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三波新の孤軍奮闘編

番外編:新たな魔物の種類が誕生!

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 テンちゃんが魔物になってしまった。

 いや、灰色天馬だから、元から魔物なんだけど。

 どういうことかというと……。



 ※※※※※ ※※※※※



「アラター。何か荷物届いたよ? 結構量が多い。てか、半端ない」

「んぁー?」



 夜中……未明に泉現象があったその日から二日空いた次の日。



「まったく……。すっかり昼寝の習慣が根付いたわねえ」



 店先から呼びかけてきたヨウミは、洞窟の中でゴロゴロしてる俺に近づく気はなさそうだ。

 というか、寝入りそうだったのに急に話しかけられたから、気持ちよく寝入るはずだったのが現実に引き戻されて、なんか気分が沈み込みそう。



「根付いたというか、寝付いたというか……」

「上手くも何ともないから。若き冒険者達の監視はどうしたのよ」

「あいつらはあいつらで、上手くやれるようになってきたっぽいからなー……」



 いつまでも子ども扱いはよろしくない、はず。

 養成所を卒業できるくらいには、知恵はある。

 そして、養成所では教わらなかったことを体験し、そこから得た知恵を、後輩に伝える。

 そんな巡り合わせが定着しそうだ。

 それもまた、いわゆる成長ってやつなんだと思う。

 昼飯前までの俺は米関連の作業をする。

 飯を食ってからは、若い冒険者達に何かトラブルが起きそうな時に未然に防ぐ監視役の仕事をするようになったが、目を離してもいいくらい、あいつらはそれなりに知恵をつけた。

 若い者は若い者同士で、お互いの欠点を補うようなグループを組んでダンジョンに潜ったりしてる。

 中には、執拗に自慢話をひけらかしてばかりの輩もいるようだが。

 まぁいずれ、それを見て俺は、自分の底での役目は終わったかな? ということで、店の奥に引っ込んでごろ寝を決め込むようになった。



「で、荷物ってなぁ何だよ。何も注文なんかしてねぇぞ?」

「えっと……シアンからだよ?」

「何?」



 嫌な予感がする。

 荷物が洞窟内に運び込まれない。

 ヨウミ一人で運び込めない量ってことだろう。

 バイトらはバイトらで忙しいし、こっちの私用に手伝ってもらうわけにはいかないし。



「こっちに来てよ。シアンの手紙つき。えーと、何々? 『こないだはお疲れ様。約束通り柔軟剤を一年分贈呈します。品質は国王の折り紙付き』……だって……」



 あの野郎!

 ホントに送り付けてきやがった!

 しかも一年分って……えぇ?!

 店の前にはでかい段ボール箱っぽい物がいくつも……。



「あたしとアラタに一年分……じゃなくて……あたし『達』に一年分ってこと? あたしとアラタ、ライムとサミーとンーゴには毛はないから……っと、それと体を変化させられるクリマーには必要ないか。てことは、テンちゃん、マッキー、コーティに……この量だから、ひょっとしてモーナーとミアーノの分も?」

「な……何考えとんじゃ、あの王さんは……」



 開いた口が塞がらない。

 そんなにお気に入りなのか。このトリートメント……。



 ※※※※※ ※※※※※



 そして集団戦の訓練が終わって、みんなが戻ってきた。



「へ? シアンから?」

「体毛の柔軟剤……」

「ライムニハフヨウダネ。……ロカシタラノミモノニデキルケド」



 さすがにそれは、シアンが泣くかもな。



「要は、体毛の調整ってことでしょ? ほぼ毎日集団戦するから、洗うのだけで十分なんだけど」



 だろうな。

 タオルには柔軟剤してほしいが、髪の毛とかは、お前らにはなぁ……。

 ちなみにタオルの柔軟剤もあるそうだ。

 それと、マッキーの言いたい事は、体毛のケアってことらしい。

 ケアって言葉、おそらくこの世界……この国では理解不能なのかもな。



「俺もお、あんまり気にしないなあ。俺の分もあるってんならあ、誰かにあげるよお」

「あたしも。ということで、アラタにあげるっ」



 何でこんな風な時に限って親し気にするんだよ、コーティは!



「……みんな、要らないの? じゃああたし、貰っていい?」



 まぁ……全身毛だらけで体格もでかいテンちゃんなら、ぜいたくに使っても丸一年もちそうだよな。

 でも、こいつの手足、蹄なんだよな。



「誰かに洗ってもらうか? わしゃわしゃごしごしできねぇだろ。風呂入る時は、いっつも湯船に浸かって終わりだからな」

「うん……そうなんだよね……」

「よし、コーティ、やってあげろ」

「アラタ! 無理だってこと、見りゃ分かるでしょ!」



 うん。

 分かってて言ってる。



「まあ……一緒に入る人がやってあげるってことでいいんじゃないでしょうか? テンちゃんは、これからお風呂に入る時は混浴の所に入らないとですね」

「どうして?」

「テンちゃんに言い寄る相手って、そんな体型した人とか魔物とかですよね? 私達にはいないし、冒険者の人達だって、その、テンちゃんの体目当てに……っていうのは」



 おいおい。

 急に過激なことを言い出したぞ? クリマーさんは。



「あー、うん。そんな人いたら蹴り飛ばすから平気平気。でもどうして混浴?」

「あ、いえ、えっと、モーナーさんならすぐに洗い終えられるかも……って思っただけなんですけど」



 モーナーがテンちゃんの洗体役?

 いくら効率が良さそうだからって、押し付けるなよな。



「まあ、それくらいならあ、俺は構わないけどお」

「一人限定にしねくてもいいんじゃねぇの? いる奴らみんなで洗ったれよ」



 おぉう。

 ミアーノもいたか。

 ンーゴは一足先に晩飯会場のフィールドに戻ったか?



「それもそうね。でもさすがにあたしには無理だわ」



 うん。

 コーティ、やっぱ、お前は無理すんな。



 ※※※※※ ※※※※※



 そんなこんなで、晩飯の時に合流したンーゴも、テンちゃんの洗体に付き合う、とのこと。

 で、この夜からテンちゃんが魔物と化した。



「すごーい! テンちゃん、ふわっふわだよ!」

「触り心地、抜群に良くなった!」

「俺の口調もお、ヨウミやマッキーみたいにい、なりそうなくらい感動してるぞお!」

「キモチイイヨオ!」



 認めたくない。

 認めたくはないが……。



「テンちゃん……。あの柔軟剤、全部お前にやるわ」



 灰色のふわふわのぬいぐるみ。

 しかも体温を感じる。

 これだけでも普通に眠気を誘うってのに、さらにこの体毛の手触り……。

 絶品である。

 そして、普通のぬいぐるみにはできない、反応を示すことができるのである!

 こんな贅沢なぬいぐるみが、果たしてほかに存在するであろうか!

 いや、ない!

 普段から冷め気味のンーゴとミアーノまで絶賛している。



「今日は、みんなと一緒に……寝ちゃう?」



 何という小悪魔!

 この誘いに乗らない奴は、間違いなくこの世に存在しない!

 誰にも抗えない、この魔物の誘惑!

 眠りを誘う魔物、ここに爆誕!

 これぞ、まさしく睡魔である!

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