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薬師の依頼の謎編

その男は、雪が降り始めた日にやってきた その5

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 通話機だけのやり取りだけじゃ埒が明かなくなりそうな気がした。

『レーカとラジー連れてそっち行くわ。画像も見せた方が話は早そうだしな』

 画像?
 あぁ、写真のことか。
 来てもらって話を聞いた方がいろいろ捗りそうだしな。
 仲間にも話を聞いてもらう方がいいかもしれん、ということで、昼休みの時間に来てもらうことにした。
 集団戦の予定がすべてなくなっても、探索の連中のガイドをやる気満々でやってるから、全員集合する時ってば、やっぱ飯時しかないんだよな。

 ※※※※※ ※※※※※

 仲間九人と俺とヨウミ。
 そして向こうはアークス、レーカ、ラジーの三人。
 全員揃ったところでその三人からの報告。

「まずこの画像を見てくれ。この人物であってるか?」

 服装もおんなじ。
 見た目は問題ないんだが……。

「そう、だな。ヨウミ、どうだ?」
「どうだ、って?」

 ……いや、見ただろ? お前も。

「あたしは店の客の相手で忙しかったから、よそ見てる余裕なんかなかったわよ」

 えーと……。
 まぁいいか。

「俺が調査してほしい人物とこの写し……画像の人物は一致してる、と見ていいな。ただ、別人が返送してる可能性はなくもないが……」

 疑い始めたらきりがない。
 いずれにせよ、魔物がこの人物に変化したのならすぐに分かる。
 だがそうではなかったから、魔物絡みではないことははっきりしているが……。

「変装している初対面の人物なら、見破る根拠もないから分からない、と」
「まぁそういうことだ。ひとまず、同一人物と仮定して話を進めてくれ」
「分かった。この男は、自分で『雪月草』なる珍しい植物を採集しに出かけたそうだ」
「出かけたのも、今から大体二か月前、ってとこね」

 少し乱れた長い黒髪を整いながら、レーカがアークスの説明を補足した。
 だが消息不明と判明した経緯は?

「この薬療所、所長と従業員が一人いてな。従業員というより……助手?」
「本人は見習いと言ってたな」

 あれ?
 ラジーの声って、初めて聞いたような気がする。
 若そうなのに、低くて渋い、聞いてて心地いい声してんな、こいつ。

「見習い、って言うほど未熟さはあまり見なかったけどな。まぁその見習い……ケーナ=リーフレットってんだが……」
「アークス。まずはこの人物の説明からした方がいいかもよ?」

 そのケーナについての話になろうとしてたな?
 何か訳ありか?
 だが、確かに本題から寄り道されると、何の話をしてたのか分からなくなる。
 本題に絞って、話がひと段落ついてから余談に入ってもらう方がありがたいな。

「師匠の消息不明の届け出を出したのはこのケリーって女性……女の子? だ。彼自身、薬を調合するために材料を採集しに行くことは珍しいことじゃないらしい」
「けど、長くて十日もしないうちに帰ってくるんだけど、今回はあまりにも長すぎるってことで、出かけてから二十日くらいしてから届け出を出されたのよ」

「つまり、届け出を出されて一か月以上経って、俺のところにやってきた、と。そうだ。雪月草なんだが……」

 手元に置いてあった鉢植えを三人の前に出す。
 果たしてこの三人、この植物を見たことがあるかどうか。

「……本物だな」
「……うん、間違いないな」

 アークスが上着の内ポケットから、画像らしきものを取り出して見比べている。

「そうだ。名刺も貰ってたんだ。これを二株欲しいっつってた。手に入れたら、薬療所に送っといてほしい、とも言ってた」
「何?」
「ふーん……。てことは、アラタにお願いしにきた人物は、まぎれもなくダックル=ケリー本人と見ていいわね」

 おいおい。
 そう簡単に結論出していいのか?

「誰かが所長に変装したり化けたりしてたら?」

 ヨウミの言う通り。
 まだ警戒すべき段階だと思うが……。

「いや、俺たちも薬療所で名刺をもらったんだよ」
「へ?」

 俺とアークスが受け取った名刺は、文字の自体、大きさ、位置など、どれも一致。

「もし変装した誰かだったりして、その植物を奪おうって言うなら、直接こっちに送ってって言わないはずでしょ? 直接受け取らない限り、変装者には何の得もないもの」
「だな。また店に来ると言っといて、二度と姿を見せることがなかったら……。せいぜい報酬を踏み倒す詐欺罪くらいにしかならない。だが、配達してもらうなら送り主も明記しなきゃならんから、直接報酬を請求しに行くことはできる。受取人は送り主のおかげでそれを手にすることができたんだからな」
「手間はかかるが、その詐欺罪も必ずしも適用されない」

