上 下
361 / 493
アラタとヨウミの補強計画編

何するにせよ、必要なのは時間と力 その2

しおりを挟む
「見てもらいたいものがある」

 とシアンが切り出し、付き添いできた親衛隊のクリットとレーカが袋をベンチの上に乗せた。
 割とでかい。
 袋の中身は……。

「箱? が四つ……」
「うむ。開けてみてくれ」
「何で俺が」
「鑑定してくれないか?」
「鑑定ならドーセンがいるだろ」
「アラタ。君の能力で、鑑定を頼む」

 いつにない真剣な目で依頼されちゃ、流石に聞き流すわけにゃいかんか。
 シアンの感情だって、能力を使うまでもない。

「……シャーねえなぁ……って、え?」
「どうしたの? アラタ」

 箱から感じて真っ先に浮かんだイメージは、人体から摘出され、それでも動く心臓。
 なんかこれ、やべぇ奴じゃねぇの?

「……おい、シアン」
「どうした? アラタ」
「やべぇもんに関わりたくねぇんだがな」
「そんな危険な物じゃないよ。目隠しして箱の中身を触らせるような真似はしないし。開けて見りゃ分かるよ」

 ……確かに生物の類じゃねぇ。
 間違いなく、何かの物体だ。
 が……。

「開けていいんだな?」
「開けてもらわないと、正確に鑑定できないんじゃないか?」

 それはそうなんだが。
 こんな不気味な気配を感じたのは……初めてのような気がする。

「アラタ」
「何だよ、ヨウミ」
「とっとと開けなさいよ。シアンは、『あたしにも』用事があるって言ったのよ? ゴロゴロしてるあんたと違って、あたしは午後からも仕事があるの!」

 ちっ。
 なるべく振動を与えないように、慎重に蓋を持ち上げる。

「……何だこりゃ?」

 妙な物体が四つ。
 まるっきり同じ物が二個。それとはちょっと形が違う物も二個。
 二個で一組って感じだ。
 物は、紙のように薄い長方形の物体でできた輪が二つ。その直径は、片方がやや長い。
 その二つの輪の穴を向かい合わせるように、一つのパーツの両端にくっついている。
 そのパーツは、どこかで見たような気がするんだが……。

「ん? これ、上げ底? こいつの下に何かがあるな」
「うん。全部まとめて鑑定してみてくれ。

 摘出された心臓が動いているイメージってば、グロい物を連想するが……。
 輪の部分は真っ白。パーツは金属製らしく、灰色っぽい色彩でメタル感たっぷり。
 それが収まっているケースを取り出すと……。

「ん? 何じゃこりゃ?」

 これまたメタル感たっぷりの……何と言うか、輝き?
 赤、青、白、緑、黄、茶の色がグラデーションされてる感じ。
 そんな物体が四個。
 やはり同じ形のものが二個ずつ……いや、それは二個で一組。
 もう二個は、似た大きさだが形は割と違うな。
 で、その形は……いや、それよりも……何だ? この気配。
 いや、これは……。

「魔力が込められてるな。けど、何かに似た……」
「流石アラタだね。その通り。魔力が込められている」

 いや。
 その通りじゃねぇ。
 えっと……あ、これ……まさか……。
 充電器っぽい?
 もちろん電気じゃねぇ。
 魔力の充電……いや、だから電気じゃねぇよ。
 魔力の補給、か?

「……えっと、魔力をこいつの中に注ぎ込むことができるって感じだ。」
「またも正解。アラタ、やはりその力は素晴らしいね」

 もう異世界から召喚されることはない旗手。
 その旗手としての力を、今更称賛されてもな。
 にしても……。
 触っても大丈夫な物体だが……。

「取り出してみてもいい……」
「もちろん!」

 即答かよ。
 一つ取り出す。
 筒を半分にした感じの物体。
 その外側には、何かの顔のような彫り物っつーか、レリーフ?
 その顔は先端の部分のみ。あとは同じような模様と……いや、これ、鱗か?
 となりゃ、この顔は……竜っぽいな。
 もう一個は動物の尻尾?
 けどこれ……造形物だよな。
 てことは、何か目的があって作られた物だ。
 美術品……ってちょっと待て。
 先に取り出したケースの中身は何だ?
 輪っかが二つ、トンネルのように……。
 ん? これ……。

「こっちは……腕輪になるのか?」
「何も言わなくても分かるってのも大したものだな、アラタ」

 褒めたってなにも出ねぇ……って、待て。
 するとこっちは……足?
 太ももにしては輪っかが狭い。
 すると……。

「こっちは、脛?」
「またまた正解だ。すごいな、アラタ」

 すると、こっちの金属っぽい物体、一組の奴は……竜の脛、みたいなイメージか。
 てことは、残りの二個は腕か。
 腕の方は……片方が頭部。片方が尻尾の造形か。
 つまり、これは……。

「防具、なのか?」
「その通りだよ、アラタ。この箱も中身は同じだ。アラタとヨウミに、身に付けてほしくて作った物なんだ」
「え? あたしにも?」

 ヨウミは喜んではいるが……拍手するほどのことか?

