上 下
367 / 493
アラタとヨウミの補強計画編

長い立ち話 その2

しおりを挟む
 あっちの世界でもこの世界でも、嫌な事はあった。
 それでも俺が惹かれる力を持ってるのはどっちの世界だ?
 俺に周りの人を惹きつける力があるのはどっちの世界だ?
 ただ、あっちじゃいい事はなかったな。
 ……んじゃ、いい事ってなんだ?
 自分だけ損するような職場の環境を快適になるように、自分で変えられることか?
 大勢からちやほやされることか?
 ……違うな。
 俺の言う通りにしてくれるかどうかはともかく……。

「磯貝さん。あなたは芦名達と同じだよ」
「え? な……何言ってんのよ! あんな人達と一緒にしないでよ! 私は少なくともあなたを」
「心配してくれてる、と? 気にかけてくれるのは有り難いんだけど、俺の話、聞いてないよな」
「あなたがあまりにおかしなことを言うからでしょ!」

 おんなじなんだよ。

「俺の話を聞いてくれない、という面では、芦名達とおんなじなんだよ。話を聞いてくれないってことは、言葉を受け止めてくれないってことだ。言葉以外にどうやって気持ちを相手に伝える手段は何がある?」
「だから、新君は一時の感情でここに居残るって言うからあたしは……」

 ほら、言ってる端から気持ちが伝わってない。
 あっちじゃ、ほとんど俺と会話をしてくれる人はいなかった。
 そして今も、会話にならない会話が続いてる。

「話を頭から否定してくる奴に、何の魅力も感じない。そんな人と一緒にいても、楽しいとは思えない」
「否定……って……」
「自分の仕事は自分でしろよ、会費は一人一人から集めろよ、そんな俺の話を誰もが聞こうとしなかった。俺の権利を認めないってことと同義だ。磯貝さんもそれと同じことをしてる。俺がここにいたがる理由を聞こうともしない。無関心なんだよ、俺に」

 彼女の口が閉じたまま停まった。
 俺の言うことは当たりっぽいな。
 無関心なのに関心があるような物言い。
 トイレに行って用を足して、水を流さずトイレから出るようなもんだ。

「磯貝さん。あなたは……」
「あーっ! アラタだー! そこで何してんのー!」

 いきなり雰囲気ぶち壊すような声が空から……テンちゃんじゃねぇか。
 何でここで空飛んでんだ。

「え? えぇ?! 何あれ! え……降りてきた……って、今あの動物喋ってなかった?! って、新君の名前呼んでなかった?!」

 なんかもう……事態をややこしくなりつつあるこの事態、どう収拾しろってんだ!

「……なにしてんだ、テンちゃん……って、マッキーと……そいつ、誰?」
「集団戦の人よ。ちょっと怪我させちゃってね。ドーセンさんとこで薬買おうとね」

 村の中に薬屋さんはあったと思ったが?
 何でここに来る?

「え……えっと……その人……人間……じゃないわよね? その肌の色といい、耳の形が……」

 見たことのない人間がこいつらを見たら、そりゃたまげるわな。
 魔物の類なんか、確かに普通にいるけど普通に生活してれば頻繁に見ることはない存在だ。

「羽根を持った六本足の馬はテンちゃん。背に乗ってたそいつはマッキー。ダークエルフ、だとさ」
「あ……言われてみれば、足が六本……って、ホントなんなのこの世界!」

 これから帰るって奴に説明しても無駄だとは思うんだが……。

「何? アラタの知り合い? 人間みたいだけど、着てる服、見慣れないわね。初めまして。マッキーよ」
「あたしはテンちゃん。マッキーもあたしもアラタの仲間だよー。で、あんた誰―?」

 自己紹介しなくていいから。
 つか、初対面相手にあんた呼ばわりってなぁ……。

「そんなことより、その冒険者の怪我、治すんだろ? 俺らのことはいいからとっとと薬買って治してやんな。苦しそうだぞ」
「んじゃお言葉に甘えてー」
「何かバタバタしてごめんなさいね。……あら? シアンもまだいたの?」
「はは。私達のことは構わなくていいから、自分の仕事するといいよ。また後でね」

