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シアンの婚約者編

フレイミーの素性 その3

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「いい加減にせんか! よりにもよって、下民共の嗜好の物とお嬢様を比べるとは……お嬢様を愚弄する気か! 今ここで成敗してもいいのだぞ!」

 真面目にやらなきゃいけない場面でいつまでもふざけたことをしていると、諫める責任者が怒鳴るようなケースはよくある話だ。
 そして、この怒声はそんなタイミングで飛んできた。
 けどその狙いは、そのふざけを諫めるためじゃない。
 ましてや、みんなを指導する立場の者は、この場には誰一人として存在しない。
 そう怒鳴った者は、フレイミーの護衛兵。
 おそらくはそのリーダー。
 隊長か何かの役目の人か?

「その狼藉、断じて許しがたい! そこに直れ!」

 ……なんか時代劇っぽい物言いをする人だな。
 頭は髪の毛が全く見られない、革製の兜をかぶってて、全身はやはり革製の防具……ジャケット?
 所々に金属の防具がくっついている。
 急所を守るためか?
 腰に下げてる長物の刃物は……何となく日本刀っぽく見える。

 って、のんびり構えてる場合じゃねぇ!
 そいつ、ミアーノに向かって刀を抜こうとしてる!
 間に……って。

「ミッ!」
「うおっ。サミー、お、重いっ……」

 サミーがミアーノの上半身にしがみついた。
 こいつ、かなり本気で怒っていやがる!
 それを察したのか、サミーがミアーノをかばおうとしたんだな。
 背中の甲羅はかなり頑丈だからな。
 ……体重、最近増えてきたけど。
 ミアーノ、大丈夫かな?

「待て! アーズ! 彼らに手を挙げることは私が許さん!」

 と思ったら、フレイミーが止めに入った。

「し、しかしお嬢様! こやつらはお嬢様よりも、どこの馬の骨とも分からん者が作るおにぎりの方がいいと」
「そうです! 隊長の言う通りです! しかもおにぎりばかりじゃなく、カレーうどんの方がいいという始末!」
「鍋料理だのラーメンだの……それよりも下に見られて……それでも堪えろというのですか!」

 いや、お前ら、さらっと流してもいいような会話をなぜまた掘り起こした?

「穀物が食材の料理よりも格下と言ってるようなもんです! それを聞いて黙ってられますか!」

 言ってねーしっ。
 お前らが言ってんじゃねーかっ。

「お前たち……。帰ったら、お前たちの給料見直し」
「えーっ!」

 ……部下たちは、馬鹿真面目過ぎて馬鹿を見るタイプか。

「コホン。……えーっと……。そう、みんなを保護し、守り、そして平穏な生活を保障します。が、もちろんそれだけでは、みんなは満足しないでしょう?」

 同じ話を何度も繰り返されてもな。
 寝耳に水なのは変わりない。

「それは私にも分かっています。私はどう思おうが、皆さんには彼の作るおにぎりが必要、ということなのですよね? だからこそ、この店も私が管理するのです」

 うむ。
 言ってる意味が分からない。

「ということは、俺は不要になる、と」

 まぁ……ある程度貯金できてるし……。未熟な冒険者らも、中堅やベテランから顔覚えてもらうようになったことだし……。
 この村から出ていくときに、引き留める村人らもいないだろうし。
 で、俺のこの仕事は、その形態を行商に戻せばどこでも商売できることだし、店に危機が迫っても店ごと避難できる環境になるわけだから、デメリットばかりじゃないんだよな。

 と思ってたんだが。

「どうしてそうなるのよ。あなたも一緒に決まってるでしょうに」


 え?
 俺、このお嬢様に束縛される?
 やだよ勘弁してくれよ。
 護衛のお兄さん達、その刀っぽいのをこっちに向けて抜こうとしたじゃん。

「いや、俺は……」

 と断ろうとした、まさにその瞬間。

「貴様! お嬢様のご厚意を踏みにじるつもりかっ!」

 怖ぇよ!
 言論の自由も消し飛ばしそうな人達、怖ぇよ!

「アーズ! 控えなさい!」
「しかしお嬢様! こいつらの……」
「この件においては、あなた達の仕事は私の護衛のみっ。いいわねっ?」
「は……はっ……」

 ……まぁ、横道に逸れそうな部下を窘める上司に、それに従う部下、ってところは……まぁ許せるか。
 けど、その上司の用件が、こっちの想像の斜め上よりもはるかに斜めってのはいただけない。

「あー……、こっちの店のこと、ほっといてもらえません? こいつらのことは別としても」
「何であたしらを別にするのよっ!」

 即座にテンちゃんから抗議の声が上がった。

「いや、だって、お前らは俺の部下でも奴隷でも何でもないし」
「ナカマデショ? チガウノ?」

 んー……。
 ライム、それはちょっと違うぞ?

「彼女はお前らに申し出てんだ。俺が答えるこっちゃないだろ? お前らが直接、受け入れるか拒絶するかをこいつに伝えりゃいいんだ」
「そりゃそうだけど……」
「何だよ、マッキー。何か言いたい事でもあるのか?」

 俺の発言の直後、フレイミーの護衛がまた何かいきり立ったが、フレイミーが再び制した。
 俺の、フレイミーをこいつ呼ばわりしたことが気に入らなかったらしい。
 まったく。
 途中で変な口を挟むなっつーの!

 で、マッキーの言い淀んだその感情は、彼女だけじゃなかった。
 みんな、何か言いたげな感じがするが……。

「アラタはあ、どう思ってんだあ?」

 あのなぁ……。
 物心ついたばかりの子供じゃねぇんだ。
 自分で考えろよ。

「俺のことは問題じゃねぇだろ。それとも何か? 俺がお前らに『行かないで―』とか言って、泣いて縋ってほしいと?」
「そうじゃなくてえ……」

 何かを言いたげなみんな。
 けど、何と言っていいのか分からなそうな感じ。
 何を言いたいんだ?

「あのさ、みんな。今までアラタの言動振り返れば分かることなんじゃないの?」

 突然ヨウミが口を挟んできた。
 こいつらの言いたい事、分かったのか?

「助けてほしければ、助けを求めればできる範囲で助けてあげるって。しかも、借りにもしないし貸しにもしないって。けど、特別な事情がない限り、今までご飯の時はみんな一緒に食べてたし、一緒に生活してたよね? 一々一緒に食べたいとか、自分の部屋で寝ていいかなんて言わなくても聞かなくてもさ」

 まぁ、そりゃ、なぁ。

「アラタもアラタよ」

 何だよ突然っ。
 何でいきなり俺にフる?

「テンちゃんもライムも、マッキーもサミーもクリマーもモーナーもコーティもンーゴもミアーノも……クリマーの弟のゴーアも入れていいかな……。みんな、もうアラタの家族でいいじゃない。あ、あたしもね?」

 う……。

「お互いの決断を尊重する。でも、頼りたいときはいつでも頼っていい、でいいじゃない。何かをしてあげる、してもらうことに貸し借りなしなんて、それこそ家族間でもよくあることだしさ。でも、外部との関係は、それはなきゃいけないこともあったりするけどね」

 まぁ……それは……。

 うん……。
 まぁ……うん……。
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