「アラタ。君は今まで、我々が作った魔球を幾度となく買い求めてきた。けど、あまりいい気分じゃなさそうだったね。あぁ、その気持ちは分かってる」

 唐突だな。
 こいつに借りができたような気がして、気分はいいもんじゃねぇやな。

「あれは、基本的には消耗品だ。だから廉価版を作って業者に卸してるんだが、魔法が使えないアラタには必需品だな?」
「……あぁ」
「もしそれに代用品が作られて、魔球を買い求める必要が亡くなったらどうだ?」
「……」

 買うたびに、借りができちまった気がした。
 が、今後借りを作らずに済むなら、それに越したことはないが……。

「……買い取れ、ということか?」
「そちらの言い値で構わない。だが買い取った後は、アラタ、ヨウミ。二人に装備してみてもらいたい」

 気味悪ぃな。
 そういえば、最初に感じたイメージも……。
 いや、待てよ?
 魔球の代わりになる。
 しかも今のシアンの話によれば、こいつは消耗品じゃねぇってことだよな。
 無尽蔵に魔力が湧いて出るってもんじゃなさそうだ。
 てことは……生きてるような物体?
 でもシアンが作ったっつってたな。
 疑似生命体とか?
 ……まぁそんなことはあとでいいか。
 魔球の数を気にする必要がねぇんなら……。

「……つまり、この輪っかを両腕、両足に付けて……」
「うん、そう」
「うわっ」

 輪っかの部分が光り出した。
 眩しいって程じゃねぇが……。

「それは、持ち主の認識をしているところだ。」
「認識?」
「それも取り外しは自由だが、つけっぱなしでも構わない。とりあえず、その防具の方もつけてみてくれ」

 とはいってもな。

「あぁ、竜の頭は利き腕の方につけてくれ。尻尾は逆の腕に」

 それはいいが、この防具はどうやって……あ、防具の内側に溝がある。
 そうか。どこかで見たことがあるってのは、箸入れのケースのあれだ。
 つまり、このパーツはレールってことか。
 てことは、右腕は、レールの肘側の方に、竜の頭の先に当てて……スライドさせると……。

「お、おぉ。ハマった。すると反対側も……お、おぉ。個性的な防具って感じだな」

 その割には、手首より先が露わになったまま。
 何か不安だが……。

「お、目が光ってる。こっちは尻尾の先が……」
「流石に防具は四六時中つけっぱなしって訳にはいかない。が、外してる間、誰かに盗まれる可能性がある」

 おいおい。

「持ち主でない者が悪用しない工夫が、その、先に手足にはめた輪の部品になされている。その目と尻尾が光ったのは、持ち主と認め、その情報を得た下地の防具が、上の防具に伝えてるところだ。終わったらその点灯も止まる。ちなみにその防具単独では身に付けることはできず、ぶかぶかですぐ外れるから、悪用される心配はない。もちろん魔法も使えない」

 至れり尽くせりで何よりだ。
 で、光が消えて元に戻ったわけだが。

「だが手の甲がむき出しってのも……お?」

 顔のパーツが伸び縮みするな。
 伸ばすと、手の甲だけじゃなく、握りこぶしなら手全体カバーできるのか。
 首の付け根の所に、外側に穴が出現する。

「そこから魔法が繰り出せる設計だ。属性や方向などは、使用者の意思の通りに発動する」
「へぇ」

 ……なんか、特撮の変身グッズを買ってもらった子供の気持ち、分かるような気がする。

「……カードとかないのか?」
「カード? なぜだい?」
「……なんでもない。気にするな」

 ……ファイナルベ

「アラタ、あたしもつけてみていいよね?」
「うおっ! お、おぉ……」
「何か、面白そー。……おぉ。あたしのも光ったー」
「うん。それでその下地の防具はヨウミの物になった。そっちの防具の付け方、分かるよね?」
「うん。アラタの見てたから。あれ? ちょっと色と形違うのね?」
「アラタのと間違えないように、別の形にしてみたんだ。さ、つけてみて?」
「うん。膝は……あ、膝曲げて、んで防具の足首側から差し込むのか。よいしょっと」

 ……ヨウミのは、どっかで見たような……あ、天馬か。
 右腕の方、羽根っぽい彫り物もあるしな。
 ……ペガサスりゅうせ

「アラタ、どうかな?」

 ……何で腰をひねる。
 元々スタイルはいい方だが、別に何かのアピールしなくてもいいだろうに。
 ここまで来たら、胴や腰の防具も欲しい気がするが、魔球の代わりってことだからな。
 それに加えて物理的な防御力もありゃ、それだけで文句なしだわなぁ。
 ただし、ダンジョンで拾ったとかという物ならば。
 そもそもただの防具ではなく、使用者認証もあって、しかも俺らが使用する前提で作ったってのが引っかかる。

「……シアン。これ、お前が作ったっつってたな」
「あぁ。そうだよ。それが?」
「何のために?」
「……おかしなこと聞くね、アラタ」

 何だそりゃ?
 どこがおかしいことなんだよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...