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番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編

村のために みんなのために その5

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 何も知らない大人達にとっては、みんなのためにこうしてほしい、ああしてほしい、と願うことが、日にちをおかずに適ってしまっている。

 心配なんかしなくてもいいのに、と、そんなことをやらかした張本人のあたしは思う。
 けど、大人はそうは思わないらしい。

「有り難い、とは思う。しかし洞窟ができたり倒木の粉砕されたりした。しかも短時間に。これはエルフにない力だ。力だけ考えるなら、他種族には容易にできるかもしれん。けど、周りにも何らかの影響を与えてしまう。そこ限定に力が振るわれる、というのは、どうしてもエルフ族……この村の事情を知っている者がしてくれたこととしか考えられない」

 父さんは眉をひそめた。

「父さん、何をそんなに困ってるのさ」

 大人になると……いろんな思惑もある、と言うことを知るんだろうな。
 前世の記憶はあるけど、なぜかそこまで思いを巡らすことはできない。
 それができたら、きっとあたしは……間違いなく疑り深い子になってただろう。
 転生の神の配慮なのか、それとも何も考えてなかったのか……まさに神のみぞ知る、かな。

「……器用さを伴った途轍もない力が、村に損害を与えようとしたら、とな。どこの誰にあんなことをしてもらったのかも分からない。村のためにしてくれたのなら、謝礼は必要だろう。けど気まぐれだったり興味半分なら、この村には価値がないと思われたら、と思うとな」

 そんなことはない、と言い出せたら、父さんはどんなに安心するだろう。
 けれど、神は願いを叶えてくれた。
 前世のように損得で態度を変える家族ではなく、自分がどのようになっても切れることがない縁。

 けど今では神との会話ができなくなってる。
 だから、お願いしたはずなのに、と訴えても、その声はおそらく届くはずもない。

 だからあたしも、その努力をしなくちゃ、そんな縁は得られない。
 何でもかんでも、神任せにはしてられない。
 やらなきゃならない努力は、自分でしないと。
 でないと……他の人の力を当てにしてばかりの、前世のあたしの家族みたいになってしまうから。

 ※※※※※ ※※※※※

 光の弓矢の力は、持ち主のあたし自身まだよく把握していない。
 使えば使うほど、その能力の可能性が広がるし、能力は高くなるようだ。
 けど、村のために使う、というのはちょっとためらわれた。
 洞窟の掘削と大木の粉砕の件だけで、一時だったけどその仕業はあたしたち子供の誰かじゃないか、と思われたから。

 ということもあるんだけど単に、村全体の願いっていうのがなかなか見つからないから、という理由が大きい。
 村が、村のみんなが困る事態がそんなに起きない。
 かといって、あたしが村を困らせて、その問題をあたしが解決するというのもおかしな話。
 けど、誰にも知られずに能力を発揮できる場所があることに気が付いた。

 きっかけは、はぐれドラゴンの首切断を思い出した時だった。
 ドラゴンばかりじゃなく、他の魔物も、村から離れた場所を移動することはある。
 そこは、誰も立ち入ることができないくらいの、森や山の奥深くだったらどうか?
 現場を見られることはない。
 そして、魔物が動いた跡ならば、山や森の一部を削るくらいの力じゃなければ、あたしの力の効果がそんなに目立つはずもない。
 問題はどこからその場所を狙うか、だけども。
 森の中の一番高い木のてっぺんならば、下から見上げても見られることはないし、遠い場所からだったら小さく見えるから、あたしがそこにいるなどと分かるはずもない。

 三日に一回くらいの頻度で、光の矢をいろんな形にして試し打ちをするようになった。
 けど、いい事ばかりじゃなかった。
 結構体力を使ってしまう。
 十日くらいすると疲れが溜まって、みんなと遊ぶのをしばらく控えなきゃならなかった。

「大丈夫? 風邪でもひいた?」
「んー……。ちょっと疲れてるから……。お母さん、今日はお手伝い休ませて……」
「分かったわ。お父さんにも言っておくね。ご飯は食べられる? ここに持ってきてあげるから」

 こんな風に、しばらく寝室で横にならなきゃならないほどだった。
 使いすぎは体に良くないらしい。
 けど、どんなことがあってもこの力は自分の物、というのはうれしかったし有り難かった。

 それともう一つ。
 矢の曲打ちだけど、これは魔力の高いエルフなら、程度に差はあれ誰でもできることらしい。
 光の矢のような、使いすぎによる疲労はない。
 けど、魔力が尽きることはあるっぽい。
 それでも光の矢は打てる。
 体力もそれと引き換えにできるから、ということらしい。

 本当に前世の記憶を残してもらえて良かった。
 そうでなければ、あたしにしか出せない光の矢にも、散々文句を言ってしまうかもしれなかったから。
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