世の中のことは授業でしか知らないから、こうして見て回ってんじゃない。陛下が私を選んでくださったから、陛下に縁のある場所、土地から足を運んで、その地はどのようなものか見て回ってるんじゃない」

 シアンの奴、大丈夫か?

 ……いや、あいつの親父さんに比べりゃ、相当殊勝じゃないか?
 知ろうとする努力をしているのは感心だし、国民のため、なんて言葉はあいつが好きそうなフレーズだ。

 ……けどあいつだって、目は節穴じゃねぇ。
 物事を見る目、人を見る目は確かなもん……。
 ってことは、こいつもそれなりにまとも……ってこと?
 あぁ、一般人、民間人と同格として見たら、かなりいろいろと外れちゃいるが。
 それと、知る前に思い込んで決め付けるのは感心しない。

「実際に目で確認しないことには正確な情報を得ることができない。それでこうして自分で足を運んで見て回るってのは、大いに有意義だと思う。だが、現象の魔物についてはどうだ? 俺の予告だけを聞いただけ。なのに地域をこうして見て回る、の工程を飛ばして、魔物を討伐しようとしてる。焦ってるのかどうか知らんが、この件は直接シアンに連絡しとく。お前さんが出る幕はないが、社会勉強ってんなら村の中から見守るくらいに抑えとけ。ただし現象が起きるのは三日後。その現象を見ることは難しいし、それまでの間現象にちょっかい出すなんてことも無駄だろうから来るだけ無駄だぞ?」

 ……ずっと睨まれてるんだが。
 親切に教えてやったというのに。

「……なぜあなたからそんな言われ方をしなきゃならないのか理解に苦しむわ。けど、情報、ありがとう。見たところそっちの方向は雪深いこと間違いなさそうだし、遭難の恐れもあるわね」
「お嬢様! しかし我らは」
「分かってる。けど、私達の進軍を阻む積雪量なら、魔物達だって侵攻の足は遅いはず。確かに陛下率いる魔物討伐の専門集団と比べたら、どの部隊でも後れは取る。なら、陛下の行動をじっくり観察して勉強する、というのもありね」
「……御意に」

 やれやれ。
 どうにか矛を収めてもらえたようで何より。

「でもあなたの言うことに屈したわけではありませんので!」

 ……飛ぶ鳥、あとを濁す。
 やれやれ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...