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シアンの婚約者編

婚約者の候補って その2

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 そういうことで、場所は店の前から温泉前のどでかいテントの中に移った。
 その道中、フレイミーが恐る恐る質問をしてきたんだが、直接聞かれたことには直接答えた。

「エイシアンム様を差し置いてお言葉をかけるのは失礼かと思いますが……」

 などと、一々畏まった物言いをしてきて、何だかこっちも疲れてくる。
 まぁ確かに、初対面の相手との距離感は掴めない分、失礼のない態度をとるのは間違っちゃいないが……。

「貴女も、私の戴冠式に来てくれただろう? なら彼のことも、ある程度知ってるね? だが彼は君のことは全く知らない。まぁそれは当たり前か。だから私を介さずに、いろいろ話してみるといい」

 とシアンに言われてから、熱心にいろいろ質問してくるようになった。
 馴れ馴れしさはないから、こちらも特に拒絶感なんかはないんだが……質問の中身が、ミアーノとクリマーとコーティのことばかり。
 直接こいつらに聞いたらいいのに、と……つい口に出た。
 すると……。

「よ、よろしいのですか?!」

 くいついてきた。

 あー……。
 仲良しになりたいわけね。
 道理で初対面の時、こいつらを見た目が輝いてると思った。

 温泉までの雪道の幅は、荷車一台分は余裕で通れる。
 だが意外と広くなかった。
 フレイミーは、俺の隣のシアンの手を引っ張って後ろに下がり、コーティ達に近づいた。

 これ……デジャブか?

 小学生時代は集団登校してた。
 班長を先頭にして、低学年から順に前から並んで、最後は副班長という順番。
 けれども登校中は仲良し同士で雑談するから、仲のいい者同士でくっつくことになる。
 自ずと自分が班長のすぐ後ろを歩くことになって、他は俺の後ろに一塊になるというね。
 まさに今、そんな感じ。
 ヨウミはそのフレイミーと話をしようとするし。
 仲間達、特にコーティは、周りが空いた俺に近づこうとするが、フレイミーに引き留められてるし。
 シアンも、俺に何か話しかけたかったようだが、初めてここに来たフレイミーを一人にするわけにはいかなさそうだった。

 久々のぼっち感。
 店ができてから一人で行動することは、なくもなかったんだが……。
 まぁ、なんだ。
 そんなことでいじけるような感情は、とうの昔に捨てている。

 それより、初顔に知り合いが増えるというのは、まぁいい傾向なんじゃないか?
 花嫁……じゃなくて、婚約者候補か。
 その素性を知りたいというのなら、ここに一緒に来るのも悪くはない手とは思う。

 テントに到着して、内部の地べたに敷いたシートに座る。
 そこでも隣にシアンが座り、そのそばに仲間達を座らせた。

「……もうあの子達に任せていいんじゃないかな?」

 ヨウミはそう言いながら、俺の傍にやってきてちょこんと座る。
 まさにそれ。
 にしても、クリマーはともかく、ちょっと前までは無愛想なコーティ、どちらかというと初対面相手にはクール気味なミアーノまで和やかに会話している。
 随分変わったもんだ。
 俺に苦笑いの顔を向けているシアンも……かなり砕けてる感じになったなぁ。

 ……変わってないのは、意外と俺くらいかね。

「ただいまあ……って挨拶はあ……あってるかなあ?」
「タダイマー。オヒルマダー?」
「ミッ」

 と、ここでダンジョンガイド役をしてた仲間らが入ってきた。
 午前の作業は無事に終了ってとこだな。

「お腹空いたー……って、あ、シアンに親衛隊のみんながいるー。あ、みんなじゃないのか。こんちはー」
「やあ、お邪魔してるよ、テンちゃん」

 フレイミーは次々入ってくる仲間達を見て、それまでの会話の言葉は止まり、顔面中で驚きの表現を出してる。
 それを見て、この集団の最後に入ってきたマッキーが彼女に気付く。

「あれ? 見ない顔が一人いるね。誰?」
「あ、えっと、私……フレイミー、と言います。フレイミー=ヨアンナ、です……。初めまして……」

 こいつの心理、よく分からんな。
 戴冠式の時に列席してたんなら、こいつら全員のことは見てただろうに。

「ミンナキタミタイダネ。ミンナ、オカエリ」

 そして最後に入ってきたのはンーゴ。
 フレイミーはその巨体に、それこそ目を丸くして驚いている。

「……シアンよぉ、その子、俺のこと知ってたんだよな? 何でそこまで驚いてんだ?」

 俺はシアンに質問したんだけども。

「だ……だって……あの時は……観客席からだったもの……。こんな間近で見たら……あの時とは違うもの……」

 言葉は途切れながらも、フレイミーが答えた。
 まぁそりゃそうか。
 今は、手を伸ばせば触れる距離だもんな。

「お待たせしましたー。ご注文の料理でーす」

 そのタイミングで、ドーセンの店からゴーアとバイト達が注文した料理を運んできてくれた。
 雪道、しかも寒い中、大量の料理を運んできてくれて実にありがたい。
 荷車で運ばれることを想定してたから、雪道を広めに作っておいた。
 一度に全部持ってきてくれるのは助かる。

「んじゃ配膳手伝うか。ほら、お前らも動けよー」
「はーい」

 料理は多いが、こっちの手も多い。
 あっという間にそれぞれの前に並べられ、その中央には俺がここに来る時に持ってきた大量のおにぎりを置く。
 と言っても、大きな皿に山盛りにするほどじゃない。
 それでも並べられた料理の数は、見慣れない奴には圧巻だったんだろうな。
 フレイミーは、その驚いた顔を料理の方にも向けていた。

 そうそう。
 イールは空気を読んだのか、俺達とシアン達の会話に入り込む隙間を見つけられず、思いっきり肩を落としてと帰っていきましたとさ。
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