上 下
379 / 493
三波新の孤軍奮闘編

ダンジョン入り口での奮闘 その3

しおりを挟む
 魔力が込められている物体、生き物、あらゆる物全てからその魔力を吸い取って補充できる機能を持つ防具。
 所有している魔球すべてから魔力を吸い取り、現象から発生する魔物の足止めのために使い果たした。
 その直前にヨウミがやってきて、足止めの効果がある魔法を俺の後を継いで放出。
 しかしヨウミの防具の魔力も、いずれは尽きる。
 店のストックにある大量のおにぎりから魔力を補充する提案を受けたが、それで、まだ地下三十階くらい下にいる魔物共にとどめをさせるとは思えない。
 今回の現象を終息させる決め手がない。
 魔力が十分だとしても、攻撃手段があっても身体そのものの防御力は、防具があっても高まることはない。
 強烈な一撃を食らえば、防具があっても堪えられない体重に変化はないから。
 故に吹っ飛ぶ。
 壁にぶつかる衝撃を止めるために防具で堪えても、防具で守られてない太ももや肩、胸腹腰背中その他諸々に衝撃が走る。
 ヒーローに憧れてヒーローになるには、そのための努力をするには少々肉体的につらいお年頃だ。

「アラタっ! 何ぼんやりしてるのよ! だったら他の手を考えなさいよ!」

 気楽に言ってくれる。
 考えたさ。
 考えた。
 考えに考えた。
 出た結論は、手詰まり。
 迷路の中で、袋小路に囲まれた気分。
 ゴールがどこにもない。
 あるのは延命という誤魔化しくらい。
 魔力の補充。
 しかしその補充できる物は、ヨウミのおかげで思い出した。
 魔力や魔力らしき物を内包している生き物、物体。
 その一つに、俺が採集した米で作られたおにぎりがある。
 具体的な物が出てきたのも、ヨウミのおかげ。
 だがそれも却下。
 しかし……。

「魔力が籠った米、ねぇ」

 今から採集場所まで行って、手あたり次第米をこの防具にぶち込んで……。
 時間がかかりすぎる。
 一粒一粒から魔力を補充する時間は短いだろう。
 だが、防具一杯に魔力を蓄積させるには……。

「米粒を魔球代わりに、というのも無理か」
「無理無理ばっかり言って、じゃあ代わりになる方法があるの? なきゃそれをするしかないでしょう!」

 その理論には賛同できる。
 が、現象から生ずる魔物に有効かどうか。
 ほとんど意味がないだろう。
 けど、ススキモドキの米には、差はあるものの、何で魔力が込められているのか。
 待てよ?
 そんなススキモドキが育つ土地には……いや、地面? ……違う。この土地……世界に魔力があるから?

「ということは……?」

 魔力が空の左手防具を外す。
 肘側の防具の凹みを下にして、地面に叩きつける勢いをつけて突き刺してみる。

「え? アラタ……何やってんのよ。って……えぇ?!」

 赤一色になった発光部に、赤以外の色の光彩が混ざる。

「……まさか、だよ……」

 当たってほしい俺の仮定。
 けど、それが大当たりするなんて予想はしてなかった。

「砂とか土だったら……どこでも魔力の補給ができる……ってことだよな、これ」
「魔球なんか……必要ないってこと、だよね……」

 ただし、地面に突き刺した時に防具が壊れない限り、だが。
 ぼんやり考えているうちに、紫、青もグラデーションに加わる。
 急いで他の防具も外し、地面に突き刺した。
 時間のロスはない方がいい。

「……とんでもない補給源、見つけちまった……」

 シアン、このことまで予測できたんかな……?

 ※※※※※ ※※※※※

 魔力の枯渇問題は解消できた。
 おそらく三桁に至るダンジョンの階層すべてを水没させることもできるだろう。
 が、魔物まで水没させた後、従来通りこのダンジョンを活用できるかというと……難しい。
 現在地下二階から地下三十階までの壁、天井、床すべてを氷結させている。
 これらを一気に融解させても、流れ落ちる水は同数の階数を水没させられる量にはならない。
 そして、どんな熟練の冒険者でも、最下僧までたどり着くことはないはずだ。
 ダンジョン潜入の目的は、主に三つ。
 アイテム採集と、冒険者としての鍛錬の、集団戦と魔物討伐の二通り。
 いずれも、最下層までたどり着く必要はない。
 だから今現在において、最低限氷結させている階層数の維持さえできればいい。
 その範囲を広げるか、氷で階層ごと蓋をできれば御の字か。
 しかし階層を氷で埋め尽くすと、さらに下への階層へとその範囲を広げるのはまず無理だ。
 まぁどのみち、魔物が地表まで上がってこられるのはまず無理だ。
 実際、奴らが地表に上がるために最初に足を踏み入れた氷漬けの階層で足止めを食らってる。

「でも……これで一安心なのはいいけど……」

 またヨウミの奴が不安を煽る。
 この作戦のどこに問題がある?

「アラタ……。あんた、いつからこれやってたの?」
「え?」
「……睡魔という魔物がやってきたらどうするつもり? まさか覚醒の魔法とか使うんじゃないでしょうね? ずっと置き続けていると、精神に異常を来たすって聞いたよ?」

 あ……。
 言われてみれば……。
 魔力放出は、意識がある間のみ。
 いろんな魔法を出せるが、それはそのような魔法を出す、という装備者の意識によるものって説明してたし……。
 ……睡魔、とはつくづくよく言ったものだ……。
 心の隙を付け入る、まさに邪魔者だ。
 ……健康維持には必要な生理現象ではあるが……。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...