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薬師の依頼の謎編

不安を誰かに伝えることで その1

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 お茶を出されて、二十分ほど放置された。
 もっとも「二十分ほど待っててくださいっ! 所長のことでお尋ねしたいことがありますので!」と前もって言われたから、まぁ我慢はできた。
 しかも、持ってきた花をすぐに加工して調合しなきゃならないからとか何とか。

 事情に何の変哲もなければ、受け取るものを受け取ってハイサヨウナラでもよかったが、こっちもここの所長の存在自体が気になったしな。

「お待たせしました……。申し遅れました。私、この薬療所で、所長であるダックル=ケリーの弟子で助手をしてますケーナ=リーフレットと言います。あの、それで、あの花を持ってきていただいたってことは、うちの所長と会ったんですよね? どこにいるんですか? あ、えっと、あの花は難病を治療できるかもしれない薬の材料になりまして、その薬の在庫が切れかかってたので」

 言葉のマシンガンを食らってる気分だ。
 まぁ来客をほったらかしにして申し訳ないって気持ちもあるんだろうが……。

「あー……済まんが、ここのことは調査させてもらった。昨日、いろいろ質問しに来た人がいたんじゃないか? 俺に依頼を押し付けてきた奴の得体が知れなかったんでな」
「あ……まぁ……確かに……」

 弟子からそんなことを言われる師匠……ってどうかと思うがな。

「と、ところで所長は今どこに?! お会いできたってことは生きてるんですよね?」
「まぁ……顔も姿も。多分君から受け取ったその人の写真とは一致してたな」

 と答えるや否や、ケーナは思いっきり顔を近づけてきた。

「で、今どこに?!」
「落ち着け。俺はサキワ村で商売をしてるもんだ。こいつは俺に会って話をした時、隣町の宿に泊まってるって言ってた。その時、三日後また来るって言ってたから……明後日うちに来る予定、か」
「どこの宿って言ってました?! 教えてください! あたし、ずっとここに一人で……」

 ケーナは次第に泣きそうになっている。
 落ち着かない……というより、焦っているのか。

「何かあったのか? 依頼の品が、数を揃えて店に来たんだ。俺んとこに来たらそのことを伝えとく。品物の受領書を君に書いてもらって、それを見せればすべて解決じゃないのか?」

 そう言えば、彼女の父親は亡くなったって言ってたな。
 そして師匠が消息不明となりゃ、そりゃ不安にもなるか。

「……所長は、確かにこの花を手に入れるために出かけました。用件はそれだけだったんですけど……」

 だがケーナの顔は暗く沈んだまま。

「その花から作られる薬なんですけど……あまり見ることのない大きい害虫に刺されて引き起こされる病気の治療薬になるんです」

 大きい害虫?
 ケマムシ……なわけないよな。

「カブトムシくらいの大きい蛾なんですけど、それに刺されるとその個所から壊死していくんです」
「……ヤバくね?」
「必ずその病気になるわけでもなく、その虫も滅多に見ないので、その病気自体もあまり見ることはないんですが、放置すると死んでしまうことは確実なので、定期的に薬を服用しないといけません」

 なんとまぁ。
 ……定期的に?
 いつまで?

「治療薬、なんだよな? それで治るんだよな?」
「……軽減させるだけです。完治には至りません」

 ……てことは……。
 俺が持ってきた花の数じゃ足りるはずがないんじゃないか?

「……俺が持ってきた花で、その数は間に合うのか?」
「それが……」

 おいおい。
 何のために二つって頼んだんだ?
 多けりゃ多いほどいいってんじゃないのか?
 まぁ……珍しい物なら当然手に入れることも難しい。
 求める数が揃わないとここに届けられないだろうから……数が揃う頃には、最初に採集した花が枯れるかも分からない。

「……患者は一人なんですが……私の母で……」

 おいおい。
 なんつー身の上話聞かされてんだ? 俺。
 突っ込む気のない首が、思いっきり突っ込まされてんじゃねーか!
 こんな話聞かされたって、俺ができることなんざまったくねぇぞ?!
 気配を察知する力はあるが、薬を生み出す力なんざねーよ!
 気配を頼りに調合したりなんなりって、できるわけがねぇ!

「薬はまだいくつかありますし、材料は足りてるんですが……」
「足りてるったって、使い切ったら……」

 あ……いや、不安がらせるつもりはなかったんだが……。

「あ、あの……差し出がましいんですけど……」

 おい、クリマー。
 何言い出す気だ? お前はっ。

「回復魔術などは効かないんですか?」

 お?
 おぉ、そこまでは気が回らなかった。
 我ながら、何という手の平返し!

「……最初は……魔術、魔法に頼ってたんです。でも効かなくて……」

 万能じゃなかったってことか……。

「その時に……こっちに切り替えてれば……」
「切り替える?」
「はい。魔系統から薬方に、早期に切り替えてたら……。あの花から作られる薬は、病状の進行を食い止める力が、魔術などとは段違いで効果がありまして……。でも……切り替えが遅かったから……」

 誰かに切り替えを押しとどめられたってことか?

「……両親と所長、回復術士の養成学院の同期って言ってました」

 ……おいおい待て待て。
 よそ様の三角関係の話なんざ、それこそ聞く耳持ちたくねぇよ!

「父は、回復術師を目指してました。けど、その力を伸ばすにも薬草とか色々必要なようで。人に頼って探してもらうより、自分で探した方が効率が高いって……」

 回復術師って、勝手なイメージだが、ローブかなんかを羽織って、杖振り回して練り歩く、みたいな感じだと思ってたが……。

「そこらの冒険者よりもよほど丈夫な体力の持ち主でした。娘の私が言うのもなんですが……」

 脳味噌だけは筋肉にならず、筋肉馬鹿から馬鹿が外れたようなもんか?

「所長は魔力自体が術士になるは力不足だったため、薬師に変更して、その道を究めようとしてました。けど、今もそうなんですが、術士業界と薬師業界は、その……犬猿の仲って程ではないんですが……対立というか……互いに存在を無視するような感じで……」

 怖い怖い。
 権力争いが生まれそうな条件、揃ってねぇか?

「……母親はどっち派なんだ?」
「双方の手段を融合できないか、って感じで……。学生時代の父と所長は対立してたようなんですが、母の提言で歩み寄って……」

 両派閥を取り持つ三人の関係か。

「ところが……その……。父の家柄が、リーフレット財閥で、父は、その後継者候補の一人でした……」

 うわあ。
 権力争いに後継者争いかよ。
 家系の内外で争いごとが絶え間なく……。

「学院を卒業して、父達もそれぞれの道を進んで一人立ちしたころに、父に結婚話が持ち上がったそうなんです」

 ……何で俺、他人の学生時代とか婚姻の話聞かされてんだ?

「財産目当ての人があまりにも多かったって言ってました。そんな連中を相手にするより、所長や母とつるんでる方が楽しかった、って……母も所長も話してました。けど、その見合い話とかうんざりしながら話をしていくうちに、父の方から、所長がいる前で母へ言い寄ったみたいで」

 ……どこぞの安っぽい週刊誌の記事に載りそうじゃね? この話。
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