 ラジーの言う通りだ。
 どこぞの誰かが気まぐれで俺に依頼ごとを持ち込んできたわけじゃない。
 所長と来訪者の人物像が一致した。
 その来訪者の肩書も一致した。
 つまり身元が判明した。
 あやふやなのは報酬の件だけだ。

 ……俺の心配したことは……杞憂だったか。

「だが……この話を聞いて、俺たちの出る幕はなくなりそうと思ったんだがな」
「ん?」

 あぁ。
 国家転覆とか、どこぞの誰かが企んでるのか心配してたんだ。
 だから、その調査結果で分かったことは、その心配は無用でいいってことだったな。
 だが、まだ話があるのか?
 そう言えば、余談があったんだっけか。

「所長が自ら材料採集にでかけるときは、そこらに生えてる草とか生き物の採集でな」
「うん?」
「こんな珍しい植物を採るために出かけたのは、今回で二回目。一回目は別の物だったらしい」

 そう言えば、この採集をいつも頼んでいる冒険者がどうのって言ってたっけ。

「珍しい物を手に入れたいときは、冒険者を雇ったり酒場に依頼してたりしてたんだと。これはまぁ誰でもそうするもんなんだが」

 だろうな。

「この雪月草を手に入れたいときは、ある冒険者にいつも頼んでいたらしい」

 これもあの来訪者の言うことと一致。
 怪しいところはどこにもない。

「それは自分の父親だ、とケリー嬢が言っていた」
「……なんとまぁ」

 自分の見習いの父親が冒険者、か。
 冒険者であるがゆえに、怪我や病気をすることが多いから、いくらかでもその助けになりたい、という子供心からか?

「この植物は相当珍しい物らしく、どこに生えているか、バックナー……ケリーの父親の名前だが、誰にも洩らさなかったらしい。ただ、こんな天候のときにこの花が咲くことが多い、という話はしていたらしい」
「こんな……って、今のこの天候ってことか?」
「あぁ。父親と所長の話を聞くともなしに聞いたケリーが言っていた」

 今日も、一日がかりでうっすらと積もる程度の降雪量。
 かと言って、天候は薄暗いどころか、お日様が雲の合間から顔を出してている。
 その輝きも辺りに余すことなく照らされている。

「もちろんこんな天候は、この季節ならいつでも見れるわけじゃないわ。でも珍しくはない天候ね」
「てことは……その候補地も……」
「雪は降る。だが豪雪地域ではない。これだけでも相当絞られるが、それでも本腰入れて探そうと思っても……」

 キリがない、か。
 この花の生える場所を秘密にして亡くなった、と。

 ……マツタケか何かか? これは。
 それはともかく。

「……二か月も間が空いて人前に出てきた……。いや、あちこち巡り歩いたのかも分からんな。まぁその件はいいか。で、レアもんで、しかもそれがある場所が秘密にされているなら、なるべく自力で見つけ出したかった……」

 一々職場に戻ったら、どこに行ってきた? だのと、助手から必ず詮索される。
 父親ですら自分の娘に秘密にし続けてきたことだ。
 助手からの質問に躱しきれる自信がなかったら、そりゃ見つけるまで探索する方が楽だな。
 ところが自力では見つけられず。
 誰かに頼りたくなって、誰が適任かといったら……。
 酒場なんぞでそんな依頼出したら、秘密事項があっという間に世間に流出してしまう。
 元旗手、というだけで、それをとっかかりにしたかった、ってとこか。

「れあ? とは?」

 ……そこに釣られるか、ラジーさんよ。

「珍しいもんって意味だよ。……てことは……特に案ずる必要はない……ってことか?」
「けど陛下はとても喜んでたな」
「喜んでた?」

 何でよ?

「そこまで自分のことを心配してくれてるのか、と。仲間になれてうれしかった、アラタと知り合えたことが有り難かった、と」

 やれやれだ。

「で、その依頼はどうなった? 今あるなら、俺たちが届けても構わないが……」

 そこまで頼むのは悪い気がする。
 というか、こういうことは該当者同士でやり取りするのが無難だろ。

「いや、なるべく直接手渡したい。人づての人づてで届けるってのは、どこかで手落ちがあったら面倒だしな」
「そうか。じゃ、そのことも陛下に伝えておこうか」

 いいよそこまでしなくても。

「明日の朝一にでもここを出るさ。どうせみんなも暇だろうから、何か起きても対処できるように誰かと一緒にそこに行ってみるか」

 この花を見つけてくれたンーゴには、報酬の件は済ませた。
 あとは俺とこの人物、もしくは薬療所との報酬の件だけだからな。
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