 やれやれ。
 えーと何つったっけ?
 あぁ、つむじ風みたいな連中、とか言うんだよな。こういう時は。

「……仲間?」
「あ? あぁ。ここで仕事してるっつってたろ? 一緒に仕事してる奴は、他に八人くらいいるな。そんなことより……」
「……そっか……。分かった。帰る」
「え?」

 え?
 何その手の平返し。
 急すぎると、逆になんか気持ち悪い。

「……気味悪いけど、新君の笑った顔、初めて見た気がする。……確かに私はこの世界を理解しようと思わないし、今まで新君がここでどんなことをしてきたか知りたいと思わない。嫌なことが終わったら、きっといいことが連続で起こると思ってる。でも、私を帰す方法があるって言うなら、新君も帰る方法があったってことよね? それでも帰ろうとしなかったんだから、帰る気がないってことなんでしょ? 現実じゃない場所を逃げこむ場所にしてると思ってた。どんなに逃げようとしても逃げ切れないとも思ってたし」

 退職したら逃げ切れる。
 けど仕事を失うから収入もなくなる。
 つか、逃げるって選択肢も考えられなくなってたけどな。
 こいつもそうなんだろうか?

「でも、そんな顔と……そっか。前よりも健康的になったのか。表情が生き生きしてる。ここがほんとに現実に存在してて、その中で仕事してて生活できてるなら……特に何も言わない。元気で、健康で毎日過ごしてるなら……」

 そう言われれば……。
 死んだ魚の目をして生活してた、かもしんねぇな。
 けど、ここでもそんなに変わらねぇと思ってたが……。

「特に言うことないなら、とっとと帰った方がいいと思うぞ? 悪ぃなシアン。待たせちまって」
「いやいや。私達のことは気にしなくていいよ。じゃあ……」
「とと、あ、シアン達まだいたの? アラタも随分長話してるねー」

 買い物終わったんか。
 ほんとつむじ風だな。
 去ったと思ったらまたやってきた。
 まぁ通り道ならそりゃやってくるもんだろうけど。

「あ、あぁ。その人をとっとと早く治して、仕事の続きしろよ。怠けるなよ?」
「……アラタ? どうしたの?」

 何だよ、どうしたの? って。

「何だ? 変なところあるか? 病気も怪我もないが? 何か変か? マッキー」
「何か……話し方丁寧っぽくない? いっつもぶっきらぼうな喋り方しかしないから、なんか変」
「あ、うん、ホントだ。すごくヘン!」
「お前らなぁ……」

 そういうお前らこそ、油売ってねぇで仕事再開しろっての!

「ぷっ」

 今度は磯貝だ。
 何吹き出しやがってる。

「私は気付かなかった。微妙な変化に気付く仲間がいるんだね。なら、心配ないか」
「連れて帰った後は面倒見る気がないって奴から心配されても、何の意味もない」
「それもそうか。……じゃあお別れだね。戻る気がないなら、永遠のお別れかな」

 その気になればそっちの世界に戻ることはできる。
 けど俺にはその気はない。
 向こうの世界との位置関係ってば、考えてみりゃ死後の世界とそんなに変わりゃしねぇのか。
 不思議なもんだ。

「……そういうことだな。あ、あと、鳥居が二つある神社あるだろ? むやみやたらにあそこに行かない方がいい。俺はそこからここに来ちまったからな」
「え? あたしもあの神社から来たよ? うん、今後気を付ける。じゃあね……って、元の世界に戻してくれる人って、このシアンって人? よろしくお願いします」
「あぁ。みんな乗ったな? では王宮に戻ろう」

 磯貝を乗せてやって来た馬車は、シアン達も乗せて村を発った。
 つむじ風みたいな連中、ってのはテンちゃん達よりも磯貝の方が当てはまりそうだ。

「ねぇねぇアラタ」
「んだよ。お前らまだいたのか。集団戦、三人ずつだろ? そのうちの二人が来てたら、残された連中の時間が無駄になるだろ。とっとと戻りな」
「やっぱ……話し方、なんかヘン」

 やかましいわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...